田舎の猫 街に行く 第三十九話
田舎の猫 真相を知る
「あっちゃ~、これは深刻な状況ね~」
中庭の『世界樹』を見た私は思わず言った。なんて言うのか「禍々しい」というのが一番しっくりくるかな……そんな様子の世界樹の若木がそこにあった。正常な状態を私は知らないんだけどさ、一目見て「これはヤバい」と思うくらいだ。
「瘴気の発生源は間違いなくここですね」
いつもと違ってマーシャさんの目も険しい。私は側で舞っているラフィに声をかける。
「どうにかなりそう?」
するとラフィは舞うのを止めて言った。
「無理ね。今の私の力じゃ抑えきれないわ。祓っても祓ってもどんどん瘴気が湧いてくるって感じ」
ラフィの力でもダメか……。そうなると残された手は一つ。こんな風にしたヤツに止めさせるしか手はないな。私はインドアからウリエルを放出する。気を失っているウリエルに水をぶっかけ、すかさず『サンダー』と呟く。
「みぎゃっ!」
電撃のショックで「ビクンッ!」とエビのように飛び跳ねたウリエルが目を覚ました。
「な、なねなななにっ? なんなのっ?」
目を覚ましたウリエルは取り囲む私たちに脅えた様子を見せる。
「目が覚めた? ちょっと貴方に聞きたい事があるんだけど」
私は脅えるウリエルを見下ろしながらそう言った。
「貴女たちさ、『世界樹』に何したの?」
ウソをつくのは許さないぞという圧をかけながら私は尋ねた。
「わ、わわ、私は主神様の言う通りにしただけよっ!」
ウリエルが震えながらそう言った。
「元には戻せないの?」
ラフィが詰め寄った。マーシャさんもミーシャもリーシャも険しい表情でウリエルを見ている。
「出来ないことはないけど……」
ウリエルの話を聞いた私は怒りで我を忘れそうになった。
ウリエルの話はこうだ。この瘴気は世界樹の成長によって排出されるものである。通常植物は日の光を浴びると光合成を行う。二酸化炭素を吸収し酸素を放出するということはご存知の方も多いと思う。しかし光の当たらない夜の間は植物も呼吸をする。酸素を吸収し二酸化炭素を放出するのだ。
これを世界樹に当てはめるとこうなる。日の光の元では世界樹は生命エネルギーを造り出す。自然界の瘴気を吸収して。そしてそれを糧に自らを成長させ、余分な生命エネルギーを葉の中に蓄える。これが『世界樹の葉』である。
けれどダンジョンのように日の光が当たらない場所で育つ為には逆に生命エネルギーを吸収する必要があるのだ。植物が酸素を吸収するように。そしてその生命エネルギーを得る為に……
「ダークエルフたちを生贄にしたのねっ!?」
怒りの余り絶叫した。ダークエルフの村民たちを使い世界樹の若木を盗ませ、そのまま生贄にしたのだ。なんてヤツらだ……許せない。
「主神様を復活させる為の尊い犠牲なのよ。彼等も本望でしょうよ」
そう嘯くウリエルの頭を私はガシッと掴む。そして身体強化を使い握力を強化する。
「いたい、痛い~。やめて~っ! 全ては主神様のご指示によるものなのよ~っ!」
こんなことをするようなヤツを絶対に復活させてはならない。『この世界に神は要らない』キャティの言葉の意味が今、真の意味で分かったような気がする。
「さっき元に戻せるって言ったわよね?」
私は少し力を抜きながらウリエルにそう尋ねた。するとウリエルは
「完全には戻せないわよ。瘴気に変わった生命エネルギーは……」
とそっぽを向いて言った。
「それなら何ができるの?」
「世界樹が吸収する生命エネルギーを止めることは出来るわ。生贄は戻らないけどね」
「すぐやりなさいっ!」
私が強く促すとウリエルはこう言った。
「分かったわ……。儀式の間に制御装置があるからそこへ……」
ウリエルを儀式の間に連れていくと
「生命エネルギーを止める儀式を始めるわ。少し離れて。巻き込まれたくはないでしょう?」
と言う。
正直完全には信用出来ないが、仕方ないので私とラフィ、マーシャさん、ミーシャ、リーシャはウリエルから離れた。
「ふっ……。ふふっ、ふふふふふふふっ、あはははっ!かかったわねっ!」
ウリエルはそう言うと高らかに呪文を唱えた。
「主なる神よ我を護り給え……ゴッドフィールドッ!」
呪文を唱えた途端、ウリエルと私たち5人の間に光のカーテンが舞い降りた。
「神の領域に侵入することは何人たりとも不可能っ!これで立場は逆転ねっ!」
……はいはい、どこまでもテンプレなヤツよね。まあ、読み易く扱い易いからこっちとしては助かるんだけど。ま、そっちがその気なら仕方ない。と言う訳で、私も最終奥義を発動する呪文を唱えた。
「ラビィーッ!」
「はいは~い、呼ばれて飛び出てじゃじゃ……『ダメッ!まだ著作権切れてないっ!』ですわっ!」
私の召喚の呪文により、ウリエルの背後からファイティングポーズをとる兎が現れた。