田舎の猫 街に行く 第二十四話
田舎の猫 遅い朝食を食べる
ここでの仕事は終わった。ファティマ村に帰ろう。その前に食事をしないと……
朝からてんやわんやで朝食を食べ損ねていた私は、人攫いの男と共に近場のレストランに入った。そういえば奴隷の彼等は朝食をちゃんと食べたのだろうか? ふと気になって男に聞いてみると、奴隷商人がちゃんと食べさせていたとのこと。ならいいかってことで私はボリュームのある朝食を頼んだ。
仕方ないじゃない。ただでさえ遅くなったのよ。お腹がペコペコなんだから。男は家を出る前に母親の作る手料理を食べて来たとのことで、コーヒーだけ頼んだようだ。
私が夢中で食べていると、男が何か話したそうな目で見ているのに気づいた。リンクを繋げて読み取ってもいいのだが、やっぱり人とのコミュニケーションの基本は会話だからね。必要のない限り私はそんな無粋なマネはしないのよ。(分かった、キャティ?)
「なに? どしたん?」
男が話しにくそうなので、私の方からこう切り出した。
「あの……。色々とありがとうございました。実は昨日母ちゃんとも話したんですが、俺も母ちゃんと一緒にエルフ村に住みたいなって思ってるんですが……」
ああ、なるほどね。この男が帰宅を希望したのは母親の病気が原因だったものね。それが解決したんだから、そう考えるのも自然よね。
「借金はどうするの? あるんでしょ?」
借金についてはデリケートな話だったからさ、口には出さなかったんだけど鑑定結果で『借金あり』と出てたんだよね。前にも言ったけど、男が人攫いになった理由はそれが原因ではないかと私は疑っている。
「そんなんブッチしてエルフ村に行っちゃえばいいじゃん、一般人は追って来れないんだし」と私なんかは思うんだけど、真面目なこの男のことだ、そうは思えないだろう。
「それはもう大丈夫なんです。実は……」
男が話すには、男の借金を奴隷商人が全て立て替えてくれたらしい。今回の取り引きは奴隷商人もかなり助かったみたいだ。不良在庫を全てさばけただけでなく、再生されて売れる美品に変わったモノもあるわけだしね。
そんな訳で男は全てのしがらみから解放されたらしい。まぁ今回の交渉での彼の働きには、これくらいの報酬があっても良いだろう。後はマーシャさんたちが受け入れてくれるかどうかだけど、一人でも多くの男が欲しいエルフたちにとって、母親1人くらい大した問題にならないと思うからいいんじゃないかな。
私の話を聞くと男はホッとした顔を浮かべてこう言った。
「それじゃ俺は一旦家に帰ります。荷物の整理とかしないといけないんで。」
「分かった。大きな荷物はそのままでいいわ。迎えに行った時にまとめてインドアに入れるから」
「何から何まで……ありがとうございます」
男は神妙な顔でそう言うと店を出て行った。
一人になった私はその場でマーシャさんとリンクした。リンクは一度繋がった相手となら、いつでも好きな時に繋げることが出来るんだよね。前の世界の電話と同じで履歴が残ってるからリダイヤル可能なの。初めて繋げる時にはリンクする意思を明確にして『相手に触れる』必要があるけどね。そうじゃないと意図せず誰とでも繋がってしまって大変なことになっちゃう。
私はマーシャさんとリンクを通して、奴隷が6人手に入れられたこと、男が母親とともに移住したいと希望していることを簡単に伝えた。マーシャさんは男の母親について快く了承してくれただけでなく、私と男にリーシャが言っていた『豪華記念品』を贈呈するとの事を伝えてきた。エルフは義理堅いんだよね。
朝食後ゆったりとしていた私の所に歩み寄る影があった。
「あー、いたいた。探したのよっ!」
「見つけましたわ~」
それはさっき別れたばかりのラフィとラビィだった。 「貴女たち、どうして……」 「いきなり帰るなんて酷いじゃないっ!」 「もう少しお話したいことがあったのですわ~」 まぁ話があるなら聞こうか。それにしても私の居場所をよく見つけられたな。あー、『サーチ』か。2人のうちどっちかが使えるのか。『サーチ』は人探し物探しの時に便利なスキルで、もちろん私も持っている。 「それで、何の用?」 「あの人攫いの男……。私酷いことしちゃったじゃない? 奴隷商人に聞いたのよ。あの男はそんな悪いヤツじゃないって……」 とラフィ。 うーん、奴隷商人の言葉を鵜呑みにする危機意識のなさは問題だけど、私の鑑定結果でも男は善だ。それは間違いない。 「それで……謝りたいんだ。アイツにも母親にも。やっぱりこのままでは気が済まないんだ」 なるほど直情型でバカだけど、ラフィの本質も善よりだったわ。義理人情にも厚いみたいだし。 「私(わたくし)もご一緒したいのですわ。あの方にはお世話になったもので、改めてお礼をしたいのですわ」とラビィ。 「分かった。この後男の家に行くことになってるから一緒に……」 そう言った後私たちは3人で店を出た。何気に支払いが済ませてあったことで、私の男に対する好感度が上がったのは内緒だ。 『チョロ……』 くっ……。この時ほどバックドアを使いたいと思った事はない。戻ってキャティを、あの『ダ女神』を殴ってやるっ! しかし、ラフィ&ラビィは先を争うように歩いて行ってしまった。ラビィはともかく『呪い』をかけたラフィは男の家を知ってるのだろう。 仕方なく私も遅れないよう歩を早めた。