人笑人バンド愛媛大学ツアー珍道中4
博多駅では、今度は4人分の地下鉄切符を買わないといけない。JRに比べて地下鉄の切符は小さすぎる。改札機を通したら、すぐに回収した。これは手元からどこかに行ってしまいそうだったから。
福岡空港には予定通りの時間に着いた。地下からエスカレーターに乗って地上に上がるのだが、あの動く段差に飛び乗るというのか、上がるというのか、これは難しい人が多い。上がるタイミング。そして自動改札機をたくさんのバッグを持ちながら切符を入れて通る、それは実に難しい。
切符を通してすぐに通り過ぎる、それが難しい。
エスカレーターを上がると、車椅子組が待っていてくれた。まずは手荷物を預けるかどうか確認しないといけない。搭乗手続きカウンターに全員で行った。ところが手続きは一人ずつなので事情だけ空港カウンタースタッフに説明して、あとは一人ずつしてみた。楽器類も全員持ち込みで無難に終わった。
メンバーの一人(こーへい)がトイレに行きたいと、この手続き中に申し出てきた。私は手続きの方で手一杯なので、先に手続きを済ませていた車椅子組に、こーへいをトイレまで案内してもらった。こういう状況では、できる人が難しい人をサポートするしかない。普段支援を受ける人が支援をする側に回る。
あとは、2回に上がって早めに手荷物検査場を通り抜ければ、飛行機に乗るまで何もすることがない。
ちょっと気が緩み、安心のビールを飲ませてもらった。ホッとした。
手荷物検査場では、他のサポーター(酒ちゃんと池ちゃん)に任せて、16時に搭乗口で待ち合わせることにして、別行動を取らせてもらった。
16時に搭乗口に行ったら、何人かは「飲んでいた」。みんなもホッとしたんだろう。こーへいは500ミリコーラを飲みきっては、トイレに行ってきます、と多分3回同じ行動のルーティンをとっていて、周りから「また飲んでる」「またトイレ」などと呆れられていた。でも、彼は4本目にも手をつけ始めていた。この行動が後ほどとんでもないことになってくるのは、まだ誰も知らない。
あまりにもホッとしすぎて、承諾書にサインと押印をもらうことをすっかり忘れていた。本来なら15時には全員分、書いてもらって、スキャンして愛媛大学に送らないといけないのに、完全に過ぎていた。急いでサインと押印まではしてもらったが、愛媛大学事務室はもう閉まっていて、あれだけ前日に準備しておいてと念を押したのに、自分にガッカリだった。
いろいろと考えてこの数日段取りをしていたのに。。。
天候も良く、飛行機は定刻通りに離陸した。座席は一応グループで固まって座ったが、支援者当事者という組み合わせで配置はしなかった。それぞれにひと休みの時間。
福岡空港から松山空港まではたったの30分。離陸したらすぐに着陸してしまうフライトなのだ。メンバー【よしこ】の様子もこれと言ってパニックになることもなく、かといって興奮することもなく空の旅を楽しんだ。ただ、メンバー【かい】は閉所になると、身体がガタガタと震え上がる。このときもメンバー【こーへい】の隣だった、【かい】は身体が震え、喋ることもままならない様子だった。と、こーへいが教えてくれた、降りてからだったが。
18時前に松山空港に着き、空港から街中までのリムジンバスを探したが、リムジンバスは車椅子対応にはなっていない。なので、ノンステップバスの路線バスにてホテルのある大街道まで向かった。リムジンバスなら20分かからないくらいなのだが、路線バスは50分かかるのだ。
それに客の往来も激しい。停留所に止まるたびに、ブレーキでカックンとなり、誰かが降りて誰かが乗ってくる。一旦空いたと思えば、少し経てば満席になる、おまけに立ち客で空間は満たされる。最後部の前に座っていた、かい、にはそんな閉所がたまらなくきつかったのだろう。
19時過ぎに大街道に到着した。
電動車椅子2台は、ノンステップバスから停留所に引き出されたスロープを後ろ向きに降ろしてもらい、松山市の空気をメンバー誰よりも早く吸った。5年前に吸った空気とは違う温度だった。5年前は夏だったから、今回はひんやりとして過ごしやすかったと思う。さて、他のメンバーの運賃は私が全額まとめて払うから、忘れ物だけなければあとはみんな降りるだけ。
かい、はなかなか立ち上がれなかった。少し時間を置いたら震え、これは発作というらしかったが、収まるだろうと思っていた。ところが、逆にその発作はどんどんひどくなっていった。
「深呼吸しようか」彼の発作の止め方を知らなかったので、これしか思い浮かばなかった。発作の時には、深呼吸はできないということも併せて知った。本人も自分のことをわかっているようで、彼の言葉を信じるしかなく、「待った」
3分くらいしたら、ちょっと落ち着いたので、本来は前方から降車するのだが、後ろから降ろしてもらった。
外の空気に当たると、本人も安心したようで、引きつっていた表情がちょっと和らぎ、笑みも見られた。それでも身体は震えていた。バスの停留所の目の前にホテルはあった。
歩き出すのに数分かかった。彼はとにかく荷物が多かった。ベースに手提げ袋とポーチだったか、これに帰りはお土産の袋が追加されるのだろう。それは大変だ。
ホテルでチェックイン。鍵はカードタイプ。それぞれが個室だから一人1枚持つことになる。開け方はみんな知っていた。問題は管理だ。こちらで預かるわけにもいかないから、信じるしかない。私の部屋はみんなよりも高層階にあり、他の人たちは一緒の階になっていた。荷物を置いたらとにかく食事に行こう。ロビーに15分後集合ということで、それぞれの部屋にそれぞれで行った。
時間に遅れることなく、みんな集合した。さて、どこに食事に行こうか。みんな飲む気満々だった。