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『け、結論から言うとですね、部長のご見解が間違ってました』とぶっ放した男の末路は‘’ずぶ濡れ‘’だった。

火曜日の夕食後。

身体全体が完全に休憩モードで気怠けだるい中、取りだめしていた子どもの動画を部屋にこもって鬼の形相で編集していた。

おおエグいネエ

ひねりが無さ過ぎるネエ

何もアイデアがうかばないネエ

ダリぃ、ダリぃ死ぬ死ぬ、と思いながら、黙々と編集作業をし、このままなんの変哲へんてつもなく一日が終わるだろうなぁ、
と思ったそのときだった。

3歳末っ子がヒョイっと
ボクの部屋にやってきた。

『パパ〜、おーちゃん(次女)がね、あっちいってよって、いってね、ボクとあそんでくれないよ。どうしゅる?』

あぁ、それか。
告げ口をしにきたんだ。
怒ってくれ、ってことであろう。

‘’そうか。それはいかんね。いまパソコンやってるからあとでバシっ!と怒っとくね〜‘’

何も考えずに、ほぼ脊髄反射せきづいはんしゃにてそう告げると、ボクはふたたび編集に集中してカタカタと始めた。

ん?
あれ?

しばらくしても末っ子は
なかなかボクの部屋から出ていこうとしない。まだナニか言い残しがあるのだろうか?

『ボクね、わざとじゃないのにな、あそんでくれへんの』

‘’あぁ、そうか。じゃ、それも怒っ……と…く…わ…………‘’

ん…?んん…?
むむむ?

違和感いわかんあるコトバを聞いた気がした。
‘’わざとじゃない‘’
ナンのこっちゃ?

嫌な予感がしてパッ!
と末っ子に目を向けると
オマタのところに核がある。そしてそこから末広がりでズボンの色が変わっているじゃないか。まるでマグマが噴火して溶岩が流れだしたかのように。

‘’あぁぁぁ!!‘’

『おしっこがまんしておーちゃんとあそんでいたらな、もれちゃったの』

いや、それ先に言ってよ。
惨事さんじなんだから、結論から言ってよ。

……でもな。これな。

大人になってからでもあるんだよな。

日本語という言語は、
知ってのとおり大事なことを最後までとっておく言語であり、日本人はこのコミュニケーションのとり方に慣れた民族である。

特に悪い内容の報告であればあるほどに、
いきなり結論を言うよりも‘’言い訳‘’を先に言ってしまいたい自己防衛本能がどうしてもはたらいてしまうのだ。

そう、大人になってもね。

「結論から話せ!」が口ぐせの部長

ボクの席の真後ろには部長の席がある。
良いことも悪いことも、
日々、部員がボクの席をサーッと通過し、
部長の席へこうべを垂れて報告にやってくる。

そこには悲喜ひきこもごもの人間模様にんげんもようがただ存在し続ける。
それは行く川の中で流れに逆らい続ける岩場のように…、
サバンナのごと過酷かこくな戦場のように…。

ここはつわもの達のドラマの聖地。

ストレス、承認欲求、プライド、支配欲、不安といった、会社における負の要素が未曾有みぞうのエネルギー体となり、全て凝縮されているのだ。

特別観覧席に座るボクはそこで繰り広げられる喜劇きげきを、

‘’うへっへぇ。このおやじアホやな‘’
‘’あぁ、こいつ要領わりーなぁ‘’
‘’お、エグいくらいのゴマすりやでぇ‘’

なんて感じながら
ヒッソリと存在を消して、パソコンをカタカタしながら姑息こそくに盗み聞きする日々を送っているのだ。

もっぱら部長の口ぐせは
「結論から言って!」である。
結論から言ってるやん、って人にも
「で?結論は?」とまくしたてる。

だから、それを言われた部下は
‘’あれ?言ったつもりだけどちゃんと伝わっていないのか?‘’

さすがに同じことを繰り返すわけにはいかない。もしかしたら既にアホだと思われている可能性だってある。

‘’次こそは、別の言い方でクリティカルな回答を出さないといけない。‘’

そう思って、気を張って張って張りまくるので、必要以上に気が動転してしまい、一体何を答えれば良いのか、もはや皆目かいもく検討すらつかなくなってしまうのだ。

うぅぅぅぅぅ!パニック!

ボクのようにまだ斜に構えておらず、
承認欲求が先行する若手社員からすると、部長から強い口調で「結論から言って!」と言われてしまうと内容の如何いかんによらず、脳内が恐怖に支配されて、萎縮いしゅくしてしまうのだ。

もっとも要領の悪い部下が報告にやってきた

『け、結論から言うとですね、部長のご見解が間違ってました』

部の中でもっとも要領のわるい28歳の川本くんが報告にやってきた。
彼は決して悪い子ではない。
自己主張しなくて、大人しくて、穏やかで、良いも悪いも‘’無味無臭‘’。

しかし、唐突になんの悪気わるぎもなく
‘’マジかよ‘’
と周囲がヒヤヒヤするほどの空気の読めないコトバを吐き、相手をカチンとさせてしまうことがあるなど、致命的ちめいてきにコミュニケーションになんがあるのだ。

「はあ?ナンの話や?」

報告の冒頭に間違いを指摘された部長が、ゆっくりとファイティングポーズをとった。
後ろをふりむいていないが、その声のトーンでボクには分かる。

‘’般若面はんにゃづら‘’のように憤怒ふんどに満ち、
眉毛のつり上がったあの顔をしているのであろう。

『お得意先のゆづお商事に新たな提案をもって訪問するようにご指示をいただきましたが、行くなり‘’頻繁すぎてしつこい!‘’と大激怒だいげきどされて、しばらくは‘’出禁できん‘’と言われてしまいました。』

川本のそのコトバを聞きながら、
部長の眉毛はグイグイとつり上がっていき、
最初の「般若面はんにゃづら」はもっと怖くなり地獄の「エンマ面」になっているはずだ。

クビのコリが気になるふりをして、
アイタタタタタっと小声で発しながら、さも柔軟体操をしているていで、ぐるぐるとクビをまわしながら部長のつらをチラ見してみた。

すると意外にも部長は般若面はんにゃづらをキープしているではないか。

「・・・それが結論か?いったい、キミはナニを考えてんだ」

部長は、声を荒げることなく重低音ヴォイスで川本に問いかけた。

ボクにはわかる。
「ナニを考えているのか」に対する、より正確な川本の回答は
「あなたのつりあがった眉毛が怖い」
がおおよそ9割占拠しており、残りの1割は「はやく終わんねーかなぁ、この般若はんにゃ」であろう。

しばらくして黙秘もくひを続ける川本に部長がさとすように語りかけた。

「キミが小さな‘’しつこい‘’を積み重ねた結果、いま爆発したのだ。だから今回の‘’しつこい“の発生源は、短期的に見て私だとしても、長期的に見るとキミなんだよ。」

始まった。

部長の独壇場どくだんじょうの演説が、いざ開幕したのだ。

「ていうか、キミが‘’しつこい‘’と得意先から評されたことに対して、
‘’部長のアドバイスが間違ってました‘’っていう結論で問題解決をはかろうとするスタンスはおかしくない?」

それはそうだ。

そのとおり。

部長が正しい。

「じゃ、キミは、あれか?
お天気キャスターの予報は100%的中なのか?お天気キャスターはアメダスをみて、一番確率の高い天気を教えるだろよ。」


はぁ?


一体なにが始まったんだよ。

「今日、晴れ予報だったが、いま雨が降っておる。キミが営業先でずぶ濡れになった。
‘’うわっ、お天気キャスターが悪い!‘’ 
そんな理屈になるのか?
それとキミの主張の本質は一緒なんだよ!」

ちげぇよ。


お天気キャスターだってワリぃだろ、それは。

それよりまずは、みてみろよ。

つめてぇんだよ。

ずぶ濡れで。川本は。

それがお天気キャスターなのか、
折りたたみ傘を持参していなかった川本の責任かは知らねぇよ。

ずぶ濡れになった責任の所在地さえ分かればオッケ~♡
なんて奴どこにもいねえだろよ。

とりあえず雨にうたれて
つめてぇんだ。

「雨が降ってクソ濡れてつめてぇ」ということが、一番大切な事実で、
ここからどうやって乾燥させるかが次に大切なアクションなんだよ。

「誰のせいでずぶ濡れになったのか」
を本件におけるメインテーマにするな。

「オレのアドバイスも、お天気キャスターも補完的要素だ。普段から自分の備えが不十分でした。その結果、ずぶ濡れになりました。そう言え。」

『はい、すみません』
川本は小さく答えた。

いやいやおまえも‘’すみません‘’
ってなんなんだよ。

っていうか、
そもそもナンの話だ、これ。

なんとなく川本が
「部長のご見解が間違ってました」
って報告しただけで、いきなり
「‘’しつこい“の発生源は、短期的に見て私だとしても、長期的に見るとキミだ」
とかいうよくわからない指摘をしてくる部長いたら、

キモ過ぎるだろ。

‘’しつこい‘’に、短気も長期もないわ

あんたが判断ミスって、行かせたから
客から“しつこい“って嫌悪感けんおかん抱かれたことは間違いねえんだ。
遠回しに言ってくれているけど、あそこの担当窓口のキレイなお姉さんから

“うざっ”、“キモっ”
って思われちまったってことなんだよ。

雨じゃないんだ。
川本のココロはあわい恋心に破れてずぶ濡れになっちまったんだ。

まずはシンプルに、謝れ。

そして部長であるあんたは、言ってやれよ。

出禁できん
でも、良いじゃないか、前のめりに転べば。そうやって前に進む姿は何歳になったって、無条件に美しいんだよ…

…って。あかん、おふざけの暴走の歯止めがきかん

この記事は、日本人は「大事なことは最後にもってくる」コミュニケーションに慣れている民族だよね、
「結論から言え」って、よく偉いおじさんから指導されるけど、そもそも難しい民族だよね、

をメインテーマにしようと思った。

そして英語と日本語の違いについてふれるインテリジェントなものでドヤ顔しながらしめて、ご満悦でアヘアヘする週末を送ってやろうと思った。

そう、ついさっきまでは。

それを大幅に方向転換して道なき道をゆき、挙句の果て、

なんのタメにもならん雑談を
なんの学びもないエピソードを
グダグダと4200字もタイピングしてしまって悲壮感に駆られたオレが今ここにいる。

一番キモいのは、川本でも、そして部長でもなく、意味不明の長文をダラダラとつづったボクである。

もう7時。
もはや今週は取り返しがつかない。

いい。
これでアゲちゃおっ笑

ほんまに終わっちゃお、今日笑

じゃあ〜ね〜。

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