【若者と企業の挑戦ストーリーvol.1】青森県五戸町と若者の挑戦の現在地
町唯一の高校が閉校。戻ってきたいとき、町に希望を持てる種を蒔き続ける
「チャレコミサポーターズ定期便」、春のお肉特集でシャモロックをご提供いただく青森県五戸町の株式会社グローバルフィールドは、2022年、地域での挑戦の機会を探していた若者とのマッチングを通じ、コロナ禍での新規顧客開拓のための新たな取り組みを進めてきました。
アルバイトやパートで経験者を採用することが一般的ななか、なぜ同社は期間限定で若者と一緒に新たな取り組みを進めるという挑戦を選んだのでしょうか?
社長の保坂梨恵さんと同社コーディネーターの風間イチエさんに、その背景と実際に一緒にプロジェクトを進めてみての成果、さらに五戸町の挑戦についてお話を伺いました。
新しいアイデア、これから買い物をしていく若者層との出会いを求めて
ーーグローバルフィールドでは、2022年に「ふるさと兼業」というプロジェクト内で「オンラインファンコミュニティ」設計のためのプロボノパートナーを募集され、実際に数名の20代の方々とご一緒されたとのことですが、パートやアルバイトで大人を採用するのではなく若者と一緒に挑戦されようと思われたのは、なぜだったのでしょうか?
実際の募集ページはこちら
保坂さん(以下、敬称略):弊社はこれまでホテルやレストランなどの飲食店向け販売がメインでしたが、コロナ禍でBtoBの売り上げが減少してしまいました。一方で、自宅で食事を楽しまれる方向けのBtoCの拡大に向けて新たな可能性も見えてきたため、今後は直販にも力を入れていきたい、「コミュニティの力」を活用していきたいと考えるようになったんです。
弊社にはすでに数名「コアなファン」の方々がいらっしゃって、商品を購入するだけでなく、商品を通じて五戸町を知り、深く関わり続ける関係人口へと変化していく可能性を感じていました。その方々へのインタビューを軸に、まだ青森シャモロックを知らない人に知ってもらい、食べてもらうにはどんなことができるのかなど、プロジェクトパートナーと一緒に考えていきたいと思ったんです。
そのため、現場で実際に手を動かす人を求めるというよりは、新しいアイデアや知見を得たいということが大きかったのと、私自身が40歳を目前にしていて、これからものを購入していく世代の考え方を知りたいと思っていました。
ーープロジェクトでは、どのような体験をされましたか?
保坂:20代の方にプロボノとしてご参加いただいたのですが、その中のお一人は元々大手メーカーでカスタマージャーニーなどマーケティングを専門にされていた方で、ご家族の都合でイギリスに滞在中のなか、ご自身のキャリアを活かしながら故郷の青森に関わることができるプロジェクトを探されていた方でした。
マーケティングの知見に加えて、彼女自身の購買体験への考え方を教えてもらえたことは、とても力になりましたね。「日本の企業は梱包過剰になりがち。SDGsの観点も取り入れてはどうだろうか?」といった意見をいただけたりと、環境に配慮した企業運営への視点も高めることができました。
また、町内の介護施設に勤める管理栄養士の方にもご参加いただきました。このご縁を機に将来的にレシピ開発などご一緒できたら嬉しいなと思っています。
深刻な人手不足、さらに町で賄えない専門性もある。
町が挑戦したのは、オンラインプロボノプロジェクトだった
ーー保坂さんは、代表取締役に就任されてから積極的に組織改革に取り組まれてきたと伺っていますが、特に人材採用においてどのような課題を感じられてきたのでしょうか?
保坂:とにかく人手不足が深刻なんです。私が代表に就いた5年前には、残業はあるし土曜も出勤だし、なかなか自分の時間が取れないと社員から聞いていて。でも今はもう、畜産業界ではとてもめずらしいことなのですが、残業も可能な限り廃止して週休2.5日で経営しています。そうして組織改革に着手した結果、若手も2名入社してくれました。
その若手社員に「なぜうちに入ってくれたの?」と尋ねてみたのですが、「休みがあって、家のことや趣味に時間を費やせるから」という返答をもらって、私が就職活動していた時代と全く感覚が違うんだなと気付かされましたね。
風間さん(以下、敬称略):人手不足も深刻ですが、専門性という意味で町では賄えない人材はどうしてもいて、そうした「どうやって出会ったらいいかわからない人」を地域に招くために、このプロボノプロジェクトは良い機会でした。
例えばご自身の故郷など、地域に対して想いがあって、高いスキルを持った方は全国にたくさんいらっしゃるのですが、そうした方々を社員で採用するのは地方の中小企業では中々難しいのが実情です。今日、明日の仕事をする社員に困っているので、高いスキルや専門性に予算を費やす判断ができない企業さんが多いと感じます。
一方で、経営者は10〜20年後を見据えた経営の悩みも抱えていて、とはいえ近くに相談できる専門性を持った人がいないという状況。そうした課題を解決するひとつとして今回初めて実施したのが、ふるさと兼業(プロボノプロジェクト)でした。
ただ、町と連携した事業だったとはいえ、事業者さんたちにとっては聞き慣れない取り組みで、その価値を伝えるのが難しく、そんななか、とてもポジティブで、周囲を元気にする力を持っている保坂さんに最初の事業者として前向きに挑戦していただけて、とても心強かったです。
若者が「五戸町でなら何かできるかもしれない」
と思ってもらえる種を蒔き続ける
ーー地域と若者それぞれにとって、インターンやプロボノに挑戦することの価値や意義を感じられたエピソードがあればお聞かせください。
保坂:地域外の若者との関わりについては、そこにずっと暮らしてきた人たちだけでは、その地域の良さには中々気づけないんですよね。私は北海道出身なので、五戸町ではじめて出会った南部菱刺しに惚れ込んで習いにいったりもしているのですが、意外と地元の人はその魅力に当たり前すぎて気がつかないようなんです。そうした魅力を再発見していただける機会になるのではないかと思っています。
また、町から離れて都市部などで働いている人にとっても、インターンやプロボノといった接点でつながりが生まれることで、いつか町に戻ってくるきっかけになるのかもしれないと思っています。
風間:私は八戸市出身で、6年前にUターンしました。その時に、八戸が好きでも「八戸が好きだ」と言葉にする人は少ないなと感じました。そんななか、先入観のない人が地域を訪ねてきて、八戸のいいところを言うだけで地域の人間にとっては衝撃的な出来事になります。
例えば以前、とても小さな集落で大学生のインターンをはじめて実施したとき、その学生たちが町を歩いていただけで話題になったことがありました(笑)。それくらい地域の中では若者の影響は大きいんです。
インターンに挑戦した企業の中にも、最初は「学生のインターンなんて無理」と感じる方もいらっしゃいました。それでも参加した学生たちが本当に頑張ってくれるので、短期間で会社の雰囲気が大きく変わっていくんです。「1ヶ月、2ヶ月しかいない学生がここまで真剣に会社のことを考えてくれるのに、自分たちにももっとできることがあるのではないか」と、社員たちが自分で変わっていくんですね。
五戸町では、唯一の高校が昨年度で閉校してしまって、今後ますます子どもたちが少なくなっていきます。高校を町外で過ごすことになってしまうと、五戸への愛着や町との関わりがどんどん薄くなってしまいます。そうしたなかで、地域の人たちが多世代で集まって対話しながら交流場を毎月開催したり、先日のプロボノプロジェクトのような動きがあるよということ伝えていけたら、「五戸町でなら何かできるかもしれない」と思ってもらえるかもしれない。そのための種を蒔き続けていきたいです。
町に戻ってきたいと思ったとき、
若者が求める働き方を実現できる環境を整えていく
ーーこれから若者に残していきたい働き方、生き方があれば、ぜひお聞かせください。
保坂:リモートでつながることができる選択肢かなと思います。私自身、前職を辞めたあと、東京の企業で数年、在宅勤務をさせていただいていました。都市部企業との賃金の違いもありますし、例えばどこで働いていたとしても、故郷とつながれる選択肢を残していきたいです。
風間:個人的には、一回外に出ないとこの土地の良さはわからないのではないかと思っていて、地元から出てどこか都市部などで働くことはむしろ推奨したいくらいなんです。ただ大事なのは、戻りたいと思ったときに戻れるようにしておくことかなと思っていて。
また、賃金では都市部企業には当然負けてしまいますが、都会だと実現できないライフスタイルを実現できるという価値もあります。それが賃金の価値を超えられるかどうかだろうとも思っています。それぞれが求める働き方を実現できる環境を整えるために、地域側にいる人間が頑張り続けないといけないな、と。
若者にはまずはいろんなところでいろんな仕事をしてもらって、そのうえで青森がいいなと思ったときに戻ることを助けられるよう、頑張りたいですね。チャレンジできる環境を整えながら、今の五戸町、町の事業者がどうなっているのか、知ってもらう機会を作り続けたいです。
ーーありがとうございました!
編集後記
お二人の「種を巻き続ける」という言葉がとても印象的な取材でした。土地は耕す人がいるからこそ、作物を育てようと思ったときに育てられるもの。地元の皆さんの想いをベースにコーディネーターが地域内外から若者を繋ぐことによって、よりパワフルに地域の魅力が発掘され、事業も加速するのだと感じました。
今回お買い上げいただいた商品の売上の一部は、こうした地域での若者の挑戦を後押しする基金に充てさせていただきます。(ライター:桐田理恵)
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