月暈が架かる時短編集1

『朝ごはんは絶対一緒!!』

あちらこちらに跳ねてしまった肩下までのサラサラな髪。枕にしっかりと押し付けられた顔はまるで埋まっているかのようだった。
『睡眠負債』と言って昨日早くから輝の部屋で無理矢理と兄の光は寝てしまったが、今は嘘のように寝顔が穏やかで実年齢より幼く見えてしまう。
これが天使の寝顔と言うのだろうか?と輝は思った。起こしてしまうのは忍びないが、朝食に作った肉と野菜のスープも覚めてしまうし、学校をさぼる訳にもいかない。
輝が光の頭を撫でてやると、ようやくといった感じにもぞもぞと動き出してきた。
「おはよ、朝ごはん作ったんだよ。食べない?」
「…………ん」
天使の寝顔は一気に寝起きの悪い現実主義の光へと戻ってしまったが、輝の心はもう朝食なんていらない位に満たされていた。

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『閉じ込められた王子様』
光がまだ中学生になる前位までは毎晩とまではいかないが、たまに輝に雑談を交わしながらの寝物語を聞かせてやった。
輝が一番気に入っていたのは、長い長い髪の毛を持つ王子様の話。
「輝、もし俺が高い塔に綴じ込められたらどうする?」
「えっと、その塔を下から壊して……光に飛んでって言う」
「飛んだら受け止めてくれる?」
「うん!!光は羽みたいに軽いから大丈夫」
だってね、もう光をおんぶ出来るもんと輝は無邪気に微笑みながら得意気にしていた。
今でもあの話をしたら輝は同じように言ってくれるのだろうか?
彼の事だ、大真面目に俺が不思議な力で助けるからとか言いかねない。
光はその光景を思わず想像して笑ってしまった。

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『願うだけでは駄目』
光は毎日と言っていい程に気分の浮き沈みがとても激しい。
学校で見せている表側の『優しくて誰からも親しみやすい顔』とは別人格だ。
地元、光達のテリトリーに入るや否や表向きの顔はなくなり、裏側の気分屋な顔になってしまい、弟の輝でさえ操縦が難しくなる。
確かに難しいが、たまに見せてくれる笑顔は本物だ。
この街でずっと生きていくと言っていた光には幸せになって欲しいと輝は強く願う。願うだけでは努力とは言えないので『愛してる』『大好き』と伝えるが、上手くかわされるだけ。
輝はそれでもめげずに夜も囁き続ける『愛してる、幸せになって』と。

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『まるで』
兄弟なんて世界中に何億万人いるだろう。どこにでもありふれていて特別な話でもない。
でも
光と輝の2人は特別なのかもしれない。
強い結びつきがあると言われている双子のように、全く同じと言ってもいい位に似ている部分が、白と黒で正反対な部分が沢山ある。
特に輝はそれを敏感に感じ取る。光が何を考え、何を思うのか。直接彼から言われたことじゃない思考まで知っている。
光はそれはそれで構わないと輝の思考を自由に泳がせている。
兄弟だろうと双子だろうと、2人の強い結びは誰にも剥がされない自信があるから。

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