法律問題・クイズ! 貴方のセンスを試せる「受精卵が盗まれた!?」
※ 平成31年3月6日 更新
1、法律問題
本記事は貴方のセンスを問う法律問題です。
【法律問題】
と聞くだけで
「嫌だ!難しそう」
「法律なんて分からないよ」
のように一歩引いてしまう人も多いかと思います。
しかし、本記事の問題は、センスを問うです。
そのため、問われるのは知識量ではありません。
これが
「面白い!」
と感じる貴方は是非法学を勉強してみて下さい!
きっと貴方は法学を勉強するのに向いています!
では早速センスを問う問題に行きましょう!
2、受精卵が盗まれた!?
Aさん夫婦は妊活をしたが妊娠することが出来ませんでした。
そこで、体外受精によって子供を授かることを決めました。
そして、体外受精は見事成功!!!
その受精卵は一時的に病院で保管し、後日体内に戻すことになりました。
そして、受精に成功したその夜。
その病院に何者かが侵入。
犯人は手当たり次第身近な物を手に取ったのか、犯人が持ち去ったモノの中にAさん夫婦の受精卵もありました。
後日犯人は病院に不法侵入した容疑で逮捕。
更に受精卵を持ち去ったことも認めました。
3、犯人は何罪に問われる?
さて、ではここで質問です。
【受精卵を持ち去った犯人ですが、受精卵を盗んだことに関して、この犯人に科せられる罪状は何でしょうか?】
<参考情報や考え方のヒント等>
※ 病院に侵入したことは既に罪に問われています。
※ 受精卵を盗んだことのみに関する罪状を考えて下さい。
※ 他人の物を盗む犯罪は窃盗罪です。
※ 人間を連れ去る犯罪は略取・誘拐罪です。
※ 受精卵は物か?人間か?が重要な争点になります。
4、窃盗罪と考えた場合の考察
参考情報・ヒントのせいで余計に難しくなり、沢山悩みましたか?
しかし、それでも恐らく多くの人が
「泥棒(窃盗罪)でしょ?」
と考えたのではないでしょうか?
しかし、実はこの事案を窃盗罪と解釈してしまうと、とても大きな不具合が生じるんです。
それを見て行きましょう!
<窃盗罪の被害品は財物>
窃盗罪とは
【他人の財物を窃取する行為】
です。
ここで注目して欲しい部分は被害品の部分です。
【財物】
ですね。
つまり、この事案を窃盗罪と解釈すると受精卵は財物になります。
それだけでも違和感がありますよね。
しかし、受精卵を財物と考えた場合、そんな感情的な部分だけではなく、もっと大きな実質的な違和感が生じ得るんです。
<受精卵が財物だとこんなことがまかり通る!?>
受精卵が財物だと定義すると、人間の受精卵を売り買いしたり、担保にお金を借りたり、借金の代わりに受精卵を渡すことも認められます。
つまり、保管などの設備云々は抜きにすると、質屋に受精卵が並ぶことになり得ます。
お金を稼ぐために受精卵を沢山生成して、売ることも可能になります!
これはとても違和感がありますね。
ペットや家畜と違って
「受精卵を所有する」
と言うのにも違和感があります。
ちなみに余談ですが、動物は法的には財物扱いです。
そのため、ペットショップで売られていますし、子供を繁殖させて販売するブリーダー等の職業もありますよね。
民法の相続法で胎児の相続権を持ち出すと、もっと説明がややこしくなるので、知っている人も今回は飲み込んで下さい。
話が逸れましたが、実際に
【受精卵が持ち去られても窃盗罪にはならない】
とされています。
5、略取・誘拐罪と考えた場合の考察
参考情報的にも、受精卵が物だと違和感があるなら、
「じゃあ受精卵は人?」
と考えるかと思います。
しかし、実は受精卵を人と考えた場合も違和感があるんです!
<受精卵が人なら殺人罪もあり得る!>
もし受精卵を人と考えた場合、持ち去った行為自体は略取・誘拐罪になります。
逃げている最中に死滅すれば、人を殺したことになりますので殺人罪になります。
人を奪い去ったり、殺してしまっているわけですからね。
言っていることは分かりますし、尊い命ですが、これも何か感情的に違和感がありますよね。
そしてこれも、財物と解釈する時と同じように、実際にとても違和感を生じることが起こり得ます。
<受精卵が人だとこんなことがまかり通る!?>
体外の受精卵が出来上がった時点で人と解釈すると、受精卵が遺産相続を出来てしまいます。
「別にそれでも良いじゃん」
と思う人もいるかもしれません。
しかし、これを認めてしまうと
遺産を沢山相続する目的で受精卵を沢山生成して持っているだけで、沢山相続する権利を得ることになります。
受精卵時点で人間と解釈すると、成長させずに保管しているだけで相続できます。
相続するためだけの保管。
これはとても違和感がありますよね。
他にも、受精卵が人だと、体外でも、体内でも、妊娠した時点から扶養に関しての様々なことも生じます。
つまり納税や扶養控除等々ですね。
だって人なんですから。
そのための手続きとして、産まれた時に役所への出生届があります。
しかし、受精卵が人と解釈してしまうと、産まれた時ではなく、受精卵の確認が取れた時点で届出が必要になります。
と言うことは、受精卵が出来る前から名前は付けておかなければなりませんね。
<病院も困る!?>
話を問題に戻します。
受精卵が人とすると病院の責任も重大になります。
もしも病院の過失で受精卵を死滅させてしまうと、過失致死傷罪
になり得ます。
もしも精子等の生命力が弱いことを知っていて受精させ、弱い受精卵が生まれ、その後死滅した場合、殺人罪
になり得ます。
これはこれで、とても違和感がありますよね。
そのため実際に
【受精卵が持ち去られても略取・誘拐罪にはならない】
とされています。
6、現時点での結論
ここまで見てきたように受精卵を物としてみた場合も、人としてみた場合も、様々な違和感・問題が生じるんです。
では、受精卵を持ち去った犯人は現在(2017年)ではどのような罪に問われるのでしょうか?
それは
【無罪】
です。
受精卵は物でも、者でもない、モノと言うことです。
現在ではそのようなモノの定義も、犯罪も定義されていません。
「犯行時点で法に定義されていない行為は罰しない」
とする考え方(罪刑法定主義)が原則にありますので、受精卵を持ち去る行為自体は該当する犯罪がありません。
そうしないと、今までは犯罪じゃないことでも後々
「法改正で犯罪になったから昔やった人も全員逮捕します!」
となってしまいます。
これでは法を考える人のサジ加減一つで誰でも犯罪者になり得てしまい、秩序が壊れてしまいますので重要な原則です。
7、最後に
【受精卵は物でも、人でもないから罪に問えない】
これはこれで何か違和感があり、何かモヤモヤしますよね?
私もです。
法律と言うモノは未熟で未完成な存在と言われています。
刑法も完璧じゃないと言うことですね。
このことに違和感があると考える人が多ければ、近いうちに定義されると思います。
センスを問う法律問題はいかがでしたか?
楽しんでいただけましたか?
最初に言ったように、これを
「楽しい!面白い」
と感じたなら貴方と法学の相性は良いと思います。
是非この気持ちのまま、こちらから法学に少し触れてみて下さい。
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