帯番組キャスターの休演がニュースに
フジテレビの井上清華アナ(左)と小室瑛莉子アナ
「体調不調で○○アナウンサーが出演する『○○○』を休演」「○○アナが『○○○』を○放送日連続欠席。代役は○○アナ」 【写真】幅広いジャンルで活躍する元局アナの田中みな実、宇垣美里、鷲見玲奈、森香澄 このところ、各局のアナウンサー・キャスターが出演番組を休演することを伝えるネットニュースが相次いでいる。実際、フジテレビの井上清華アナはメインキャスターを務める『めざましテレビ』を24日まで7放送日連続で休演し、25日に復帰。小室瑛莉子アナは『めざまし8』を5放送日連続、『ぽかぽか』(金曜)を2出演日連続で休演し、23日に前者で復帰した。 さらに、宮司愛海アナはメインキャスターを務める『Live News イット!』を夏から秋にかけてたびたび休演している。渡邊渚アナは7月から『めざましテレビ』と『ぽかぽか』(木曜)を休演。22日に自身のインスタグラムで病状を初めて明かして人々を驚かせた。 他局に目を向けてもこのところ、『ZIP!』(日本テレビ)の水卜麻美アナや『news23』(TBSの)小川彩佳キャスターらの休演が報じられていたが、どんな背景があるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。 ■コロナ禍で早めの対応が浸透 2020年春からのコロナ禍で、「各局が看板アナウンサーを休ませることに慣れた」「視聴者も以前より違和感なく受け入れるようになった」という点は大きいだろう。特にコロナやインフルエンザなどの感染症は、「番組スタッフやアナウンス室/部、ひいては局全体に罹患者が広がる」というリスクがあり、早めの対応が求められている。 なかでも帯番組は、連日放送を続けるほか、世間の批判を避けるために、「症状が軽めの段階から休ませる」という判断基準が局を超えて広がった。実際、民放のある情報番組に出演している女性アナウンサーから、「視聴者や他の出演者に少しでも体調不良を気づかれそうなら休んだほうがいい」という話を聞いたことがある。 それは、番組の顔となるアナウンサーたちも例外ではない。理由はそれぞれだが近年、『news every.』(日本テレビ)の藤井貴彦アナ、『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)の羽鳥慎一らが休演し、さらに今月18・19日には『THE TIME,』(TBS)の安住紳一郎アナが休んだことがニュースになっていた。 その他でも、症状別のガイドラインや、休演したときの対応シフトが整備されたほか、曜日で分けるダブルメインキャスター体制を敷いてリスクを分散している番組も少なくない。世間からの「働かせすぎ」という批判を避ける意味も含め、アナウンサーたちが体調不良などで休みやすい状態が生まれている。 もう1つ大きな変化は、アナウンサーたち自らインスタグラムなどで、セルフフォローの発信ができるようになったこと。 例えば、宮司アナは9月末の休演期間中にインスタグラムで「インフルエンザに罹患してしまい今週のイット!は休ませていただくことになりました」「しっかり治して戻りますのでまたよろしくお願いします」「小学生ぶりにかかったインフルエンザは思っていた数倍辛いです、、、涙」などとその理由や病状を報告していた。 局もアナウンサー本人も休演することで「無用な憶測や誤解を生むのではないか」「批判を受けるのではないか」という不安が減り、「安心して休める」「休ませてもリスクが低い」ようになったのは間違いない。
「女子アナ」に固執しない人が増えた
アナウンサー本人たちの意識が変わったことも、休演しやすいようになった背景の1つだろう。 平成初期、フジテレビと日本テレビを中心に女子アナブームが巻き起こり、アイドルと同等レベルの人気を獲得した。華やかなポジションとしてもてはやされ、引っ張りだこの状態になったが、一方で局内外の競争はし烈化。「30歳定年説」がささやかれたほか、他部署への異動を左遷のようにみなされるなどの難しさもあり、心身ともに過酷な状態に置かれていた。 しかし、ここ数年は情報番組の現場やアナウンス室/部の雰囲気を取材しても、以前ほどのバチバチとしたポジション争いは感じない。それどころか、「女子アナ」というポジションに固執せず、ポジションやキャリアにしばられない人の多さを感じさせられる。 50代に入ってなお局アナとして活躍するベテランがいれば、自分のペースで活動するフリーアナもいて、なかには女優やマルチタレントとして活躍する人もいる。さらに、全く別分野のキャリアを歩み始める人もいるなど、彼女たちの選択肢は明らかに増えた。 例を挙げていくと、田中みな実(元TBS)の成功以降、宇垣美里(元TBS)、鷲見玲奈(元テレ東)、森香澄(元テレ東)など、「早期退職してバラエティとドラマで活躍」が1つのキャリアプランとして確立。また、久代萌美(元フジ)は他部署への異動後に退職して吉本興業に所属し、久慈暁子(元フジ)も退職して大学時代に所属していた芸能事務所に戻るなど、どちらも型にとらわれることなくマルチな活躍を見せている。 その他でも、笹川友里(元TBS)はモデルや実業家に、伊東楓(元TBS)は絵本作家に転身し、大木優紀(元テレ朝)はベンチャー企業に転職。「局アナとして生き残り続ける」ことや「フリーアナとして活躍する」という道を選ばず、「女子アナであり続けたい」という執着を感じさせないタイプが増えている。それどころか、「女子アナという経歴をスキル獲得やキャリアアップのステップとして考えている人もいる」という。 また、何人かのアナウンサーから「以前より給料が下がった」という話も聞いたことがある。それも「アナウンサーより、マルチタレントやインフルエンサーのほうが稼げる」などと考える人が増えた理由の1つかもしれない。 ■会社への信頼性が上がっている 逆に局側としては、時間と労力をかけて採用試験を行い、研修や現場で地道に教育し、チャンスを与えて経験を積ませたのに、「数年であっさり退職されてしまう」というケースが増えているのがつらいところ。 そのためか、学生時代から芸能活動を行い、カメラ慣れしているほか、ビジュアルが洗練されていて1~2年目から活躍できそうな人材を採用するケースがよく見られる。しかし、そんな即戦力に近い芸能活動経験者ほど“女子アナ”への執着はなく、結局、早期退職するという人も目立つなど、テレビ局側の悩みは改善されていない。 最後にもう1つふれておきたいのは、局側の女子アナに対するサポートの意識が高まっていること。オフレコ条件の話なので名前は挙げられないが、あるベテランアナウンサーが「妊娠・出産・子育てなどのワークライフバランスや、異動・留学・資格取得などのキャリアアップへのサポートは以前とは比べものにならないほど高まっている」と言っていた。 これは、「自らが勤めるテレビ局への信頼性が上がっている」ということではないか。もし「レギュラー番組を体調不良で休んだくらいで評価を下げられることはない」という安心感が「無理をせずに休もう」という現在の状況につながっているとしたら、「女子アナの労働環境は改善され始めている」と言っていいだろう。 ただ、「体調不良の際は休みを申告できるし、企業も休ませるべき」という考え方は、一般社会の常識であり、テレビ局もようやくそれに近づいてきたというだけなのかもしれない。 木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
木村隆志