長崎県の大石賢吾知事(42)が、県建設業協会(長崎市)の陳情を実現後、後援会員集めで協会に協力要請していた問題で、知事側が後援会費はいくら集めても匿名で処理できる制度上の規定に着目していたことが判明した。後援会関係者が「できる限り、支援者名を明かしたくなかった」と証言した。政治資金規正法は、5万円超を寄付した人は名前や住所を公開するよう定めるが、後援会費に同様の規定はない。専門家は政治家と支援者のつながりが不透明な後援会費を「法の抜け道だ」と問題視する。 【図解】ラインでのやり取り、資金集めの構図は 大石知事は、自らが代表を務める資金管理団体「大石賢吾後援会」(長崎市)の事務局員らに対し、無料通信アプリ「LINE(ライン)」のグループトークを使って後援会費集めを指示していた。 毎日新聞が入手したトーク履歴などによると、大石知事は県建設業協会の陳情を受け、2023年4月に公共工事の最低制限価格を引き上げた。その後、従来の一律3000円の後援会費(年間)に加え、6万円と12万円の高額会員枠を追加。総会に参加できる特典などを付け、建設業界だけで新規会員を100人集めるなどと目標を設定した。23年10月と24年5月の計2回、協会長に対し会員集めに協力するよう求めていたことが毎日新聞の報道で明らかになっていた。 寄付ではなく、後援会費を集めようとした理由について、複数の後援会関係者が「後援会費は政治資金収支報告書に氏名などを載せる必要がないから」と証言。時期などの見通しがつきにくい寄付とは違い、「会費は毎年、安定した資金集めが可能」だと話す関係者もおり、支援者に説明する際は「氏名が出ることはない」と強調して伝えていたという。 政治資金規正法は、年間5万円超の寄付を受けた場合、寄付者の氏名や住所を収支報告書に記載することを義務づけている。政治資金パーティー券の購入にも同種の規定はあり、もともとは購入額「20万円超」が公開基準だったが、自民党派閥の裏金事件を受けて成立した改正政治資金規正法により「5万円超」に引き下げられた。27年1月から変更される。 一方、後援会費については収支報告書に記載義務があるのは会費を納めた総人数と総額のみで、氏名などを公開する仕組みは無い。個人の年間寄付額や1回のパーティー券にはそれぞれ150万円の上限額が定められているが、後援会費には上限額もなく、政治家側が自由に設定できる。 今回の大石知事の協力要請に対し、協会側は「努力はするが、約束はできない」と回答。実際に会員を集めた実績も確認されていない。ただ、現状の規正法の規定では、仮に要請通りに後援会員を大幅に拡充できた場合であっても、市民が収支報告書を確認し「知事と建設業界との深い関係性」に気付くことは難しいことになる。 大石知事は毎日新聞の質問状に対し「法令に則(のっと)り、適正に活動を行っております」と回答した。 政治資金に詳しい岩井奉信・日本大名誉教授(政治学)は「政治家の資金集めの手段の一つでありながら、後援会費については規制がなく、ブラックボックス化している。本当は寄付なのに後援会費と偽って処理したり、寄付の上限額よりも多額の会費を集めたりする政治家が出てくる可能性がある。後援会費についても金の流れがわかるように氏名などを明らかにするよう政治資金規正法を抜本的に作り直すべきだ」と指摘する。【志村一也、松本美緒】