「母は奴隷なのか」1週間泊まり込み勤務後“急死”、家事使用人の「労災不支給」めぐる裁判が結審 遺族ら思いを語る7/2(火) 9:50配信.「“労災”除外は時代錯誤」弁護士らも訴え 厚労省“家政婦”の働き方実態調査を開始等家事使用人の労働基準法適用求める弁護士JPニュースPDF魚拓
7日間にわたる泊まり込み勤務の末に急死した介護福祉士で家事労働者の女性=当時68歳=に労災が支給されず遺族が国を訴えた裁判の控訴審が、6月27日東京高等裁判所(水野有子裁判長)で行われた。 今年2月に策定された「家事使用人の雇用ガイドライン」では、雇用主に「保険の加入状況の確認」を呼び掛けている 原告である女性の夫が「妻は高齢者の命を守り続けた“労働者”です。国にも妻が100%労働者だったと認めてほしい。納得のいく判決を書いていただけるようお願いいたします」と意見陳述し、結審した。次回9月19日に判決が言い渡される。
一審判決「介護」部分のみ「労働時間」扱い
女性(Aさん)は利用者宅で掃除や洗濯、食事の用意などの「家事」と、おむつ交換や補助などの「介護」を担っていた。利用者(90代)は認知症を患い寝たきりで、介護保険の区分ではもっとも重い「要介護度5」の認定を受け、1人では日常生活を送れない状態だった。また、利用者の介護忌避感も強く、「ばかやろう」「でていけ」などの暴言もあったとされ、この利用者宅は過去に12日間で担当者が7人も変わるような状況にあった。 さらに、住み込み期間(1週間)中の休憩時間は、深夜0時~5時のみ。同利用者宅に派遣されたことのある人の証言によれば、寝る場所は利用者の隣とされ、休憩時間であってもゆっくり休むことはできなかったという。 現行の労働基準法116条2項は「家事使用人」を労働者として認めておらず、労働法が適用されない。しかし、1988年に労働省(現厚労省)は、個人家庭と労働者の間に事業者がおり、労働者が事業者の指揮を受けて働いている場合は家事使用人にはあたらないとし、「家事使用人かどうかは従事する作業の種類や性質を勘案して労働者の実態を見て決定する」と通達を出している。 Aさんは紹介所Y社を通じて個人宅に住み込みで介護と家事業務を行っていたが、Y社は、Aさんとの間で「介護」についてのみ雇用契約を結び、「家事」については利用者宅と直接契約をさせていた。一審では、この契約をもって“介護部分のみ”を労働時間と見なし「過重労働には当たらなかった」と判断。原告の労災不支給取り消しの訴えを棄却した。 原告代理人の明石順平弁護士は、「Aさんの業務は『介護』と『家事』が渾然一体となっており、分離して考えることはできない状況だった。1日24時間、気が休まることのない中、介護と家事を1週間続け、急性心筋梗塞で亡くなった。一審判決は、女性の業務の”実態”をまるで無視した不当判決だ」と批判。棄却後に控訴していた。
控訴審が長期化した理由
控訴審は2023年1月から開始された。控訴審では「1回結審」と言われ、第1回期日で当事者の言い分を聞き弁論を終結することも多い中、本裁判では実に1年半にわたり審理が重ねられた。 結審後の会見で明石弁護士は、審理が長期化した要因について、「(高裁の)裁判官は業務起因性(業務と発症原因の因果関係)に興味を持っていた」と振り返る。 Aさんが亡くなった場所が低温サウナであったことから、国は急性心筋梗塞の要因がサウナによるものだったと主張。これに対し、明石弁護士は「サウナといってもAさんが亡くなったのは40℃ほどの低温サウナだった」と説明。国と原告側の双方の主張についてこう続けた。 「一審の際、国は『サウナで人が亡くなることもあり得る』と立証したかったのでしょうが、出してきた証拠はなぜか『和温療法』という体を温め病気を治す療法の説明だった。この和温療法は、重度の心不全の人を60℃ほどの部屋に入れて温めるというものです。60℃で人が亡くなるどころか心不全が治ると言っている。このことからも、40℃の低温サウナに入っていたAさんが急に亡くなるとは考えにくく、1週間休みなしで働かされたことによって心筋梗塞が生じたことは明らかだとわれわれは主張しました」 また、同代理人の指宿昭一弁護士は、控訴審の訴訟指揮を執った藤井聖悟裁判官が非常に熱心だったといい、「家事使用人だから労災不支給ではなく、きちんと連続長時間労働とその死亡との因果関係を検討していくという方向性を示してくれました」と話す。なお、今年4月に藤井裁判官は異動。現在は水野有子裁判官が裁判長として指揮を執っている。 裁判官が途中で変更になる影響について、指宿弁護士は「裁判官も人間なので影響がまったくないかと言われるとわかりません。ただ、今回の裁判は裁判官3人の合議体で審理が行われていますので、これまでも基本的な方向は確認しながら進めていたはずです。1人交代になったからといって全面的に判決の方向性が変わるものではないと私は思っています」と説明した。
Aさん息子「母は奴隷なのか」
会見には、自身も介護に従事するAさんの息子が登壇。判決を前にした気持ちを、次のように語った。 「労災の不支給が決まった時、『家事使用人は労働者ではないから』(労災申請を)却下すると書かれていました。まったく実態を見ていないずさんな判断で、母は“労働者”でなければ何なのか、奴隷なのかと怒りを覚えました。地裁判決は残念な結果でしたが、9月に(高裁で)良い判決が出ることを心から願っています」 家事使用人を労働者として認めていない労働基準法116条2項をめぐっては、差別的だとして国会にも取り上げられ、厚労省は家事使用人の実態調査や雇用ガイドラインを作成するなど法で守られていない家事使用人の保護を進めていたが、裁判のあった27日、ついに厚労省が法改正に向けた調整に入ったと報じられた。法改正を後押しするか、司法の判断に注目が集まっている。
弁護士JP編集部
7/2(火) 9:50配信
社会現象にもなったドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』をはじめ、数々のテレビドラマや漫画などの影響もあり、一般的に広く認知されることになったのが家事代行サービスである。
実際、野村総合研究所の調査(2018年)によると、”家事代行サービス”の認知度は80%を超える。近年、高齢世帯や共働き家庭の増加などの要因によりニーズも増え、将来の市場規模は少なくとも約2000億円、最大で約8000億円にまで拡大する可能性があるとも推計されている(2018年時点の市場規模は698億円)。
家事代行の担い手は、およそ8割が女性だ。また、2015年に当時の安倍政権が、国家戦略特区での外国人家事労働者の受け入れを解禁したことから、外国籍の就労者の割合も増えている。ハウスキーパー、お手伝いさん、家政婦(夫)、家事労働者などと呼び方はさまざまだが、そのほとんどが「家事代行サービス業者」から一般家庭に派遣され働く”労働者”であり、労働関係法令に守られているのは当然だと誰もが思うかもしれない。
しかし9月29日に行われた裁判で、「家政婦」として働き急死した女性の”労災”を「認めない」という判決が東京地裁で言い渡された。
家政婦=労働者ではない?
訪問介護・家事代行サービス会社の斡旋(あっせん)で働いていた女性(当時68歳)は、2015年に認知症で寝たきりの利用者宅に「家政婦」兼「ヘルパー」として、1週間泊まり込みで勤務した後に、急性心筋梗塞で亡くなった。
女性の業務は、食事の準備、買い物、清掃、2時間おきのおむつ替え、不定期におこる失禁への対応など家事と介護が混然一体になっていたという。
また、5時間与えられていた睡眠時間(休憩時間)についても、同利用者宅で勤務したことのある別の女性は「部屋は与えられず、就寝時間も定まっていない利用者が寝てから、隣に布団を敷き睡眠をとっていた。同居する息子が利用者の様子を見にくることもあり、落ち着いて寝ることはできなかった」と証言している。
女性の夫が、急性心筋梗塞は「業務による過労状態」が引き起こしたとして、労災を申請したが不支給となった。
不支給の理由は、女性が労働基準法116条2項の「家事使用人」に該当し、労災保険の適用除外になるからであった。その後、審査請求、再審査請求も退けられ、夫は2020年に国を相手に労災認定を求め提訴した。
労働基準法116条2項(e-Gov法令検索より)
「家事使用人」という”規定”
労働基準法における「家事使用人」とは、主に「個人家庭」においてその家族の指揮命令を受けて家事一般に従事する労働者のことだ。
これは1947年に労働基準法が公布されたときのままの規定だが、1988年に労働省(現厚労省)は「家事使用人かどうかは従事する作業の種類や性質を勘案して労働者の実態を見て決定する」と通達を出した。
また、同年の労働省(現厚労省)労働基準局長による行政解釈(基発第150号)では、「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は家事使用人に当たらない」と定めている。
基発第150号(全国労働安全衛生センター連絡会議HP「労働基準法関係解釈例規について」より)
つまり、個人家庭と家事労働者が直接的な契約を結び労働していれば「家事使用人」であり労災は認められない。しかし個人家庭と労働者の間に事業者がおり、その指揮下にあると該当されれば「家事使用人にはあたらず」労災が認められるほか、原則として「家事使用人」であるかどうかは”実態”をみて決定されるということだ。
女性を斡旋していた訪問介護・家事代行サービス会社では、介護保険が適用される「介護業務(訪問介護事業)」は会社が雇用し派遣する「非常勤ホームヘルパー」が担当し、保険適用外の「家事」は利用者が自費サービスとして直接契約した「家政婦」が担当していたという。
今回、女性は亡くなる直前に訪問していた家庭で、「家政婦」兼「非常勤ホームヘルパー」として、いずれの業務もひとりで行っていた。
介護時間だけを切り取った地裁判決「過重業務とは認められない」
原告らは「同じ家で同じ人にサービスを提供しているのであれば、業務内容の区別は難しい。家事部分についてだけ『労働者を家庭に紹介しただけで、使用者ではない』というような契約がまかり通れば、たとえ24時間労働であっても労基法の適用を免れてしまう」と訴えた。
しかし東京地裁は、女性が住み込みで拘束されていた24時間のうち、同社に雇われ担った業務は「介護業務」のみで、「家事」については家庭との直接契約になっていたと形式を重視し判断した。
睡眠時間(休憩時間)を除く1日19時間の業務中、同社の指揮下にあった労働時間は「介護業務」の4時間30分のみとし、「総勤務時間は、31時間30分(4時間30分×7日)にとどまることから、過重業務だったとは認められない」と結論付けた。
労働法の『いろは』を無視した判決?
裁判後会見を開いた代理人の明石順平弁護士は、「裁判所は女性の業務の”実態”をまるで無視している。契約書などの形式的な文言だけではなく、実態に基づく判断をしなければならないというのが、労働事件・労働法の『いろは』であり、裁判所の正しい姿勢だ。そこから全く外れた、とんでもない判決だと思う」と批判した。
原告代理人の指宿昭一弁護士(左)と明石順平弁護士(右)(9月29日 霞が関/弁護士JP編集部)
同代理人の指宿昭一弁護士は、家事使用人に労働法が適用されない規定そのものに触れ、「労働相(現厚労相)の元で行われた労働基準法研究会が、1993年の時点で『規定に合理的な理由はなく廃止することが適当』と報告していたにもかかわらず、国は廃止しなかった。
国際的には、家事労働者もほかの労働者と同じ権利を有するべきという考え方がスタンダードになっている。時代遅れな規定は、国会で議論し削除すべきだ」と話した。
「控訴します」と宣言した原告(手前)(9月29日 霞が関/弁護士JP編集部)
女性の夫は「国は家事労働者にも労基法を適用し保障するべきだと考える」と改めて訴え、「高齢者、要介護者のために献身的に働いてきた妻が、権利を有する『労働者』だったと認められるよう、これからも戦い続けます」と控訴の意向を示した。
「異常な状況」が社会的に知られ始めている
原告を支援するNPO法人POSSEでは、女性の過労死認定を求めるオンライン署名活動を行っており、裁判までのおよそ1か月間で約2万2千件を集めた。
裁判後も署名は増えており、POSSEはインターネット上で「現在の家事労働者の置かれた異常な状況が社会的に知られるようになり、この状況を変えるべきという社会的な情勢が作られ始めています」と声明を出した。今後も活動を続け、集まった署名は厚生労働省と東京高裁に提出される予定だ。この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
# 過労死
弁護士JP編集部
2022年10月12日 12:21
この2月から、厚生労働省が家政婦などの「家事使用人」の働き方を把握する実態調査を行っていることが、独立行政法人労働政策研究・研修機構のサイトなどから明らかになった。
国は現在、家事使用人について、個人間の契約により「家庭内」で働いているとして、事業者の指揮命令があった場合を除いて「労働基準法」を適用していない。
この規定により、家政婦兼介護ヘルパーとして住み込み勤務の末に亡くなった女性=当時68歳=の労災が認められず、遺族が国を訴えた裁判が現在東京高等裁判所で行われている。遺族と支援者らは、労働基準法の改正も求め、昨年11月9日に集めた署名約3万通を厚生労働省に提出した。
これらの動きを受けて、11月17日の参議院厚生労働委員会において、加藤勝信厚生労働大臣は家事使用人の実態調査の意向を示し、「調査結果を踏まえ、労働者の保護の観点から、どういった対応が必要なのか検討していきたい」と答弁していた。
裁判で原告代理人を務める指宿昭一弁護士は、今回の調査について「実態をみれば家事使用人が一般の労働者と変わらないことがわかるはずだ。しっかりと調査を行って、国は労働者を保護するための政策に反映してほしい」と語った。
家事使用人の働き方の実態が明らかになるのは60年ぶりとなる。
24時間×1週間=168時間拘束でも「過重業務とは認められない」
現在行われている家事使用人に対する労災の認定をめぐる裁判では、女性の「労働者性」が争点になっている。
女性は訪問介護・家事代行サービス会社の斡旋(あっせん)で、家政婦兼介護ヘルパーとして、利用者宅に1週間住み込みで業務を行った末に亡くなった。遺族は業務による過労状態が死を招いたとして労災を申請したが、女性が「家事使用人」であるという理由で不支給となった。その後、審査請求、再審査請求も退けられ、遺族は2020年に国を相手に労災認定を求め提訴した。
昨年9月、東京地方裁判所(片野正樹裁判長)は、“ヘルパー”として行った介護業務についてのみ、事業者からの「指揮命令」があったとして労働者性を認めたが、一方の”家事部分”については「個人間の契約」であるとし認めなかった。判決では、介護と家事の業務時間を分け、介護業務を行った時間だけを算出し「過重業務だったとは認められない」と遺族らの訴えを退けた。
しかし遺族らによれば、女性の業務は食事の準備、買い物、清掃、2時間おきのおむつ替え、不定期におこる失禁への対応など家事と介護が混然一体になっており、時間で業務を区別することはできないはずだと訴え控訴した。
「妻は労働者ではないのでしょうか」
厚生労働省は介護保険サービスに関する通達(※)の中で「利用者本人分の料理と同居家族分の料理を同時に調理するといった、訪問介護と保険外サービスを同時一体的に提供することは認めない」としている。
(※)厚生労働省老健局「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」(平成30年9月28日)
しかし、1月24日に東京高裁で行われた控訴審の意見陳述で、女性の夫(75)は女性の業務内容について「調理一つとっても、口に入れるものはすべてやわらかいペースト状にする。ご飯はミキサーにかける。会社から渡されたタイムスケジュール表には事細かく指示されていました。それに加え利用者の息子の食事の準備まで指示されていました」と述べ、「妻は(介護と家事)同時一体の仕事を“指示”されていました」と訴えた。
女性に事業者から支払われる賃金も、介護部分と家事部分の区別はなされていなかった。「妻は労働者ではないのでしょうか」という夫の問いかけに、司法はどう答えるのだろうか。裁判はWebでの争点整理などを経て、第2回の弁論が開かれる予定となっている(期日は未定)。この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
# 労働災害
弁護士JP編集部
2023年02月28日 09:53
一週間にわたる泊まり込み勤務の末に亡くなった家政婦(家事使用人)の女性=当時68=の過労死が認められない問題で、遺族と支援者らは11月9日、女性の労災認定と家事使用人への労働基準法の適用を求め、要望書と約3万5000筆の署名を厚生労働省に提出した。
女性は2015年5月、訪問介護・家事代行サービス会社の斡旋(あっせん)により、寝たきり高齢者の利用者宅に一週間泊まり込みで働いた後、急死した。労働基準監督署が労災を認めなかったことから遺族らが国に対して裁判を起こしたが、東京地裁は訴えを棄却した(9月29日)。現在、遺族らは控訴している。
関連記事:1週間24時間拘束の末「過労死」も“労災”認定なし…「家政婦」がおかれる“異常な状況”とは?
「家事使用人」は労基法適用されず
個人に雇われて家事をする「家事使用人」には労働基準法が適用されず、法に守られていない状況だ。
「家事使用人」を適用外とする労基法116条2項をめぐっては、1993年にすでに当時の労働相(現・厚生労働相)の諮問機関が撤廃を提言していたものの、30年近く経った今も議論が深まっていない。裁判では、訪問介護・家事代行サービスの斡旋により働いていた女性が、個人家庭との直接契約で働く「家事使用人」にあたるかが争点となっていた。
提出された要望書では、労基法の改正とともに、国際労働機関(ILO)で採択されている家事労働者の権利を守る国際条約への批准を求めた。厚労省側は、労基法の改正について「慎重に検討する」と述べるにとどまったが、家事労働者の働き方については実態調査を行うと回答した。
加藤厚労相「問題意識は共有している」
なお、10月27日の衆議院の厚生労働委員会において、石橋通宏委員はこの問題を取り上げ、加藤勝信厚生労働相に「家事労働をしている“労働者”のみなさんにもきちんと労基法が適用されるよう、大臣のイニシアチブで対処していただきたい」と投げかけている。
これに対し、加藤厚労相も「家事使用人については、通常の労働関係と異なった特徴を有し、国家による監督・規制といった法の介入が不適当であるといった考え方から、労基法の適用から除外されている。ただ、(石橋)委員の問題意識は私も共有させていただいている。
家事使用人の実態そのものは長らく見てきていないので、まずはその調査を行いたい。その実態を踏まえ、労働者の保護の観点から、どういった対応が必要なのか検討していきたいと思っている」と述べ、現状調査の実施などへ積極的に取り組む姿勢を見せている。
当事者「緊張感の中で働いている」
署名提出後に国会内で開かれた集会では、遺族の夫(75)、弁護士、ジャーナリスト、家政婦として働く当事者らが実態を訴え、前出の石橋委員ら参加した国会議員が耳を傾けた。
ジャーナリストの竹信三恵子氏(和光大学名誉教授)は、「家事は簡単な仕事と見なされ、家事労働者は軽視されている。しかし、家事労働の多くは密室で行われ、監視する人がいないなど、過労死が引き起こされる要因が多くあり法の保護が必要だ。
各家庭との個人契約であれば労基法の適用を免れる現行法では、ギグワークをはじめ新しい仕事の形態で働く労働者も同様に守れない。労基法116条2項を変えなければいけない時期にきているのではないか」と訴えた。
左から竹信三恵子氏、土屋華奈子さん、指宿昭一弁護士、明石順平弁護士(11月9日 都内/弁護士JP編集部)
個人で家政婦として働く土屋華奈子さんは、「家政婦はいわゆる主婦(夫)とはまったく違う仕事だ。要望に合わないという理由で作った料理を捨てられたり、トイレは近所の公園のものを使えと言われたりする。“いつ何を頼まれるかわからない”という緊張感の中で働いている」と実態を紹介。
その上で、「家事労働は同僚がいることの少ない孤独な仕事でもある。同業者であっても、他の人がどのように仕事をしているかわからない。住み込みや泊まり込みでも家のトイレやお風呂を使わせてもらえていない場合や、休憩・睡眠などが十分に与えられていない可能性もあると思う。国の実態調査ではそういったことも調べてほしい」と要望を訴えた。
今後の動き
今回遺族を支援し、労働・貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE」の佐藤学氏は、裁判と並行して今後も署名活動を続ける意向を話した。また、署名提出時に行われた厚労省との意見交換において、質問への回答が得られていない部分があるとし 、今後も厚労省に働きかけを行っていきたいと語った。
控訴審は、2023年1月24日 から開始される予定だ。この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
# 労働災害
弁護士JP編集部
2022年11月14日 09:47