アニメ名探偵コナンの映画純黒の悪夢にて自動車事故で記憶喪失になったキュラソーさんは、外傷性記憶喪失の解離性建忘や高次脳機能障害の可能性から軽度外傷性脳損傷MTBIの可能性もある。

アニメ名探偵コナンの映画純黒の悪夢でオッドアイの瞳をしている黒の組織のキュラソーさんは、安室さんらに自動車で追跡された後に自動車事故を起こし水族館で記憶喪失になり頭を抱えているシーンがあり医師に外傷性記憶喪失と診断されるシーンがあったように思います。
キュラソーさんが、自動車での交通事故後、脳の画像診断により外傷性記憶喪失と医師診断受けたこと、頭を抱えて倒れる症状、尿失禁の症状があった事から脳神経専門の医師診断受ける事で軽度外傷性脳損傷MTBIと診断される可能性は、あり得るとの状況証拠はあると私は思いました。




https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/31/3/31_146/_pdf




当事者からの声

軽度外傷性脳損傷の課題

斎藤洋太郎

交通事故やスポーツ事故などの際、受傷後の意識障害が軽度でも、外傷性脳損傷(TBI)が起きる。WHOは2004年に、軽度TBI(MTBI)の定義をつくり、TBIの予防を呼びかけている。

軽度とは、受傷後の意識喪失30分以内、外傷後健忘、意識の変容などを指す。受傷後の意識障害が軽度でも「軽症」とは限らない。MTBIの中に、重症のMTBIが含まれ、労務困難なため、生活保護を受けている被災者もいる。

TBIにより精神面では、高次脳機能障害やてんかんなどが起きる。また、TBIによる身体性機能障害としては、運動まひ・知覚まひ・膀胱まひ・脳神経まひが起きる。

MTBIは、画像に見える場合と、そうでない場合とがある。他方、現行の精神・神経系統の労災障害基準が画像偏重であるため、MTBIのため働けなくとも、障害等級第十四級(通常労務可能に相当)とされてしまう。交通事故被害救済も、労災基準に準拠する。

そこで、友の会としては、画像に見えない場合の判定方法について、次のように要望している。

1.体系的・他覚的な神経学的検査によって、末梢神経損傷では起こりえない、複雑多岐にわたる異常所見が把握されれば、中枢性の器質的障害にほかならないから、TBIと診断すること(画像に見えずとも、身体性機能障害をはじめとする異常所見が把握されれば、TBIと診断できるし、「末梢損傷」では誤診である)。

2.1を前提として、受傷後に、WHOのMTBI定義を満たす軽度の意識障害が発症したなら、その事故とTBIの因果関係を認めること。

国会と地方議会(東京都議会と多くの区議会、神戸市議会など)からの働きかけを受け、厚生労働省は2013年6月に通知を出した。その内容は、WHOの定義を有用とし、画像に見えずとも障害等級第十四級を超える可能性があるとする厚生労働科学研究を踏まえ、該当事案を本省協議するというものである。

友の会はさらに、前記1・2に沿った本省協議事案の認定、ひいては1・2の方法を取り入れ、労災基準を改正することを求めている。

また、交通事故被害の医療については、国民皆保険の趣旨に反する現状があると考え、治療期間や、障害認定などの判定を国が行うべきだと考えている。

(さいとうようたろう 軽度外傷性脳損傷友の会事務局長)

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○画像所見が認められない高次脳機能障害に係る障害(補償)給付請求事案の報告について

(平成25年6月18日)

(基労補発0618第1号)

(都道府県労働局労働基準部労災補償課長あて厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長通知)





高次脳機能障害に関する障害認定については、平成15年8月8日付け基発第0808002号「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」により指示されているところであるが、このうち、画像所見が認められない高次脳機能障害に関しては、「MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの」について、第14級の9で認定することとされている。

これに関し、平成24年度厚生労働科学研究障害者対策総合研究事業「高次脳機能障害の地域生活支援の推進に関する研究」(以下「研究」という。)が、本年5月に別添のとおり取りまとめられ、結論として、画像所見が認められない症例であって、「MTBI(軽度外傷性脳損傷)に該当する受傷時に意識障害が軽度であるものにあっても、高次脳機能障害を残す可能性について考慮する必要性がある」とされた。

研究の対象は、業務災害又は通勤災害を被った者に限らず、また、治療中の事案を含んでいる可能性がある等、労災保険における障害認定の対象と必ずしも一致するものではないが、研究において、画像所見が認められない場合であっても障害等級第14級を超える障害が残る可能性が示されたことを踏まえ、MRI、CT等の画像所見が認められない高次脳機能障害を含む障害(補償)給付請求事案については、本省で個別に判断することとするので、現在調査中のものも含め、該当事案を把握し次第、本省に報告すること。

平成24年度厚生労働科学研究障害者対策総合研究事業

「高次脳機能障害の地域生活支援の推進に関する研究」報告書抜粋

研究代表者:中島八十一(なかじま やそいち)

(国立障害者リハビリテーションセンター学院長)

高次脳機能障害者画像検査所見陰性例のうち軽度外傷性脳損傷(MTBI)と考えられる症例についての調査結果報告

目的

高次脳機能障害診断基準(厚生労働省・国立障害者リハビリテーションセンター)に合致する一方で画像検査所見陰性の症例が平成23年度調査で全国に54症例あったと報告された。その中でWHO協力センターの操作的定義*に基づく軽度外傷性脳損傷(MTBI)に該当する症例がどのくらいいて、どのような症例であったか検討を加えることとした。なおこの操作的定義の主とする目的は医療統計上でどの程度を「軽度」と呼ぶかということにあり、脳の損傷の有無を定義付けるものではない。

*Carroll LJ, Cassidy JD, Holm L, Kraus J, Coronado VG; WHO Collaborating Centre Task Force on Mild Traumatic Brain Injury. Methodological issues and research recommendations for mild traumatic brain injury: the WHO Collaborating Centre Task Force on Mild Traumatic Brain Injury. JRehabil Med. 2004 Feb;(43 Suppl):113-25.

方法

厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「高次脳機能障害者の地域生活支援の推進に関する研究」の平成23年度総括・分担研究報告書にある高次脳機能障害画像所見陰性例の調査結果報告(P33―40)について公表データを基にして解析した。

このデータ作成に当たってのデータ収集方法は当該報告書で以下のように記載されているので転載する。

「47都道府県の66高次脳機能障害支援拠点機関(調査依頼当時の全機関)を平成22年4月1日から平成23年3月31日までの1年間に来所の上で相談に訪れた症例の中で、画像診断で所見が無かったとする症例を対象に調査票(平成23年度)を用いて調査した。

この調査は必ず所属する機関の倫理委員会の承認を経て実施された。本研究において得られた調査データは個人が特定できないようにしたデータのみを用いて集約分析した。また、個人調査が必要な時には調査対象者及び家族等から、文書によるインフォームドコンセントを得ることを徹底し、被験者または保護者・関係者が納得し自発的な協力を得てから実施した。対象者の個人情報等に係るプライバシーの保護ならびに如何なる不利益も受けないように十分に配慮した。」

もとより調査項目にはグラスゴーコーマスケール(GCS)はないので、上記MTBIの操作的定義に該当する症例を探す作業はその可能性のある症例を検討すること以上のものではない。

結果

1.全相談数の中の画像陰性例と外傷性脳損傷

母集団は31都道府県の36支援拠点機関から収集された3,178例のデータである。この中で画像所見は陰性であったが症状は高次脳機能障害診断基準に合致すると診断された者、すなわち画像陰性例は54例であり、総数に対する比率は1.7%であった。この中で主治医の診断等により確認できた外傷性脳損傷(TBI)を原因疾患とする者は43症例で総数の1.4%であった。

2.画像陰性例の分析

画像所見陰性と診断された外傷性脳損傷(TBI)の43例について分析した。この43例の中で、受傷時に昏睡を認めた症例が3例(7.0%)、認めなかった症例が25例(58.1%)、不明・記載なしが15例(34.9%)であった。受傷時の意識障害については、認めた症例が23例(53.5%)、認めなかった症例が4例(9.3%)、不明・記載なしが16例(37.2%)であった。

受傷から支援拠点機関を相談に訪れるまでの期間が長期にわたると、意識障害の有無など受傷時の現症が確認できず不明で終わる傾向にあり、また画像検査では受傷から時間が経つと脳の器質的損傷が確認できにくくなる傾向にあるため、調査対象を受傷から支援拠点機関が利用できた画像検査までの期間が3年未満の症例に限定した。その症例数は25例であった(図1)。これは総数の0.8%であった。

3.MTBIの症例

この25例の中から昏睡の有無、意識障害の有無及びその期間からMTBIの操作的定義に該当する症例を抽出した。その際に昏睡の有無が不明となっている症例は除外された。また意識障害の有無が不明となっている10症例が除外された。さらに昏睡が無く、意識障害も無い症例については、記載項目にはないが操作的定義にある見当識障害やその他の神経学的徴候があった可能性は否定できないことからMTBIの可能性有りとして数に加えた(ただし、そのような症例は障害尺度が6または7と障害の程度は軽かった)。その結果、残りの15例すべてがMTBIの可能性がある症例であった。これはTBI画像陰性例43例の34.9%であり、これは総数3178例の0.5%であった(表1)。

この15例の属性について、性別は男性8例、女性7例であった。年齢分布は10歳代3例、20歳代3例、30歳代4例、40歳代1例、50歳代3例、70歳以上1例であった。受傷時の昏睡はいずれもなし。意識障害の有無については有12例、無3例であった。意識障害が有るとした者のうち、その期間が分かっている者は5例で1分から2.5時間にわたっていた。障害尺度は3が1例、4が2例、5が3例、6が6例、7が3例であった(図2)。

考察

画像所見陰性のTBI症例で、昏睡を認めなかった症例は半数を超え、昏睡が有ったと明確にされた症例は1割に満たなかったので、画像陰性例では受傷時の意識障害の程度としては軽度の症例が多いと指摘できる。また、不明・記載なしが多いことから、画像所見陰性となるような軽症例においては受傷時の意識障害の有無を明確にすることには困難があり、取り扱いに課題が残る。

画像所見陰性の43例の中から、MTBIと推定されるか、その可能性のある症例がおよそ1/3あった。受傷から高次脳機能障害診断のために実施した画像診断までの期間が3年未満であった症例に限定すると、画像陰性例の6割に達した。これは支援拠点機関を相談に訪れた事例総数の0.5%であり、すなわち相談者が200名訪れると1名はそのような症例の可能性があるとういことになる。このような頻度でMTBIを考慮する症例が実際に経験されると言える。また相談に訪れた時点での調査では昏睡も意識障害も確認できなかった症例が少数あり、このような症例でも結果のように高次脳機能障害を残す可能性があるので慎重な対応が望まれる。

福祉領域の機関・施設からこれ以上の急性期の診療データを得ることには困難があり、MTBIにどのくらいの頻度で高次脳機能障害を発症し得るかという疑問等を含めて脳神経外科領域での研究成果を待つ必要がある。

結論

TBIが原因の高次脳機能障害を呈する画像陰性の症例(受傷から3年未満で検査)には、MTBIの操作的定義があてはまる可能性のある者が半数以上含まれていた。したがってMTBIに該当する受傷時に意識障害が軽度である症例にあっても高次脳機能障害を残す可能性について考慮する必要がある。

MTBIの操作的定義は、TBIに起因する高次脳機能障害の取扱いを共通化するためには有用であると考えられる。

図1 画像所見陰性例からMTBIの可能性のある症例の抽出

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表1 MTBIの可能性のある25症例

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図2 MTBIの可能性のある症例の医学的属性

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○画像所見が認められない高次脳機能障害に係る障害(補償)給付請求事案の報告について

(平成25年6月18日)

(基労補発0618第1号)

(都道府県労働局労働基準部労災補償課長あて厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長通知


https://drive.google.com/file/d/1J3awe8HEf2U7z63WCsICKtgKCrWjbstN/view?usp=sharing



軽度外傷性脳損傷(MTBI)患者・家族会と同友の会は22日、日本共産党の田村智子、山添拓両参院議員、田村貴昭衆院議員と国会内で懇談しました。

 MTBIは、受傷後の軽度の意識障害で脳を損傷し、運動・感覚・膀胱・脳神経などの不全まひや高次脳機能障害が症状としてあらわれます。厚生労働省は2013年、世界保健機関(WHO)のMTBI定義を労災の障害等級認定基準に導入。画像所見が認められなくても脳損傷が合理的に推測される場合、自賠責保険の対象になる交通事故の後遺障害等級14級を超える場合があることを認めました。

 山添議員の質問主意書に対し政府は17年4月の答弁書で、自賠責保険も労災基準に準拠することを確認しています。

 ところが、実際の自賠責判定では画像が偏重され「障害等級非該当」とされています。また、非該当と判定した自賠責保険審査会の議事録が被害者本人にも開示されません。交通事故の裁判では保険会社対被害者の争いとなり、MTBIの被害者が敗訴しています。

 田村智子議員らは、自賠責保険審査会の議事録を開示させるなど、被害者保護の制度に変えるため努力したいと述べました。

2019年5月24日(金)しんぶん赤旗より

https://www.tamura-jcp.info/archives/3997
交通事故で軽度外傷性脳損傷 被害者保護の制度に 患者・家族会 党国会議員と懇談


国際陸連の新規則で、立ちはだかる大きな壁

 7月末、南アフリカ出身の陸上女子中距離選手キャスター・セメンヤ(28歳)が、この秋に開かれる世界陸上ドーハ大会に参加しないことを代理人を通じて発表した。

 男性に多いホルモンであるテストステロン値が生まれつき高いセメンヤ選手は、今後も女子陸上選手として競技に参加できるのか、できないのか。

 この問題は過去何年もくすぶってきたが、昨年4月、国際陸上競技連盟(IAAF、「国際陸連」)が、テストステロンなど男性に多いホルモンが基準より高い女子選手が400メートルから1マイル(約1600メートル)の種目に参加しようとする場合、薬などでこれを人為的に下げる、とした新規則の採用を発表したことで、セメンヤ選手は取り消しを求めてスポーツ仲裁裁判所(CAS、本部スイス)に提訴した。今年5月、訴えは棄却。セメンヤ選手側はスイス最高裁に上訴した。

 7月末、最高裁は、国際陸連のテストステロン規制の一時保留命令を撤回。2012年のロンドン五輪と2016年のリオデジャネイロ五輪で女子800メートルの金メダルを獲得したセメンヤ選手は、今後も競技を続けられるのかどうか。大きな壁が立ちはだかった。来年夏の東京五輪ではどうなるだろうか。

 「薬を飲んで、人為的にホルモン値を下げる」行為が義務化されるというのは、英国に住む筆者からすると、同性愛者であることで性欲抑制剤を摂取せざるを得なくなった科学者アラン・チューリングをほうふつとさせ、人権の抑圧に見えてしまうのだが、皆さんはどう思われるだろうか。

 その一方で、「高テストステロン症の女性を相手に競技するのはつらい」という他の女性選手の声をどう判断するのか、という点も考えなければならないのだろう。

 セメンヤ選手とテストステロン値の問題を考慮する時、「女性で、高いテストステロン値で生まれた」ということは、どういうことなのかという疑問にぶち当たる。

「両性具有」ではなく、DSD

 セメンヤ選手のような体の状態にある人は、時として「両性具有」「男でも女でもない性別」などと言った言葉で説明されてきた。筆者自身もこうした言葉を使ってきた。

 しかし、このような言葉遣いは実は不正確で、当事者を傷つける、侮辱的な表現にもなりかねないことを知った。

 正しくは、国際陸連も使っている、性分化疾患、あるいは「DSD (Differences of Sexual Development)」(「体の性の様々な発達」状態)である。

 DSDについての関係資料(文末に紹介)を読むと、以下のことがわかってきた。

 例えば、普通、「男性の体にはこんな特徴がある」、「女性の体にはこんな特徴がある」という風に人は理解しているけれども、この「男性の体」あるいは「女性の体」には様々な発達の度合いがあって、従来の捉え方よりも、はるかに広いと考えてみてほしい。この点で、「もう一つの性」、あるいは「第3の性別」というジェンダー的考えとは異なる、DSDの実態がある。

 生まれの性別と相入れない自認を持つトランスジェンダーの人々との大きな違いは、DSDが性自認の問題ではないこと。セメンヤ選手自身も、「女性として生まれ、自分を女性として認識して生きてきた」と述べてきた。

 このようなDSDの概念は、筆者にとっては、全く新しいものだった。もっぱら、ジェンダー的観点からセメンヤ選手の問題を捉えてきたからだ。

 そこで、DSDに詳しい非営利組織「ネクスDSDジャパン」(日本性分化疾患患者家族会連絡会)のヨ・ヘイルさんにじっくりと状況を聞いてみた。

ネクスDSDジャパンのウェブサイト

 インタビューは、DSDの定義から筆者の家族の一人が持つ「高次脳機能障害」及びDSDを持つ人と社会のかかわり方、セメンヤ問題を考えていくときの論点まで、幅広い内容となった。

 なお、このインタビューは、もともとスポーツ専門サイト「Real Sports」掲載の筆者による記事のために行われたもので、関連記事は以下をご覧いただきたい。

 LGBTとも第3の性とも違う「性分化疾患」の誤解 セメンヤが人為的に男性ホルモンを下げるのは正当?(7月24日付)

***

認知度が低いDSD、「もう一つの性」ではない

ーDSDについては、どれぐらいの認知度があるのでしょうか。

 ヨ・ヘイルさん:実は正確には全く知られていない、と言って良いほどです。欧州圏では、まだダウン症候群のことを、「モンゴリアン(蒙古痴呆症)」と呼んでいる人も、高齢者の中にいると思います。ほぼそういうレベルではないかと認識しています。

ーある人の体の状態が従来の男女の体の定義から少し違っている、としましょう。この場合、私たちは、別の性別の存在として見てしまう傾向があるのではないでしょうか。「もう一つの性別」という考え方です。

 (少しでも違えば)男女とは別のカテゴリーと思われてしまいます。女性から「お前は女性じゃない」「男でも女でもない」と言われることになったり、とか。これが実際の状況です。

 (セメンヤ問題の議論では)「第3の性別を認めて欲しい」という言い方がされてしまうところがありますが、当事者の大多数は、全くそんな風には思っていないというのが事実です。自己認識は男性、あるいは女性なんです。

ーそうでしたか。全く知らなかったことです。これまで、「第3の性別」、「トランスジェンダー」の枠組みで捉えていたので。

 やはり社会的通念としては、どうしてもそうなってしまいますよね。

ー「ネクスDSDジャパン」の「ネクス」はどのような意味になりますか?

 ネクスは「ネクスト」(次)の意味もありますし、あとは「ネクサス」(繋がり、結びつきなど)の意味もあります。

 DSDには様々な体の状態があって、実はそれぞれそれほどのつながりというのはありません。その意味で、「ネクサス(結節点)」として、つなげて、なんとかやっていけないかという意味を込めています。

 親子間でも、どうしても正面だって話がしにくいことがあります。親御さんの側が罪悪感を持っている場合もあるし、性にまつわることなので話がしにくいのです。医療関係者と、実際の患者家族の人たちの中でも、なかなかコミュニケーションがうまく行ってなかったり。

 社会と当事者家族の間でも、まったく話が通じ合わないところがあります。なんとかこれをつなげていきたい、という意味を込めました。

ーいつ、このネットワークができたのでしょう。

 約20年ほど前に、「インターセックス」という表現で男でも女でもない性別の人がいる、という話が、一度、日本で広まったことがありました。

 現実には実際どうなのかと海外の患者家族会とか、いろいろな人権団体の人に会って(調べたのが)きっかけになりました。立ち上げは15年ほど前です。

ー活動内容は、どうなっていますか。

 DSDについての正確な情報・知識を出していくことがまずありました。

 最近では、各DSD患者の体の状態に応じて患者家族会がいくつか出来上がってきているので、そちらの皆さんとの連携もしています。

 海外では、約20年ほど前から患者家族会が整備されつつあって、今はかなり活動もしています。日本では、そういった形での患者家族会が出来上がったのは、約5年前ぐらいからでしょう。

ー医療関係者の間での、DSDについての認知度はどれぐらいでしょうか。

 正確な情報・知識を持っているのは、本当にDSDの専門医療の先生だけです。一般医療の先生方は、むしろ誤解されている方も多くて、実はそちらの方も大きな問題の1つとなっています。

DSDの判明時期は3つ

ー生まれてから、どのような過程を経てDSDであることが分かるのでしょう?

 DSDの判明時期は大きく3つに分かれます。

 1つ目が出生時、生まれた時です。この時は外性器の形やサイズがちょっと違うということが、産婦人科医療でわかることがあります。その場合は、すぐに専門医療施設の方に紹介をしてもらうように、今の所お願いをしているのですが、なかなかそれが徹底されていないのが現状です。DSD専門医療施設では、然るべき検査の上での性別判定が今は可能になっています。

 (2つ目に)思春期前後に判明するDSDの方が、出生時よりも多くなっています。基本的には、女性のDSDで、こちらは婦人科から始まります。正直なところ、誤診も多いです。こちらの方もDSDの専門医療施設の方に、ぜひリファー(紹介)してもらいたいと思っています。

 3番目は不妊治療で判明します。主にこちらは男性の場合になりますが。性別の決定に関わる情報を持つ染色体にはX型とY型の2種類がありますね。「XY」の組み合わせで男性、「XX」で女性とされてきましたが、例えばある男性の場合には染色体が XXYであったと。男性で染色体がXXだったことが分かる場合もあります。

 Xが2つの場合、一般的には、それだったら女性と思ってしまいますが、SRY遺伝子などがくっついて生まれてくる場合、現実には男の子に生まれ育つということもあるんです。

 不妊治療の専門をされている方は、男性不妊で、染色体でXXYが出てきたりとか、XXが出てきたりということは、結構よくあることなので、こちらの方では変な説明の仕方とかは、一般的にはされていません。

 ただ、問題は、不妊治療でもいい加減なところはあります。そういうところでは、「あなたは実は女性でした」というような、間違った説明の仕方がされていることが実際にあります。

ー一般的なレベルでは、そういう専門機関があることさえ、医師側が知らない、ということがあるのでしょうか。100%の医師が知っているわけではない、ということが?

 その通りです。

ーDSDは「治す」ものではない、と解釈して良いでしょうか。

 染色体レベルでは、治す・治さないのレベルの話ではありません。ただ、出生児に判明するDSDの場合には、命に関わるDSDが多いのです。こちらの方は、ちゃんと対処・対応をしていただく必要があります。

ー日本で、専門医療施設はどれぐらいありますか。

 チーム医療ができて、児童精神科医がいて、両親のショックやこれからの子育てに関して、ちゃんとフォローができる施設は、日本では数カ所になるでしょう。

身体の性についての固定観念

ー改めて、DSDの定義について、伺いたいのですが。ネクスDSDジャパンさんは、「体の性の様々な発達」という用語を使っていますね。

 DSDは、さまざま体の状態を含む、非常に大きい概念です。男の子で尿道口の位置が違う尿道下裂、あるいは膣や子宮がなかったことがわかる女性なども含みます。

 「女性だったら絶対に膣や子宮があるはずだ」、とか、「男性だったら尿道口がこの位置にあるはずだ」という固定観念とは異なる体の状態を持っている人たち。これがDSDの定義です。自分たちは男性、あるいは女性という考えは一般の方と変わりません。

 トランスジェンダーの人や、あるいは自分を男でも女でもないと思う人たち、海外では「ノン・バイナリー」という風に言われていますが、日本では「Xジェンダー」といいます。そういう風な概念とは、全く違います。

ー医療機関で、もし外見でもなく、染色体でもなければ、どのようにして性の決定を行っているのでしょうか。

 遺伝子診断によって様々なことが分かるようになってきています。

 例えば、男性か女性かの基準を考えるときに、外性器とか染色体だとか、あるいは精巣か卵巣かのどっちかなんだという風に、ある一つの基準にこだわりがちですよね。ただ、そういう風にただ一つの基準だけで判断すると、性別判断が間違ってしまうことがあります。

 総合的に判断することが必要なんです。遺伝子までを含めて、染色体はこうだけれど、外性器の形状はこうで、性腺はこうで、子宮はこうで、遺伝子はこうで、と、その子自身を全体的に見て性別判定がされています。

 総合的に見ると実は性別判定は可能ですけれども、染色体とか、性腺の種類にみんなこだわってしまう。強迫的になってしまうのです。むしろ、そういうことをしないということが、重要と考えています。実は、セメンヤさんの話でも、結局同じ間違いが繰り返されています。

DSDを持つ人=「第3の性別」というフレームワークが間違っている

ー正しい概念で書かれた報道は皆無、といっていいのでしょうか。

 これまで皆無と言ってもいいかもしれないです。

ー間違った論調の1つは、「第3の性として見る」、ということでしょうか。

 そうです。メディアがDSDの人を「第3の性別」、と見てしまうのです。考え方のフレームワーク自体も第3の性別で見てしまっていますので、変な表現になることが非常に多いのです。

 国家レベルでもそういう風に見て間違っているところが実際にはあります。

ー英語圏では、ジェンダーの面からセメンヤ問題がすごく大きく扱われていました。

 LGBTムーブメントが広がっていくというのは、非常に大切なことなのですが、LGBTの皆さんのフレームワークでDSDを見てしまうと、「第3の性別というフレームワーク」で見るという、今みたいな報道のされ方が一般的になっていくという懸念があります。

ーネクスDSDジャパンがセメンヤ選手を支援するのは、なぜでしょうか。

 セメンヤさんは、(国際陸連に)同意なく無理に検査をされたり、あるいは「お前は実は男性だった」という説明になったり。あるいは社会の誤解で、「両性具有なのだ」という見方をされてしまったり。彼女は一時、自殺予防センターに入っていたという話もありますね。

 そういう体験自体が、DSDを持っている人たちの体験と非常に近いのです。多くのところで重なっていると。人ごととは思えません。

 彼女自身の話をちゃんと丁寧にやっていくことで、DSDを持っている人たちの体験が伝わるとも思っているのです。

 実は彼女のような体験をした人たちというのは、日本でもいます。

ースポーツの領域でしょうか。

 スポーツにおいてもそうです。名前と具体的な体験についてはお話ができませんが、セメンヤ選手がいかに扱われたかを見て、諦めてしまっている人がいます。怖くなって、自分から身を引いている女性が、実際にいるんです。

 また、本当に個人のプライベートな話であるにもかかわらず、ほぼ暴露という形で議論が行われていますよね。そういう話をしてもいいものなのだということを、皆さんが前提としています。他人の家の娘さんの生殖器の話をみんながやってしまっている、と。

 今の社会状況の中では、これが当たり前のように思っても仕方ないのだろうとは思いますが、当事者家族の実際の体験としては、とても考えられないようなことをしてしまっています。

 そういう報道をされること自体が、すごく辛いのです。

日本人女性初のオリンピックメダリスト、人見絹枝さん

ーセメンヤ選手とその周囲にとって、何が最善なのでしょう。このまま、女性であるということで進んで、他の女性選手の意識を変える方向でいく、ということでいいのでしょうか。

 こちらの希望としては、やはり、無理矢理な性別検査のようなことは無しにしていただきたいと思っています。

 セメンヤさんや、思春期前後に判明するDSDを持っている女性というのは、本当にただの女性です。誰とも変わらない女性なので、暴き立てることを一切せずに、女性競技にそのまま参加させてもらいたいというのが、こちらの願いです。

ーセメンヤ問題をきっかけに、男性選手の中に競技に有利になるような身体的特徴を持った人についてはどうなのか、という声が英メディアで紹介されています。セメンヤ選手が有色人種であることも影響しているのではないか、と。つまり、女性や白人の男性じゃない人々に対する厳しい視線や偏見があるのではないか、という主張です。

 こちらの印象としては、昔よりも、状況が強迫的になっている感じもします。

 NHKの「いだてん」というドラマで、人見絹枝さんという日本初の女性オリンピックメダリストが取り上げられました。

 ▽人見絹枝さん(1907-1931年

 調べてみると、彼女も「女じゃない」とか、「化け物」とか、「おとこおんな」とか、結構あの時代から言われていました。女性だけが、速く走ると、なぜか「女じゃない」と言われてしまうのです。でも無理やり検査をしろという話にまでならなかった。とてもおおらかだったと思います。今はとても強迫的になっている。

言葉にできない苦しみ 親友にも話しにくい

ー気になるのは、患者、あるいはDSDを持つ人や家族の気落ちや苦しみです。自分の家族が「高次脳機能障害」(主に脳の損傷によって起こされる様々な神経心理学的障害)を持っているのですが、当人や家族の苦しみについてやその状況は、ほかの人には説明できません。言語化できないのです――書くことを仕事にしているのですが。この体験から、DSDの方が家族間あるいは友人間で話しにくいというのは理解できるように思います。

 ▽高次脳機能障害とは

 親子間でも、友達でもそうですが、好きになった人でも、本当に説明のしようがなかったりしますね。返ってくる反応がひどい場合もあったりするので。

ーもし友人からDSDだと言われた時、どういう言葉をかけたらいいのか分からないのではないでしょうか。

 その傷自体をフォローしてくれる人もなかなか見つかりません。

 私自身は、臨床心理士(サイコセラピスト)ですが、サイコセラピストの中でも誤解があって、DSDというと、性同一性の問題だ、という感じになる場合もあります。逆にそれで傷を深めてしまうDSDの方が多かったりするのです。

 ベルギーでは、心理士がかなりきちんとした調査を行っていて、生きていく上での苦悩、親の困りごとなどをフォローする体制作りに話が進んでいます。

ー本当に患者のことを考えてくれる心理士の方や、友達の存在が重要になってくるように思っています。でも、「友達を作る」ことが、いかに難しいことか。休みの日に、「一緒に遊びに行こう」と気軽に声をかけてくれる、家族以外の人を見つけることがいかに難しいかを実感しています。

 高次脳機能障害でも、DSDでも、友達関係に随分と支えられたという話がありますけれども、友達と話すまでのハードルと、友達が理解してくれるかどうかのハードルがあまりにも高いのです。

 友達になっても、向こうが家庭を持って、子供ができたりすると、深い関係じゃないと、身を引いてしまう当事者の人も結構多いのです。

ー大人になると、DSDの方に対して子供を産むようにという圧力も大きいのでしょうか。

 一般の不妊治療の場合は、まだ子供が産めるかもしれないという希望がありますよね。

 でも、DSDの女性の方で、子宮がない方もいらっしゃいます。かなり決定的な不妊の状態になりますので、ものすごい喪失感がまずあります。社会的なプレッシャーもありますし。「産まなくていいよ」と言われるというのも、実は結構、しんどいプレッシャーになったり。かなり複雑なところがあります。

セメンヤ問題についての理解

ー最後に、セメンヤ問題について改めてお話ししたいことがあれば、どうぞ。

 セメンヤさんの染色体や性腺の話が暴露記事として広がったという部分もあるので、セメンヤさん個人の話としてすることはできないのですが、染色体がXYでも、女性に生まれるということが、実は普通にあります。

 その女の子が間違って生まれてきたわけではなくて、間違っているのは、どちらかというと教科書の方ではないか、と思います。ほとんどの男性は(染色体が)XYではあるけれども、またほとんどの女性はXXではあるけれども、例外があって、XYでも女性で生まれることがあるのです。

 女性選手の公平性の問題は、私自身も、スポーツのことを調べる中で、彼女たちがものすごい苦労をしながらトレーニングしていることを知っています。

 でも、ご理解をいただければありがたいという1点目が、DSDを持っていると疑わしい女性に対する検査というのは、ほぼ、レイプのような検査になっている点です。言葉ではなかなか言えないようなもので、ドーピングの検査どころの話ではありません。そういう検査をされて、しかも選手生命を絶たれるというのであれば、もう自殺するしかない、というのが当然だろうというレベルです。

 医療機関でのDSDの検査は、何のための検査なのかをちゃんと説明した後で行われます。本人の同意がないところで、膣の奥まで見られるような検査はありえません。

 もう1点は、テストステロン値のスポーツ面での評価の件です。

 DSDを持っていて、なぜXYでも女性で生まれてくるかというと、実は、体の細胞自体が、テストステロンに反応しない体の状態だからです。

 どれだけテストステロン値が高くても、体の細胞がそれを受け付けないので、女の子で生まれてきます。このため、テストステロン値の高さ自体は、ほとんど基準にならないのです。

 

 その中で、細胞の一部だけがテストステロンに思春期以降に反応するという女の子がいます。

 でも、それでも、一部しか反応していないのです。一般女性がテストステロンをドーピングするのとは、まったく訳が違う話です。一般女性のドーピングの方が、よほどテストステロン値の影響がある。でも、DSD女性の場合は、テストステロンがどれだけ出ていても、全く反応しないという女性が実は一番多い。

 数字でいうと、XY女子で、テストステロン値が高くてもまったく体が反応しないCAISの女の子が13,000人に1人。一部反応するPAISの女の子がその10分の1の、130,000人に1人。テストステロン値だけで測ることは、実は、できないのです。

 ▽完全型アンドロゲン不応症(CAIS)

 ▽部分型アンドロゲン不応症(PAIS)

 ▽英国DSDの子ども用サイト「dsdteens」での説明

 CAISについて

 PAISについて

 また、男性のテストステロン値は1デシリットルで284から799ナノグラム、女性は6から82ナノグラムです。報道によると、セメンヤ選手のテストステロン値は平均女性の3倍と言われています。とすると、約18から246。男性と比較するとはるかに低いことになります。

 ▽女性・男性のテストステロンの標準値

 テストステロン値による判断は、実は、ちゃんとエビデンスを見ていくと、ほぼ意味がないのではないかと思っています。この点をご理解いただければと思っています。

 (筆者注:国際陸連自体による調査とその評価については、先のReal Sports の記事をご参考に。)

***

関連情報

「インターセックス/性分化疾患 IN ベルギー・フランドル」(ゲント大学ジェンダーセンター)

DSD:性分化疾患とは?(英国のサポートグループ「dsdfamilies」)

英国のDSDを持つ子どものためのサイト「dsdteens」

記事に関する報告

陸上新規則で壁にぶつかる南アのセメンヤ選手 「体の性の様々な発達状態」(DSD:性分化疾患)とは?



小林恭子



ジャーナリスト

2019/8/19(月) 0:11


セメンヤ問題をきっかけに深めるべき理解

セメンヤの参加資格問題は、男性に多いホルモンの一種テストステロン値を物差しとして競技上の男女を分けていいのかどうかという疑問を引き起こすとともに、一体、どこからどこまでが男性(あるいは女性)なのかといった、性の区別やジェンダーに関わる広い問題をも提起した。

特に、近年はLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)運動の高まりもあって、セメンヤを「従来の男性、女性かの二元論では捉えられない、第3の性」、「両方の性を持つ人」などと捉える風潮が出た。

筆者もそのように捉えてきた一人で、この文脈で、本サイトに以下の記事を寄稿した(6月25日付)。

セメンヤは“公平”のために薬で男性ホルモンを下げるべき? 「私たちを薬漬けにはできない」

しかし、 「DSD(性分化疾患)」に詳しい非営利の情報サイト「ネクスDSDジャパン」(日本性分化疾患患者家族会連絡会)の運営者ヨ・ヘイルさんから連絡をいただき、「第3の性」というジェンダー意識を下敷きにしたDSDの人に対する見方が正確ではないことがわかったため、編集部と相談の上、一部該当箇所を削除した。

では、どのように捉えるべきなのか。ヨさんに伺った話とDSDのウェブサイト上の情報から、状況をまとめてみたい。

「DSD」とは?

まず、「DSD」とはどういう状態を指すのか。

DSDとは英語で「Differences of sex development=DSDs」(胎児期からの、先天的な体の性のさまざまな発達状態)を指す(正式には複数形となるが、以下、「DSD」として表記)。

重要な点は、「男でも女でもない性別」や「もう1つの性・第3の性別」のことではない、ということだ。

そして、その状態はさまざまだ。「染色体や性腺(精巣や卵巣)、内性器(子宮・卵管・膣や、精管、そして尿道)、外性器(陰茎や陰核、陰嚢や陰唇)、性ホルモン(一般的には男性に多いアンドロゲンや女性に多いエストロゲン)など、性に関わる発達の一部が、他の人とは生まれつき少し違った発達をした状態にある」(「教える前に知っておきたい DSD性分化疾患の基礎知識」、ウェブサイトより)。

つまり、体が「男でも女でもない」、「中間の」状態なのではなく、「女性にもさまざまな体の人がいる、男性にもさまざまな体の人々がいる」という意味になる(同資料)。

実際にDSDを持つ人は、ほとんどの場合、自分が生まれた性として認識しているという。男性として生まれたら男性、女性として生まれたら女性である、と。ここが、生まれの性別と相入れない自認を持つトランスジェンダーの人々との大きな違いだ。DSDは性自認の問題ではない。

男性として(あるいは女性として)自己認識して生きているので、DSDではない人同様に、異性を愛することもあれば、同性を愛することもある。DSDであることと、性的指向(どの性別の人を好きになるか)も別になる。

ちなみに、セメンヤは、「女性として生まれ、自分を女性として認識して生きてきた」、と繰り返して述べている。

ヨさんによれば、自分があるいは子どもがDSDであることがわかる時期は、大きくは3つに分けられる。

最初は出生時だ。2番目が思春期で体が成人になってゆく時。3番目が不妊治療時に染色体を調べる時だという。

ヨさんは、いずれの場合も児童や両親の精神的なケアを含めてチーム医療ができる専門の医療機関をお勧めする。

「男性か、女性かの基準を考える時、外性器とか染色体とか、あるいは精巣か卵巣か、どっちなんだというふうに、ある一つの基準にこだわりすぎる傾向がある。DSDの場合、ただ一つの基準だけで判断すると、多くの場合性別判断は間違ってしまう」

20年ほど前から、欧州では患者や家族を支援する会が結成されてきたが、日本では5年ほど前からで、まだ歴史が浅いという。

「家族の中でさえ、話しにくい」状況がある。

セメンヤに身近な人の姿を重ねる

ネクスDSDジャパンは、セメンヤが今後も、女性の陸上選手として競技に参加し続けるよう、応援している。

「女性選手が不公平感を抱く気持ちは理解できる」が、「本人の同意がないまま」で、「膣の奥まで見られるような、性別検査」には同意できないという。

また、テストステロン値による判断にも異を挟む。

ネクスDSDジャパンの調べによると、男性のテストステロン値は1デシリットルで284から799ナノグラム。女性は6から82ナノグラム。「報道によると、セメンヤ選手のテストステロン値は平均女性の3倍。とすると、約18から246。男性と比較するとはるかに低い」。

また、国際陸連自体が2017年に「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディシン」に発表した調査によると、400m、400mハードル、800m、ハンマー投などで高テストステロン値の女性選手は低テストステロン値の女性選手よりも好結果を出したという。その差は最初の3つの競技では1.8%から2.8%の間となり、ハンマー投げで4.5%だった。英フィナンシャル・タイムズ紙、5月2日付によると、男女別では約10%の差が出ると推測され、テストステロン値以外の何かが男女の差になった可能性がある。「スポーツの結果とテストステロン値を簡単に関連づけられない」。

また、「国際陸連の新規制はそれほど差のない女子400mから、全く差のないマイル走(1600m)に限定されている」と指摘する。

ヨさんは、「高テストステロン女性の中でもその大多数が、実は体の細胞が全く、あるいは一部しかテストステロンに反応しないため、テストステロン値だけを見ても意味がない」という。

ネクスDSDジャパンがセメンヤを応援するのは、その体験が日本のDSDの人々に何らかのヒントを与えることも願うからだ。DSDの人から見ると、セメンヤの体験は「ひとごととは思えない」。

国際陸連の扱いに、セメンヤ自身は「人を破壊してしまうほどの衝撃を感じた」と述べている。「精神的にも、肉体的に破壊される感じだ。自分が歓迎されていないと、と感じた」。

例えて言えば、「まるで十字架にはりつけにされているようなものだ。でも、今でも生きている。今でも立っている」、「勝つまで、戦い続ける」。

セメンヤ選手の動画(BBC)
ネクスDSDジャパンのウェブサイト

<了>

セメンヤは“公平”のために薬で男性ホルモンを下げるべき?「私たちを薬漬けにはできない」

LGBTとも第3の性とも違う「性分化疾患」の誤解 セメンヤが人為的に男性ホルモンを下げるのは正当?

Opinion

2019.07.25




2018年6月、セメンヤと南アフリカ陸連は、規定の無効を求めて、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に訴えた。

今年5月1日、CASは、国際陸連の新規定を容認し、セメンヤらの訴えを棄却した。

しかし、セメンヤがスイス連邦最高裁判所に上訴し、6月3日、スイス最高裁は当面の間、男性ホルモンのテストステロン値を人為的に下げなくても競技に参加できることを認める仮決定を下した。国際陸連はあきらめず、最高裁に対しその判断を覆すよう求めたが、13日、最高裁はこの訴えを却下した。

セメンヤは、「国際陸連の新規定に女性たちは屈服させられるべきではない。すべての女性が自由に走ることができるまで、自分が800mの競技には参加しない選択肢を随分と考えてみた。でも、今は、国際陸連に対し、私たちを薬漬けにはできないこと示すために走りたい」と述べている。

<了>

セメンヤは“公平”のために薬で男性ホルモンを下げるべき?「私たちを薬漬けにはできない」

Opinion

2019.06.25






物事が覚えられない、難しいことが考えられない。 そんな障害がありながら、子育てに奮闘する一人の母親が闘病記を出版する。本に込めた母の思いとは。 【写真で見る】「物事が覚えられない」不安の中で生きる母 26歳で脳出血…後遺症を抱え2人の子供を育てる

■脳出血の後遺症を抱えながら子育て

記憶の障害であったりとか、失語とか、長文を理解できなかったりとか。 自らの障害についてこう話すのは、北島麻衣子さん(39歳)。 一見すると分かりにくいが、視界の右半分が見えない上、「高次脳機能障害」がある。 北島さんは26歳の時に突然、脳出血を起こした。一命は取りとめたものの、後遺症として「高次脳機能障害」が残った。 “見えない障害”ともいわれる、高次脳機能障害。 彼女の場合、症状は新しいことを覚えづらい、難しいことが考えられない…。また、段取りを立てることも苦手だ。 北島麻衣子さん:順番が分からなくなるんですよ。何から準備をしたらいいかっていうのが分からなくなるんで。(料理するために)まず材料を用意するじゃないですか。今日はカレーを作る。メニューが決まりました。これから切る、次はこれ切る、次はこれ切るっていう風に、順序を確認してから、最初は紙に書く。どういう順番でやるか、っていうのをやっていました。 また、物の形をうまく認識することもできない。 北島麻衣子さん:包丁って置いてあったら普通にここ(持ち手)を持つじゃないですか。だけど持ち方が分からなくて、最初この刃の部分を持とうとしたり。 今でこそリハビリで改善はされているものの、まだ簡単な料理を作るのにも時間がかかってしまう。 北島さんが脳出血を起こした時は、長女が小学生になる前で、さらに長男を妊娠しているという状況だった。 障害と戦いながらの子育て。さらには、見えない障害だけに周囲に理解されにくく、苦しんできた。

■同じ障害に苦しむ人の支えに…“闘病記”の出版

今年2月のある日、大阪を訪れた北島さん。 障害の影響でうまく道を覚えることができないため、大阪で専門学校に通う長女の菜々美さん(19歳)が付き添っていた。 長女 菜々美さん:1人は不安そうだったので私が送りに来ました。 目的地は「闘病記の森」。1200冊以上の闘病記だけを集めた図書館で、本を集めるだけでなく、出版の手伝いもしている。 北島さんも「闘病記」を出版しようとしているのだ。 北島麻衣子さん:娘が小学1年生になったので、ほぼほぼ私、娘と同じくらいの言語レベルだったんですよね、最初。子どもが持って帰ってくるドリルを一緒に解いたり、していることが娘と同じ感じでした。 泣きながら(計算ドリルを)一緒にしていたというのを…そういう壮絶なところもあったし、家族がこういう風にかかわってくれてというのがあるから、今の私があるというのも伝えたいなとも思ってる。 同じ障害に苦しむ人の支えになれば…。自らの経験を本に込めようとしている北島さん。 そんな母親について、長女の菜々美さんは…。 長女 菜々美さん:行動力がすごくて、いろんなところに電話をかけて、『この制度ありますか?』みたいな。家でも勉強とかしていて、がんばっているところを見てきたから、本を出すって言った時はびっくりしたけど、応援したいです。 北島さんは持ち前の行動力を生かして、3年前に「かけはしプロジェクト」という会社を設立。 同じ障害があるお母さんの居場所づくりのため、月に一度、オンラインサークルを開いている。 この日は、子育てを始めたばかりの、0歳児のお母さんが初めてサークルに参加した。 0歳児の母:落ち込んだ時、『あっ、できない』とか、今までできていたことができないみたいなことが…発症したばかりなので、落ち込むことが結構あって、どうやって切り替えているのかなっていうのは聞きたい。 北島麻衣子さん:泣けるだけ泣きました。泣きたい時に、つらい時は泣く。落ちるだけ落ちて。私たちってどん底を経験しているじゃないですか。そこからは上がっていくだけなんで、そういうときは落ちるだけ落ちて、泣きたい時は泣く。ここだったら同じ経験をした先輩ママとか、今まさに同じ年齢の子どもを育てているママと、『あー、分かる分かる』とか、『そういう時はどうしてる?』とか気軽に聞けるじゃないですか。そういう場って絶対必要なんで。というか、私がほしかったので、当時。
■「不安は常にあった」当時を振り返る

6月、再び北島さんは徳島から、「闘病記の森」がある大阪に訪れた。 今回は長男の司くん(12歳)がついてきてくれた。 北島麻衣子さん:心強いです。全然違います。一人で来るのは不安なんで。 今回はより具体的に、実際にどんな時に北島さんが障害で苦しんだのか、当時の出来事を振り返っていく。 北島麻衣子さん:こっちが(トイレの)タンク側やとするじゃないですか。便座ってこう座るじゃないですか。こうじゃなくて、後から見たら、私こっち向きで座ってたんですよ、便座に。横向きに(座って)用を足してたんですよ。 北島麻衣子さん:どんどん今の自分の置かれている現状を知ってきた。道には迷う、一人でどこも行けない、お風呂も一人で入りに行かせてくれない。こんな体で私、今から生まれて来る子どもを育てられるんだろうかとか、家に帰っても娘の子育てできるんだろうかとか、不安は常にあったんです。 そんな話をしている中で、司くんにこう語りかけた。 北島麻衣子さん:あなたがおなかにおる時やからね、知らんと思う。 司くんにとっては、初めて聞くことばかりだったのだ。 Q.お母さんの話を聞いてどう思った? 長男 司くん:(自分が)障害も持ってないし、産んでくれてありがとうって。 北島さんは、闘病記を単なる記録にはしたくないと思っている。 北島麻衣子さん:『闘病記が医療資源になる』って言葉が、心にすとんって入ってきて。支援者の方が見ても、医療関係の方が見ても役に立つ。同じ仲間には背中を押せる本になってほしいし、ご家族の方の力にもなる本になってくれたら一番うれしい。 (関西テレビ「newsランナー」 2024年6月25日放送

26歳で突然『高次脳機能障害』に 包丁の刃を持とうとしたりトイレに逆向きに座ったり…障害の中で2人の子育て 同じ苦しみ持つ人の支えに「闘病記」出版

6/30(日) 7:32配信



物事が覚えられない、難しいことが考えられない。 そんな障害がありながら、子育てに奮闘する一人の母親が闘病記を出版します。 ■【動画で見る】「物事が覚えられない、一人でどこにも行けない」不安の中で生きる母 26歳で脳出血…後遺症「高次脳機能障害」を抱えて育児 苦悩を闘病記に 本に込めた母の思いとは。

■脳出血の後遺症を抱えながら子育て

関西テレビ

「記憶の障害であったりとか、失語とか、長文を理解できなかったりとか」 自らの障害についてこう話すのは、北島麻衣子さん(39歳)。 一見すると分かりにくいですが、視界の右半分が見えない上、「高次脳機能障害」があります。 北島さんは、26歳の時に突然、脳出血を起こしました。 一命は取りとめたものの、後遺症として「高次脳機能障害」が残りました。 “見えない障害”ともいわれる、高次脳機能障害。 彼女の場合、症状は新しいことを覚えづらい、難しいことが考えられない…。また、段取りを立てることも苦手です。

関西テレビ

【北島麻衣子さん】「順番が分からなくなるんですよ。何から準備をしたらいいかっていうのが分からなくなるんで。(料理するために)まず材料を用意するじゃないですか。今日はカレーを作る。メニューが決まりました。これから切る、次はこれ切る、次はこれ切るっていう風に、順序を確認してから、最初は紙に書く。どういう順番でやるか、っていうのをやっていました」 また、物の形をうまく認識することもできません。 【北島麻衣子さん】「包丁って置いてあったら普通にここ(持ち手)を持つじゃないですか。だけど持ち方が分からなくて、最初この刃の部分を持とうとしたり」 今でこそリハビリで改善はされているものの、まだ簡単な料理を作るのにも時間がかかります。 北島さんが脳出血を起こした時は、長女が小学生になる前で、さらに長男を妊娠しているという状況でした。 障害と戦いながらの子育て。さらには、見えない障害だけに周囲に理解されにくく、苦しんできました。

■同じ障害に苦しむ人の支えに…“闘病記”の出版

関西テレビ

今年2月のある日、大阪を訪れた北島さん。 障害の影響でうまく道を覚えることができないため、大阪で専門学校に通う長女の菜々美さん(19歳)が付き添っていました。 【長女 菜々美さん】「1人は不安そうだったので私が送りに来ました」 目的地は「闘病記の森」。1200冊以上の闘病記だけを集めた図書館で、本を集めるだけでなく、出版のお手伝いもしています。 北島さんも「闘病記」を出版しようとしているのです。 【北島麻衣子さん】「娘が小学1年生になったので、ほぼほぼ私、娘と同じくらいの言語レベルだったんですよね、最初。子どもが持って帰ってくるドリルを一緒に解いたり、していることが娘と同じ感じでした」 「泣きながら(計算ドリルを)一緒にしていたというのを…そういう壮絶なところもあったし、家族がこういう風にかかわってくれてというのがあるから、今の私があるというのも伝えたいなとも思ってる」 同じ障害に苦しむ人の支えになれば…。自らの経験を本に込めようとしている北島さん。 そんな母親について、長女の菜々美さんは…。 【長女 菜々美さん】「行動力がすごくて、いろんなところに電話をかけて、『この制度ありますか?』みたいな。家でも勉強とかしていて、がんばっているところを見てきたから、本を出すって言った時はびっくりしたけど、応援したいです」
北島さんは持ち前の行動力を生かして、3年前に「かけはしプロジェクト」という会社を設立。 同じ障害があるお母さんの居場所づくりのため、月に一度、オンラインサークルを開いています。 この日は、子育てを始めたばかりの、0歳児のお母さんが初めてサークルに参加しました。 【0歳児の母】「落ち込んだ時、『あっ、できない』とか、今までできていたことができないみたいなことが…発症したばかりなので、落ち込むことが結構あって、どうやって切り替えているのかなっていうのは聞きたい」 【北島麻衣子さん】「泣けるだけ泣きました。泣きたい時に、つらい時は泣く。落ちるだけ落ちて。私たちってどん底を経験しているじゃないですか。そこからは上がっていくだけなんで、そういうときは落ちるだけ落ちて、泣きたい時は泣く」 「ここだったら同じ経験をした先輩ママとか、今まさに同じ年齢の子どもを育てているママと、『あー、分かる分かる』とか、『そういう時はどうしてる?』とか気軽に聞けるじゃないですか。そういう場って絶対必要なんで。というか、私がほしかったので、当時」

■「不安は常にあった」当時を振り返る

関西テレビ

6月、再び北島さんは徳島から、「闘病記の森」がある大阪に来ました。 長男の司くん(12歳)がついてきてくれました。 【北島麻衣子さん】「心強いです。全然違います。一人で来るのは不安なんで」 今回はより具体的に、実際にどんな時に北島さんが障害で苦しんだのか、当時の出来事を振り返っていきます。 【北島麻衣子さん】「こっちが(トイレの)タンク側やとするじゃないですか。便座ってこう座るじゃないですか。こうじゃなくて、後から見たら、私こっち向きで座ってたんですよ、便座に。横向きに(座って)用を足してたんですよ」

関西テレビ

【北島麻衣子さん】「どんどん今の自分の置かれている現状を知ってきた。道には迷う、一人でどこも行けない、お風呂も一人で入りに行かせてくれない。こんな体で私、今から生まれて来る子どもを育てられるんだろうかとか、家に帰っても娘の子育てできるんだろうかとか、不安は常にあったんです」 そんな話をしている中で、司くんにこう語りかけました。 【北島麻衣子さん】「あなたがおなかにおる時やからね、知らんと思う」 司くんにとっては、初めて聞くことばかりだったのです。 Q.お母さんの話を聞いてどう思った? 【長男 司くん】「(自分が)障害も持ってないし、産んでくれてありがとうって」 北島さんは、闘病記を単なる記録にはしたくないと思っています。 【北島麻衣子さん】「『闘病記が医療資源になる』って言葉が、心にすとんって入ってきて。支援者の方が見ても、医療関係の方が見ても役に立つ。同じ仲間には背中を押せる本になってほしいし、ご家族の方の力にもなる本になってくれたら一番うれしい」 (関西テレビ「newsランナー」 2024年6月25日放送)

26歳で脳出血 後遺症『高次脳機能障害』を抱えて育児 同じ障害に苦しむ人の支えに「闘病記」出版を決意「仲間や家族の力にもなる本に」

6/30(日) 7:30配信


「若年性認知症」とは、65歳未満で発症する認知症の総称です。記憶障害だけでなく、性格もだんだん別人のように変わってしまい、症状が進めば家族のことさえ忘れてしまうのだとか。もし、あなたの大切な人が病気によって変わってしまったら…。あなたはどう向き合いますか? 【漫画を読む】『夫が私を忘れる日まで』を最初から読む 読む人にそんな問いを投げかけているのが、吉田いらこさん作の『夫が私を忘れる日まで』。ご自身も、お父様が脳の病気によって記憶力に障害が残り、性格も変わってしまったという経験をされている吉田さん。誰にでも起こりうることであることを、身をもって知っています。今回は吉田さんに、「若年性認知症」の家族との向き合い方についてお聞きしました。 ■45歳で、若年性認知症と診断された夫 45歳の夫・翔太、小学5年生の息子・陽翔と、なんてことのない「普通」の日常を送っていた主人公の彩。ある時から、穏やかで几帳面な性格の翔太が忘れっぽくなってしまったことを感じつつも、疲れのせいだ、気のせいだと、気にも掛けませんでした。 ところがある日、翔太と陽太の2人で映画を観に出かけたところ、なんと翔太は陽翔を置いて1人で家に帰ってきてしまいます。その出来事をきっかけに病院へ…。 そこで医師から伝えられたのは、「若年性認知症」という残酷な診断…。治療法は確立されておらず、症状が進むと時間や場所の感覚がなくなり、人の顔さえわからなくなる病だといいます。前向きに頑張ろうとする彩ですが、現実は…? ■「若年性認知症」と「認知症」の違いとは? ――若年性認知症は、高齢者が患う認知症とは、また違った問題・悩みが出てくると思います。もっとも大変なことは何だと思いますか? 吉田いらこさん:まだ現役で働いている方が多いと思うので、やはり経済的な負担が大きいことでしょうか。また心が成長段階の子どもがいる場合、その子が受けるショックは相当なものだと思うので、子どもに対するケアも必要ではないかと感じています。 ――家族が、脳の病気によって記憶障害を負ったという経験をお持ちの吉田さん。作中には、ご自身の体験も描かれていますか? 吉田いらこさん:はい。些細な一言で逆上することや、家を出ていってしまうため自宅に内鍵を取り付けたこと、などです。 逆上については、どの言葉で地雷が発動するのかわからないので最初はビクビクしていました。でも、あまりに回数が多いためそのうち慣れてしまい、怒鳴られても気にならなくなりました。 内鍵を取り付けたのは、父が「家に帰る」と言ってを自宅を出て行ってしまうから。父を閉じ込めている気持ちになりましたし、自宅を認識していないことが家族を否定されているように感じてしまい、悲しかったですね。 ――翔太に対して、「変わっていくあなたが怖い」という気持ちを抱いていた彩。お父様の症状を目の当たりにした当時の吉田さんも、同じような気持ちだったのでしょうか。 吉田いらこさん: 私の父の時は、脳の病気で一晩で人が変わったようになってしまいました。当時の私は受け入れることができず、父親と向き合うことを避けてしまったのです。翔太と彩の場合、少しずつ変わっていく恐怖を、きっと本人だけではなく家族も感じるだろうなと思い、そのように表現しました。 ■大切な人に気持ちを伝える機会になってくれたら… ――彩は夫の病気を通じて、「普通でいい、穏やかにこの生活を続けていくこと」が人生において大切だと気付きますね。吉田さんが、お父様の闘病を通じて気付いたことは? 吉田いらこさん:いい意味で、諦めることが必要だと思います。 父が病気になったことで、もちろん大変なことは多かったですが、決して苦しい思い出だけではありませんでした。子どものように感情豊かになった父と一緒に大笑いしたり、感動する映画を観て泣いたりすることもありました。現状を変えることができないなら、自分が変わるしかありません。簡単なことではありませんが、自分自身が変わることを恐れなければ、きっとどんな現実も受け止めることができ、前に進めるのではないかなと思います。 ――もし今、吉田さんが彩と同じ立場になったら、どう行動されますか? 吉田いらこさん:絶対に、自分一人で頑張ることはしません。ありとあらゆる福祉サービスを調べてプロに頼ります。 ――吉田さんが、本作通して読者に伝えたいこと、感じてほしいことは? 吉田いらこさん:この物語はセミフィクションですが、自分の人生に絶対に起こらないとは言い切れないと思います。もしもの時に後悔しないように、大切な人に今の気持ちを伝えてほしいです。「ありがとう」でも「好きだよ」でも何でもいいので、大切に思っていることを伝える機会になってくれたら嬉しいです。 ――最後に、読者にメッセージをお願いします。 吉田いらこさん:これからも漫画を描いていきますので、見かけたときは読んでいただけると嬉しいです。 *      *      * 吉田さんが自身の壮絶な経験を通して、後悔をしながらも過去を受け入れ、前向きなメッセージを発信している『夫が私を忘れる日まで』。こちらの作品との出会いを機に、大切な人に、大切な思いを伝えることを忘れないようにしたいですね。 取材・文=松田支信

45歳で、夫は認知症になった。だんだん別人になっていく家族と、どう向き合う?『夫が私を忘れる日まで』著者に聞きました

3/9(土) 21:00配信


家族が一過性全健忘に見舞われたエピソードがSNS上で大きな注目を集めている。 「いつどんな事が起きるか分からないので、日々感謝の言葉は掛けておこうと思った」と件のエピソード紹介したのはジョーカルビさん(@bellmaron0408)。 【写真】「いつ落書きしたっけ?」全く記憶にない「おじさん」の絵を発見→横向けたら予想外の真相 ある時、勤務中の奥さんから「パパさん、今仕事?私 記憶が無いんだけど!」と突然の電話が。職場の店長に事情を聞くと、突然周囲と会話がかみ合わなくなり、同じ事を何度も繰り返し質問するなど言動に異常が見られ、脳梗塞の疑いも持たれているようだ。緊急搬送先の病院で家族に囲まれているうちに幸い症状はおさまったそうだが、医師からは奥さんは「一過性全健忘」だったと診断が下ったという。 一過性全健忘とは一時的に新たな記憶を形成できなくなる病気。脳の記憶や学習能力に関わる海馬の機能が一時的に停止することで起こるするとされ、通常24時間以内に回復するが発症中の記憶は失われたままになるケースが多いのだという。 今回の投稿に対し、SNSユーザー達からは 「一過性健忘って頭打ったとか衝撃がかかったからなるのかと思ってました。 奥様も不安でしたよね。検査で何も無くて良かったです。」 「知りませんでした。 記憶が消える仕組みがわかんないから怖い。 本当に一時的なのか否かも最中はわからないし。」 「大変でしたね💦 私も、そこまでではないのですが、講演の後に寄ったドラッグストアで、今どこのドラッグストアにいるのか?なぜ私はここにいるのかわからなくなりましたし、不妊治療の帰り道でも似たような事になり、脳専門の病院で検査を受けましたが、いたって健康な脳でした😉 私の場合、強度のストレスの後の安堵の時になりやすいようです。 ちなみにワクチンは未接種です」 など数々の驚きの声が寄せられている。ジョーカルビさんに話を聞いた。 ーー奥さまのご年齢は? ジョーカルビ:56歳です。 ーー今回の件へのご感想、その後の奥さまのご様子についてお聞かせください。 ジョーカルビ:幸い重い病気では無くホッとしています。今では笑い話として夫婦の会話も弾み、前よりお互いを思いやれる様になったと思います。妻は現在、仕事仲間に記憶の抜けている時間に何をしていたかを聞いて記憶の補完をしているようです。 ーー投稿の反響へのご感想をお聞かせください。 ジョーカルビ:今回沢山の人に投稿を読んでもらいびっくりしています。経験談、アドバイス等色々頂き自分だけでは無いという安心感で一杯です。 ◇ ◇ 今回、ジョーカルビさんの奥さんが大事に至らなかったことは不幸中の幸いだが、一過性全健忘は脳梗塞やてんかんが原因となっている可能性もある。症状が見られた際はぜひ専門の医師の検査を受けるよう心がけていただきたい。 (よろず~ニュース特約・中将タカノリ

「私記憶が無いんだけど」噛み合わない会話…家族が一過性全健忘に見舞われたエピソードが話題に

6/1(土) 11:00配信


ぼんやりと考え事をしているときに、記憶や学習の機能を持つ脳の海馬と呼ばれる部分が活発に活動することが分かったと22日、大阪大などのチームが発表した。海馬の活動は記憶障害など多くの病気に関連していて、大阪大の岩田貴光さん(脳機能学)は「海馬の活動を変化させることができれば、病気の診断や治療への応用が期待できる」としている。  チームは、てんかん治療のため、脳内の海馬に電極を付けている患者10人について、脳波を約10日間にわたって計測。脳波は睡眠時も含めて測り、起きている際には並行して「今考えていたことは、今行っていることに関連しているか」などの17項目のアンケートを1時間に1度実施した。  その結果、患者が現在の行動と関係ないことを考えているときに、海馬で記憶の定着に関与する特徴的な脳波(SWR)が観測されることが分かった。  認知症患者はSWRが減るなど、多くの精神神経疾患はSWRと関連があるとされている。SWRの制御が病気の診断や治療につながることが期待される。

 論文は英科学誌電子版に掲載された。

考え事中の海馬、活発に活動 記憶障害の治療に期待

5/22(水) 18:27配信