少子化に歯止めがかからない原因はどこにあるのか。昨年の民間調査では、18~25歳までのいわゆる「Z世代」の45%が、「将来子供を持ちたくない」という衝撃的なデータも明らかになった。彼らの生の声を聞くと、経済的な理由だけにとどまらない、社会の構造的な問題が浮き上がる。
夏穂、24歳「結婚や子育てと無縁の人生送るだろう」
東京都内の大手商社に務める夏穂(24)=仮名=は、入社2年目の営業職だ。独身で現在は交際相手もいないが、今後も「結婚や子育てと無縁の人生を送るだろう」と考えている。
子供が嫌いというわけでもなく、身体的な問題もない。大学時代には同学年の男性と交際した経験もある。今の職場は、出産や子育てに関する制度が「恵まれすぎるほど」充実しており、一度職場を離れてもキャリアは遅れない。
それでも、なぜ結婚や子供と無縁だと考えるのか。
夏穂は子供を持つ前提として結婚があると考えるが、今は「長く特定の人と一緒に暮らすことが考えられない」という。大学時代の交際相手からは「2~3年後には結婚だね」と強く言われたことが響いたのか、就職後に自然消滅した。
仕事はやりがいを感じるほど充実している。休日は1人で街歩きをすることも多く、プライベートでも、今は満足した日々を送る。隣県に住む両親も結婚を急かさない。
「自分と同じ教育環境用意できないのでは」
夏穂が子供を考えないもう1つの理由が、教育費への懸念だ。「自分が大学を卒業するまでの間、両親が与えてくれたものと同じだけの教育環境を、わが子に用意できる自信がない」と不安を感じるという。
夏穂は大学時代、子育てにいくらかかるのか、平均的な教育費のデータなどを参考にシミュレーションをしたことがある。出生から大学を卒業するまですべて公立学校に通っても1千万円以上、私立なら2千万円以上はかかりそうだと判断した。これに自らの収入の将来見通しを重ね合わせると、子供を育てられる確信を持てないというのだ。
ただ、夏穂は子育てする未来を完全に閉じてはいない。仮に将来子供を持つならば、30歳くらいでパートナーを探し、35歳までには出産か‥という人生設計もおぼろげに考える。ただ充実した毎日を送るだけに、今は「30歳になったときに改めて考えればいい」と思う程度だ。
夏穂の同世代では、似たような考えが増えている。インターネット情報提供会社「ビッグローブ」(東京)の昨年2月の調査では、18歳から25歳までのいわゆる「Z世代」で未婚で子供もいない人のうち、「将来結婚したくないし子供もほしくない」と考える人が36・1%に達した。「将来結婚したいが子供はほしくない」との答えも9・4%あり、合計45・5%が子供を持たない将来を描く。
やりがいのある仕事環境と充実したプライベート、教育費への漠然とした不安があいまって、夏穂は子供を持つという考えから離れている。「今はまったく淋しさを感じない」と笑顔で語る姿には、少しの焦りも感じられない。
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岸田文雄首相は昨年、「若者人口が急激に減る2030年代に入るまでが、少子化トレンドを反転させるラストチャンス」と訴え、約3兆6千億円の財源をかけた新たな少子化対策「こども未来戦略」を策定した。対策には児童手当の拡充など金銭的な支援強化が目立つが、真の処方箋になるのか。少子化のリアルな背景を連載で探る。(水内茂幸)
=随時掲載します。