スウェーデンに留学した経験から「日本の女性の性や健康に対する意識も知識も実態もあまりに低すぎる」ことに驚愕、「#なんでないの」というプロジェクトを始めた福田和子さん。
2019年3月に国際基督教大学を卒業し、9月からは留学を控える身だ。20代前半の当事者が「私たちはこのことを知らない」「世界であるこのようなことは必要ではないか」と語る言葉は説得力があり、現在は講演会にも多く呼ばれている。
そんな中、国際協力NGOジョイセフのI LADYキャンペーンを担うひとりとして、福田さんは世界各国の代表が集う世界会議に日本代表として参加。しかしそこで見聞きしたことは、あまりに衝撃的だったという。
児童婚に女性性器切除。
「教科書の中の話」が現実に
「私は生理がはじまった時、部屋から出してもらえなかった。家族も男性とは話してはダメ、家族と一緒に食事もとれない、台所にも入れない。勿論学校にも行けない。だから私の住む地域では女の子だけ、毎月5日ほど学校を休むしかない」
「私は5歳のとき、何も知らないまま女性性器切除を受けました」
「学校の友達がどんどん児童婚でいなくなって。ひどい暴力を受けたり、出産に耐えられず死んだ友達もいます」
「政府が腐敗して、ジャーナリストを続けるのが難しいから今は家族と離れて隣国で暮らしているんです」
これまで、教科書や文献で読んできた、世界にはびこる様々な問題。今回、私は初めて、その中を生き延びながらも、その現実を、未来を変えようと行動する人たちに出会った。バンクーバーで開催された、「ジェンダー平等」や「性と生殖に関する健康と権利(以下、SRHR/セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ:Sexual and Reproductive Health and Rights)」に関する世界最大級の国際カンファレンス、「Women Deliver2019」でのことだ。
Women Deliverとは、2007年に2000人の参加者から始まり、今や165カ国からの8000人を超える参加者に加え、2000人がウェイティングリスト入り、10万人がweb参加というジェンダー分野では世界最大級のカンフェレンスだ。今回私は、そのWomen Deliver2019に、国際NGO JOICFPが展開するI LADYキャンペーンのアクティビストとしてはじめて参加してきた。そこで出会った多くのアクティビストたちの実体験からうまれる言葉や思いの強さには心から感銘を受けた。
Women Deliver 2019 Conference会場にて
スウェーデンに留学後、「日本はジェンダーや性に関して大変遅れている」と感じ、日本のアクティビストとして活動してきた私。確かに女性の権利や性についての議論は日本はかなり遅れている。とはいえ経済的には豊かとされる日本から来た人間が、世界会議で「私たちも大変なんです」なんて声を上げていいのか、はじめ、私は戸惑っていた。
しかし、会議を終え帰国した今、私は声を大にして言える、「日本は本当にヤバい、実態を世界に伝えるべきだ」と。
日本のなにが「ヤバい」のか?
そもそも、SRHRに関して、日本の一体どこが遅れているのか。それは、性教育、避妊法へのアクセス、安全な中絶へのアクセスなど、あげればきりがない。
例えば性教育に関して、近年は様々な国連機関が一緒になって性教育の国際的ガイダンスを発表している。そこではからだや生殖のことのみならず、関係性の構築やジェンダーの多様性など、包括的な内容を扱い、年齢も5歳からはじまる。
一方日本では、2018年4月に、「避妊」「性交」「人工妊娠中絶」といった言葉に触れた学校の教員が、東京都議会にて名指しで批判されるような事態が起こっている(その後東京都教育委員会は学校側のやりかたを容認する姿勢を見せた)。そのような中で、子どもたちはインターネット上に溢れる有害な性情報や、望まない性的視線に晒されている現実がある。
また、避妊法に関しても、コンドームより避妊成功率のはるかに高い現代的避妊法の多くが日本では認可されていない。WHOの必須医薬品リストに掲載があるにも関わらず、だ。認可のある低用量ピルも、諸外国より高額だ。その上で、緊急避妊薬も、90以上の国で薬局での販売があるにも関わらず、日本では未だに処方箋が必要で、値段も1.5万円前後と類を見ない高額さとなっている。
コンドームは一般的避妊成功率は82%程度のため「性感染症予防」、避妊のためにはより効果の高い方法を「併用する」ことが常識。日本では避妊実行率そのものも平均54.3%(先進国平均72.4%)に加え、避妊法もコンドームが40.7%(世界平均8.0%)。低用量ピルはわずか1.0%で「男性主体の避妊(かつ確実性は低い)」のが現実だ Photo by iStock
更に中絶ともなれば、最も母体に負担の少ない中絶薬の認可がなく、手術に関しても、より安全な吸引法ではなく、掻爬法という、WHOが安全でない方法としている搔き出す形の手術が一般的だ。従って、中絶費用も10~20万円と高額だ。ちなみに、イギリスやフランスにおいて中絶は国の保険によりカバーされ無料である。
そのような状況下において、日本では今でも、最後までSRHRサービスに辿り着けず、妊娠によって高校の自主退学を半ば強制されたり、孤独な出産の末に虐待死に至って逮捕されたりといったことが繰り返し起こっている。厚生労働省データをみると、実際に、心中を除く虐待死がいつ起きたかというデータを見れば、もっとも多いのは産まれたその日だ。
「えっ、日本ってそうなの!?」
衝撃受けられ改めて気づく日本の現状
私は今回、「包括的性教育はいかに若者をエンパワーするのか」というセッションで登壇の機会を得た。そこで以上のような日本のSRHRをめぐる現状を100人にのぼる世界中から来た参加者に訴えた。
福田さんが登壇したセッションのチラシ。スペシャルゲストとして「メアリー皇太子妃」、パネリストとして「Kazuko Fukuda」の名前が見られる
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話しはじめてすぐ、参加者の顔は歪んでいった。海外の方に日本の実情を話すと、たいていそうなる。そして最後、中絶方法・費用の話になると、会場は一気にどよめいた。セッションの終了後は、「日本の現状を知らなかった」「声を上げてくれてありがとう」沢山の人たちに声をかけられた。
また、私の登壇したセッションはデンマーク外務省が主催したもので、デンマークのメアリー皇太子妃も来場していた。彼女は会終了後直接質問にいらした。
「日本は子ども減ってるのよね、そうすれば経済も下がっていくだろうし。日本の女性が根本的にエンパワメントされて活躍できるようにしなければ国としても大変でしょうに、どうしてそういう状況なの?」
返す言葉がないとはこういうことか。答えになるかは分からないが、国会議員の女性比率が1割以下で、女性が抱える困難を議題にしてもらうことの難しさがあることは伝えた。
デンマークのメアリー皇太子妃と。率直に「どうしてそういう状況なの?」と質問され、言葉が詰まった 写真提供/福田和子
私は登壇時以外にも、チャンスさえあればなるべく日本の現状を伝えた。相手の出身国に関係なく、反応は皆似ていた。
「全然知らなかった」
「それでは若い人がアクセスできなくて当然」
中には「ネパールでは避妊法全部無料であって、私は看護師で避妊法の知識は完璧だから、日本に行って避妊法のこと伝えようか!」とまで言ってくれる人もいた。
その中でひとり、私の目を完全に覚ましてくれたのが、ガーナから来た女の子だ。
「その状況おかしいよ!私たちの基本的な権利なのに、それが侵害されたままで日本のひとたちは怒らないの!?」とガチ切れしたのである。
日本には児童婚や女性器切除はないからまだいいのよ、なんて言えるような騒ぎではない。文章だとイマイチ伝わらないのが歯痒いが、本当に、彼女は「キレて」いた。
私のプロジェクトの名前は「#なんでないの」というもので、現状に疑問を抱いてみてほしい、そんな思いで名前をつけた。しかし現実はそんな甘いものではなく、SRHR、私たちにとって当然であるはずの医療、教育、権利が侵害されていれば、その度合いに関係なく、改善を求めていいし、求めるべき、そして私たちの直面する現状は本来激怒案件なのだと、私は通感した。
途上国とは根本的に異なる「問題の所在」
そのような経験を辿る中で、私は避妊具を含むSRHRサービスへのアクセスに関するセッションに数多く出席した。その中で感じたのは、「避妊具へのアクセス」といったときに現在世界一般的に想定される困難と、日本に横たわる問題は「根本的に違う」ということだ。
多くのセッションで交わされた問題は「デリバリー」の困難。つまり、本来であれば様々な避妊具が入手可能な価格で得られる状況ではあるが、医療機関が遠かったり、ストックが不足したりして、入手ができないのだ。この「デリバリー」に関する問題は幾度となく議論され、今後一層注力すべき分野として強調されていた。
では日本の抱える問題はといえば、それとは全く異質のものだ。デリバリー云々ではなく、そもそも女性にとってその使用が権利であるはずの薬に認可が下りない。それは今に始まったことではなく、1970年代には世界で使用されはじめていた低用量ピルも、日本で認可が下りたのは1999年、国連加盟国では最後の承認だった。
その承認も、女性の権利を実現するためというよりは、承認によって日本の面子を守ったような形だ。というのも、日本は1998年にできた男性の勃起不全治療薬バイアグラを半年という異例の早さで認可し、40年経っても避妊法としてのピルを認可しない姿勢に(経口避妊薬の完成は1955年だった)国内外から一気に批判の声が高まったからだ。
また、昨今議論されている緊急避妊薬のオンライン診療検討会を傍聴しても、本来、「緊急避妊のアクセスを制限する権利」は誰にもないはずなのに、むしろWHOは年齢問わず妊娠不安にあるすべての女性がアクセスできるべきという姿勢にも関わらず、検討委員のひとりで日本医師会副会長の今村聡氏は検討会で「(緊急避妊薬へのアクセスが)無制限に広がってしまうのも困るという思いがありま す。」といった発言をしている。
当然ながら、アクセスを制限された女性の方がよっぽど困る。しかし今村氏と同様の意見は政策決定者の中に少なくない。つまりは、いわゆるエスタブリッシュメントの変革を実現しない限り、日本でSRHRが実現されるとは考えにくいのである。
「アクセスの問題」といえど、日本の抱える種の問題はまだまだ議論されておらず、光を見出すことが大変難しいのが現状だ。
セッション会場外。世界中のアクティビストや政府・国際機関関係者で溢れていた 写真提供/福田和子
「このままでは取り残される」危機感
日本の状況は、疑問視どころか怒るくらいでもいいらしいということはお分かり頂けたであろうか。ただこれを変えたいと思ったときに、様々な壁にぶち当たる。世界からは「まさか先進国の日本がそんな状態にある」と思われないため、完全に見過ごされている現実。日本は経済的には上位にいるため、投資対象にはなりにくい現実。そしてなにより、日本人自身が自分たちの基本的な権利や選択肢が狭められていると気付きにくい現実。従って、声をあげる人も、機会も、まだまだ少ない。
その一方で、アフリカや南米、東南アジアなど、救援が必要と思われているところには大量の人的・経済的・物的資本が投入される。そしてそこに生きる若者たちも問題を感じれば声を上げ、活動し、今回のような国際的な大きなステージにも登壇し、実力を積み上げていく。その積み重ねの中で現在彼らの抱える問題がより深く国際社会と共有され、改善のための手が打たれていく。これでは、日本は取り残されていくばかりだ。
心がずんと重くなるような報告をしてしまったが、今回は「現実」をお伝えした。現実を知って、前に進む必要が私たちにはある。気落ちばかりしていても仕方がない。ここから変えていくにはどうしたらいいのか。次回は、世界の舞台での学んだことを再度見直し、希望を持って「私たちができること」も視野に入れた記事を書きたいと思う。
【Women Deliver2019 報告会開催!】
本記事に登場したWomen Deliver2019の報告会が開催されます。参加費は無料です。皆様是非お越し下さい。
日時:6月27日(木)16:00~18:00
場所:参議院議員会館
「いい加減、自分で決めたい自分の人生〜グローバルな視点から見た日本の”女性の健康と権利”〜」
発表/登壇:
福田和子 (#なんでないのプロジェクト代表)
山本和奈(Voice Up Japan代表)
コメンテーター:
北村邦夫(日本家族計画協会理事長・産婦人科医)
谷口真由美(全日本おばちゃん党代表代行)
主催:国際NGO JOICFP
参加費:無料
申込:https://forms.gle/Mu3Kq3D3QxxM14ms9