脱北者が抱えるダークサイド#76
こんにちは。
今日は脱北者の抱える様々な問題について書いて行こうと思います。
北朝鮮から逃れてきた人たちはいつも、心のどこかに重荷を背負ったまま生きていると思います。
その重荷は人によってそれぞれですが、私がざっと考えただけでも「北朝鮮」「家族」「友達」「親戚」「憎しみ」「不信」「裏切り」「希望」「無知」といったものが浮かんできました。
これらがほぼ全ての脱北者に共通して悩んでいるものでしょう。
以下、いくつか例を挙げて説明します。
例1)ある脱北者と北朝鮮に残った家族の電話
その脱北者は韓国に住んでいますが、定期的に家族と電話をしていました。ある日、母からの電話にいつも通りに出ていたけど、その日はなぜか母の声が震えていました。
そして、電話の途中で母は突然言いました。
「電話をかわるね」と。
次に電話に出てきたのは、母が住んでいた地域の保衛部(秘密警察)員でした。彼は「お母さんもいるから戻っておいで」と言ったのです。その脱北者はパニックで頭の中が真っ白になりつつも、何とかしないといけないと考えを巡らせました。
「行かない」と言ったら母が被害を受けそうと考えた彼女が捻り出した返しは「私も寂しいので帰りたいです。しかし、つい最近、病院で肝臓がんを患っていることがわかり、余命は短いと言われました。治療費もないので帰っていいですか?」というもの。
すると保衛部員はため息をつきながらしばらく沈黙し「いや、来なくていい。そこで死になさい」と言い電話を切ったそうです。
例2)脱北ブローカー詐欺
KBSのドキュメンタリー「息子が来ている」という番組の内容をご紹介します。
20年前に1人で脱北したおばあちゃん。韓国で単身で暮らす寂しさに息子を北朝鮮から連れてきたい気持ちはあれど、現在500万円以上かかる脱北の費用を用立てることができず悩んでいました。
そんな彼女の元へ、相場よりかなり安い費用で息子を脱北させてくれるという人が現れました。教会で出会った彼もまた脱北者ということで、おばあちゃんは彼を信用してお金を渡します。
それから定期的に連絡があり、「今、中国の〇〇につきました」、「中国の公安に見つかる危険性があり、引っ越さなければならない」、「脱北ルートを変える必要が出てきた」などと言い、その度に数万円から数十万円の金額を要求してくるのです。
おばあちゃんが「お金がない」というと、「息子の命が関わっている」と脅迫じみたことを言ってきます。そのやり取りを近くで見守り、違和感を覚えたKBSのプロデューサーが彼の素性を探ったところ、ご想像の通り彼は詐欺師でした。
プロデューサーはすぐにおばあちゃんに状況を説明しますが、おばあちゃんはプロデューサーの話を最後まで信じませんでした。信じるどころか、「息子の脱北を邪魔するな」と激怒し、プロデューサーを追い返してしまいます。
このおばあちゃんは多額の借金までして詐欺師にお金を送っていたのでした。息子の脱北が全てだったおばあちゃんには、現実を受け入れることなどできるはずもありません。
その詐欺師は第3国を転々としており、捕まえるのは難しい状況だそうです。もしかすると、今もおばあちゃんは息子の逃避行を信じて、偽ブローカー(詐欺師)とやりとりを続けているかもしれません。
例3)北朝鮮で馴染んだ食べ物の密輸入
韓国にいる脱北者の中には、中国の密売人を通じて北朝鮮で馴染みのあった食材を購入する人がいるといわれています。
例えば、松茸。北朝鮮では松茸が多く取れます。そして質もいいそうです。北朝鮮が国連の制裁措置を受ける前は、日本にも多く流通していました。
また、日本でいう「ソイミート(代替肉)」は北朝鮮では「人工肉」と呼ばれています。
北朝鮮の人工肉は製造技術があまり発展していないため、原料(大豆)の風味が残っていることが多いです。
それが良い意味でクセになるというか、特有の香ばしい味わいを生み出し、好きな人にはたまらない一品になります。
故郷に対する寂しさを紛らわすために北朝鮮の食材を購入することは、当然ながら違法な取引になるため、後になって多額の罰金が課せられる場合があるようです。
悪気はなかったケースが大半なのでしょうが、”賄賂を払えばどうとでもなる”という北朝鮮の常識は世界の非常識なのだ、と脱北者は再認識する必要があると私は思います。
現在、韓国で暮らす脱北者は3万4千人を超えています。
命懸けの逃亡劇を成し遂げた脱北者の中には、(少数ですが)韓国に上手く馴染むことができず、家族や故郷が恋しくなって北朝鮮に戻る人が現れます。その多くが若者だと聞くと胸が痛みますね。
数は少ないながら、脱北者の日本における定着過程を間近で見てきた私が痛感しているのは、その人がどんな教育受けてきたかという点がとても大切であるということです。
北朝鮮の教育は他国と比べればとてもレベルが低い。これは紛れもない事実でしょう。
カリキュラムの多くが金一家に関するものに割かれる上、その内容の大半は史実にまったく沿わない”デタラメ”であるなど、お粗末な代物であることは、その教育を直接受けた私自身が保証します。
しかし、デタラメな内容であったとしても、その教育を受けた人と受けていない人とでは、新しい環境に順応する上で大きな差が生まれるのです。
北朝鮮で大学や大学院を卒業しても、その知識をストレートに活かせることはまずないでしょう。
しかし、”学ぶことを学ぶ”という学習能力の獲得、その経験を通して得る視野の広さ、集団生活で身につけた社会性といったものが、別の環境に身を置いたときに確実に効いてきます。
残念ながら、北朝鮮では「苦難の行軍」以降、食べ物がなく、学校に行くどころではなくなってしまった人がたくさんいます。そういった境遇に置かれた人たちが教育の大切さを実感するのはなかなか難しいでしょう。
北朝鮮ではコチェビであった人が脱北後、博士課程を修めて学位を取得した例もあるにはありますが、レアケースといわざるを得ません。
脱北者という存在が生まれてまだ20〜30年です。その歴史はまだ浅いため、今後、多様な問題が出てくると思われます。
その中で特に重要なのは「教育」と「福祉」ではないでしょうか。
先ほど述べたように、脱北者の中には教育に対する意識が低い人が多く、リスキリングが叫ばれ、生涯に渡る学習が求められる今の時代についていくのはかなり難しいものがあります。
そして、福祉。20~30年前に脱北した人の中には、70代を超える人が増えています。前述のKBSのドキュメンタリーに登場したおばあちゃんのように、天涯孤独のケースも多いでしょう。
こういった人たちの福祉はどのようなものになっていくか。
認知症が進むと母国語で話し始める人がいると聞きますし、”老後”というただでさえ不安に苛まれる人生のステージを、慣れない異国で迎えることになるのです。
私は、脱北者にまつわる様々な問題について考えを巡らせる中で、日本でたくましく生きてきた”在日”と呼ばれる人々の例を参考にする必要があるのではないかと思い至っています。
看護師として医療・福祉に携わる者として、このことについては今後も考え続けていこうと思っています。
PS)アメリカの新大統領はトランプ氏になりましたね。
トランプ氏は選挙中「ロウ戦争を24時間以内に集結させる」、「金正恩やプーチンと仲がいい」などと、顰蹙を買うような発言を繰り返していました。
ロウ戦争で亡くなった若者が50万人を超えるそうです。そして今も北朝鮮兵士を含む多くの若者が死んでいています。
私はどんな形であれ、戦争は早く終わるべきだと考えています。
命を失ってでも守るべきものは存在しないとも思います。
(良くも悪くも)来年は変化が起こりそうなので、何かが動き出すであろう点においては、前向きに考えられなくもありません。
今後、トランプ氏の動向に注目です。
ではまた👋