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金正恩が恐れるものは何か。#59

こんにちは。

今回はこの暗いニュースから始めさせてください。

韓国の統一部の関係者から、11日、北朝鮮が中学生らを30人ほど処刑したという衝撃的なニュースが伝えられました。韓国の脱北者団体が送ったUSBを拾って、その中の韓国ドラマを観たのが罪だということです。

ここ最近、私の記事によく登場する法律「反思想文化排撃法」「平壌文化保護法」「青年教養保証法」に当たる処分だと思います。

上の3つの悪法が作られてから約1500人が公開処刑されたという報告もあります。

現代社会で他国のメディアに接しただけで処刑になる国がどこにあるのでしょうか。
それに13~15歳の若い命を奪い取るなんて、金正恩政権は人間であることを諦めたという他ありません。

朝鮮中央テレビは数十年前に作った映画やドラマを平気で何十回も何百回も流します。
自由で人の感情をくすぐる、愛をテーマにした韓国のドラマ(世界的にも高く評価されています)を一度観てしまうと、とてもではありませんが、北朝鮮のコンテンツには戻れません。

今の北朝鮮では、”韓国ドラマを観たことがない人を探すことは難しい”と言われるほど韓国メディアが水面下で普及しているそうです。自身の身を以て体験していますが、一度、観始めると止められない中毒性は相当なもの😻

韓国にいる脱北直後の人に何がしたいのかを聞くと、北朝鮮で見ていたドラマの続きを見たいと回答する人がいるそうです。最近、人気が出ている韓国の田舎暮らしを舞台にしたリアリティ番組も好かれそうです。

今さら、韓国メディアを根絶しようとしても、全国民を抹殺しない限り無理でしょう。

今も北朝鮮のあちこちで、息を潜めて韓国ドラマを見ている人が多くいると思います。

金正日の時代に遡ってみると、韓国のドラマを見るだけで処刑になることは少なかったです。賄賂で助かるケースが多くありました。

私が平壌の大学に通っていた時に国を挙げた行事が催されることになり、平壌の大学生(比喩でなく文字通り)ほぼ全員が金正日の前で踊りながら歩くプログラムが採用されました。そこからは1年近く広場などで練習漬けの日々。

2003〜2004年頃だったと思います。

その練習の間に休み時間があり、怖いもの知らずの私がちょっと前に見た韓国ドラマ「秋の童話」のストーリーを暇そうな人たちに話し始めました。人から聞いたと嘘をついて。

今考えるとゾッとしますが、ドラマが感動的で面白すぎて誰かに言わずにいられなかったのです。
初めは隣の2人くらいに話し始めましたが、しばらくすると20〜30人くらいの大学生が目をキラキラさせながら聴いていました。

当時、韓国ドラマの話だと気づく人が少なかったのかもしれませんし、気づいた上で黙認してくれたのかもしれません。その後、大学を中退するまで保安部などに呼ばれることはなかったです😅(ヒヤヒヤ)

私が住んでいた咸鏡南道という地域(下図の赤いところ)は韓国からそれなりに距離がありましたが、電波が届く範囲なのか韓国のテレビ番組がきれいに映っていました。
ちなみに、画質は悪いですが日本の番組も時々拾うことができましたよ。

クリックするとお借りしたweblioサイトに飛びます。

当時は、韓国からの贈り物(ビラやチョコパイ、その他のもの)を拾うと手が腐る、食べ物を食べると胃が溶けるなどの噂が流れており、みんなそれを信じていました。
そういったものを拾うときは必ず手袋をしなければならないと、講習会が催されていたほどです。

しかし、現在はほとんどの人が韓国メディアに接しているため、韓国からの贈り物は脱北者やそれに近しい人たちが故郷に残る人々のために送ったものであることが知れ渡っています。
風船やペットボトルに入った韓国からの贈り物を見た北朝鮮の人たちは、心の中で「ラッキー」と呟きこっそり拾って家に持ち帰るようになったと証言しています。

(こちらも韓国の統一部の関係者からの情報ですが)脱北者団体が送ったペットボトルの中の米を炊いて食べた事実が発覚し、処罰を受けた人がいることも明らかになっています。

国が食料を配給できなくなり、餓死者が出ている状況です。
目の前の食べ物は毒入りで、食べたら死ぬかもしれないし、死ななかったとしても処罰される可能性は残る。
それでも食べずにいることはできないのだと思います。

以前から度々書いていますが、北朝鮮は金日成が死んでまもない1995年から「苦難の行軍」が始まり、現在に至るまで約30年間、餓死者が出る状況が途切れたことはありません。
「苦難の行軍」真っ最中である1996~1999年の間、約200万人が飢え死にしたと言われています。
そういった状況の中で、人々は市場に出て商売をし、生計を立てていくことになりました。政府も国民を食べさせる力がないため、見てみぬふりをして市場を解放しました。

「苦難の行軍」時代に北朝鮮のメディアは飢えている国民に、「未来の幸せのために今の苦労は我慢しよう」と呼びかけていました。

しかし、その時代に生まれた赤ちゃんや子どもたちが今、20〜40代(MZ世代)になり、主軸として国を支える年代になっていますが、餓死者が出る状況は変わず、苦労は終わりませんでした。

市場の経済を生き抜くことで育ったMZ世代は、なぜ国が言っていることに従わなければならないのか理解できない人が多いでしょう。
何も与えてくれず搾取する一方、監視や支配を強めるばかりの国家に対して、忠誠心や愛国心が芽生えるはずもありません。

TVのモニターに映る韓国はこんなに豊かなのに、なぜ北朝鮮では「苦難の行軍」が終わらないのか。疑問を持って当たり前です。

北朝鮮国民は約2400万人で、その人口の食料費は年間3億ドルほどだそうです。

貧乏な国とはいえ、武器や麻薬を密輸したり、仮想通貨を盗んだり、サイバー攻撃を仕掛けたりと、国家ぐるみでジャンルを問わず悪い商売に精を出しています。収支はわかりませんが、3億ドルぐらい余裕で賄えそうなものです。

そのお金はどこに行ってしまうのか。

まず、金一家の威光を維持するために必要な道具である金日成ミイラの維持費用は年間8億ドルかかるそうです。現在は金正日までミイラになっているので計16億ドルの費用がかかりますね。

さらに、発射が繰り返されすぎて”もういいよ”と思われがちなテポドンミサイル、それらにかけた金額は数十億ドルを優に超える超えると言われています。

それだけではありません。

金一家が高級ブランド品に使う金額は1日あたり約230万円ほどといわれており、これは北朝鮮の庶民が15年働いて稼ぐ金額に相当します。
(金正恩の妹である金与正はディオールのバッグを好むそうです)

中央日報からお借りしました。

さらに、金正恩は周囲の高位幹部らにプレゼントを贈り、自分の地位を保つような政治をすることで有名です。
例として、リチュンヒという名物アナウンサー(老女)に新築した超高級マンションをプレゼントするという映像が朝鮮中央テレビで流れていました。

そういったものに使う金額は、なんと年間約20億ドル(韓国のウォンで2兆5千万ウォン)だそうです。

最近も金正恩が最新型のベンツに乗ったり、警備をしている軍人がトヨタのハイグレードなSUV車両が乗っていたりする姿が目撃されています。
これは、北朝鮮に対する国連の制裁措置をすりぬけ、多くの国を経由しながら、車の価格より数倍の費用をかけて密輸入した結果なのです。

現体制を維持するためには湯水のごとくお金を使う金正恩政権ですが、国民のためとなると、とたんに財布の紐が固くなります。
それこそ餓死者が出るぐらいに。

こういった事実について韓国メディアを通じて北朝鮮の人々も知ることができる、それこそが金正恩が最も恐れている事実ではないでしょうか。

マインドコントロールが機能していた少し上の世代と違い、MZ世代の北朝鮮離れは静かに、しかし確実に進んでいるはずです。公開処刑などの苛烈な暴力に晒されて表に出ないだけでしょう。

しかし、物事には限度があり、均衡が保たれるためのバランスが必要です。そういったものを欠いているのですから、いずれどこかで爆発します。

私にはその時が近くに来ているような気がしてならないのです。

時代の流れを止めることはできません。

人間は夢があるからがんばれると私は思っています。
国や政府が叶えてあげられないとしたら、各々の人がその夢を追えるように自由を与えないといけないのではないでしょうか。
そうしないと人々はついていきませんよね。

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北朝鮮の政治に関するトピックは、今も昔も呆れ笑いが出るほど愚かなもの、もしくは悲惨なものばかりで、あの国を出てから長いこと(おそらく半ば無意識で)目を背けてきた私がいます。

しかし、現地で生まれ育ったからこそ、メディアから発信される内容だけでは“バカバカしい”としか思えない事柄を目にしても、気づくポイントがある。そんなことを感じるようになりました。

私の実体験を主軸にして書く記事と同様に、今回のような内容を投稿することも北朝鮮の現状を少しでも多くの方に理解していただく上で、役に立つのではないかと思い直しています。

そういった小さな積み重ねが何かに繋がることを願って、今回の記事を終えます。ではでは。

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