カルテット ドーナツホール
このドラマ、もう5年も前のものになるが、傑作だ。
昨今の視聴者のTV離れが進む中、よくこれだけ金と心を込めて創り上げた作品だなと思う次第で、廃れて行く文化をそうでもないかもと注視できるくらいの余裕は持っておきたいものだ。
何よりキャスティングが完璧。おそらく誰が見ても感情移入できるキャラクターがそれぞれの役にぴったりとはまっていて、全く違和感がない。
そして脚本の骨子となるテーマが、時代錯誤した『愛と夢』であること。
愛とか夢って、昨今では気軽に発せない死語のようになりつつあるが、3、40年前は本気で夢は叶う、ラブアンドピースって信じられていた時代はどこへやら、もはや現代はそんなものは幻想だと断定するかのような時代になっているのは、嘆かわしい話だ。
なんだけども、ここに出てくるキャラクターには、それぞれの過去を通して世間とは隔絶した自意識を背景に、悲しみ、慈しみ、愛、楽観といったものの際立った演出がなされており、吉岡里帆が演じた対照的なヒール役のアリスでさえもどうしても憎めず、一体何が罪で誰が悪なのか全てを愛で包んでしまいたくなるような、数話観たらなぜか虜になってしまう。
最終回では、雀が過去に殺人を犯したかもしれないマキに対して、コンサートで演奏する一番最初の曲(死と乙女)にどうしてこれを選んだの?と問い詰め、「こぼれたのかもしれない。内緒ね」というシーンがあるが、この時の二人の真剣な眼差しが最後のミステリーを孕んでいて、観ている方もドキドキさせられる。
その後に一体この時の雀は、愛は勝つことにしたのだろうか?罪は許すことにしたのだろうか?考えるのをやめることにしたのか?まーいいじゃんとしたのだろうか、最後まで「謎」としたままエンドロールで椎名林檎の名曲「おとなの掟」を四人で歌う。この歌詞の中に答えがあった。
「マキさんが本気で殺したいと思う相手だったんだとしたら私は秘密を守る」雀はこう思ったんだろう。
松たかこって松田聖子の再来かってくらい、張りのある美声を持っていることは大分前から感じてはいたが、それにしても幾つになっても品があってお茶目で奥ゆかしい女性でまさにいて欲しい女優だと思う。
脚本、かつマキの夫役で出演している宮藤官九郎さんもいい味を出していて、彼の世間に対する間合いというものは、昨今の男性の生き方を象徴しているように思えてならない。
もう一人のブレイク芸人:高橋一生、彼は何で今まで日の目を見なかったのだろうか。この役柄はそこいらのコメディアンよりも面白い。
最初はうざったい人だなと思わせながら、徐々に愛着が湧いてきて、最後の方はもう楽しくてしようがない。この辺の人の印象の推移を雀こと満島ひかりが見事に演じきっている。この人(雀の方ね)なんて可愛い人なんだろうか。多分80歳になっても可愛いおばあちゃんになるんだろうな。
翻って、現実にこんな人たちがいたとした場合、こんな運命的なコミュニティがあったとしたら・・・現実にいるこんな人達は松たかこや満島ひかりのように人を魅了することに長けた芸人でもなんでもない。被毛も持たずにせいぜい借りてきた衣装を身にまとうことしかできない無様な人間であることは到底変えようのない現実があって、ひたすら孤立化して誰からも発見されることもなく、ただただ時間だけが過ぎていることは間違いないだろう。