音声の魅力
音声は忘れられている
コンテンツ形態の変遷
我々の消費するコンテンツ形態は時代の変遷とともに変化してきました。
現在までの流れを見ると、主に以下の2点は大きな流れとしてあるかと思います。
動画形式への移行
コンテンツ形態が徐々に動画形式に集約されてきています。コンテンツ毎の消費時間の短縮化
一つのコンテンツに対して興味を持ち、消費するまでの時間はどんどん短くなっています。
Youtube→TikTokがよく引き合いに出される例ですし、書籍→Twitterも一つの要因として消費時間が挙げることが出来そうです。
音声コンテンツ
コンテンツ形態の変遷を考える上でついつい見逃しがちなのが音声です。文字媒体から動画媒体の流れは分かりやすいものの、音声コンテンツの立ち位置についてはなかなか語られることがありません。
理由としては主に2点考えられるかと思います。
日本に音声を聞く文化が浸透していない
2021年一時期Clubhouseが日本中を席巻しました。芸能人や著名人の中でもハマる人が続出しましたが、短い期間でもブームで終わってしまいました。
思い返してみると、日本人でラジオやPodcastを聞く人は少数派です。同僚や友人の方で聞いている方を探してみてください。音声は動画に内包されている
静止画付きの動画が音声コンテンツでしょ。という認識が意識的・無意識に多くの方が感じていることでしょう。
今回は上記2点目に関連して、音声独自の魅力・強みをまとめてみました。主に三つあり、”利用場面”・”機能”・”科学的影響力”3つの観点に分けて整理しています。
利用場面
ながら聞き
ながら聞きとは、何かをし"ながら"音声コンテンツを消費することです。音声は耳さえ空いていれば良いため通勤・通学、家事などと同時並行でコンテンツを消費することが出来ます。
調査を見てみても、音声の活用はながら聞きできる場面が多いです。"〜中"(休憩中は微妙?)が利用場面として上位に位置しています。
動画・テキスト媒体を消費できない時間・場面にも音声は入り込むことが出来ます。可処分時間の観点から考えてみましょう。
可処分時間とは"自身が自由に使うことが出来る時間"。3次活動時間と言い換えることも出来ます。つまり
1次活動時間 : 生理的に必要な時間
2次活動時間 : 社会活動を営む上で必要な時間
です。
私たちがNetflexやYoutube, Kindleを視聴する時間は3次活動の中に含まれそうです。ラジオやPodcastを聞くことも当然入ります。
歩きスマホ常習犯や小学校のあだ名が"二宮金次郎"だった私でもない限り、移動や交際・付き合い, 受診・療養中にコンテンツを消費することは難しいでしょう。そのため幾つかの項目を除外して考えてみると、可処分時間は一日約4時間半ぐらいになるでしょうか。
しかし音声コンテンツは3次活動にとどまらず聞くことが出来ます。例えば2次活動の項目に注目してください。通勤・通学, 家事・買い物などは並行して音を聞きながら行うことが出来ます。動画や文字媒体は難しい場面でしょう。(電車通学や傘を差しながら自転車に乗れる人は別です)
この辺りを考慮に入れてみると、低く見積もっても約1時間半は耳だけの可処分時間として使うことが出来ます。
toC向けのコンテンツプラットフォームが増えてきたことによって、同じコンテンツフォーマット内だけではなく外部の企業とも競わなければいけない状況が生まれてきています。
NetflixはYoutube, TikTokだけではなく、TwitterやKindleなども競合として視野に入れなければいけません。
耳だけの可処分時間が存在するということでPodcastやラジオは独自の競合優位性を獲得できる余地が生まれるはずです。
(ながら聞きする理由の上位にも音声でないと出来ないものがいくつかランクインしています。)
閑話休題:音楽の科学的効果
Podcastやラジオが対象ではありませんが、音楽に関して面白い実験結果をご紹介します。
ながら聞きにはパフォーマンスを向上させるとする研究結果です。
ペースを作る、は確かにと思います。走行時ではありませんが私にも似た経験があるからです。
受験期、私はよく音楽を聞きながら勉強をしていました。文系科目は聞きながら勉強すると気が散ってしまうことが多いですが、理系科目特に数学は音楽を聞きながら行うとゾーンに入って集中出来たのです。サカナクションが好きだったので”ネイティブダンサー”を8時間一曲リピートしていたこともありました。
機能
視覚情報と聴覚情報
人間は情報の大部分を視覚から得ていると言われています。
加えて、聴覚情報は視覚情報媒体に付随されているとの理解が世間的な認識になっていると感じています。音声は動画に内包されている、という理解です。Youtubeでも静止画で動画を出して音声をメインコンテンツとして動画をよく見かけます。
このことから、音声は動画から敢えて視覚情報を排除したものという言い方も出来そうです。
この理解は音声の純粋な機能だけに注目したときには正しいでしょう。しかし、その機能から生み出される効果に着目すると音声は動画の必要条件とはならないのです。
聴覚から生まれる想像性
小説
最近では小説が原作となっている映画をよく見かけます。近年話題になったものだと”ドライブ・マイ・カー”などでしょうか。
原作が好きで映画を見に行った観客をよく悩ませるのが、”これじゃ無い感”でしょう。イメージしていた登場人物と映画キャストが噛み合わなかったことは誰しもが経験していると思います。
この違和感はどうして生まれるのでしょうか?
小説を読んだ時のことを思い出してみて下さい。どのように読み進めていたでしょうか?ただただ文字をなぞっていくだけ?恐らく多くの方がそうでは無いと思います。頭の中で登場人物を想像し、状況を描写しながら読み進めると思います。
小説を読む時、多くの人は頭の中で文章を読み上げる声が聞こえています。これはInner Reading Voice(IRV)と呼ばれるものです。同じ声がずっと聞こえる人もいれば、人物や場面によって違うことが聞こえてくる人もいます。状況の差はあれど、人は自らのIRVを元に自分なりに登場人物のイメージを構成しては小説を読んでいるのです。
イラストを与えず活字情報だけから想像力を働かせて物語を読む。それが小説の醍醐味です。その過程の中で、自分の中で作り上げた登場人物像が映画中でのキャストのイメージと合わない時に前述の違和感が生まれるのです。
**私は森博嗣さんの小説が好きなのですが、S&Mシリーズがドラマ化・映画化した想定でキャストを考えてみてもパッとは思いつきませんでした。ちなみに、シリーズの始まりである”すべてがFになる”はドラマ化されています。犀川創平役を綾野剛さんが、西之園萌絵役を武井咲さんが務められました。
(S&Mシリーズで一番好きな回は"今はもうない"です)
音声
同じことが音声コンテンツでも起きています。見えないからこそ、声を頼りに登場人物がどんな姿勢、どんな表情で話しているのかを想像しながら聞くようになります。
一つ例を挙げてみます。エンジニアならRebuildを聞かれたことのある方も多いかと思います。パーソナリティであるエンジニアの宮川さんが毎回ゲストを呼んでプログラミングやガジェットに関して1~2時間ほどお喋りをするPodcast番組です。
その中で数多くゲストとして出演されている方にhakさんがいらっしゃいます。彼は番組冒頭で、習慣化されたようにある行動を取ります。
某エナジードリンクを開封するのです。曰くドリンクを飲むことでやる気を出しているそう笑。
何気ないこの場面にも音声コンテンツの良さが隠れているのです。プルタブを引いて開ける時の音から一口喉に流し込むまでの音。一連の動作音を聴きながら、私たちはhakさんのRed Bullを飲む姿を想像してしまうのです。
音声コンテンツが想像力を養ってくれることに関しては科学的な研究も行われています。radikoが公表している研究結果を見てみましょう。
イメージ記憶は視覚からの情報を記憶すると考えられがちです。しかしラジオを聴くことが、言語による想像力がイメージを補完して記憶を強化するとの実験結果が出たのです。
科学的影響力
この価値に分類されるものが音声の最大の強みであり他の媒体にはないものです。感情と学習効果がキーワードになります。
感情
多くの方が"いや違くね?ww"と思われたと思います。視覚情報が感情を伝えることに優れていることは自明であるように思えるからです。
しかし実は聴覚情報が人間の感情を伝達出来る情報である、さらには視覚情報がない方がより良く伝達できることが研究から分かってきたのです。
いくつかの論文・記事を紹介します。
Voice-Only Communication Enhances Empathic Accuracy
(2017, Michael W. Kraus)
イェール大学クラウス教授による論文です。
次に脳科学に基づいた記事を紹介します
この記事はクラシック音楽、とりわけモーツァルトの音楽がメンタルヘルスにどう役立つかについて書かれています。その中で人の情動に音がどのように関わってくるのか説明されている箇所があります。
これだけだと文系の私にはさっぱりです。
〜脳科学の説明〜
音が人の情動に大きく影響を与える。このことを私が最も実感したのはシャイニングを見た時です。
スティーブン・キング原作のホラー映画として誰しもが名前を聞いたことがあるだろうこの映画。ただでさえビビリだった私はこれまで一度もホラー映画を見たことがありませんでした。しかし友人と宿泊した際に彼らが勝手に見始めたので、半強制的に見ることとなったのです。
あまりにも怖すぎて途中で布団を被り寝てしまったのですが、その時気づいたことがありました。とにかく音が怖い。不気味が音楽が効果的に使われることによって、恐怖を引き出しているような気がしました。
学習効果
ここからは音声による学習への影響を見ていきます。
聴覚刺激の偶発学習が長期インターバル後の再認実験の成績に及ばす影響
〜実験結果〜
音と記憶の関係性について調べている時思い出した経験がありました。
ある曲に一見関係のない事柄が紐付けられて記憶されているのです。
私は中学高校寮生活を送ってきました。友人と共同生活を送るメリットの一つに他人の持っている漫画がいつでも読めることがあります。中学生の頃良く漫画を読みに行っていた友達の部屋ではよく音楽が流れていました。ある日寄生獣を読んでいた時、当時彼のブームだったのかMaroon 5のMapsが流れていました。その時から、Mapsを聞くと寄生獣を彼の部屋で読んでいたことを思い出します。
行動
視覚と違い、聴覚は遮断することが難しいです。そのため無意識のうちに人々の行動に影響を与えることも多々あります。そこである方の卒業論文を参考に、行動心理学に関して論文の中でも音声コンテンツに関連しそうな3つの効果について解説します。
イメージ誘導効果
2. 感情誘導効果(気分誘導効果)
面白い研究を紹介します。悲しい音楽を人が聞く理由、に関する研究です。
明るく楽しい音楽を聴くことは、気分を明るくすることで自らのモチベを上げたり精神衛生上の観点から理解できる行動でしょう。
一方で、悲しい音楽を聴くことはわざわざ悲しい気分になりに行くようなものです。それではなぜ人は不合理に思える行動をとっているのでしょうか。
個人的な悩みを共有出来ない時、音楽の中で提示される似た悩みの中に慰めを見出そうとすることは理由として考えられそうですが証明はされていません。
そこで本研究では主に以下の3点を考慮して悲しい音楽を聴いた時の状況について考察を行ないました。
・音楽聴取前の気分
・聴いた音楽の性質
・聴取後の気分
予備調査の結果、明るい音楽を聴いた際には気分が明るくなるのはもちろんのこと悲しみの強い時に悲しい音楽を聴くと気分が改善されるが予想される結果が得られました。
そこで聴く音楽を悲しいものに絞って検証を行いました。
3. 行動誘導効果
人間は理性と感情に基づいて行動を決定します。その中でも感情は大きな比重を占めているでしょう。
このことから感情誘導効果によって感情を動かすことのできる音楽(音声)は必然的に人々の行動に対しても影響を及ぼすことが出来るということが出来ます。
最後に
いかがだったでしょうか。私自身は感情の伝達こそ音声コンテンツの最もコアとなる特徴・強みであると考えています。AIの成長著しい社会(このnoteのサムネイルもStable Diffusionで生成しました)において人間性を伝えうる最も大事な要素なのではないかと思っています。
次回はその感情を音声に乗せて伝える最も良いフォーマット、ラジオドラマの魅力について書きます。
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