差別がなくならない理由の考察

ジャン・ボードリヤールの著作『消費社会の神話と構造』を応用して差別が消えない理由を考察していきたいと思う。

まず、この問題について考えた理由から話していこうと思う。大学の講義で「女性の化粧義務は必要か?」という議題について統計を用いながら、義務化賛成者の根拠(例えば、化粧をしていないのは不快でありマナー違反など)が果たして本当なのかを検証して、結果について議論するという講義であった。結果としては、化粧をしていないからと言って不快に思う客はほとんどいないというデータが示され、義務化する必要はないという方向で話がまとまった。しかしながら、現実では「化粧をしなくても不快に思う人はいないからノーメイクで行こう!」となる人はどれだけいるのだろうか?

*差別的な意図はなく、だったらノーメイクでいいと思う人が大多数であればここに謝罪します。申し訳ございません。*

現実では、無難にメイクをする人が多いとすれば、義務化が廃止になったところでそれが暗黙のルールになってしまうだけではないだろうか?そこにはとある力が働いているのではないかと私は考えた。

その力を私は"神話"と名付ける。(これはボードリヤールの概念を模倣して私が勝手に作った意味付けであるから、本来の意味から外れることはご了承願いたい。)
仮に、「女性が化粧をしないのは非常識だ」という神話が生まれて、社会全体に行き渡ってしまったと想定しよう。その神話を元に化粧義務化がなされれば、初めのうちは、神話に従って女性は化粧をせざるを得ないだろう。しかし、批判の声が上がって「女性は化粧をする必要はない。(なぜならノーメイクでも不快に思う人はいないし、非常識でもないから。)」という言説が広まったとしよう。イメージ的にはこれで話は終わるのかもしれないが、現実はそうはいかない。女性はこう思うのではないだろうか。
「【ノーメイクだと非常識だ】と言われるかもしれないから、無難に、一応、化粧をしよう。」
これこそが神話の力である。一度生まれてしまった神話はなかなか消すことが出来ず、人々は≪取り敢えず神話に従う≫のではないだろうか。

もう一つ例を挙げたいと思う。
日本では、就活において黒髪が理想とされる風潮がある。しかし、よっぽど派手な色でなければ髪色はアイデンティティとして世間一般に受け入れられているのが現代ではないだろうか。しかし、就活においては、会社の採用条件に関係なく髪色を黒に統一することがあるだろう。これも一つの神話ではないだろうか。【就活は黒髪でないと落とされる】という神話が生まれた瞬間、就活生たちは"一応"髪を黒に染めるのである。

この神話の力は強く、神話を否定するほど神話の絶対性が高まってしまう。なぜならは、神話を否定する時点で神話の存在を認めていることになるからである。神話が存在する時点で、人々は無難な方にしか行動することが出来ないため、否定したところで神話の存在性が強まってしまうだけなのである。完全に忘却しなければ神話を消すことは出来ない。また、「相手が【ノーメイクは非常識だ】という神話を信じているかもしれない」という疑いが晴れない限り、神話から逸脱した行動をとることは出来ない。

神話の生産過程を考える。
権威を持つ人物がある雑誌で「靴がボロボロの人間は仕事が出来ない。なぜなら靴を毎日磨くのはマナーであり、それが出来ない人に仕事は出来ないから。」と発言したとしよう。これが神話の誕生である。周知されていて、それなりの影響力を持つ人が言ったことに反する行動を敢えて取る人はいないだろう。こうして神話が生まれれば、人々はもちろん毎日靴を磨き、ボロボロに見えてきたら新しく買い替えるしかないのである。どんなに思い入れがあろうと、履き心地がよかろうと、仕事が出来ない人間に見られてはキャリアにも影響するかもしれないからとピカピカの靴を履くしかないのである。しかも、ビジネスの世界でわざわざ靴に関する価値観を聞くわけにはいかないため、この神話は絶対的になる。また、神話を知らない親しい人に出会う、つまり靴がボロボロの同僚や後輩に会った時、あなたは次の2つのうちのどちらかをいうだろう。
A「靴がボロボロの社会人は仕事が出来ないように見えるぞ。毎日磨け。」
B「靴がボロボロだと仕事が出来ないって思われるらしいから綺麗な靴を履いた方が無難だよ。」
AもBも結局は神話を後輩なり同僚なりに伝えることになる。これが神話の再生産である。こうやって神話は広まっていき、最初に神話を作り出した人でさえも置いてきぼりにして神話が完成するのである。

最後に、ここまで話してきたことを差別的な事象に当てはめることで私の考察を終わりとする。例えば、
「30歳を超えても結婚できない人は人間性に問題がある。(なぜなら、結婚できないということは女性に好かれないということであり、言動に何か問題があるから。)」
「人中の長さが短いほど美しい女性。(人中が長いと顔がのっぺりして見えるから。)」
などがある。2つ目に関しては最近炎上した広告があったと記憶している。

神話を生む責任は大きい。メディアや立場が上の人などは、相手のことを考えて話さなければいけないだろう。


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