書店員のつぶやき(季刊 Vol.3より)
自称、歴女の私が最も心惹かれるのが、華麗、荘厳、しかも陰謀渦巻く平安~鎌倉時代。
ある時は静御前の胸の内を考えて、せつなくなり、北条政子の心中考えると、苦しくなったりする。京都に行けば、ゆかりの地を訪ねて。ワクワク。鎌倉には行けないので、
ゆかりの小説を読んで、ソワソワ、ムズムズ。訪ねたい場所が数々ある。
今回は大河ドラマの影響もあって、そんな鎌倉に行きたくなる小説を3編。
•「炎環」―今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の元ネタともいわれている小説です。鎌倉在住の小説家、永井路子さんが今から50年以上も前に執筆され、1964年に直木賞受賞。
4つの短編小説「阿野全成」「梶原景時」「北条保子」「北条義時」がら成り、それまで、頼朝や義経、政子などのエピソードや小説ばかりを読んでいたので、えっ、阿野全成って、義経の実兄で政子の妹の保子と夫婦になるの?その後も権力争いに色々絡んでくるのねー(ドラマのお楽しみなくなるので、このくらいで)と驚くことばかり・・。全成、保子、義時の会話がまるでその時、その場に作者自身が居合わせたような描写で、読んでて唸りそうになります。
景時の胸の内も「そう思ってたのね」と納得させられます。大河ドラマとあわせて楽しめること間違いなしです。
•「ツバキ文具店」―2017年本屋大賞第4位の小川糸さん「ツバキ文具店」(この年1位は「蜜蜂と遠雷」)先代の祖母から鎌倉にある文具店を受け継いだ20代の鳩子。先代に育てられ、行儀作法、文字の書き方を厳しく言われ、反抗してガングロ不良になった時期もある。先代亡き後、先代が密かに行っていた代書屋も引き継ぐ事に。代書屋は文字通り手紙を代筆する。
依頼者の想いが伝わる様に字体も変え文章は勿論、インクや紙の材質にまでこだわって手紙を書く。あっ、メールと違って手紙ってこんなにも色々想いや気持ちを表現できるものなんだ、と改めて気づかされる。鳩子のお隣のバーバラ夫人を始め、地元のご近所さんがあったかくて、ほっこり。鎌倉七福神巡り、漫画家の横山隆一さん邸宅をそのまま使用しているスターバックス、小林秀雄も通った鰻の名店「つるや」など行きたい寺社、お店がぞろぞろ。思わず、「ツバキ文具店鎌倉案内」も買ってしまいました。
鎌倉に行ったら、順番に訪ねてみたい。でも、一番行ってみたいのは「ツバキ文具店」なのですが・・・。
•「荒仏師 運慶」―運慶って、東大寺の仁王門の金剛力士像作った人!あの仏像の凄まじい迫力の源は何?と思い、読み始める。
運慶は奈良仏師棟梁康慶の嫡男。源平争乱の時代、興福寺焼き討ちの折はあの阿修羅像を命がけで守る運慶の姿が印象的。京仏師に押され奈良仏師は主要な仕事が来なかった。そんな時、鎌倉方から仏像作りを依頼された運慶は鎌倉の武士の魅力に惹かれ東国へ向かい、活躍の場を拡げていく。鎌倉では北条時政の依頼で仏像を作り、政子とも親しくなる。
東国での活躍により、次第に名をあげていく。時代の波に翻弄され、兄弟子快慶との確執もつきまとう。東大寺の虚空蔵菩薩を制作する際に右半身と左半身を運慶と慶康でそれぞれが造り(高さ9m)剝ぎ合わせる・・とぴったりの仏像!がの場面は読んでるこちらも、ドキドキ。見てみたい!のですが、兵火で消失したそうです。
なぜ運慶が卓越した仏師になりえたのか。仏像と言うものは技巧的に素晴らしい作品である、という以前に信仰の対象でなくてはならない。ひたすら彫り、子供や弟子に身をもって技を伝える。大好きな空也像を運慶の息子、康勝が仕上げた場面が登場したのも、感激でした。運慶が時政や和田氏に依頼された仏像を観て廻りたい。できることなら年代を追って・・。
2016年発売、梓澤要さんの作品。歴史小説を数多く執筆され、本作品で中山義秀文学賞受賞。
(文・川口 紀子)
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