【エッセイ】膜
何をするにも、薄い膜に覆われている。
透明な、目には見えない膜が、私をすっぽり包んでいる。
その膜のせいで、何を聞いても、何を見ても、何を体験しても、どこか他人事のような気持ちで、自分の奥深くまでは入ってこない。痛みも寒さも、表面上の感触にすぎない。
笑っていても、誰が笑っているのか。頬の筋肉を動かし、息を絶え絶えに吐き、腹を震わせるのは、誰がしているのか。
もはや自分がしていることですら、どこかフィクションだ。
どうしたら「私」は突き動かされるのだろう。
どうしたら「私」は自分の手足で何かをすることができるのだろう。
あらゆる刺激には、膜を乗り越えてもらわないといけない。
けれど、膜を乗り越えたこちら側には、一体何があるのだろう。
私の核みたいなものだろうか。いや、そんなの、自覚したことない。
仮に私の核なるものがあるとして、そこに何かが触れるのは、ちょっと……いや結構怖い。それはたぶん、「私」の変貌を意味する。
だから今日も、膜の中にこもって生きる。
なんとなく息をして、心臓を拍動させて、歩いて、生きる。
初めてエッセイらしいエッセイを書いてみたが、こんなものだろうか。
午前中の気だるい頭は、まさに膜に覆われた状態そのものだ。膜は、少し普段より厚いかもしれない。
今ならナイフで刺されても気づかない気がする。
そんなことはたぶん、ないのだけど。
膜に包まれた「何か」が、今日も息をしている。
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