オートバイのある風景8 E尾のCBR400Fと星型コムスター
学生時代、僕は彼女に会うため頻繁に静岡に帰っていたのだが、さすがに毎週とはいかず何週かおきに帰って来て、ついでにというわけでは無いけれど幼馴染みでもあるバイク仲間と地元の峠道を走り回っていた。
その週末もそんな感じで実家に帰っていたのだが、寝坊でもしたのか早朝の峠には行かず、昼過ぎに行きつけのバイク屋に顔を出した時の事である。
駐車場の隅に見慣れたバイクがある。
しかも壊れているようだ。
「E尾のCBR?!」
店の人に聞くと間違いなく幼馴染みのひとり、E尾が今朝峠で転倒したらしいのだ。安否を伺うと怪我はほとんどしていないらしい。
この頃は峠にもライダーが本当に沢山集まっていて、毎週末どこかのコーナーで誰かが転んでいるという状況だった。それは今日のように仲間だったり、知らない奴だったり、前の週に僕をぶっちぎった速い奴が次の週に事故で亡くなっていた、なんて話も悲しいけれど実際にあった。
バリバリ伝説の最終回だったと思うが
「郡のように速く走りたかった。秀吉のように死んでもいいと思った」
という想いが、現実にあった時代なのである。
E尾が無事だと分かった僕はマジマジと奴のバイクを見た。
ホンダCBR400F
僕のCBXの後継機種だ。エンジンの基本は同じだが車体の構成もデザインも全く違う、新しいバイクである。
「廃車だよ」
後ろから声を掛けられた。店長で僕らの兄貴分的な存在のSさんだ。
「フレームが逝っちゃって、エンジンが横にずれちゃってる」
「そーなんスか」
僕はそう言いながらまだバイクを見ていた。確かに、派手に壊れているわけではないのだけれど、車体全体がちょっと歪んでいるように見える。かろうじて後ろ半分が無傷と言っていい状態だった。そこでふと思った。
「このリヤホイール、CBXに付かないかなぁ」
CBRのホイールは星型のデザインがカッコよく、CBXよりワンサイズ太いタイヤが履けるのである。
そういう僕の問いにSさんも
「いけそうだなぁ」
と言って色々と確認を始めた。
で、結果CBRのホイールは僕のCBXにすんなり(フィッティングの部品には多少加工してもらったが)付いたのだ。
「おぉ」
出来上がったCBXを見て店長のSさんも感心している。
「カッコいいねぇ」
もちろん僕も大満足である。
リヤホイールを外され不自然な姿で佇むE尾のCBRを見て僕は、このバイクとの思い出を振り返っていた。お互いの彼女を乗せ、タンデム2台でツーリングに行った事、当時バイクには装備されていなかったハザードランプを付けるのに二人で夜中までバイクをいじった事…。
E尾のライディングフォームは独特で、長い手足でバイクを操りコーナーの入り口から出口まで誰よりも長いこと路面に膝を擦りつけるのだった。ダイネーゼのバンクセンサー、音が派手だったもんなぁ。
「E尾、お前のホイールとタイヤ、ついでにハンドルバーも使わせてもらうぜ。カッコよくなったろう?俺のCBX…」
あ!
いかんいかん、あいつ生きてるんだっけ
後であいつん家行って断り入れなきゃ。
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