オートバイのある風景 26 カワサキW650
99年式のXLH883に乗り始めて5年ほどが経っていた。
キャンプツーリングや近場のカフェまでのチョイ乗りに、それから古着も交えたアメカジなど僕のライフスタイルに合っていてこれからもずっと乗っていくんだろうなと思っていたスポーツスターだったが、どうも近頃すっきりしない。今まではクラッチを繋いだ瞬間から笑えるほど楽しかったこのバイクから、そういった感覚が伝わって来ないのである。
これには幾つかの理由が考えられた。まずは自分の体力、体格である。ここ最近健康のためにとダイエットを始めて体重が65kgくらいに落ち着いていた。どこかで読んだ「自分に合ったバイクの車格」という記事で体重の3倍までが容易にコントロール出来る目安という数字を思い出していた。なるほど、車重220kgちょっとの883である。以前の体重72kgくらいなら許容範囲だが、65kgだと少しキツイのか、ふむふむ。体力も年齢相応に下降気味で、それをカバーする技術も無いとすればここで無理をすべきでは無いのかも。
それから巷で見かける「ハーレーダヴィッドソン」に少々食傷気味だった事もある。ツーリング先で見かける爆音の集団にもいい印象は持てないし、少しハーレーダヴィッドソンから距離を置きたくなっていたのは事実である。もう一度オーソドックスなロードスポーツに乗りたいなぁ、トライアンフかW650あたりも良さそうだな。
そんな事を考えていたら、お世話になっているお店の常連さんがスポーツスターを探していると聞いた。そして1972年式のヤマハXS650Eを手放すとも。早速その常連さんと商談という事になり、XSにも試乗させてもらった。その時点で僕はSR400も所有していたが、シングルとは違うジェントルでかつパンチのあるXSに僕の心はだいぶ傾き始めていた。しかし、スポーツスターと交換の場合の追金やロングツーリングにおける信頼性などいろんな面で最終的な折り合いがつかず、スポーツスターはその常連さんに譲り、その資金で僕は以前から気になっていたカワサキのW650に乗り換える事にしたのだった。
W650は発表された1999年に僕の後輩が新車で購入し、一緒にツーリングにも行き試乗させてもらっていた。当時僕はハーレーのFXDX1450に乗っていたが、それでもW650に好印象を持っていたので念願叶っての乗り換えという事になる。なるべくノーマルで乗りたいと思っていたので、カラーリングなどが好みだった2005年のクロームバージョンに絞って探す事にした。
条件に合うW650はその時点で全国に数台が中古車情報に載っていた。中でも程度、予算、お店の信頼性などから宮城県のとあるショップの一台に問い合わせの連絡をしたところ、そちらは地域密着の商売をしていて遠方への通販は対応しないとの事。なるほど、お店の経営理念としても素晴らしい。こうなるとどうしてもこのお店で購入したいとなるのが僕の悪い癖で、直接お店に伺います、納車も店頭でお願いしますと頼み込んだのだった。
初回の訪問は3月下旬。静岡から夜行長距離バスを乗り継ぎ、明け方の仙台に到着した僕は駅近のサウナで時間を潰しそのお店を訪問した。やぁやぁ、遠路はるばるようこそと商談は進み、4月下旬の納車という事で話はまとまった。
待つ事約3週間、無事静岡ナンバーも届き最終チェックも済みましたと連絡をもらった僕は新幹線に飛び乗り仙台に向かった。お店に着くのは夕方16時くらいになりそうだったので、僕は新幹線での移動中に蔵王は青根温泉の旅館に予約を入れ、納車は温泉ツーリングと洒落込む事にした。レトロな雰囲気のあるW650で温泉旅館に乗り付けたらきっと絵になるに違いない。
バイクを受け取った僕は早速青根温泉に向けてバイクを走らせた。折しも翌日は蔵王スカイラインの開通日、雪の回廊をバイクで走るのも乙なものである。温泉旅館の露天風呂で足を伸ばしふかふかの布団に潜り込んだ僕は、今まで散々キャンプにこだわってツーリングして来たのはなんだったんだろうと、そんな事を考えながら眠りに就くのだった。