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2023邦楽個人的名盤10選
私が住む北海道の冬は、硬質で、つん裂くような痛さを帯びている。ただ夜、虫も獣も居なくなり人間も眠りについた冬の夜は、反対に不思議な暖かさを含んでいる。あまりの静けさが、孤独を、優しく抱いてくれている気がする。
思えば私が好きなアルバムはその多くが冬を連想させる。風のように鋭いギターやノイズが走り、雪崩れのように性急に転がり出したかと思えば、しんしんと降り積もる雪で温かく包み込んでくれる。今回紹介するアルバムにも、そのような要素が含まれているかもしれない。
①『SPERIOR』/Lilles and remains
やっぱり私はポストパンクが好きだと再確認させてくれたアルバム。前作が2014年だっただけに待望中の待望であった今作は、ノイジーで幻想的なサウンドに、性急なリズムとメロウな電子音が乗る、まさに私が大好物なポストパンクを体現していた。前作よりもサウンドやギターの音質が好みで、邦ロックの中では生涯ベスト級かもしれない。
お気に入りナンバー
…falling 聴きやすさ☆☆☆ 甘さ☆☆☆
…forcus on your breath スルメ☆☆☆
②馬/betcover!!
冒頭、昭和歌謡のような歌い方で死ぬほど歪んだ曲が続いたため頭がグラグラした。『告白』が1番好きなのだが、あの感じはもう二度とやってくれない事がよく分かった。ただ毎回「これはこれでいいな」という方向を提示してくれるのが彼なのだ。何というか、オルタナティブな寺尾聰を聞かされたようだった。ラテン調、ジャジーなノリに歌謡テイスト、ファンクやR&Bの雰囲気が漂うジャンルレスさ。正直、評価が高かった前作『時間』より聴いてる。
お気に入りナンバー
…不滅の国 R&B・ソウル好きに ☆☆☆
…火祭りの踊り ファンク好きに ☆☆☆
③Here I Stand/揺らぎ
シューゲイザー人気の復興を担ってほしい次世代バンドの2nd。静と動のバランスが素晴らしく、全曲通して聴く価値がある作品だ。浮遊感あるボーカルとノイズ・ディレイのバランスに磨きがかかっているように感じた。やっぱりシューゲイザーって良い。
お気に入りナンバー
…falling スローで壮大なロックソング ☆☆☆
④一夜のペーソス/Lamp
往年のシティポップ・アイドルソングを漂わせながら、アンビエントでジャンルレスな一枚。特に長いギターソロやhiphop的なビートが印象的で、何度聞いても涼しげな秋風を浴びた気分になれる。ネオソウルにJPOPを足して色んなものとの境界を曖昧にした感じ。つまり、最高。
お気に入りナンバー
…ふゆのひ ギターソロ ☆☆☆
…古いノート イントロ☆☆☆ 美メロ☆☆☆
⑤no public sounds/君島大空
人間の心の機微を感じさせる、エレクトロニックで感傷的なアルバム。綺麗に構築された美しさでは無く、偶発的で運命的な美しさを感じさせる。理路整然とした思考回路やストーリーではなく、ぐるぐる深みにはまっていく思想や精神の危うさを体現したようなアルバムだ。
お気に入りナンバー
…諦観 ドリームポップ成分 ☆☆☆
…沈む体は空へ溢れて プログレ・シューゲイザー成分 ☆☆☆
⑥Ol' fashion blends/CBS
R&Bアーティスト顔負けの浮遊感たっぷりなビート・サウンドに太いドラムと骨太な声が乗る。とにかく渋くて90年代の雰囲気を感じさせるが、ビートは今らしいジャンルレスなサウンドにブラッシュアップされている。big poppaをweekendが編曲した的な…(雑な例えで申し訳ない)過去作と比べてもこの路線が1番私好みだと感じた。
お気に入りナンバー
…Don't push あの頃のhiphop好きへ ☆☆☆
…Stay gold ソウル好きへ ☆☆☆
⑦異空/BUCK-TICK
ゴス、ポストパンク、インダストリアルの間を行ったり来たりする中でV系の美学をギュッと詰め込んだような欲張りアルバム。途中、歌詞が歌詞すぎて、またメロディも強すぎて、頭がクラクラしてくる。心の奥底の中二病が疼く名盤だ。
お気に入りナンバー
…さよならシェルター バラードロック ☆☆☆
…名もなきわたし 美メロポストパンク ☆☆☆
⑧Loves and Cluts/yahyel
この手のビートミュージックにしては聴きやすく、盛り上がりもあり、個人的にはギターがうるさくて楽しめた。暗く幽玄な雰囲気の中に情動的なロック、ソウルが呼び起こされる不思議な一枚だ。今までよりもさらにポップで、さらに色々なジャンルを取り込む事に成功していて、アンビエントR&B的なジャンルに苦手意識のある人も絶対に楽しめるアルバムだろう。
お気に入りナンバー
…highway 踊れる☆☆☆
…sheep ロック好きへ☆☆☆
⑨8/ROTH BART BARON
様々な形のポップソングが次々と続く良いアルバムだ。シンセポップからソウル、インディーロックなど、ジャンルを様々横断するが、柔らかく緩めな雰囲気と思わずスキップしたくなるノリが一貫して共通している。存在しない子供時代の思い出が呼び起こされるような気がしてくる。
お気に入りナンバー…BLOW
⑩東京時代/TOCCHI
TOCCHIは地元が北海道のラッパーで、どこか親近感と憧れを感じさせる、大好きなアーティストだ。個人的な意見だが、北海道民の脳内地図において、内地(本州)と道内の間にある津軽海峡は、ただの海峡、間にある海といった以上の意味を持っている。別の世界への入り口が大きく隔たっているような感覚。進路を決める時、就職するとき、結婚する時、一生ついて回る土着の感覚だ。TOCCHIというアーティストは、そんな私が勝手に感じている土着の縛りプレイに、全く関係無い場所にいる。それは彼が拠点を沖縄に置いているということ以上に、日本一周をしながら各地のラッパーと曲を作るなど、流動的で、「戯遊詩人」とでも呼びたくなるような生活を送っているからか。とにかく彼の曲は、私の人生を縛る凝り固まった考え方を柔らかくほぐしてくれる。このアルバムも、そんな彼の「戯遊詩人」ぶりがよく感じられる。