![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/153651333/rectangle_large_type_2_c814f82cb2ece981ad31723ad953f0f9.png?width=1200)
孤独に戦う人の|ラストマイル
話題のラストマイルを見てきました。
ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」ともに未視聴です。
※上映中の作品のネタバレを含みますのでご注意ください
友人の「屋形船でもんじゃ食べよう」の一言がキッカケで、ラストマイルを見にいってきました。ドラマは気になっていたもののみたことはなく、映画だけでも行けるかわからなかったのですが、なんとかなると思っていきました。
前評判もあらすじもCMも予告編も見ずにふらっとレイトショーで見に行った本作。
自分にとってものすごく刺さる作品となりました。
この物語って、結局のところ優しい話ではないんですよね。どちらかと言うと無情で、ともすれば冷たいお話。
痛烈な社会的批判が入っていて、満島ひかりさん演じる舟渡エレナ、阿部サダオさん演じる八木竜平の会社と現場の板挟みが本当に見ていてしんどかった。
爆弾事件が発生し、物流を止めないと人命が危ない。
けれどそれでは会社の利益を損なってしまう。その責任は?現場の訴えは?わかってるんですよ、わかってるんです現場の言いたいこと。でも会社としては止めてはいけない。利益にならないから。それをずっと「すべてはお客様のため」その言葉で塞ぐんです。
それ自体は間違いじゃない。
間違いじゃないからこそ、やるせない。
自分の話をします。フェイク入れますが、ここ最近人に指示をする立場になって、より経営層に近い目線で判断をしていかないといけない職種になりました。現場の叩き上げでビジネスのことなんてわからない自分が、いかに会社の利益になるように動き、判断をするか。毎日が苦しいです。
エレナが梨本に聞いた「なんで配送料は買い叩くの?」「なんで注文は止めちゃいけないの?」の問いかけはまさしくそれで、現場の言いたいことはわかる。けれどその判断は会社のためにならない、より長期的に見て、利益として良くないにつながる。だから現場の声は聞いてあげられない。
けれどその判断に根拠はない。根拠も証拠も未来にあるから示すことができないけど現場にはそう伝えて飲み込んでもらわないといけない。
だからこそ山﨑のロッカーの前で涙をこぼすエレナと共に胸がいっぱいになってしまいました。
一人がどんなに苦しんでも会社って動かないんですよ。悲しいことに。
現場のことを考えて、ユーザーのことを考えて、悩んで苦しんだって、会社って容易なことでは変わらない。とくにデリファスのような大きな企業では難しい。
それって社会も一緒で、一人が声をあげた苦しみが、一人が耐えた悲しみが社会を変えることはほとんどないです。奇跡のような確率じゃないと無理です。
だって山﨑が飛び降りたって、会社は何も変わらなかった。現場を知って、足掻いて進んだ先に投じた一石なのかも知れない。それでも揺れた水面は隠れてしまった。
身近な話にすると、会社を辞めたって、その会社が潰れることはないし、誰かが困ることはない。私たちが生きている社会ってそういうシステムの中にあって、でもその中で真剣に苦しんで悩んでいくのってすごく無情だなと。
声を上げた山﨑、その声を伝え続けたカリナ、その声に耳を傾けたエレナ。耳を塞いだ五十嵐。そのどの選択もきっと間違いじゃない。でもどの選択をしたって、会社も社会も変わらない。変わらなかった。だからこその爆弾事件。
誰もが孤独に戦って、疲弊し、苦しんでいく。働く人はみんなそうだと言うし、言われると思う。
変えることができない会社の中で、自分ってなんだろう、なんのためにいるんだろうと自己肯定感がどんどん削られていく。社会にとって取るに足らない人間で、会社にとっては変えの効く人間で、それでも真剣に会社のことを考える意味ってあるのかなと。
考えるのは辞めてもいいし、続けてもいい、どの選択も正しい。あやふやのまま自分に自分を指し示すラベルだけが増えていく。自分がどんどんわからなくなっていく感覚。自分の無力感がどんどん自分を透明にする。
梨本がエレナに「あなたは誰だ」と言う問いにエレナが答えなかったのが悲しい。でもきっとエレナ自身も答えがなかったんだろうなと思う。
基本的に何も変えられないこの物語で、八木の訴え、エレナの手回しで羊急便は動きました。それは本当にすごいことで、八木はきっと報われたんだろうなって。
奇跡が起きる羊急便と変わらないデリファス。二つの対比が切ないです。
途中自暴自棄になる八木のことも痛いほどわかるし苦しかった。少しだけ見えた希望、すごく微々たるものだけどそれでも動いた奇跡はきっと誇っていい。
配達員の親子、息子が「給料が半分になっても休憩10分で、1日200件の配達。そうやってたようちゃんは死んだ」この台詞がずっと頭にあって、それでも少しでも改善が見えたのが嬉しかった。それくらい今回の動きって大きいなって。
社会も会社も大きくは変わらない。
これだけ大騒動を起こしまとめたエレナが会社を辞めたところで、きっとデリファスは大きくは変わらない。
この後センター長になる梨本はこの先エレナが感じた無常感・無力感をより感じるだろうと思う。身をもって知ってくんですよ。
誰しもが孤独に戦い、苦しむ物語で、平等に時間だけが過ぎる。
何も変わらない社会の中で、足掻く人にとってなんて冷たい物語なんだ。そう思うかも知れない。
エンディングはすごく寂しくて、事件解決の明るい大団円の裏にうっすらと変わらない社会に対しての悲しみを感じる。そんな中に米津玄師さんの主題歌が流れてくる。
この主題歌、すごいですね。壊れたままでも、マイノリティでもなんでもいい、そこにいていいっていう曲なんですよ。
苦しんでいい、何も変えられなくていい、何もできないかも知れない。でもそんな自分でもこの社会の中にいていいよって曲なんです。
エンディングが流れて、おまけもなく余韻の中で、足掻いてもそう簡単に社会は変わらないよという現実を突きつけてくる作品があることすら、きっと悪いことではなくて、あっていいんだと思わせてくれました。
曲も込みで一つの作品なんでしょうね。
すごい作品です。
社会も会社も簡単に変わらないし、変えられない。あなたが苦しんでも苦しまなくても、社会にとっては取るに足らないことかも知れない。そんな存在がこの物語で描かれていて、最後の主題歌でそんな存在でもこの社会にいていいよっていってくるんです。
救われたと言うより「あ、いいんだ」とすんなり心に落ちてくるよな感覚。
今の自分にとってすごくいいなと思える作品でした。
物語として、すごく丁寧に貼られた伏線。
すべての台詞が伏線になっているのかというくらい、どんどん繋がっていくことに終始アハ体験みたいになってて、どんどんのめり込みました。
すごい構成力。圧巻です。そしてこういうの大好きです。
ドラマメンバーが出てくるシーンはわかるけど、見てないので見た方はまた別の見え方をするのかな。それを踏まえてドラマを見るのが今から楽しみです。
ここ最近、新しくできた友人たちとうまく付き合えなくて関係を断ち切ってしまったり、お仕事がうまくいかなかったり、ずっと体調を崩してたりと散々だったんですが、自分が社会を、人を変えることなんてできないよと突きつけられたと同時に、それでも苦しんでたっていいよって言ってもらえた気分です。
矛盾してるなと思うけど、それでいいかなと。
またドラマをみたらもう一度映画を見ようと思います。