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【総集編】国有林を民間に開放するべきか?「再訂 林政学概要」編

3日前に著:島田錦蔵の「再訂 林政学概要」に記載されている国有林の章が一通り紹介し終わった。一部残しているが、それは本日書いていく。

今回の国有林シリーズを開始したのは、私自身が国有林の勉強を重ねていなかったので、勉強のつもりで紹介していた。その際にとても深いコメントをくださった方々には感謝しかない。

国有林シリーズは、また別の書物資料を参考に続けていくが、今回は総集編として一区切りをつける。大筋は以前までの記事なので、もし毎度読んでくださったかたがいるならば、ページをバックしてもらっても構わない。ただ、もちろん最後まで読んでくれるのは嬉しい。

森林は大きく4種類に分けることが出来る

一冊の教科書を開いている。私が卒業した森林政策学研究室を立ち上げた島田錦蔵先生が書かれた『再訂 林政学概要』だ。本書は1965年に初版がでて、いま読んでいるのは第4版の1973年に発行されたものだ。その中の81ページから森林の所有権について書かれている。

そもそも森林の所有権を整理するとまず2種類に分かれる。その後4種類に分かれ、最終的には7種類に分類することが出来る。

スライド1

この図では4種類まで記載している。まず、国有林と民有林に分かれる。その後民有林は、都道府県や市町村が所有する公有林、神社・寺が所有する社寺有林、それと個人が所有する私有林の3種類に分類される。公有林が都道府県有林、市町村有林、財産区有林に分類され、私有林が個人有林、社有林(会社保有)に分類される。

今回はこのうちの、国が所有する国有林を民間に開放、つまり市場経済にゆだねるべきかどうかを、この書籍から紹介する。

国有林を開放する根拠

国有林を市場経済にゆだねるべきかを強く言い出したのは、アダムスミスの国富論に触発された欧州の財政学者であった。きっかけはフランス革命で、国有林の経営状況が悪化していることが明らかになったことだった。国有林の経営状況が悪化している理由はひとえに、全体の木材価格が下落したからであった。
一方で、当時人口増加が起きており、市民たちの食料が不足している状況が長く続き、森林を開墾することで食糧不足を解決しようとする流れがあった。

しかし、最大の理由としては、国家財政が厳しい状況であった国が少しでも森林資産を売却することで、借金(国債)を減らそうと考えた。また、民間に売却することで、土地の税収を増加が見込めると考えた。一石二鳥の考えだ。
ただ、木材価格の下落が経営悪化の理由であることから、民間事業者らは国有林を購入しなかった。

日本でも国有林を開放するべきといわれたことがあるらしい。それは20世紀はじめの昭和の農業恐慌の際に、東北経済を打撃受けたのが、国有林が多いからだといったらしい。(農業恐慌の原因は冷害だった)たしかに国有林の分布をみると東北地域、北海道が多い。
この論調は農政学者によって一定の支持を得たが、国有林は地元施設であるとして抑え込んだ。

実際はどうだったのか?

日本では一定の支持を得たそうだが、先述した通り最終的には民間に開放されなかった。

欧州でも国有林が解放されることはなかった。それはもちろん国有林を民間に開放しない国有林保存論者が論理を展開したからであった。国有林経営、国家経営が不安定だったからである。しかし、国有林が解放されることは少なかった。欧州では民間の購買力が低かったからであり。

国有林を民間に開放するべきでない6つの根拠

一時、国有林開放論が世論の主流となったが、この本が書かれている当時の理論では国有林を民間に開放するべきではない6つの根拠が示されていた。そして当時は、保存論というべき論調が正しかった。

経営性質の特徴

これは森林経営の特徴になる。森林経営を農業経営と同じ面積で比べたとき、投入する資本と労働力は森林経営の方が少ない。なぜなら森林は人手がなくても成長する期間がある。民間経営であれば投資した分リターンを期待するが、そもそも投資量の限界が農業に比べ、小さいからだ。
例えば50年間あったとして、農業は毎年投資したとして収穫が50回あるが、林業は最初の数年は毎年かもしれないが、以降は数年に一度であり、収穫は1回のみとなる。つまり農業に比べ営利向きではない。

計画の長期性

森林経営の計画には長期性が求められる。下の記事でも軽く触れているし、前の項目でもそれがわかるだろう。それに耐えるには、寿命が短い民間ではなく、寿命が長い、もしくは崩壊しない国家が適任であるとした。

需給調整

樹木の成長には、長期間が必要だ。したがって、一度森林資源が枯渇すれば、回復には長い年月がかかる。まさにそれは70年前戦争によって、はげ山となった国土をみどり豊かな状態までに回復するのが70年もかかったように。
回復に長期間必要するからこそ、長期的な視野が持てる国有林が需給調整をするべきとした。

国土保全

ご存知の方が多いかわからないが、林野庁が公表しているデータによると日本の森林面積は約2500万㏊で国土の67%を占めている。そして森林が存在しているところは、その大半が山間部で斜面が多い。樹木は土壌に根を張ることで、その土地の土壌を固定化してくれる。雨が降った際などは土壌を麓までに流すことは裸地より少なくなる。これらの森林の機能は公共性が高いため、森林を国有とすべきとした。

リーダー性

国有林は民有林の模範的存在であれ。林業は生産に長期間かかり、民間では実証実験が多く重ねられないため、率先して国有林が実証実験を繰り返すことが重要になる。そこで得られた結果をもとに民有林の経営指導をするべきと考えれた。
だからこそ森林経営は外注することなく、直営で行うことでその結果に対して真摯になれるとした。

国家財政

当時から国家財政を支えるものとして、第一次産業だけではなく、第二次産業が登場したことで、国有林の収入が国家財政を占める割合が低下した。しかし、江戸時代の土佐藩、秋田藩など封建国家の時代には、国家財政の主要財源となった時代もある。
とここで書いて思ったのが、国有林は国家の収入として少々を特殊なものではないか?財務省が公表しているデータによると国家の収入の大半は税金もしくは、国債(国家が日銀にしている借金)になる。その中で国家が商売しているのは珍しいと考える、ここは今後深掘りしていく。

国有林保存論の5つの注意点

だからといって全て国有林にするべきではないとした。なぜなら当時の農民が活用する森林=百姓林の存在は、薪や用材の採取を行ったり農民の生活上必須なものであった。では国有林と民有林のバランスはどうあるべきかと注意点5つが上げられた。もっというと国有林とはどういった土地条件を持ち合わせているのかを書いたものだ。そして、条件に当てはまらなかったものは民有林にしても大丈夫だった。

①国土保安上重要な林地は買い上げるか、もしくは交換により国有とすること。つまり、権力で押収することはないようにすること。

②現在は国有であるが、国有林の経営上必要でない林地、もしくは農業に適している土地で荒れ民有に開放し、有効活用できる状態にする。

③国有と民有が混在している箇所は、管理コストがかかるため境界を整理すること。

④国有で小面積の箇所は経営上不便であることが多いため、民間に開放して有効活用できる状態にする。

⑤国有林経営としてあってもなくても問題ないが、民間に開放されることで、地元住民の生活などに不利益が出る際は開放しないこと。たとえば伐採される災害が頻発する林地などがあるだろう。
以上5点になるが、どれも国民の生活を考えて、国有とすべきだそうだ。

次回へ向けて

次回の国有林シリーズは、半田先生の林政学、遠藤先生の現代森林政策学とかを参考に紹介したいと思う。

本日も読んでくださりありがとうございました。

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