【起業ハウツー】一戸建て賃貸のススメ(その1)
ご挨拶
はじめまして、不動産賃貸業者のHKと申します。
私の記事は、新規起業者のうち「一戸建て賃貸」を生業としたい人を対象に発信していきますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
本編7回及び続編13回の合計20回の連載は「読みきり」であり、おかしな誘導やコンサルティングは一切ないことを申し上げます。
読者へのメッセージ
起業カテゴリーの読者層には、起業したいものの、どこから始めたらよいのかわからない人がおられると思います。
また、起業に興味はあるけども、先行した起業者の生の声を聞いてみたいという人もいると思います。
この記事へクリックなさった読者は、一戸建て賃貸に御縁がある目利きだと、私は感じ入りました。
私の記事はテキストの量が多くなるのですが、カッコ書きをせずに、一読たどり読みとなるよう記してまいります。また、見慣れぬ言葉も出てくるものの、なるべくリンクを貼り、都度見直せるように書いてまいります。
連載のテーマ
これから、私の生業としている「一戸建て賃貸」について、起業者を対象として書き下ろします。
読者は自らの起業のために、本編7回を通しで読み終わった時、何から取り組むのかをご理解いただき、スッキリと頭が整理されている状態になっていただければ、一戸建て賃貸の尖兵として、とても有難く存じます。
その意味で、ハウ・ツー記事ではなく、ホワット・ツー記事をご覧いただくことになるでしょう。
記事にする地域は北海道旭川市ですが、一戸建て賃貸業として、東日本で共通するスキルとなるので、読後はご自分の地域にあてはめていただき、何かと試していただきたいと存じます。
あいにく、西日本では積雪が少なく建物構造や生活習慣が異なるものですから、あてはめが難しいことを予めご承知おきください。
あらためて申し上げますが、私の記事のテーマは、読者の知識を広げ理解力を深めて「一戸建て賃貸」を明らかにすることにあります。
賃貸物件の概要
未知の業界に触れるとき、まずは全体を理解する必要があります。
もし全体を把握していないと、いちいち個別の事象に捉われてしまい、全体像を掴むことが叶わないからです。
幸い、不動産賃貸業は、データが蓄積されており、各方面から数的資料をダウンロードすることができるので、全体を容易に数値化できます。
空き家数
まず、空き家の実態について、上の表により説明します。
令和5年住宅・土地統計調査住宅数概数集計(DL)によると、全国の空き家は900万戸となり、5年前(849万戸)と比べ、51万戸の増加で過去最多となっています。また、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%と、5年前(13.6%)から0.2ポイント上昇し、過去最高となっています。
空き家数のうち、「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万戸と、5年前(349万戸)と比べ、37万戸の増加となっており、総住宅数に占める割合は5.9%となっています。
ざっくり推計すると、16軒のうち1軒は放置されている空き家となっており、増加傾向にあることがわかりました。
賃貸物件数
つぎに、不動産賃貸業の動向について把握します。
大手賃貸サイトSUUMOの公表データを、旭川市の人口動向にあてはめて数値化してみます。令和5年12月末の「アパート」の物件数は26,114件ありました。
他方、旭川市の20~39歳の人口は54,990人なので、当該年齢を潜在需要とすると指数0.474となります。さらに、令和5年の全転入者は10,235人なので、指数2.551となります。
要は、1市の指数としてではなく、北海道内の他市と同様の指数を算出して比較することで、「アパート」について旭川市が著しい供給過剰に陥っていることがわかりました。
少子高齢化のため新規需要が少なくなることから、さらに供給過剰は続くことが見込まれます。
供給過剰の構成
旭川市において、供給過剰はどのような物件なのでしょうか。
SUUMOの物件情報を個別に確認したところ、「アパート」はワンルーム乃至2LDKの募集が多く、2万円を切っていても空室の多い物件が散見されました。
公表されているスナップ写真は、古かったり水回りがショボかったりと、わざわざ引っ越してまで住みたい部屋とは感じられない物件も目立ち、安いからと引っ越しする時代ではないと考えられます。
また、高額な物件も芋づる式に空室のところがあり、初期費用や賃貸条件が厳しいものとなっています。
なお、引っ越し代金が高止まりしているため、容易には引っ越しできず、旭川市内で転居する流動性も低下していると思われます。
あわせて、世帯用の3~4LDKはごく少なく、特に一戸建ては僅少であることが判明しました。
供給過剰の原因
なぜ、旭川市において供給過剰の状態が続いているでしょうか。
ワンルーム乃至2LDKは、有効需要が限られているにもかかわらず、サブリース等の安易な特定転貸借を前提に、市場調査抜きで続々と建築されているからだと結論します。
なるほど、真新しいアパートならば新築を売りにして豪気な条件でも成約できるでしょう。しかし、3年目以降売りポイントは損耗するので、それらは家賃、初期費用及び退去費用が高額なアパートに早変わりしてしまいます。
せっかくの新築アパートも、時間とともに空室が増え、さらにオーナーは10年経てば一括借り上げ料金が減額されて収入が低下するので、空室をどうしたら良いのかわからなくなります。
いまやサブリースは「誰得」な状況に陥っていると推し量れます。
その点を差し引くと、供給過剰となっているアパートの多くは、経年劣化物件が市場に溢れていると読み取れます。むろん、立地が良い物件や高設備で割安な物件にはほぼ空きがありません。
儲からないアパート賃貸
通常のコンサルティング手法では、この辺りで儲かっている経営者を引き合いに出して、こうしましょうみたいなことを言うのですが、もう少しアパート賃貸について稿を重ねます。
理由は、読者が不動産賃貸業を選んだとき、なぜアパート賃貸でなく、どうして一戸建て賃貸なのかを明確に主張できるようになるためです。
さて、かのマキャベリは「天国に行くのに最も有効な方法は、地獄への道を熟知することである」と述べ、その言葉をこの事業にあてはめてみると、「儲かるアパート賃貸を行うのに最も有効な方法は、儲からないアパート賃貸について熟知することである」となります。
したがって、賃貸不動産にコミットする前に、まず「儲からないアパート賃貸」についてしっかり見極めをいたしたい。
こういう場合、儲からない経営者の代名詞のように使われる人物を挙げるのがわかりやすく、それは某社に特定転貸借したオーナーです。
世にサブリースの問題点が明るみになる以前から、すでに多数のオーナーは苦境に陥っており、大損した儲からない経営者の典型といえるでしょう。
なにしろ、先祖伝来の土地にアパートを建てたばかりに、約10年後に手放さざる得ない状況に追い詰められた話は、枚挙にいとまがありません。
なぜアパート賃貸は儲からないのか
では、サブリース会社が何をしたというのでしょうか。
いまでは広く知られていますが、土地の所有者に営業マンを差し向け、一括借り上げで安心させて、理論だけの収支計画を説明し、性急にアパートの建築契約を結び、フルスペックローンを組ませたのです。
約10年後、サブリース会社はアパートの借上げ保証額を一方的に更改して借上代金を減額するものの、特定賃貸借契約の条項どおりのため、オーナーは融資返済に窮して任意売却という退場パターンとなるのです。
私は、某社のアパートシリーズは建物の品質に問題があり、6~8万円でリーシングできるような物件ではないと思っています。
ゆえに、入居者目線では初期費用が異常に高く感じられ、入居条件である保証加入と管理必須が入居者の負担を押し上げた、立地と新築以外にアピールポイントがない、金太郎飴的アパートとして眼に映るのではないでしょうか。だからこそ、入居者に選択されず、数年経てば芋づる式に空室となっていると考えられます。
実は、建築代金の割高感が、理論上の想定家賃を押し上げています。
そこからの収支計画は、フルスペックローンという初期投資をすべて融資で補う資金調達により、返済計画に空室リスクが織り込まれておらず、甚だ脆弱です。
ここでは、すべて融資で賄っているため、収入に占める銀行返済額が過大となり、少しでも空室が発生するとキャッシュフローに行き詰まり、返済資金に困窮する点を指摘しておきます。
もっとも、キャッシュフローが少ないから儲からない、とは言い切れないのですが、現金商売で売上が落ちたとき、仕入れも賃金もないのに資金がショートするのはおかしい、という整理をしていただければ十分でしょう。
では一戸建て賃貸は儲かるのか
当然、一戸建て賃貸は儲かるのかという疑問が湧いてきます。
私は、読者に誤解されることを怖れるため、主観的な説明は控えさせていただき、数字のみお答えします。
その答えは「一戸建て賃貸は物件への投資総額に対して年間20%以上の収入を得ることができる」です。
例えば、(物件の取得価額120万円+修理費用120万円)×収益還元率20%=48万円という計算になり、この場合は物件を月額4万円で賃貸することで達せられます。
不動産賃貸業の全体において、収益還元率は一桁台が当たり前ですが、一戸建て賃貸の収益還元率20%以上の達成が可能です。一戸建てを月額4~5万円で借りて住む世帯は、地域にもよりますが一定数おられるためです。
一戸建て賃貸の収益還元率について、私は頭一つ出ているどころか馬身が出ていると評価しているのですが、読者には如何でしょうか。
まとめ
新規起業者へ向けて、不動産賃貸業界の概要、アパート賃貸の環境、そして一戸建て賃貸の収益還元率についてお伝えしました。
アパート賃貸というビジネスモデルが、供給過剰により過当競争に陥ってしまい、レッドオーシャンとなっていることもお伝えてできたと存じます。
さて、読者のお住まいの地域でも、SUUMOのデータと市役所のデータとを割り算して、複数の市の需給バランスが比較できることがご理解いただけたでしょうか。
もちろん、賃貸物件も人口動向も急な動きは少ないので、お好きな月末のデータで構いません。きっと、予想以上にタイトな比較ができることと存じます。
戦略を練るとき、すなわち地域の選定をするときに、どこの市の物件を探していくのか、その絞り込みに役立つでしょう。
次の稿では、空き家問題を解説し、一戸建て賃貸の事業環境について申し上げます。
つづきは(その2)