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プロローグ~本連載に込めた想い~【経営脳】1

経営とはなんでしょうか?
経営者とは?
デジタル大辞泉によると、『事業目的を達成するために、継続的・計画的に意思決定を行なって実行に移し、事業を管理・遂行すること』とあります。
続けて質問させてください。
あなたの会社の事業目的はありますか?
継続的・計画的に意思決定を行なっていますか?
実行に移せていますか?

私の職業は税理士です。独立開業してから15年が経ち、多くの経営者の方とお仕事をさせてもらいました。約300人以上の経営者のお手伝いをし、決算書作成件数は延べ3000件以上になります。中小企業の顧問先がほとんどですが、15年間、3000件の決算をして分かってきたことがあります。それは、右肩上がりの会社が圧倒的に少ないという事実。ほぼ横ばいか、右肩下がりの会社がほとんどです。横ばいでもしっかりした利益を計上できていればいいのですが、そうではない会社が多いという事実。顧問税理士として愕然としました。良くなってほしい、社長も良くなりたいと思っているのに、なかなか良くならない。

何故でしょうか?
そこにひとつのキーワードが浮かび上がってきたのです。「経営」というキーワード。
社長は自分の会社を「経営しているのか?」です。
よくよく見てみると多くの社長と呼ばれる人たちは、経営をしていないようです。もちろん毎日仕事は頑張っています。しかし、それは「経営」という仕事ではない。現場の仕事を頑張っているのです。それでは現場の仕事は動くが、会社は動かないのです。会社を動かす、良くするためには「経営」という仕事をしなければならないのです。これは社長にしかできない仕事。
さらに、この経営という仕事をどうすればいいのかを知らない社長も多い。これはある意味仕方のないことだと思います。経営を学ばずに社長になられた方が多いからです。また、経営を学ぶ場は少なく、社長になる試験などないからです。会社を作れば、誰でも明日から社長になれるのです。

私も同じでした。職業は税理士ですが、税理士になったものの、経営のことは何も知りませんでした。税金や会計のことは専門家ですが、経営については素人でした。当然です、試験科目に経営はありませんし、大学の授業でかじった程度でしたから。ところが、独立開業と同時に私もサラリーマンから税理士事務所を経営する経営者の立場になったのです。
この点は中小企業の社長であるみなさんと同じ状況でした。
そこから15年間、税理士業という事業を続けてきたわけです。税理士という専門家(現場の仕事)と事務所の経営者という二足のわらじを履くことになったのです。開業当時はスタッフ1名でスタートし、現在では10名のスタッフを抱える事務所になりましたので、まさに中小企業です。
この15年間、見よう見まねで経営というものを実行してきたひとつの成果として、私自身が税理士事務所の経営をやってみてわかった「経営」のことがあります。

15年前の2004年月に独立起業。顧問先3社からのスタートでした。それは私ひとりでの開業ではなく、最初から正社員1名を雇用した開業でした。
その正社員とは、私の前職の同僚です。彼の一緒に働きたいというその気持ちが嬉しくて、当時の顧問先3社からの収入ではとても賄いきれないけれど、彼の実務能力も高かったので何とかなるだろうと思い、二人での開業に踏み切ったのです。

ということで、まずは食っていくために仕事を増やしていかなければなりません。税理士事務所なので顧問先の獲得です。これについては最初からビジョンを持っていました。顧問先を年間10社ずつ増やしていくという目標設定です。なぜなら、1社1社を丁寧に対応していくためには、年間10社ぐらいが限度だろうと経験上考えていたからです。だから、10年で100社、翌年にはまた10社獲得していく。これを繰り返していくと10年で顧問先100社になります。このくらいの規模感の事務所になれれば、税理士事務所として「成功」の部類に入るだろうと考えていたのです。スタッフの数も10人ぐらい。また、スタッフの採用と育成も必要なので、このくらいのペースだと十分な教育をしていけると考えていました。

しかし、事業というものはそんなに甘いものではなかった。計画通りに、自分の意思通りになんて簡単にいくものではないということを思い知らされました。ある意味いい感じで裏切られたのですが、それが要因で大変な状況に陥っていくことになったのです。

当初の数年は年間10社という目標の通り顧問先数を伸ばしていました。転機となったのがインターネット集客をはじめてからでした。
当時はインターネットが今のように定着しておらず、佐賀という地方都市においては集客に耐えうるホームページを持ち、運営している税理士事務所はゼロに等しかった。佐賀県内の中小企業が税理士を探す方法は、人の紹介か電話帳などの広告に頼るしかありませんでした。東京などで事務所経営のセミナーに積極的に参加していた私は、ここに目を付け、インターネットマーケティングを仕掛けることにしたのです。

これが読み通りとなって集客が大当たりしました。破竹の勢いというのはこのこととばかり、起業時の目標である顧問先100社をあっさり突破してしまったのです。起業して10年が経過した2014年には、顧問先は200社、スタッフは10名にまで成長しました。当初私が持っていたビジョンの倍のスピードです。

顧問先が増えて売上が上がるのはいいことでしたが、この大躍進の裏で、組織は崩壊寸前まで追い詰められていきました。人手が全く足りず、スタッフを増員し続けていたのですが、彼らを育成する時間と余裕がない。組織は次第に疲弊していき退職者が続出。あっという間に入退者が激しい事務所となったのです。
しかし、仕事は待ってくれません。自分の意思とは関係なく仕事は増え続け、激務に追われ綱渡りで業務をこなしていました。本当は大成功のはずなのですが、達成感は全くなく、焦りがつのるばかりの日々を過ごしていました。当たり前ですが、受けた仕事はきっちりこなし、顧客の期待に応えなければなりません。しかし、それも限度というものがあります。カラダはひとつ、1日24時間、みな同じです。そのキャパシティをはるかに超えた仕事量。コップの水があふれ出る勢いでした。この時点で起業したときの思いを全く見失っていました。事務所の規模感も大事ですが、働くことが楽しい事務所づくりが、私のもう一つのビジョンだったのです。かつての勤務時代には叶わなかった夢でしたから、ならば、自分の事務所は仲間と楽しく仕事ができるものに作り上げていきたいと。
しかし、このビジョンは事務所の大躍進の影に次第に隠れていきました。

そしてある時、ふと思ったのです。これだけ事務所を成長させて、激務の日々を過ごすことに何の価値があるのだろうと。キャパシティを超えている以上、品質を維持し続け、顧問先へ高品質のサービスを提供していくことが厳しくなる。
そして何よりもスタッフを幸せにすることができない、楽しく仕事ができる事務所とはほど遠いところにたどり着いてしまっている...ということに気付いたのです。経営者の顧客やスタッフに対する責任や義務のようなものを感じたのです。むしろスタッフに対しては、苦労をかけすぎてしまったというような、家族に対して抱く感情に近いものがありました。

このような経験を経て、大躍進の3年後、方向性を変える決断をしました。
経営判断です。売上至上主義を捨てたのです。もう顧客は増えなくていい。今の規模を維持し、高品質のサービスを提供できる体制に整え、働いてくれるスタッフの幸せを追求していこうと。
そして、顧問先200社、スタッフ10名という当時の規模を維持したまま事務所運営を続けてきました。

しかし、それでめでたしめでたしと終わらないのが「経営」でした。
事務所の拡大は止めたけれど、それでもなかなか安定しない。取り巻く環境は、大きく変化し、ものすごいスピードで進んでいます。5年後の世界を想像できないくらいです。特にAIの進化はめざましく、ご存じの方も多いと思いますが、このAIの進化によって税理士事務所の仕事が無くなるとも言われています。すでに自動仕訳などでAIに仕事を奪われはじめています。そして慢性的な人手不足です。

さらに、環境の変化、多様化のため、顧問先から求められるものも多種多様になり複雑化を増してきているなど、それらに対応していく必要に迫られてきました。
今のままでこの時代の変化に対応していくことができるのだろうか。これからの時代、士業といえども組織の力で支援していかなければ、顧問先の成長発展に寄与していくことができないし、守っていくこともできないのではないだろうか...。
そう考えた時、私は個人事務所としての限界を感じたのです。
起業して15年目、このような環境の変化を踏まえて、経営の舵を大きく取る決断をしました。起業以来、二つ目の大きな経営判断です。
今までは顧問先を税務会計の観点からサポートしてきましたが、本当に顧問先のビジネスを支援していくためにはそれだけでは十分ではなく、法務・労務・税務・財務というすべての観点から支えることが理想です。しかし、これはひとつの士業事務所で成し遂げようとしても大変難しいことです。そこで、この理想の体制を整えるために弁護士事務所を母体とした組織と経営統合するという考えに及んだのです。

そして、2019年8月1日に経営統合をしました。実質的な事業承継です。

現在、私の年齢は49歳。一般的に事業承継には早すぎる年齢です。なぜ、この年齢で事業承継に踏み切ったのか?
それはこの15年間、顧問先の豊かな未来づくりに貢献するにはどうしたらいいのかということを、常に自分の頭で必死に考えて経営をしてきたからです。
税理士になり「事業とは何ぞや?」「経営とは何ぞや?」ということを、税理士事務所を経営して学び、税理士という士業を超えて今ようやく経営者の域に到達し、15年と1ヵ月をかけて導き出した経営判断でもあるのです。
私が誕生させ、生きて、“育て”そして“守って”きたこの税理士事務所の、この15年間の考えやあり方を次代へと継承し残していくための経営統合であり、これが経営者としての経営判断の極みではないかと考えます。

中小企業経営者の皆様は、現場仕事もあり日々多忙で、考えなければならないことは山ほどあります。そこで、皆様の会社をさらに良くしていくために、私のこれまでの経験に基づく小さなヒントがお役に立つことを心より願っています。

※本文は、私が2014年11月から開始している「ダントツ経営倶楽部」のメルマガより抜粋し、再編集したものです
※1記事ずつ読み切りですので、気になるタイトルの記事をお読みください

くもんあきひろ

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