『株式持ち合い解消の理論と実務』(神田秀樹氏)の率直な感想
・政策保有株式(以下、政策株とも)に関しては、株式市場では、コーポレートガバナンスの観点から、保有を解消すべきとの圧力が、年々高まっており、実際に上場会社の株式の持ち合いは減ってきているが、世界から日本の株式市場に注目され、投資が集まるには、一気に解消していくことが求められるところである。
・政策保有株式に関する本はあまりなく、自宅にあった、『株式持ち合い解消の理論と実務』を改めて読んでみたが、今でも通じる示唆もあった。
・なお、政策保有株式の定義は、企業が他社との営業上の関係などを構築・維持するために保有している株式のこと。
<読後感想>
・著書で、特に興味深いのは、政策株の第一の目的は、株主からの(特に痛みを伴う)提案・要求を受け、それが通るのを回避したいためであるが、その真に意味するところは、日本の経営者は、政策株という盾によって、従業員の負担(解雇や仕事内容が変わる、生産性を上げるために質・量などのハードワーク)を回避することを気にしている、そのコンフリクトのコスト抑制というポイントである。
・つまり、政策株は日本の経営姿勢、真っ当に株主を向いた経営すると言うより、従業員を向いた経営をしているという証左である可能性がある。
・そのような株式持ち合いを通じて、経営者・従業員ともに緊張感を欠いている結果として、日本のホワイトカラーはアメリカに比べ効率がきわめて悪く(一方、ブルーカラーは、アメリカと比べ組織としてうまくいっている。)、社会構造として生産性低下を犠牲にしている。
以下、著書のポイントと一部所見。
1、政策保有株式(持ち合い)の目的
(1)敵対的買収から自社を守ること
(2)安定的な取引関係の構築
(3)長期継続的取引を行う担保
(4)株主総会で決議するための議決権を集めやすくする(うまく乗り切る)ため安定株主を作る。実質的に経営者自身による議決権行使をする
・ただし、アメリカの教科書で言うエージェンシー問題の(経営者個人利
益を優先する)利益相反ではなく、従業員への負担を回避するため。
(5)含み益のある株式の益出し(による決算の補填)
(6)利益配当等による利益を得る目的
(7)相互保有株式の譲渡によって資金調達
※特に金融機関側の保有目的
(1)メインバンク制と関連する資金面支援の理由
(2)エージェンシーコストの内部化
(3)銀行離れを食い止めるため株式を発行して事業法人に保有してもらう
(4)個人がリスクを取らない(金融資産は預金に流れる)ため、銀行が株式保有をせざるを得なかった
(5)借入が返せない場合に増資を引受け借入を返済(貸出を株式に転換)
(6)銀行の大量増資の時に、銀行側が事業法人に保有して欲しかった
2、政策保有株式(持ち合い)の問題点
(1)資本の非効率な運用
(2)日本企業の閉鎖性の象徴
(3)(時価変動のある)株式保有のリスク
(4)ガバナンスの悪化
・グローバル企業は、ROEの世界なので持たない
・持ち合いによって安定的な賛成票が入ることで、経営の緊張感を欠く
(5)インサイダー情報(他の株主に比べて多い情報を取得する)
(6)相互保有により利益相反が不透明化
(7)相互保有による経営者自身の自由度の制限
(8)株主が会社に投資する理由は、他社の株に投資してもらうためでない
※特に金融機関側のリスク
(1)株式の保有が、会社の資産構成として不適切な可能性
(2)預金をバックとして融資以上にリスキーなアセットの保有
3、退職給付信託について
・資産に計上していた株式と退職給付債務がオフセットされて、B/S上では圧縮される効果、持ち合いの解消、と退職給付債務の不足を埋め合わせ、税務上は移転の益が出ない、一石三鳥の効果があった。
・退職給付「信託」には、第三者である受託者がいるが、受託者は議決権の指図は事業主から行われ、それを否定するだけの十分な根拠がなければ、ダメとは言わない。
・よって、実質的には政策保有株式には変わらない。
4、解消法案、解消策について
(1)インセンティブ(ハード、ソフト)
・持ち合い解消へのインセンティブを上げること。
・会計上や法令・規制上の強制力を持たせる
・法令: 独占禁止法などでそもそも政策株の保有を禁じる。特に、金融機関は、リスク量に応じて保有を規制で制限する(ハードリミットとして)。例えば、銀行と言う元利保証の負債で資金調達し、株式を保有することはアメリカは禁止。銀行が抱えるリスクと産業支配の危険性から法律で禁じられている。銀行が5%を超えて株式の保有ができないルールをより厳しくするなど。
・規制: 自己株式に議決権がないように、政策株は経営者が自社の議決権をコントロールしているものとみなして、議決権を行使できないようにすることで、実質的に政策株の効果を無くし、保有の意味を消失させる。
・税制: 解け合いをしたら、キャピタルゲインへの税制優遇するなど
(2)受け皿の用意
・受け皿問題として、固定の大株主がなくなった場合、誰がその株主になるかの問題がある。これまでの受け手は、外国人が多いが、個人や投資信託、年金、買取機構も期待される。機構のように、政府系組織が一括して引き受けて、徐々に市場放出していくのも一手と思われる。
・個人が保有しやすい施策を打つこと。
・ESOPの推進。
・なお、参考として、外国人持株比率が高まるとトービンのq(総資産に対しての企業価値の評価度合い)が高まり、メインバンクや個人の持株比率が高いとトービンのqに対してマイナス効果とのリサーチあり。
(3)企業側の改善
・長期・継続的取引を前提とせず、相対的にスポット的な1回1回の取引でも勝負できる能力をつけること