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54歳で再開するスト6 その16

振り返ってみると、私は常に昇竜拳から逃げていたように思う。

初代スト2の頃、私はガイルを使っていた。なぜなら、彼の必殺技はタメだったからである。あの、ややこしくもせせこましい236コマンドとか623コマンドとか41236コマンドとか、そういうしちめんどくせえ操作をせずとも、後ろにタメて前、という至ってシンプルな操作法で必殺技が出せたのである。出せたのであるっていうか今でも出せるのである。しかも斜め下にタメとけばソニックブームもサマーソルト(夏塩蹴)も両対応でタメられたわけで、そうやってタメつつ中足払いをシャカシャカ出しとけばそれだけで難攻不落の要塞のいっちょあがりというお手軽最強ナンバーワンだったのである。

スト2ダッシュだかターボだか忘れたが、その辺りの時期に、大学生だった私はバイト帰りに毎日、当時の友達だったTとゲーセンに寄っては対戦していたものだった。バイトが比較的遅い時間に終わるので、ゲーセンの閉店まではそんなに時間がなかったのだが、毎度毎度飽きもせず対戦をしていた。私はやっぱりガイルで、Tはサガットだった。勝敗はろくに覚えていないが、あんなに毎日遊んでいたのだから恐らくはいい勝負だったのだろう。そのゲーセンは閉店時間が迫ると店内BGMが南無妙法蓮華経に変わるという、なんだか高熱の時に見る悪夢のような仕様のゲーセンだったが、他のゲーセンに行ったことがなかったので当時は「変わった店だなあ」くらいにしか思っていなかったことが懐かしい。

で、その後スーファミでスト2シリーズが出た後も私はガイルばっかりだったし、30年を経てスト5で復帰したときも、「昇竜対空はしたくないからなあ・・・」という消極的理由もあってコーリンを使っていたし、スト6に参入したときも、「昇竜対空はしたくないからなあ・・・」という同じ理由でマノンを選んだという、まったくもって逃げ腰の、とにかく昇竜拳を使いたくないくせに格ゲーを遊んでいる脆弱な心の持ち主なのである。

でも、私のような人間は他にもいると思う。

だって、昇竜拳対空ってめちゃくちゃ難しいでしょ? いや、世の中にそれができる人が山ほどいることは知ってますよ? でもヨソはヨソ、ウチはウチで、延々と練習しても、やっぱり「昇竜対空できねえええええ!」ってパッドを枕に投げつけてる人も少なくないと思うんですよ。

だって、623って入れにくいでしょ? 236は回すだけだからいい。でも623は、この「6→2」という部分がいやらしい。簡単には出させないという底意地の悪さを感じさせる。そもそも、スト2以前は「前から下へ瞬時にレバーを入れる」という操作自体が未知の操作であって、それまで必要とされる場面がなかったのだから。しかもそれだけにとどまらず、「そこからさらに斜め前へレバーを入れると同時にパンチを押す」という、前代未聞のややこしさ、かつ、これらを瞬時にこなさねば昇竜拳は出ない。のんびりと「えーとまず前で、ほんで下と。次は、なになに? 斜め前とパンチ?」みたいな悠長なやり方では昇竜拳の「しょ」の字も出ないのである。

これは話がそれますが、スト2が出たばっかりの頃、説明書きに書いてあるコマンド表を見て、「ふーん、波動拳ってこうやって出すのか。ちょっとやってみるか」と、レバーを下→ニュートラル→斜め下→ニュートラル→前+パンチってやって、何度やっても出ずに、「こんなめんどくせー操作ができるか! なーにが波動拳だ! ふざくんな!」と怒った挙げ句、後輩に「いやそれってレバーを下から前に回せばいいんですよ。なにやってんすか。いちいち真ん中に戻すわけないっしょ」と笑われたことは忘れない。

で、話を戻す。

しかも、だ。厄介なことに、昇竜拳つーのは上でも書いたように「対空」に使うのが主な用途であるのだ。

ストシリーズにおいてジャンプ攻撃というのは、もうホントに強力な攻撃手段なのである。まず、相手の地上技のほとんどを無効化できる。そんで、当てればガツンとコンボを入れることができる。かつ、仮にガードされても大幅有利な状態で投げだの打撃だの択を迫れる。だからして初心者の間なんかはもうひたすらジャンプ大キックジャンプ大パンチでぴょんぴょん跳ねながら攻めまくればそれだけであっちゅーまに勝ててしまうのである。

だからストシリーズではまともな対戦をこなすためにとにかく対空というのをひたすら練習することになるのだが、当たり前なことに対空というのは「相手がジャンプしてきたら攻撃を食らう前に落とす」必要があるのである。この猶予がまた短いんだこれが。

要するに、波動拳みたいにこっちの好きなタイミングで出したり出さなかったりすることができず、昇竜拳は相手の都合に合わせて出したり出さなかったりしないといけないのである。

対戦中は相手のジャンプだけを見ているわけにはいかない。前ステから悪さをするやつもいるし、ラッシュしてくるやつもいるし、絶妙な間合いで長い技を振ってくるやつもいるし、突進技だの飛び道具だのを出してくるやつもいる。こっちはこっちで棒立ちしているわけにもいかないから、うろうろして間合いを調節したり、飛び道具を出してみたり、牽制技を振ってみたり、しゃがみガードもしてみたり、あれもこれも気にしないといけない。

まるで周囲全方向を「飛び出し注意のとびた君看板」で囲まれたような、手に汗握る一触即発の「次の瞬間には何が起こるか分からない」状態で、急に相手がジャンプしてきたとき、即座に623コマンドを入れて昇竜拳で叩き落とすというのは、まあ実に大変なことなのだ。しかも対象が相手のジャンプ攻撃だから、下手こいてしゃがみ弱パンチなんかに化けてしまうと、それだけでどでかいダメージを食らうことになったりもするのである。

とびた君

だから昇竜拳による対空というのは、「きちんとできればこれ以上のものはない最善の手段であるが、きちんとできない場合のリスクが非常に大きいので、生半可な完成度では怖くて実行できない」という実に恐ろしいテクニックなのである。

ただ、この「昇竜拳対空は難しいけれど強い」というシステムがあったからこそ、格ゲーってのは皆を魅了したのだろうな、とも思う。やっぱりゲーセンで華麗に昇竜拳対空を決めている人はカッコいい。そういうのを見れば自分もできるようになりたいと練習する。でも難しいからなかなかできるようにならない。でもがんばって練習する。そういう努力の末に身についた昇竜拳対空を衆目の中で披露するというのは大きな快感だったろうし、それを見てまた他の人も練習するということもあっただろう。

で、要するに何を言いたいかというと、「私も格ゲーをかじった人間だから昇竜拳対空はもちろん憧れではあるのだが、今まではそれをせずにすむキャラばかり使ってきたのだ」ということである。

そして、そんな私なのだが、ここに来て、ついに昇竜拳対空に正面から向き合わねばならない時が来るかもしれないのである。

なぜか? それは、不知火舞の参戦が理由である。

これらはカプコン謹製の不知火舞関連のムービーである。

思った以上にセクシー路線の不知火舞なので、「おいおいカプコン大丈夫か?」とハラハラしてしまうが、話の主眼はそこではなく、この不知火舞の対空必殺技のコマンドが623なのではないか、と私は今から恐れおののいているのである。

だから私は久々にスト6を起動して練習しようと思い立った。

ここで言う練習とは、以下の2つを指す。

1)不知火舞の対空が623コマンドだった場合に備えて、クラシック不知火舞を使用するために、ずっと避けてきた昇竜拳対空の練習をしておく。

2)不知火舞の対空が623コマンドだった場合に備えて、モダン不知火舞を使用するために、ずっと避けてきたモダン操作の練習をしておく。

そんで、まずは1番の練習をした。

もちろん私とて長年のパッド勢だからして、昇竜拳を出せと言われれば別に普通に出せる。通常技キャンセル昇竜拳みたいなコンボも、まあそれなりには出来る。スーファミ時代から昇竜拳自体の練習はそれなりにしてきているので、十字キーによる昇竜拳入力そのものには慣れているのだ。

ただそれは、「さて今から昇竜拳を出すゾ」と心構えをしていれば出せるというだけのことであり、なろうによくある、「今から入学にあたって魔法の試験をする!」みたいな感じで、

「じゃあキミ、昇竜拳を出してみたまえ」
「はい!」 ショーリューケン!
「うわ・・・あいつ、前に少し歩いてから出しやがった。セコい技だ」
「じゃあ次のキミもよろしく」
「えーっと、普通に出せばいいのかな?」 ショーリューケン!
「な、なんだと! 振り向きながら昇竜拳を出しやがった! あ、あいつはいったい何者だ(ザワザワ」
「ん? みんな騒いでるけど、俺の昇竜拳が弱すぎるってことだよな?」

というようなイメージである。

ほんで、こういう「出すぞ出すぞ」と思って出す昇竜拳つーのは、実戦の場では対空としてなかなか機能しないのである。だって相手がいつジャンプしてくるか分からないから。常に昇竜拳を身構えていればそりゃ出せるだろうが、上でも書いたように試合の場ではいつ何が起きるか分からないというか、決まって忘れた頃にジャンプしてきたりするからなかなか難しいのである。

ということだから、「昇竜拳出ねえええええ」という苦労は今の時点では特にない。しかし、いざ対空の練習となると、パッドならではの悩みというか弱点というか、パッドの方向キーというのは、「44とか66とか同じ方向を連続で押すのは楽だが、46とか64とか、反対方向へ入れるのが極度にやりにくい」のである。

これが何を意味するのかというと、「後退しながらの昇竜拳対空」というやつがべらぼうに難しいのである。他の入力デバイス、例えばアーケードスティックとかレバーレスだとどうなのかは知らない。しかし、パッドによる「後退しながらの昇竜拳対空」というのは本当に難しい。

一応なにか参考になるものはないかと思ってアレコレ動画を漁ったところ、「323の簡易コマンドで昇竜拳を出すと下がりながらでも出しやすい」という言説があった。曰く、「相手がジャンプしたと思ったら斜め前を入れるクセをつける。そしたらそこから23とずらして対空すればいい」とのことで、この入力であれば「しゃがんだ姿勢から昇竜拳が出る」ため、当たり判定が下がる分、対空が間に合う可能性も高まるらしい。

ふーんと思い、とりあえず「しゃがんだまま昇竜拳を出す」ことから練習をした。1でしゃがみガードしつつ、トレモの対空練習CPUが飛んできたら323としゃがみ姿勢を保ったまま昇竜拳で落とす練習である。

左側で飽きたら右側でやり、それも飽きたらちょっと大魔界村で遊んでからぜんぜん進まずに「このクソゲーが!」と怒り、気分を一新してまた左側でやったり右側でやったりした。

こんな練習が実を結ぶ日が来るのかどうかさっぱり分からないが、とりあえず「しゃがんだまま昇竜拳を出す」ことはできるようになった。まあこの手の練習はもうとにかく反復しかないのは身にしみて分かっているので、不知火舞参戦の日まで、コツコツ練習しておこうと思う。

しかし、練習しておいて、いざ不知火舞の対空が214Kとかだったら悶絶するが、まあそれはそれで助かるのでよしとしよう。



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