【大神発売記念日SS】花舞う空の下で君思ふ
if妄想大神SSです。作中の設定その他を本編を参考に作成しておりますが、解釈違いなどがあるかもしれません。
加えて、ネタバレ要素があります。
そのあたりをおおらかに許すことが可能でなければ、できれば回避していただく方向で。
大神発売18周年、おめでとうございます!!
大好きの気持ちを込めたお話しではありますので、読んでくださった方が楽しいと少しでも思えたらいいなと、祈っております。
ぽかぽかと温かい太陽の光が、空から降り注いでいる。ともすればうとうととうたたねでもしてしまいそうな陽気だ。
案の定、ふわぁ、と漏れ出たあくびを盛大にひとつ。
「ぷわァッ!」
いきなりなにかが口の中に飛び込んできた。思わずぺぺぺっ、と吐き出せば、手のひらに桜色。ちぎれて小さくなった花びらじゃねェか。
「なんでェ。サクヤの姉ちゃんの花びらかよ」
見上げれば満開の桜の花が、この世の春とばかりに盛大に揺れてらァ。豪勢なこって、と悪態をつきながらも、風情のあるのはいいことだ、と笑みが浮かぶ。
「おや、玉虫や。こんなところにいたのかえ」
噂をすれば、だ。しかし、聞き捨てならない呼び掛けが聞こえた気がしたが。
「サクヤの姉ちゃん、相変わらずオイラはムシケラ扱いかい?」
「おや、これは失礼した」
ころころと鈴を転がすような声で詫びながら神木コノハナから姿を現したのは、木精のサクヤ姫。天女のような、というよりも木精であるから天女といっても過言じゃないだろう。相変わらずのお色気ムンムンの衣装だぜィ。
「天道太子イッスン殿、久方ぶりの再会だのう」
今日はいかがした、とふわりと隣に舞い降りてくるが、はっと胸元を押さえて後ずさる。
「また私の懐にもぐりこんで昼寝をしようとでも? そうはさせませんよ」
チッ、勘のいいことで。といってもまァ、ほんとうの目的はそうじゃないんだから別にいいんだけども。
ピョンピョン、と跳ねてサクヤの姉ちゃんの肩に飛び乗る。
「?」
「いやァ、絶景かな絶景かな。相変わらず神木村はポワっとのんびりしてていいやなァ」
「……玉虫や」
「サクヤの姉ちゃんも元気そうでなによりだァ。そら、あの満開の桜! 今日も粋に咲いてるじゃねェか!」
「……視線が、おかしな方向に向いておるのではないか?」
「……おやァ?」
いけねェいけねェ、オイラとしたことが。てへへ、と笑ってみたが、サクヤの姉ちゃんはぴん、とオイラを指で弾いてきた。
あわわっ、なにしやがんでィっ!
文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、オイラに非がないとは言いきれねェ。さらっと流しとくのが粋な漢ってもんだな。
「それで、玉虫や」
「天道太子、イッスン様と呼びなァ」
「おやおや、いっぱしの口をきいて。ホホホ、まぁ、我らが慈母のお伴を成し遂げた天道太子であるそなたには、敬意を表さねばなるまいな」
そうそう、オイラは天道太子、イッスン様。偉大な神様の威光を絵で伝えるのがオイラの天命の仕事ってわけだ。さすが、サクヤ姫!
「それではイッスンよ、改めて問いましょう。今日はどうしたのでしょう、國中を渡り歩くそなたが顔を出すのなら理由があるでしょう」
「そろそろ神木祭りだろォ? 毎年のことでも、やっぱりおさめとかないとと思ってよォ」
それと、と懐から取り出したものをサクヤの姉ちゃんに見せる。
「おや、これは……」
くるりと巻物の形にまとめられたそれは、手紙だ。
「ウシワカ殿から、ですか」
「アイツ、なんやかんやと送ってくるんだよなあァ」
「これはまた、とてつもない文字数だこと……」
達筆な字でどこにいっただの何をしただの、あの、いつものチャライ調子で声が頭の中で再生されてしまうくらいの量で書かれている。
今回は月で、大妖怪の卵のようなものを発見して退治したらしい。前回はカグヤと再会したとか。
「そのうちまたこちらにも来たいとも書いてあるように見えるのですが」
巻物から顔をあげて、サクヤの姉ちゃんはオイラに向かって首をかしげた。
「そも、この手紙はどうやって届いているのでしょう?」
「さぁなァ。オイラも聞きたいんだよなァ」
「それにしても、長い……」
ふたたび目を落としてサクヤの姉ちゃんは読み進め、ふと気づいたようにまたオイラに視線を向けてくる。なんでェ、その不思議そうな目は。
「玉虫、いえ、イッスン。これは……?」
「ん? あァ」
姉ちゃんの指が指していたのは、手紙の最後。ウシワカの野郎がキザったらしく『アデュー!』なんて締め括ったあとの空いた場所に、文字ではないものがひとつ。
「手形だなァ」
「手形ですねぇ。もしや、これは」
「もしやももやしもねェ。これはあいつからの手紙だィ」
最後の部分にでかでかと、黒々と、ひとつの手形。爪の形に四つのとがった部分、その下にひとつ、大きな黒色。
「おぉ……! 我らが慈母、天照大神からのお手紙とは……!」
サクヤの姉ちゃん、歓喜に震えてやがるがそんなにありがたいか? 誰がみたって、「犬の足跡」だぜ? 落書きかイタズラに思われるってもんだろうによォ。
「お元気そうでなによりです……」
まァ、確かに。天道太子たるオイラの目からみても躍動感溢れる筆致、と言えなくはないわなァ。
「ああ、御威光の尊さたるや、この生き生きとした御足の形から察することができまして、このサクヤ、至極嬉しく存じます……!」
姉ちゃん、こんなにアイツの信者だったか……?
興奮冷めやらない様子のサクヤの姉ちゃんはさておき、喜んでくれたことは素直に嬉しいことだわな。
「まァ、そんなわけで最初にアマ公にであった場所の風景でも描いて送ってやろうとでも思ってよォ」
オイラの言葉に、うんうん、とサクヤの姉ちゃんは大きく頷く。
「それがよかろう。なんならミカン爺らにもこの御足の跡をお見せすれば、さらに祭りも盛り上がることだろうて」
ころころとまたサクヤの姉ちゃんは笑いながら手紙をもとに戻してオイラに渡した。
「それにしても」
はて、とサクヤの姉ちゃんは頬に手を添えて言った。
「その手紙の返事は、どうやって届けるので?」
「ソイツはなァ……」
秘密だよ、とオイラは笑った。
アマ公、こっちは今日も良い天気で、雨の日も風の日もあるけどちゃんとお天道さんはまた昇るし、平和だぜィ。
おわり
お読みいただきありがとうございました。
最後のシーンで毎回号泣してしまうくらい大好きな天道太子イッスンの集大成から、その後はどんな風なのかな、とif妄想してみました。
大神伝をクリアしてないのでずれているとは思いますが、こんな風につながっていても楽しそうだなあという。
我らが慈母アマテラスとウシワカさんのことだから、ひょっこりナカツクニに顔を出してくれてたらいいなと。立派な舟を持ってますしね。
改めて、発売18周年おめでとうございます。
これからもたくさんの人に優しい気持ちで我らが慈母たちと、大神の世界が愛されますように。
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