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音楽創作~空からのエール

~音楽創作とは~
⭐この創作は、『音楽から連想する物語』をつづっています。一曲にひとつのお話……とは限らず、思うがままに、感じるままに、つくられたお話を楽しんでいただけたら幸いです⭐

 あなたにこの言葉が届くでしょうか。
 あなたにわたしの幸せは届くでしょうか。
 言葉も、多弁で器用な手足も持たないわたしは、あなたに気持ちを伝えようにも、ただひたすらこの声をあげるしかなくて。
 それでもあなたはわたしに笑いかけてくれましたね。
 あたたかくて、優しい手でわたしの顔を、体を、忙しなく時になによりも雄弁に感情を示した尾を、なでてくれましたね。
 ああ、そうでした。わたしにはこの尾があるのでした。
『ふわふわで、ふさふさで、立派ですてきな自慢のしっぽね!』
 そう、あなたがほめてくれたこの尾。これを振ったら、あなたにわたしの気持ちが届くでしょうか。
 少しでも、ほんの少しでも多く。
 わたしの気持ちがあなたに届きますように。

* * *

 窓辺に風が吹いて、前髪が揺れた。
 覚えのある香りがした気がして、読んでいた本から顔をあげる。
「……シルク?」
 思わず口をついた言葉に、自分で驚いてしまう。
 自然と、何も考えずに呼んでしまう名前だ。ふわふわでさらさらで、触れるたびに幸せな気持ちになれた、あの毛並みを思い出して。
 名前のとおり、極上の絹のような毛をした犬を、飼っていた。シルクと名付けたのは、母だったろうか。もしかしたら自分だったような気がする。
 子犬のときにもともとの家で呼ばれていた名前ではなくて、シルクとわざわざ変えたくらいなのだからーーー
 おとなしいけれど、とても感情豊かな犬だった。
 中型犬、というよりは少し大きく育ってしまって、そのくせいつまでも自分の体が小さいままだと勘違いしているものだから、体当たりは力いっぱいで。うまく受け止めきれずに一緒に転がると、きょとんとした顔をしてしっぽを振っていたものだ。
 怒られているのに、むしろそれすら喜んでいた気がする。かけられた声に、笑顔のような顔で声を返してくれた。
 そんな仕草すら愛しくて、ついつい許してしまったことは、飼い主としてだめだったことはわかっている。

 こっちを見て、撫でて、遊んで、可愛がって!
 あなたが大好き、そばにいたい!

 全力で、ただただ可愛らしい思いをぶつけ続けてくれた君のことは、よくわかっていたつもりだったよ。
 シルク、極上の布地の名前の、なによりも可愛くて大事な私のわんこ。
 もういないのに、なぜこんなにもしっかりと声も、手触りも、香りも思い出してしまうのだろうか。
「シルク、会いたいなぁ」
 つぶやくと、目が熱くなるのがわかった。鼻の奥がつん、と詰まる。
 だめだ、泣くな、私。
 泣く資格は、私にはないのだ。手のひらで顔を乱暴に拭って、瞳に浮いた水分をなかったことにした。
 可愛い可愛い私のシルク。私はあなたを心配させたくない。だから笑っていたいんだ。
 だってあなたは、私が泣くと自分の方が痛いような顔をして、鳴きながら体を押し付けてきていたから。

* * *

 大好きなあなたへ。
 わたしのことを愛してくれてありがとう。
 ずっとずっと幸せでいてください。
 でも、わたしは知っている。わたしの大事な飼い主さんは、たまに、悲しい顔をして、こっそり目から水をこぼしていたの。
 それがとっても悲しくて、あなたが笑ってくれるとおもってわたしはいつも体当たりしていたのだけど、いまはできないから。
 あなたが悲しい顔をして、目から水をこぼさなくていいように。
 あなたが目から水をこぼさないように、上を向けるように、わたしは空から見てるよーーー

* * *

 さきほど感じた風の方に目を向けて、私は目を見開いた。
 青い空に、七色の橋。
 その真ん中に、見覚えのある影が自慢げに胸を張って歩いているような気がして。
 私は笑ってしまった。
「大丈夫だよ、私は笑ってるよ」
 心配かけてごめんね。あなたがいなくて寂しいけど、私は生きていると、ちゃんと伝えたいんだ。
 空に向かって、手をかざしてみると、影の端っこ、細い部分が揺れた気がした。

 大丈夫だよ、私は幸せだよ。
 あなたのいない明日はやってくるけど、あなたのことを思い出せるから。
 あなたがいない世界でも、私は生きていくから。
 いろいろ悲しいことや悩むこともあるけど、きっと大丈夫。この日に見た虹が、私の大切な宝物になって私を支えてくれるから。
 あなたが見せてくれたような気がするから。

 だから安心して、空で楽しく遊んでいてね。
 私の可愛い、大好きな、シルクへ。


IM 明日への手紙~手嶌葵
https://youtu.be/o0B_Ait4bSY?si=0rrc8JCdpJ-R6Auc

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