(塔創作)故郷への帰還ー決意
(前置き)
このお話は、2015年4月30日まで運営されていたSNG『紅炎のソレンティア』にて活動していた自PCのお話です。
誕生日が2月29日のため、その記念を思い出してはぽつぽつと作ったお話です。
続くかもしれないし、続かないかもしれません。機会があれば当時の思い出話や別で上げていたお話も、noteにあがることがあるかもしれません。
雪深い、山の奥。
吹雪く風はすべてのものを拒むように吹き荒んでいた。
誰も足を踏み入れることのかなわぬような山の中にはぽつりと屋敷があり、ひとりのエルフが住んでいた。
銀色の髪に、淡い藤色の瞳。思慮深さを感じる瞳は生真面目さと、年を経て和らいだ余裕が感じられる光を宿していた。
雪まじりの風によって窓がカタカタと鳴っているが、暖炉によって暖められた室内まではその脅威は届かず、エルフは机で一冊の本に目を落としている。
ふと、エルフの視線が窓に向けられた。
驚きの混じった声が思わずといった風にもれる。
「よく……来れたものだ」
視線の先、風によって揺れる窓の音とは別の音が紛れてきた。
こつ、こつ、と窓枠のふちを叩くのは、小さな小さなハチドリだった。風に吹き飛ばされることもなく、エルフに向かって窓を開けてほしいというように、何度も何度も窓のふちをくちばしで叩いている。
「はいはい、お待たせ」
ぱちり。エルフが指を鳴らすと風がやんだ。ハチドリが不満そうに上下に飛んでいる。
窓を開け、ハチドリを迎え入れる。ハチドリはくるりとエルフの頭上を飛び回り、宙で手紙へと姿を変えた。
ひらりと落ちてきた手紙をなんなく受け止め、窓を閉めると止まっていた風は思い出したように窓を叩き出す。
机に戻り、引き出しからペーパーナイフを取り出して封を開けると懐かしい文字が目に飛び込んでくる。
『シエルリタ=シエール様
お久しぶりです。お元気ですか。
私は元気にやっています。おばあさまは腰が痛いとおっしゃっていることが多いですが、相変わらずお役目を放り出してお庭でお茶をしています。
私もこっそり、よく一緒にお茶をいただいたりしているんですよ。
ところで、ルリ姉さまがなかなか顔を出さない、とおばあさまがおっしゃっています。私もルリ姉さまとずいぶん長く会っていないなぁと思い出し、少し寂しくなってしまいました。
いつまでも甘えたな妹だと笑わないでくださいね。だって、ルリ姉さまはいつも旅三昧でなかなかつかまらないのですもの。
ルティアマスターになったとて、ルリ姉さまが本気を出したら見つけられないと思って、今回はおばあさまにも協力いただいて、このお手紙を送ってみました。
おばあさまと私のお願い、聞いてくださいますよね?
お会いできるのを、楽しみにしています。
桜花=シエール
追伸
百合の君は、別邸で健やかに咲き誇っています。』
「……」
読み終わると、手紙は桜色の光を放ち、同じ色の花枝となって机におさまった。
読みたいと思えばまた手紙に戻るのだろう。なかなか趣向を凝らした『便り』を送ってきたものだと感心してしまう。
それほどの思いを込めて送られてきたのだともわかる。
花を眺め、シエルリタの名を持つ銀髪のエルフはしばらく沈黙していた。
故郷を思い出すと、喉の奥が苦くなるような心地がする。
閉鎖的なエルフの里。血を、種族を、魔法を、魔力の強さをなによりも尊ぶ一族。
出奔の際に異母妹の桜花を次代の長にすると宣言したことはなんとか収まったものの、二人の祖母であり長を務めるシエルリアム=シエールの力あってこそのもの。
だからこそ、シエルリタは魔法学園を卒業し、ルティアマスターとなって旅をし、里の開放につながる手立てを探すことにした。
道半ば。それが今の状態だ。中途半端な状態では、里に戻らないほうが良いと考えている。
けれど、可愛く愛しい、応援すべき妹からの便りには、心が揺さぶられた。
最後に書かれた一言も、胸を刺す。
『百合の君は、別邸で健やかに』
それは、マリアアンナ=シエールを示す符号。
つまり、妹を憎らしく思う彼女が本家から動くことがあったということ。
おそらく、そのあたりを含めて話をしたいと呼び出しているのかもしれない。
そこまで考え、シエルリタはぽんと手を打った。
「いや、案外ただ単にお茶を楽しみたいだけかもな」
悲観的になるのは悪い癖だと、手紙に出てきた人物たちにたしなめられていたことを思い出す。
また、学園にいた頃に結んだ縁、友人たちを思い出して悲観的なままでいてはいけないと、思い直す。
己の故郷、エルフの里に一度は戻ると決めた頃、吹き荒んだ雪嵐は過ぎ去って、美しい星と月が、澄んだ空に浮かんでいた。
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