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木村拓哉 22歳「アイドル」への拒絶


SMAPのターニングポイント

1994年~1995年のSMAPは、CDデビューから12枚目で初のオリコンシングル1位を獲得、『24時間テレビ』パーソナリティを務めるなど、ターニングポイントになった年だった。

個人としても木村拓哉は、「石原裕次郎新人賞」や「エランドール賞新人賞」、初めての「ベストジーニスト」受賞など飛躍の年となった。

そんな状況の中、ジャニーズ事務所に所属しているにも関わらず、木村拓哉は「アイドル」と呼ばれることを露骨に嫌がった。
それは芸能界の先輩と共演する度に発せられ、強調された。





「アイドルだと思っていない」

1994年10月、TBSで深夜にこっそり『カミングOUT!』というトーク番組が始まった。
中心にいたのは糸井重里。そこに21歳の木村拓哉の姿もあった。


糸井重里(46歳)

『カミングOUT!』(1994.10.29)土曜深夜1時25分
出演者:糸井重里、渡辺真理(TBSアナウンサー)、片平夏貴、前田日明(格闘家)、ねじめ正一(小説家)、大槻ケンヂ(筋肉少女帯)、木村拓哉(SMAP)

糸井:この番組の企画を練ってる最中にSMAPの木村拓哉くんに、ある所で会って雑談をしてて「こういう番組をやるんだけど」つったら「その方面は俺はうるさいですよ」

『カミングOUT!』、初回のトークテーマは「オナニー」。

糸井:(木村は)”カッコいい業”の商売ですから、なかなか言いにくいかなあと思って、僕は遠慮したんですよ。そしたら、「それは俺はうるさいです」。単に俺は(木村の)負けず嫌いなんじゃないかなと思うんだけど(笑)。そっちでも負けたくないっていう事のような気もするんですけど。

深夜とはいえ、”カッコいい業”の木村が自ら手を挙げて番組に参加。



最後のオナニー

最初のトークテーマは「最後のオナニーはいつだったか?」。
つまり、「一番最近オナニーしたのはいつ?」という事。
これをどう答えるかで、出演者の番組に対してのスタンスがわかる。
こういう場に来ておいて曖昧に答えるのか、正直に答えるのか。

木村拓哉は「2日前の夜」と回答。

カタチだけでの参加ではない事が証明された。



レアなトーク番組出演

糸井:木村くんってさあ、大体トーク番組出ないよね。
木村:呼ばれないんですよ、あんまり。
糸井:バカだと思われてんのかな?
木村:え、いや、なんかいつも機嫌が悪いと思われてるらしくて。呼ばれないんです。
糸井:みんな言われるもん、だって。「木村拓哉って、いつもガンつけてる」って言うもん。
木村:そんな事ないです。
糸井:でもあれは、「ああいう商売なんだよ」って俺は。

いつも「ガンつけてる」ような眼差しの木村拓哉。
トーク番組で見る機会は少ない。



日常会話でのオナニー

糸井の周りにいる「普通の社会人」は、普段「オナニー」の話はしないという流れから。

木村:僕なんかの周りなんか、もっと言わない人ばっかりですからね
大槻:あ、そっか!
渡辺:そりゃそうですよね。
大槻:でも、みんなしてるの?
木村:え?
糸井:そいつが言わない限りは、してない事になってるわけだよ。
木村:そう。そうですよ。
大槻:「俺はしない」ってヤツもいるの?そういう話になって。
木村:いや、それは聞いたことないですけど。そういうヤツは、逆に僕は「あ、コイツは友達にはなれないな」と思いますけど
渡辺:でも、そういう話題が出ない?
木村:出ないっていうか、敬遠しますよね、みんな
渡辺:ああ、そっか。しないように。

こういう話題が出た時、正直に語れるかどうかで人間関係の距離感が決まる。

大槻:でもまあ、アイドルが集まって、そういう話していたらイヤですけどね、ちょっと(笑)
木村:だから、その、自分では、僕は個人的には「アイドル」だとは思ってないんですけど。でも、やっぱり周りの人はそう見るじゃないですか。
糸井:うん。

周りからは「アイドル」だと見られているが、本人はそう思っていない。
だから、テレビで「オナニー」を語れる。

木村:で、スタッフなんかとそういう話をすると「(小声で)お前がそんな話しちゃっていいのかよ?」って、周りの目を気にしちゃったりとか。
糸井:だから、“いち青年”に戻る時間がなくなっちゃう、そういう病気にかかってるっていう事はあるよ。

ただの”いち青年”でいる事が困難な、”カッコいい業”の木村拓哉。



”いち青年”の時間

番組が中盤を過ぎた頃、退席する木村。

糸井:「アイドル」じゃない時間を、ありがとうございました
木村:いえ。
渡辺:「アイドル」じゃなくなりたかったら、いつでも遊びにいらしてください
糸井:またおいで。
木村:はい。

木村は、月に一回放送される『カミングOUT!』のレギュラーになった。



古舘伊知郎(40歳)

『おしゃれカンケイ』(1995.3.19)

22歳になった木村は「抱かれたい男ナンバーワン」と紹介されて登場したが、話題はあの話に。

古舘:中学2年ってね、俺なんかが、ちょうどオナニーを覚え始めた頃
木村:ああ。『カミングOUT!』みたいな番組になってますね。
古舘:なってる。木村くんは、いつぐらいから?
木村:僕ですか?僕は…
古舘:みんな通ることだからね、これ。
木村:うん。中…僕、中1。
古舘:中1。
木村:1年、お兄ちゃんだ(笑)
古舘:負けたなあ(笑)

『カミングOUT!』では話していなかった新情報を引き出す古舘。
このトーク中、テロップで「拓哉のひとりH話」と表示。



ロン毛の理由

この頃のトレードマークでもあるロングヘア―について。

【視聴者からの質問】
「ドラマ『若者のすべて』が始まる前から伸ばしている髪の毛は切らないのですか?」

木村:あの、あれなんですよ。今度ですね、映画の撮影で、一応終戦50周年映画でやるんですけども。それで実際、戦争映画っていうと、必ず頭を丸めた人を、坊主頭の人を大体イメージするじゃないですか。
古舘:うん。
木村:僕、当時の写真を見せてもらったんですけど、僕たちがやるその役の人たちの写真を見たら、みんな一束にまとめて、それで鉢巻をしてたんですよ
古舘:あ、カッコいい!そんなんいた?
木村:いたんですよ。で、制作側の人からは「あ、じゃあ木村くんカツラでやる?」って言われたんだけど、「いや、カツラじゃちょっと…」とか思って。
古舘:カツラじゃねえ。
木村:「じゃあ伸ばします」つって。それで今、伸ばしてるんですけど。

特攻を描いた映画『君を忘れない』の役作りのため、髪を伸ばしていた。



蜷川幸雄(59歳)

木村が17歳の時、出演した舞台『盲導犬』。
その演出家・蜷川幸雄からの手紙。

「16小節のラブソング」

拓哉、元気ですか?
あれからもう何年になるんでしょうか。僕は今でも激しい稽古を耐え抜いた、拓哉の唇を噛み締めている悔しそうな顔や、蹴飛ばされて飛び散った、たくさんのポリバケツの事を思い出します。
この国で新しい冒険に満ちた仕事をしようとすると、いつでもちょっとした闘争になります。あの仕事もそうでした。本物のシェパードが何頭も客席通路を走り抜けると、劇場中に獣の臭いが充満しました。
あの時、演出家と俳優の関係は、まるで戦場を共に駆け抜ける遊撃隊の一員でした。さしずめ僕は、真っ先に弾丸の中へ飛び出して行く鬼軍曹といったところでしょうか。だとすると拓哉は、初めて戦闘に参加した少年兵だったのだという事になります。つまり、僕らはあの時、ひとつの闘争に参加した戦友だったんです。

さて、今や青年になった拓哉君。僕は時々、テレビや雑誌で自分自身のいる場所や役割に苛立っている君を発見してしまい、「ちっとも変わんないな」と笑っています
でもね、そんなに苛立たなくてもいいんだよ。アイドルであったり、スターであったりする事は決して悪いことじゃない。君が少年や少女たちの夢や欲望を背負っているんだぜ。誰もが少年や少女の夢の代償になる事なんか出来ないんだから。

拓哉、そろそろ僕らは次の戦いを闘わなければならない時が来たのかもしれません。今度は青年の拓哉と一緒にです。
でも、青年はいつでも真っ先に弾丸の中へ飛び出さなきゃいけない。
じゃあ、元気でな。その日を楽しみにしてます。

蜷川幸雄

蜷川が画面越しでもわかるほど、「アイドル」という役割に苛立っている木村拓哉の姿が、そこにはあった。



久米宏(51歳)

『ニュースステーション』(1995.9.15)

久米:アナタ、あれですね、僕もあの、特に『ベストテン』時代はそうでしたけど、割とアイドルの方達と随分接してきた時間が長いオジサンなんですけどね
木村:はい。観てました。
久米:いわゆる「アイドル」とは少しち…スーパーアイドルなわけですけど、実際は。いわゆる「アイドルタレント」っていう感じはしませんね、直接会って話してみると
木村:あ、そうですか。
久米:うん。

『ザ・ベストテン』で数々のアイドルと共演してきた久米宏から見て、木村拓哉は「アイドル」だと感じないと言う。

木村:いや、僕、「アイドル」の意味がわからないんですよ
久米:……
木村:(小宮悦子に)「アイドル」ってわかります?
小宮:……う~ん。
木村:ほら、わからない

意味もわからない「アイドル」という存在ではありたくない。

久米:まあ、言ってみりゃ「お人形さん」ってイメージも少しあったりするからね
小宮:「お人形さん」ねえ。ああ。
久米:「スーパーアイドル」、「アイドル」って言う場合にはね。あんまり自分を持ってなくて、可愛いお人形さんで、キレイで可愛くてっていう。ワーって人気出て、パーッといなくなっちゃうっていうようなイメージあるから、そういうんじゃないからかな。
木村:う~ん……ですねえ。

出演した戦争映画のプロモーションの一環で、ロン毛を一つに束ね、上下古着のデニムでニュース番組に出演している木村拓哉は「過去のアイドル像」とは程遠い。

木村:なんかあの~、その、なんていうのかな、よく「芸能人」の人、「芸能人」とか「タレントさん」とか、まあ僕なんかはグループの一員ですから「SMAP」っていうふうに、ひとまとめに言われるじゃないですか。
久米:うん。
木村:そうすると、なんかあの、つまらないなあ、っていうか。「芸能人」ってあんま好きじゃないんですよね。
久米:言葉がね。
木村:うん。キーワードっていうか、そのワードがあんまり好きじゃなくて
久米:ま、「芸能人」ってニュアンスが、ちょっと古いけどね。
木村:うん。

カテゴライズされる言葉が好きではない。

木村:で、いつもなんかその「”普通”というスペース」と、「”芸能界”というスペース」があるんですけど。でもなんか、それのこう混じり合った部分あるじゃないですか、このテーブルの。
久米:うん。

木村の前に、高さの違う丸テーブルが2つ。
それを合わせると重なる部分ができる。

木村:「普通の世界」「芸能界」だったら、”ここ”にいたいですね、”ここ”に、”ここ”に。
久米:重なってる所ね
木村:うん。
久米:そりゃあ、”普通の人間”である所もなかったら、生きていけないしね
木村:うん。じゃないと、なんのアレもないっすね、なんか。うん。

どちらかに偏ることなく、”いち青年”の「普通の世界」と”SMAP”という「芸能界の世界」が重なった所にいたいと。

そのバランスが「オナニーを語る木村拓哉」ということだ。



小室哲哉(37歳)

『TK MUSIC CLAMP』(1995.12.7)

木村:たぶんSMAPってなくなったら、たぶん自分、無職だと思いますよ
小室:無職(笑)
木村:ふふ(笑)
小室:そのー、あ、”肩書き”がね。
木村:うん。
小室:「ダンサー」じゃないもんね。
木村:ダンサーでもないし。「歌手」って言えるほど歌手してないし。
小室:ふ~ん。
木村:で~、う~ん、「俳優」って言われるほど俳優してないし。
小室:そうなのかなあ。それはわかんないんだけどね。
木村:んで、う~ん、「アイドルだね」って言われるほど真面目じゃないし
小室:ふふふ(笑)

木村拓哉が思う「アイドル」の中には「真面目」という”意味”が含まれている。

木村:だからたぶん、SMAPっていうものがなくなったら、自分、今、たぶん無職だと思いますよ

23歳になった木村拓哉 。「アイドル」ではなく、職業=SMAP。


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