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「ラーメンズ」と「ライミング」
タイトルが語感踏みになっていることはさておき。
ラーメンズのコントは高校の時から見始めた。
それ以前は片桐仁氏が「ピタゴラスイッチ」や「シャキーン!」といった教育番組で声を当てているということしか知らなかったのだが「不思議の国のニポン」を見てかなり世界が変わった気がする。
高校時代は演劇部に入っていたものだから、「お笑い」というよりは、演劇作品的な舞台美術やプロットに魅了されていたという方が適切かな。
今はこう、ヒップホップやってるから、別の視点から感心している。それは「ライミング」や「言葉遊び」の観点。言葉を執拗にこねくり回し、一見関連性がないように見えるものが見事に繋がる。まさに立川談志が唱えたような「イリュージョン」そのものなのです。
今回はラーメンズがライミングを用いた事例とともに、言葉遊びの強いコントについても紹介し、歌詞作りのヒントを探る。
1.『ALICE』より「モーフィング」
「モーフィング」とは映像技法の1つで、別々の画像を滑らかに変化させる。具体的にはマイケルジャクソンのMVで使われた。
このコントは、そのモーフィングを彷彿とさせるもの。
例えば、料理のショートコントから、
小林「すいませんカスタードを用意してしまいました」
片桐「マスタードを買ってきてください」
小林「マスタード」
片桐「MasterCardで」
小林「マスタード」
小林•片桐「マスタードマスタードマスタードマスタード………」
小林「バスカードがあれば小銭いらないんですよ」
片桐「あっ、じゃあそれください」
とバスのショートコントに繋がってしまう。
「モーフィング」の画像が滑らかに変化していく様子を、
このコントではライミングを巧みに使い、異なるショートコントとショートコントの間を滑らかに繋ぐことで表現しているのがオモシロイよね。
2.『ATOM』より「採取」
「怖いコント」の代表格で、25分もの超大作。
大量に伏線が散りばめられ、身の毛もよだつラストが待ち構える。
このコントはライミングに重きが置かれている訳ではない、注目は中盤。非常にレベルの高いライムが見られる。小林氏演じる男が恐怖を紛らわせるためにラップを始めるシーンだ。
小林「たまに親の顔見にくるのは、唯一正月とお盆、息子の成長見せにくるのさ、so its show must go on」
この「正月とお盆/show must go on」というライムは、単独を観に来ていたKICK THE CAN CREWのKREVA氏とLITTLE氏が唸ったそうだ。
ちなみにラーメンズは、キッカンのアルバム「magic number」のコマーシャル内でショートコントを披露するだけでなく、そのアルバム内の「07.ナニカ」のイントロで、ラーメンズのコント「無用途人間」のセリフ、
小林「ああ、しなきゃいけないことが無くなってしまった」
片桐「すいません、誰か私たちに」
片桐•小林「しなきゃいけないことを下さい!」
というセリフがサンプリングされている。
何気にヒップホップとも縁が深いのだ。
03.『TEXT』より「スーパージョッキー」
お気に入りのひとつ。レースに出走しようとしない馬を、ジョッキー演じる片桐が必死に急かす。
このコントのフォーマットの1つとして、競馬用語が出ると、ジョッキーが「ものの本によると」といい、続けて間違った説明をする。
スーパージョッキーにおけるライミングは「モジリのライミング」だ。母音の響きは変えずにモジってそこからショートコントを展開する。
片桐「オッズ、ものの本によるとオッズとは、鼻の詰まった主人公である。
片桐「『オッズ、オダ、クリリン』っておーーい!」
片桐「ちがうよなあ、主人公じゃないよなあ」
言ったら「オッズ/オッス」でライミングしているわけだ。ほかにも、
片桐「3連単、ものの本によると3連単とは、韓国料理のことである」
片桐「えっとー。マッコリとー、カルビクッパとー、サンレンタン」
おそらく「3連単/サムゲタン(参鶏湯)」だろう。
さらにこのコントでは、おなじみ「〇〇テレホン」のくだりも健在。
片桐「はいジョッキーテレホン。なに!?ファンファーレが鳴ったって。(中略)なになに?ゲートインを止めるには、『馬』という字がつくことわざか四字熟語を言えば良いだって?おーーい!」
片桐「何かないか?馬のつくことわざ何かないか?4!3!2!1!」
片桐「馬の耳を見物」
片桐「ほほー、これが馬の耳でござるかー」
「念仏/見物」
さらにスターウォーズのパロディとされるくだりでは、
片桐「ホースの力を信じよ」
「ホース/フォース」だ。
「スーパージョッキー」だけに関わらず、このようなモジりを伴うライミングはラーメンズにおいて頻出である。
04.『TEXT』より「同音異議の交錯」
これは凄いなんてものではない。別々の物語が、同音異議(ホロライム)によって交錯する。言葉遊びの最終形。百聞は一見にしかず見てほしい。
•その他強烈なワードプレイを持つラーメンズのコント
01.『STUDY』より「QA」
ただ小林氏が質問して、片桐氏が回答するだけのコント。
同音異議によるボケも多いが、「訳す」「略す」「逆にする」はたまた突然の連想ゲーム、ムチャ振り、華麗な伏線回収、言葉をこねくり回した先に待つものとは。
02.「日本語学校シリーズ」
ラーメンズの代表格。ライミングだけではなく、日本語学校シリーズは「語感」を愛で、「語感」と戯れる。イタリア編の「千葉滋賀佐賀」がインターネットミームとなった。
03.『椿』より「ドラマチックカウント」
「10からの0までのカウントダウン」「四季」「五十音」をそのままコントのセリフとして扱うとしたら?リリックの中での数のカウントダウンやカウントアップはラッパーもよく使うワードプレイだが、コントで行ってしまうレベルの高さ。
04.『home』より「読書対決」
こちらは2つの物語が絶妙に噛み合うのが面白おかしいコント。最初に断っておくが、芥川龍之介の「鼻」は、「顔のパーツたちがおりなすロマンス」ではない。
•その他のライミング芸人
ラーメンズ以外にもライミングを多用する芸人は数多く存在する。
01.大谷健太
R-1グランプリ2020準優勝者。早口言葉フリップでプチブレイクする。そもそも早口言葉が強いライミングの要素を持っているため、子音まで揃っているような非常に硬いライムが連発される。字幕がないと全く伝わらないことだけがもどかしい。
02.タイムマシーン3号
「言葉を太らせる」という、語感踏みの要素が強いライミングネタの傑作、説明不要。
03.ナイツ
ナイツといえば、致死量を超えるボケ数と「ヤホー漫才」と呼ばれる言葉遊びの要素が非常に強いスタイル。主に読み間違いや聞き間違いによるボケを多用し、今見返すとかなり韻が硬い。
塙「あとあの『大抵ジャングル』っていう作品があるんですけども」
土屋「『ジャングル大帝』。逆ね」
(中略)
塙「こういったものに影響を受けまして、本格的にターミネーターの道に」
土屋「アニメーターだろ」
(中略)
塙「初めは、テレビアニメの仕事を中心にやってたんですね、『あるブスの少女 ハイジ』っていうね」
土屋「悪口だそれは」
(中略)
塙「そして84年、『風邪の谷を治すか』っていう」
土屋「ナウシカだよ、お前」
「治すか/ナウシカ」はかなり興味深い。母音は頭と尻しか揃っていないが、子音は完全に揃っている。
「na o su ka / na u si ka 」
でどちらも子音が「n, ,s,k」で構成されているのがお分かりだろうか。これがいわゆる「子音踏み」で、使用頻度は少ないが効果的だ。
04.サイクロンZ
R-1グランプリ2009,2012 ファイナリスト。こちらもまた同音異議の使い方が巧みな芸人。歌詞に合わせてフリをつけるただそれだけだが、謎が解けた時の快感は別格。
05.ゴー☆ジャス
そういえばと思った追記した。こちらも語感踏みの要素が強い。ネタに関してはもう説明いらないね。
まだ助かる、まだ助かる、マダガスカル!
•リリックを書く上でのヒント
やはり巧くなければ説得力が生まれないのがラップのリリック。
だから言ってんの、正反対だ(天皇制反対だ)
当たる日向 お陰様
まずは位(1)置(2)について四(4)の五(5)の録(6)音
なあなあ(7)や(8)っつけじゃない究(9)極を
※加えて「挑め」の曲中では「3」を言わないルールがある。
事実マイク手放し 掴んだのは胸ぐら
腰にあかさたなの刀
懐にははまやらわの柔(あ段)
こりゃ仕事だが作業(サ行)じゃねえ
勝ってなんぼの稼業(カ行)だぜ
このようにワードプレイはオーディエンスの支持を得る上で重要な要素になってきているように思う。芸人たちのネタにおけるワードプレイ、特にラーメンズを見て、ラップもやってるんだしもっと日本語と遊ぶべきだと思わされる一方だ。