無理ゲー「Getting Over It」に学ぶこと。
誰しも一度は「壺おじ」という言葉を耳にしたことがあると思う。
ゲーム実況を見てる人ははもちろん知ってるだろうし、YouTubeを使っている人ならなおさら見たことのあるゲームなんじゃないかな。
『Getting Over It with Bennett Foddy』(公式での略称:"Getting Over It")は、ベネット・フォディが開発・発表したコンピュータゲーム(プラットフォーム・ゲーム)である。
非常に高い難易度、作り込まれたユニークな世界観、斬新でシビアなゲームシステムが話題を呼び、世界中の動画配信者が取り上げ、数々のノミネートや受賞歴を持つインディーズゲームの名作とも言える。
ご存知のとおり、このゲームは「イライラ」する。すぐにやめたくなる。しかしクリアした者はみな、「このゲームに出会えて良かった」と言う。
何がそこまで人々を惹きつけるのか、このゲームをクリアした時の達成感とはどのようなものなのか。なんとなく挑戦を受けて立つような感じでプレイしてみた。
○実際にプレイしてみる。
PC版が有名なのだが、マウスが安物でうまくやれる気がしないし、外出先でも空き時間にやりたいという理由でiOS版を購入した。価格は700円で、Apple arcadeに加入していれば、「Getting Over It +」というApple arcade版が遊び放題だ。
アプリをダウンロードし、早速起動する。
このゲームの目的はただ1つ、ハンマーを使って山を登ること。
やってみると分かるが、初めは操作をするのに手いっぱい。スタート地点から少し進むと、木が現れる。
ここはほんのチュートリアルのようなエリアだが、なかなか超えることが出来ない。どのようにハンマーを使えば超えることができるか、試行錯誤あるのみだ。
あー、こんな感じか。チョロいなー。その後も快進撃は止まらない。誰にも俺は止められない。
ふう。結構登った。なにやら岩場にそびえる民家に到着。
ここまで到達するのに、4時間かかった。
・徐々に牙を剥き始めた壺おじ。
まず、操作性が悪い。全く思うようにハンマーを操作することが出来ない。
これにはちゃんとした理由や意図があるのだが長くなるため割愛。とにかく思うようにいかないのがイライラする。
そして、このゲームの最も恐ろしい所、それは………。
「やり直し」。1つの誤操作、ミスが命取り。どれだけ進めるかの保証もないまま、常に全ての進捗を失う危険に晒されている。プレイ中は異様な緊張に包まれる。そして、たった今、4時間分の進捗は全てパアになった。
そして、やり直しに関していうと、この仕様。
オートセーブ。間違って消してしまっても大丈夫。どんな時でも自動でセーブされる。プレイ中に起きた損害も含めて………。
途中セーブなんぞ甘いものは存在しない。
そしてこのナレーション。なかなかムカつくことを言う。ちなみにナレーションの声は作者であるベネット・フォディ自身の声。ゲームが進むたびにプレイヤーに語り掛けてくる。これがまた興味深い内容だったりするので侮れないのだが。
ようやくここまで戻って来た。しかし、ここから難易度が急激に跳ね上がる。
まず、この鉄骨と岩場はむちゃくちゃ滑る。
ハンマーを振り回せば振り回すほど滑って後ろに下がり、後退していく。
そしてここが第一の難関と言っていい。もうお分かりかと思うのだが、垂直に飛び跳ねたのち、電灯にうまくハンマーを引っ掛けて登っていく必要がある。
そして第二の難所へ、ここからさらに難易度が上昇。
この部分、階段の所を登っていくのだが、どう登るのか皆目見当もつかないかと思う。ここまで見て分かるように、ただハンマーを振り回すだけでは登れないのと、そもそもどうやって登るのか、方法も分からなくなってくる。
ちなみに正解は、
このように、壁を叩くようにして登る。どこかマリオのカベキックを彷彿とさせる動きだ。さらに、
このエリアは通路が狭く、その上余計な突起も多いため事故が多発する。意図しない所に引っ掛けたり引っかかったりして、結果意図しない挙動で戻される。ここはシンプルに難易度どうこうではなく、単にイライラさせようとしている。
ち な み に こ こ ま で 2 週 間 か か っ た 。
そして………。
この岩場!このゲーム最大の難所と言える。今でも苦手だ!垂直跳びで1つ1つの岩を超えて行くのだがこれがめちゃくちゃ難しいうえ、やり直しのリスクも高い。さらに斜面もキツく結構滑るのでなかなか主人公もおとなしく着地してくれない。このゲーム、摩擦係数まで物理演算が完璧なのだ。そうこうしていると、
なるほど。これで、2週間分の進捗がパアになったということですね。はい。分かりました。分かりましたよ。
ということで、ゲームを閉じました。ここまでの仕打ちをされちゃあ、再起不能ですよー。
実はこれがこのゲームのコツだ。ムカついたら閉じる。やりたくなったら開く。これが結構重要で、今後のやる気に関わってくる。
•状況は前へ進んでる、確かだ。
前回のあの戻され方。流石に酷い仕打ち。ショックのあまりしばらくゲームを開けずにいた。その時ふとよぎった、あのナレーション。
どこか自分は、ゲームのせいにしてしまっていた節がある。「こんなの難しすぎる、操作性も悪いしやる気にならない」今考えると見苦しい言い訳だったなあと思う。
思えば自分はそんなことばかりだった。何か始めたと思えば、三日坊主で中途半端なまま終わってしまう。ゲームですらそうなのか?次第に自分が情けなくなり、悔しくなって来てまたあの地獄のゲームを開く。ああ、いまから始めたとしても、前回戻されたしまた最初からか。
あー、はいはい。ここからだったな。また何時間もかけて登るのか。めんどくせえな。
あれ………?思ったよりスラスラと………。
あれ、2週間もかけてやってきた場所に1時間もかからず戻って来たけど……。
この後も何度か後退することはあったが、そのミスは驚くほど早く回収出来るようになっていた。
もしかしてこれ、上手くなってる???
その時、俺はハッとした。これこそが「成長」なのだと。
大事なのは事の進度じゃない、経験。
表向きには後退に見えても、実は確かに前進している。
うまくいかないことだらけだった自分の人生と重ね、思うところがあった。今まで自分が感じてきた挫折や辛い経験は、密かに自分を強くしていたのだと。
そう気づいた瞬間、体の底から何かが湧き上がるような感覚を感じて、俺はゲームにのめり込んでいった。
すると、ベネットはこう語り始めた。
ベネットから贈られたプレイヤーに対する敬意と賞賛の言葉。それらを噛み締めながら、ハンマーを叩き続ける。
いつのまにか自分は山の麓まで来ていた。ゴールは目前。最後の難所、電波塔に取り掛かり始めていたのだ。
流石は最終関門。突起の形状、間隔、どれをとっても非常にシビアで簡単には登らせてくれない。何度も、何度も落とされた。でもここまで来たのだから、諦める理由など1つもなかった。
そして、
突如重力を失い、男は宙を舞い始めた。
心臓の鼓動が高まっていくのを感じながら、僕はただ、隕石を蹴り続けた。上へ、上へ、導かれていくように。
そして、
スタッフロールが流れ始めた時、俺は思わず泣きそうになってしまった。
ゲームを始めた頃のぎこちない操作、長時間の努力を無にした時のあの絶望感、それらが走馬灯のように頭の中をよぎった。思えばあんなこともあった、クリアは無理だとすらも思ってた。
しかし失敗にめげずにやり続けた結果、自分は大きなことを成し遂げたのだ。今までに感じたことのない達成感がそこにあった。
その時の俺のTwitterの様子をご覧頂きたい。
◯このゲームを通して感じたこと。
このゲームは、まさに人生の縮図とも言える。
うまくいかないことだらけで、運が味方しないこともある。そして大抵の人はこれを「後退」であったり、「無駄」と考えるのだろうけど、
何度も言っている通りこれは「前進」であって、
「後退」することの本当の姿は「立ち止まること」だった。
しかし決して前に進み続けろということを言いたい訳ではない。思い出して欲しいのだが、ゲームのコツは「ムカついたらやめる」こと。前に進むばかりでは辛い、時には1歩下がることも重要な事だと思う。
俺がこのゲームをクリアしたように、自分のペースで継続さえしていれば、いつか必ず何かを成し遂げる時が来るんじゃないかな。
1人でも多くの人がこのゲームに触れて、
1人でも多くの人が自分の人生をより前向きに考えるようになれば良いなと思う。
最後に、ゲーム中に挿入されるこちらの古い楽曲シメたいと思う、最後まで読んで頂きありがとうございました。