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[翻訳#5]ジョージ・オーウェル「復讐は不毛」(1945)

復讐は不毛¹Revenge is Sour(1945) ジョージ・オーウェル + 例えば、「戦争犯罪裁判」だの、「戦争犯罪人に対する刑罰」だのといった文句を目にするたびに私の頭を過ぎるのは、今年の初めに南ドイツの戦争捕虜収容所で目にした出来事の記憶である。 私はもう1人の特派員と共に、アメリカ軍の戦犯尋問を担う部署で協力者として働く小柄なウィーン出身のユダヤ人に収容所を見せてもらっていた。彼は、きびきびとよく立ち働く、ブロンドの髪をしたなかなかにハンサムな25歳ほどの青

    • [翻訳#4]キャサリン・マンスフィールド「修道に入れば」(1922)

      修道に入れば¹Taking the Veil(1922) キャサリン・マンスフィールド + これほど美しい朝に不幸な気分でいられる人などいようはずもないと思われた。決して誰もと、エドナは思った、自分のほかには。どの家の窓も大きく内側に開け放たれていた。そしてそこからピアノの音が聴こえてくる、小さな両の手が、それぞれの後を追いかけてみたり、離れてみたりしながら、スケールの練習をしている。日の差す庭では木々が春の花々に囲まれて明るく葉を揺らしていた。通りにいる男の子たちは口笛

      • [翻訳#3]キャサリン・マンスフィールド「サンとムーン」(1920)

        サンとムーンSun and Moon(1920) キャサリン・マンスフィールド + 午後になると、イスが運ばれてきた――金色の小さいのが大きなカート一杯に積み込まれて、脚をぜんぶ上に向けて。それから今度は花が運ばれてきた。運び入れる人たちをバルコニーから見下ろしていると、花の鉢はまるで、風変わりでひどく素敵な帽子の一団がこくりこくりと頷きながら進んで行っているように見える。 ムーンは、あれは帽子なんだと思った。彼女はこんなふうに言った、「みて。あそこのおとこのひとはヤシ

        • [翻訳#2]キャサリン・マンスフィールド「カナリア」(1922)

          カナリアThe Canary(1922) キャサリン・マンスフィールド + ……ほら、その玄関のドアの右のところに大きな釘があるでしょう? 今でもまだそこに目をやったりするのは難しいんだけれど、それでも外してしまう気にはならない。きっと自分がいなくなった後にもずっとそこにあったんだって考えたいんだと思う。隣の部屋の人たちが「きっとどこかその辺にカゴが吊ってあったんでしょうね」なんて言っているのが聞こえたりすると、彼の存在が完全に忘れ去られたりはしていないんだと思えて、なん

        [翻訳#5]ジョージ・オーウェル「復讐は不毛」(1945)

        • [翻訳#4]キャサリン・マンスフィールド「修道に入れば」(1922)

        • [翻訳#3]キャサリン・マンスフィールド「サンとムーン」(1920)

        • [翻訳#2]キャサリン・マンスフィールド「カナリア」(1922)

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          [翻訳#1]キャサリン・マンスフィールド「ドールハウス」(1922)

          ドールハウス¹The Doll House(1922) キャサリン・マンスフィールド + 愛すべき老齢のヘイ夫人はバーネル家に滞在した後、街へと帰ると、バーネル家の子供たちにドールハウスを送ってよこした。とても大きなもので、届けに来た荷馬車屋の御者とパットとが2人で中庭に運び込み、飼料室のドアのそばにあった2つの木箱を台にして、そこに置くことにするほかなかった。だけど、それで別に問題ない、夏のことではあったから。それにこうしておけば、いずれ家の中に仕舞い込まねばならない時

          [翻訳#1]キャサリン・マンスフィールド「ドールハウス」(1922)