日本昔ばなし風 阿弥陀峯
筑前國続風土記 巻十 夜須郡 阿弥陀峯 より 抜粋 (意訳)
久光村(福岡県朝倉郡筑前町辺り)の中、甘木と秋月に行く道の分岐に阿弥陀峯というところがあります。
むかしむかし、この場所の上は、木々の茂る山でした。しかし、ある日を境に、老狸が住み着きました。
老狸は夜な夜な、光輝く阿弥陀如来の姿に化けて、人々を騙しました。
阿弥陀様と信じた人々に対し、老狸は「私に人間の生贄を供えるべし。浄土に迎えて連れて行こう」と告げました。
この土地は元々栗田村であり、久光村は栗田村から分かれた村でした。栗田村の人々は、化け狸に恐れを抱き、時折、里人から生贄を選び、現在の通り道の西にある小さな山の上に阿弥陀様を祀る壇を作り、生贄を捧げました。
夜、阿弥陀様の姿をした化け狸が現れ、供えられた人を取って食べました。里人はこれととても悲しみ、里人は悲しみに暮れ、次は生贄を捧げることはしませんでした。すると化け狸は大きな祟りを始め、栗田の住民たちを苦しめるようになりました。里人たちは怖れを抱き、再び時折生贄を捧げるようになったのです。
ある時、12歳から13歳ほどの少女が生贄に選ばれました。その時、たまたま御笠郡(近隣とすると福岡県大野城市辺りか?)猟師が来ていて、この話を聞きました。
「これはいかさまで、狐か狸の化けたものだろう。誠の仏にはあるまい」と思い、周りの人に知らせずに一人で祭る壇のところに向かい、弓矢を手に取って物陰に隠れました。
そうとも知らない化け狸は現れ、生贄に供えられていた少女を食べようとしました。猟師は狸を狙って弓を引き、矢を放ちました。矢は正確に命中し、化け狸は苦しみながらも背後の山の中へ逃げ込みました。
猟師は化け狸の後を追って山の中へ入りました。血の跡を追っていくと、林の中で大きな老狸が倒れて死んでいました。
それからというものこの場所を阿弥陀が峯と云うと、里人は語り伝えます。
よく似た話が宇治拾遺にありました。
山州(山城国の別名、京都府京都市)愛宕山で、狸が普賢菩薩に化けたので、猟師が射て退治したという話です。(宇治拾遺物語 猟師、仏を射る事)
※宇治拾遺の下りまで筑前國続風土記の文章です。
2024.1.28 ルビを追加しました。