H-IIAロケット49号機、9月16日打ち上げへ 「最後まで気を抜かず、必ず成功させる」
内閣衛星情報センターと三菱重工は、2024年9月16日に、情報収集衛星「レーダー8号機」を搭載したH-IIAロケット49号機を打ち上げる。
H-IIAは50号機での引退が決まっており、打ち上げは残り2機となる。関係者は「手を抜いたり、気を緩めたりせず、これまでどおり確実に作業し、必ず打ち上げを成功させたい」と力強く語る。
打ち上げに向けた準備は順調
H-IIAロケット49号機は、内閣衛星情報センターの情報収集衛星「レーダー8号機」を搭載し、所定の軌道へ打ち上げることを目的としている。
今回の打ち上げは、内閣衛星情報センターが行う打ち上げを、三菱重工が執行するという形で行われる。
当初、打ち上げは9月11日に予定されていたものの、9日の時点で、打ち上げ時の気象状況が条件を満たさないと予想されることから、延期が決定された。その後も打ち上げられない日が続いたものの、13日になり、16日に打ち上げることが決定された。
打ち上げ時間帯は、14時24分20秒から14時25分21秒の間となっている。
なお、今後の天候状況などによっては、再延期の可能性もあるとしている。打ち上げ予備期間は9月17日から10月31日まで確保されている。
今回の打ち上げには、固体ロケットブースター(SRB-A)を2本装着したH-IIA 202形態を使用する。フェアリングは直径4mで最も標準的な4S型を使用する。そのほかも、いつものH-IIA 202と変わっているところはないという。
また、2023年のH3ロケット試験機1号機の打ち上げ失敗を受け、考えられる要因のうち、H-IIAにも共通する部分に関しては対策が行われたうえで、H-IIA 47号機(昨年9月)、48号機(今年1月)が打ち上げられている。今回の49号機についても、まったく同じ対策を施しているという。
詳しい飛行シーケンスは明らかになっていないが、第2段エンジンの燃焼は1回のみだという。これは、従来の情報収集衛星の打ち上げでも同様である。
ロケットはすでに、第1段や第2段、SRB-Aなどの組み立てを終え、機能点検を経て、衛星が入った衛星フェアリングの搭載も完了している。打ち上げ前ブリーフィングが行われた9月9日の時点では、発射整備作業が行われていた。
発射整備作業では、9月7日にはY-3(ワイ・マイナス・さん)作業が行われ、1/2段推進系・電気系・機構系の点検作業が完了している。8日にはY-2作業として、火工品の結線や2段ガスジェット推進薬充填が行われた。
9日の時点ではY-1作業が行われており、電波系統の点検や、推進系最終クローズアウト、機体アーミングといった作業が進んでいるという。
打ち上げが16日に決まったことで、その前日の15日からはY-0作業が始まり、ロケットを組立棟から射点へ移動させる機体移動ののち、射点設備系最終準備、そしてターミナル・カウントダウンが行われ、打ち上げられる。
H-IIAは残り2機、「感謝の想い、日に日に強く」
H-IIAは50号機(今年度中に打ち上げ予定)で引退を迎えることになっており、今回の49号機を含め、2機の打ち上げを残すのみとなった。
打ち上げ前ブリーフィングに登壇した、三菱重工のMILSET(三菱打上げサービス射場チーム)長を務める鈴木啓司(すずき・けいじ)氏は、「ここまでの48機という多くの打ち上げに、多大なるご協力、ご支援をいただいた皆さまに、心から御礼を申し上げたい。最終号機に近づくにつれて、日に日に皆さまへの感謝の思いを、あらためて思い起こしている」と述べた。
日本のロケット史上最多かつ、最も安定した打ち上げを重ねてきた歩みについて振り返った鈴木氏は、「ロケットの打ち上げに向けた作業は、細かな作業の積み重ねであり、多くの関係者が携わるものでもある。その中で、ひとつの緩み、抜かりもなく、確実に作業を積み上げていくことが重要だと考えている」と語る。
また、「それを組織としてどう確認し、漏れがないように管理していくかにも気を使い、ここまで積み上げ、さまざまなノウハウを蓄積することができた」とも語った。
そのうえで、「まだまだ感傷に浸れる状態ではない。いま、目の前に迫っている49号機の打ち上げを必ず成功させるため、集中して取り組んでいる。残り2機だから、もうすぐ終わりだからといって、手を抜いたり、気を緩めたりしないよう強く意識し、一つひとつ確実に作業を進めている。必ず打ち上げを成功させたい」と力強く語った。
情報収集衛星「レーダー8号機」
H-IIAロケット49号機が打ち上げる情報収集衛星レーダー8号機は、内閣衛星情報センターが運用する衛星で、2018年に打ち上げた「レーダー6号機」の後継機となる。
内閣衛星情報センターは、情報収集衛星の外観の写真をはじめ、質量や寸法、性能など、詳細については非公表としている。同センターによると、今回打ち上げられるレーダー8号機は、2023年1月に打ち上げられた「レーダー7号機」の同型機であり、同じ形の衛星を一体開発することで開発経費を大幅に節減できたとされる。
また、レーダー6号機と比べ、7、8号機は、地表のものを見分ける分解能(画質)の向上や、衛星を撮像したい方向に素早く向けるアジリティ(俊敏性)の向上を実現したという。さらに、データ中継機能も搭載し、2020年に打ち上げた「データ中継衛星1号機」を経由して撮像データを送ることができるようになったことで、データの入手性も早くなった。受信アンテナの複数搭載による撮像幅の拡大も図っている。
くわえて、レーダー7号機ではAIS(自動船舶識別装置)装置が実証搭載されており、レーダー8号機にも搭載しているという。
AISは、船の船名や船種、位置、針路、速度、目的地などの情報が乗った信号を、周辺船舶や陸上局に向けて自動的に送信するシステムで、ある程度の大きさの船舶には搭載が義務づけられている。
このAIS信号を受信する装置を衛星に搭載することで、衛星から約5000kmという広い範囲の船舶の情報を知ることができる。
また、レーダー衛星が搭載する合成開口レーダー(SAR)を使うことで、衛星から電波(マイクロ波)を地表に向かって照射し、船舶から反射した電波を受信することで、その位置情報を知ることができる。
このAISとSARを組み合わせることで、本来出すべきAIS信号を出していない船舶――不審船や違法操業の漁船など――の位置情報などを知ることができる。これにより、国の防衛、安全、経済、環境に影響を与える可能性のある海洋に関する事象を効果的に把握する「海洋状況把握(MDA)」に資することができると期待されている。
すでに民間企業のSAR衛星などで活用は始まっているが、まだ衛星数が少ないこと、また分解能が低く小さな船までは見つけにくいといった課題があり、高い分解能をもつ情報収集衛星レーダー衛星によって、こうした課題を大きく改善できる可能性がある。
ブリーフィングに登壇した、内閣衛星情報センター 管理部付調査官の三野元靖(みの・もとやす)氏は、「関係省庁からのニーズに基づき、レーダー衛星に搭載するAIS装置の開発を進めている。レーダー7号機での実証の中では、実際にレーダー画像とAIS情報を融合させた情報を関係省庁に配付もしている。関係省庁からは、(実用に向け)高い期待が寄せられているという感触を得ている」と説明する。
そして、「レーダー7号機、8号機でのAIS装置の搭載はあくまで実証である。実際に使い、その結果を踏まえて、今後、実際に搭載するかどうかを判断していきたい」と語った。
衛星の設計寿命は5年とされる。そのほか、外観や質量、製造したメーカーなどは、これまでと同様に明らかにされていない。
軌道についても公表されていないが、レーダー衛星であること、そして打ち上げ時刻から、降交点通過地方太陽時がお昼過ぎの太陽同期軌道に投入されるものとみられる。
「多くの情報収集衛星の打ち上げに感謝」
H-IIAにとって、情報収集衛星は"常連客"であり、これまでの48機中、17機が情報収集衛星の打ち上げだった(打ち上げ失敗やデータ中継衛星1号機も含む)。
H-IIAロケット50号機では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測衛星「温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)」を打ち上げるため、情報収集衛星がH-IIAで打ち上げられるのは、今回で最後となる。
三野氏は「これまで、私たちの情報収集衛星の打ち上げで、多くのロケットを打ち上げていただいたことに感謝を申し上げたい」と語る。
そして、「今後、2026年度以降に打ち上げる衛星からは、H3ロケットを使う。H3で、基幹衛星の更新に加え、光学多様化衛星やレーダー多様化衛星も打ち上げることで、我が国の情報収集体制の強化を図っていきたい」と、H3に期待を寄せた。
政府は宇宙基本計画において、2028年度以降をめどに、基幹となる光学衛星、レーダー衛星各2機の4機体制とは別に、基幹衛星とは異なる時間帯で地表を観測できる「時間軸多様化衛星(光学多様化衛星、レーダー多様化衛星)」を計4機、さらにデータ中継衛星も2機備えた、計10機体制への拡充を計画している。
現在の4機体制では、地球のある地点を1日に1回以上撮像することができるが、光学多様化、レーダー多様化衛星を導入することによって、同様の条件で、1日に2回以上、複数回の撮像ができるようになる。
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