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イプシロンSロケットの開発状況に関するフォローアップブリーフィング(2023年12月12日)

 2023年12月12日、文部科学省において第80回宇宙開発利用部会が開催され、宇宙航空研究開発機構(JAXA)より、イプシロンSロケットの開発状況に関する報告が行われました。

 その後、JAXA主催の形で、報道関係者に対するイプシロンSロケットの開発状況に関するフォローアップブリーフィングが開催されました。

日時

2023年12月12日(火)13時30分~

登壇者(敬称略)

  • 井元隆行(いもと・たかゆき)……JAXA宇宙輸送技術部門 イプシロンロケットプロジェクトチーム プロジェクトマネージャー

  • 佐藤寿晃(さとう・としあき)……JAXA宇宙輸送技術部門 事業推進部長

質疑応答(敬称略)

産経新聞:イプシロンSの第2段モーターについて、対策を施したうえで再度燃焼実験(試験)を行うとのことだったが、燃焼試験はいつごろ行う見通しか。

井元:いま現在検討しているところである。これから「イグブースター燃焼試験」、「イグナイター燃焼試験(2段用、3段用)」、「イグブースター温度データ取得試験」の3つの単体の試験を行い、その反映を経て、第2段モーターの再度の地上燃焼試験を実施する(資料18ページ参照)。そのスケジュールはいままさに検討しているところである。

 「イプシロンSロケットの開発状況について 令和5(2023)年12月12日」より (C) JAXA

産経新聞:イプシロンSの1号機(実証機)の打ち上げ時期について、これまで2024年度下半期の予定とされていたが、現在もその予定で進んでいるという理解でよいか。

井元:全体計画についていま検討しているところであるが、打ち上げ時期については2024年度下半期を目標としている。

産経新聞:目標時期の変更などは考えていないということでいいか。

井元:検討結果次第となるだろう。いまは着実に開発すること、次の打ち上げを成功させることが最優先事項と考えている。いまは着実な検証をするための計画を考えているところである。

読売新聞:燃焼試験の失敗の原因として特定されたイグナイターの溶融について、そもそもイグナイターが溶融することを想定していた設計だったのかどうか。想定していなかったのであれば、設計上の見落としがあったものと考えられているのか。また、失敗を受けた対策として、イグナイターが溶融しないようにインシュレーション(断熱材)を施工するとのことだったが、どのようなイメージか。

井元:資料の9ページをもとに説明する。右下の青で囲ったところがイグナイターで、今回溶融したイグブースターの先端を赤で囲っている。このイグブースターはイグケースの中に入っており、まずイグブースターに着火し、その着火した火花でイグナイターの主装薬に点火するという仕組みになっている。

もともとはイグブースターが溶融することはないと考えていた。しかし、入熱条件が設計時の想定より厳しいという知見が得られた。

インシュレーションを巻くのはイグブースターの表面になる。イグブースターの表面には穴が少し開いているが、その穴を塞がないような形で巻く。

実際のイグブースターの写真を見ていただくと(下図中央下の写真を参照)、左側に角みたいなものが2つ生えているが、ここに火薬を点火するものがあり、その少し右にここに火薬が入っている。その右側の部分には2段階目の火薬が入っており、それらをすべて燃焼させて燃焼ガスを作り出す。

そして、この図で「欠損部」と書いてある部分は、もともとは穴の開いた円筒状の筒のようになっており、その穴から燃焼ガスが四方八方に噴出するようになっている。その筒の部分にインシュレーションを巻くという対策を取る。

「イプシロンSロケットの開発状況について 令和5(2023)年12月12日」より (C) JAXA

時事通信:先ほどの質問に関連して。宇宙開発利用部会への報告の中で、イグブースターは溶融しないよう設計していたが、解析の結果、アルミナ(筆者注:イグナイターの主装薬に含まれる成分)が影響するような入熱条件を特定したという説明があった。この点は、事前の解析ではわからないものだったのか、いま振り返ってみると難しいものだと言えるのか。

また、イプシロンSの第2段モーターが、強化型イプシロンのものから大型化したことに伴い、イグナイター部分の装薬の成分の変化、装薬量の増加など、条件の違いはあったのか。

井元:イグブースターの熱設計については、通常の輻射加熱では溶融しないが、新たな入熱条件があったことで溶融した。(事前の解析で把握することは)非常に難しい事象であった。今回得られた知見を設計に反映していきたい。

第2段モーターについては、まず推進薬そのものは、バインダーの材料枯渇対策で多少変えているが、基本的な部分は大きく変わらず、ほぼ同じである。

イグナイターについては変わっており、イグケースが強化型より大型化している。

時事通信:そうすると、強化型に比べて大型化したことで入熱条件が変わった要因と言えるのか。

井元:強化型イプシロンのイグブースターは、基本的には今回のものと同じである。過去の強化型イプシロンのモーターの地上燃焼試験でも溶融しているということを確認している。強化型の第2段のイグブースター、イプシロンSの第2段、第3段のイグブースターで溶融を確認している。

なお、H-IIAで使っている固体ロケットブースター(SRB-A)や、H3のSRB-3のイグブースターは溶融していない。これらのイグナイターは3段式の点火方式を使っている。

一方で、今回失敗したイプシロンSの第2段などに使っているイグナイターは2段式で、イグブースターが第1段、イグケース内の主装薬が第2段となっている。このため、イグブースターの外側にある直接燃焼ガスがさらされる部分の推進薬量などが、SRB-AやSRB-3に使っているものとまったく異なっているため、そこに溶融する、しないの境界があると考えている。

時事通信:対策としてインシュレーションを巻くとのことだが、性能などに影響を与えるおそれはないか。

井元:点火性能にはまったく影響しないようにしている。質量は若干増えるが微々たるもの(であり、打ち上げ能力に影響はない)。

時事通信:新たに巻くインシュレーションは、推進薬を巻いているインシュレーションと同じものを使うのか。

井元:そのとおりである。

フリーランス 大塚:先ほどのやり取りで、強化型の地上燃焼試験でもイグブースターが溶けていたとのことだが、以前から溶けていたことはわかっていたのか、それとも今回の失敗を受けてあらためて調べ直した結果わかったのか。

井元:この原因究明の中で確認したものである。今回の原因を調べていくなかで、すべてのものについて調査した結果わかった。

フリーランス 大塚:イプシロンSの第3段のイグブースターも溶けていたとのことだが、2段のイグブースターと同じものということでいいか。

井元:そのとおりで、イプシロンSの第2段と第3段のイグブースターは同じものである。

フリーランス 大塚:時系列として、第3段のモーターの地上燃焼試験でイグブースターが溶けていたにもかかわらず、その1か月後に第2段モーターの試験をしているが、その判断を知りたい。たとえば、第3段は強化型からかなり大型化しているので溶けたが、第2段は強化型のバージョンアップなので溶けないだろうというような判断だったのか。それとも、溶けるかもしれないが、爆発するようなことはないだろうという判断だったのか。

井元:そうした背後要因については、いま調査しているところであり、しっかり調査が終わったあとに報告したい。

フリーランス 大塚:同じようにイグブースターが溶けたにもかかわらず、第3段のほうは爆発しなかったのに、第2段だと起きたのは、どういうことが考えられるのか。

井元:データを確認した結果、時間だろうと考えている。第3段については燃焼終了間際にイグケースの出口から飛散しているようなデータが得られている。第2段モーターについては燃焼開始から十数秒後くらいに飛散しているのではと推定している。つまり、第3段は燃焼がほとんど終わっている、つまり推進薬がほとんどない状態で飛散している(が、第2段はまだ推進薬がまだ多く残っている状態で飛散した)というデータが示されており、そこが大きな違いと考えている。

フリーランス 大塚:対策として、インシュレーションを巻くとのことだが、従来も巻いていたのか。それを厚くするというイメージでいいのか。

井元:従来は巻いていなかった。SRB-Aのころから巻いておらず、強化型イプシロンでも巻いていない(つまり新たに巻くということ)。

宇宙作家クラブ 渡部:資料10ページの図について。推進薬側のインシューションと、モーターケース側のインシュレーションに隙間があるようだが、この隙間というのは製造時からあるものなのか。

「イプシロンSロケットの開発状況について 令和5(2023)年12月12日」より (C) JAXA

井元:製造時からあるものである。隙間を開けている理由は、モーターの製造時、推進薬は少し温かい状態で充填する。そして温度が低くなり硬化する際に、推進薬とインシュレーションの境界あたりで引張応力が発生する。それを緩和するために隙間を空けている。もともとスリットを設けており、したがって推進薬を充填したあとには、すでに隙間が空いている状態にある。

宇宙作家クラブ 渡部:ちなみにその隙間はどれくらいの大きさなのか。

井元:具体的な数字は機微な情報なので差し控えたい。ただ、(イグブースターの)溶融物が十分入り込んでしまうくらいの隙間ではある。また、定性的には、モーターケース内の圧力が高くなればなるほど、この隙間も開いていく。

フリーランス 秋山:18ページの丸2の部分について。これから予定されているいくつかの試験について、先ほど第2段モーターの再度の燃焼試験のスケジュールはまだ検討中とのことだったが、その前の3つの「イグブースター燃焼試験」、「イグナイター燃焼試験(第2段用、第3段用)」、「イグブースター温度データ取得試験」については、どのようなスケジュールで、またどの施設を使ってやるのか。モーターそのものの燃焼試験より小規模なので、先に進められるものなのか。

「イプシロンSロケットの開発状況について 令和5(2023)年12月12日」より (C) JAXA

井元:この3つの試験については、既存の設備、たとえばメーカーさんの工場などで試験ができるくらいの規模である。一方で、インシュレーションの板厚をどうするかなどきちんと設計したり、製造工程をしっかり考えたりなどしたうえで、供試体の製造が律速となる。いずれにしても、できるだけ早く、迅速に実施していきたいと考えている。

産経新聞:今日の宇宙開発利用部会において、地上燃焼試験の失敗の原因について最後のひとつまで絞り込み、対策も立てられ、今後の計画について報告されたが、この報告について部会から了承されたという理解でいいのか。

井元:私はそう考えている。

読売新聞:(爆発で損傷した)能代ロケット実験場の設備については、更地にしたり、再建したりするのに時間がかかるとのことだが、種子島宇宙センターにある設備をイプシロンSの試験用に改修するなどの検討はどうなっているか。イプシロンS実証機の2024年度下半期の打ち上げに間に合わせるために、そうした検討をしているのか。

井元:能代の設備の再建については時間がかかりそうであり、別の場所で試験することも検討しなければならないと考えている。その第一候補としては、種子島宇宙センターにSRB-3の燃焼試験を実施したスタンドを考えている。いずれにしても、いままさにどうするか検討しているところである。

共同通信:先ほどの質問に関連して、能代ロケット実験場の設備の状況について、いまどうなっているのか、再建についてはどうなるのか。

井元:詳しくは把握していないが、更地に近い状態にしなければならないということは把握している。能代実験場に関しては、宇宙科学研究所(ISAS)で検討していただいている状況にある。

共同通信:再建するかどうかも含めて検討中なのか。

井元:我々としては、今後の宇宙開発にとって、能代の設備は必要だと認識しており、ISASの方々も必須だと考えていると思う。したがって、再建は実施すると聞いている。

広報より補足:能代の設備については、2023年度内に、いまあるものを撤去する計画で検討を進めている。

宇宙作家クラブ 柴田:イグブースターとイグケースの構造について教えてほしい。

井元:イグブースターはSUS(ステンレス)系、イグケースはCFRPでできている。

宇宙作家クラブ 柴田:イグナイターは燃焼中に焼損することになるのか。

井元:いいえ。イグケースは燃焼を終えたあとも形状を保つようになっている。今回も残っていた。

宇宙作家クラブ 柴田:今回の爆発について、第2段モーターの燃焼開始から20秒くらいの時点で燃焼の状態が変わってきており、だいぶ早く溶けていると思うが、これの原因としては、推進薬の熱なのか、それとも自身の点火薬のためなのかという、イグナイターの点火薬なのか、そのあたりはわかっているのか。

井元:まず、イグケースの中にあるイグナイターの主装薬が、直接イグブースターに当たるので、かなりの入熱の要因になりうる。この主装薬は1~2秒で燃焼が終了するが、そのまわりにある主推進薬は100秒ぐらい燃焼するので(=量が多い)、そこからイグケース先端の穴への入熱も考えられる。また、イグケースそのものが熱せられることで、その熱が中に伝わるなど、そういった諸々の熱伝達を総合して考える必要がある。

宇宙作家クラブ 柴田:イグナイターが焼損しないようになっている理由は、モーターケースの蓋という意味もあるためか。

井元:おっしゃるとおりである。一番重要なのは、図で言うと左のほうにあるイグナイターのホルダー(モーターケースの構造体を構成している金属部分)に隙間ができ、そこからモーターの燃焼ガスが漏れないようにすることだった。そこが最も注意すべきポイントであると考えていた。

今回の爆発では、イグブースターの先端が溶融するというまた別のシナリオが発生した。結果論としては、ホルダーからの漏れとイグブースター先端の溶融の、両方への対策・対応が必要であったということになる。

宇宙作家クラブ 柴田:今回横置きで試験したから爆発が発生したとか、打ち上げ時の飛行状態では発生しにくいとか、そういうことはあるのか。

井元:少し定性的な話になるが、横置きの状態だと1G環境下で垂直方向に加速度がかかるため、溶融物が飛散した場合には、重力の影響をより受ける(=モーターケース内に落ちやすい)。飛行状態であれば加速度が水平方向にかかるため、もしかしたらノズルから出ていったかもしれない。あくまで推定でしかないが、今回は横置き状態での燃焼試験だったので、そういった影響はあったのではと考えている。

NHK:対策としてイグブースターにインシュレーションを巻きつけるということだが、これはイグブースターの表面だけか、それとも内側も含めてか。

井元:表面だけである。

NHK:資料12ページのFTAのところで「イグブースター回収品において先端部が欠損(溶融)している」とあるが、実際に欠損したもの、融解したものが見つかっているわけではないという理解でいいか。

「イプシロンSロケットの開発状況について 令和5(2023)年12月12日」より (C) JAXA

井元:欠損部分、溶融している部分は見つかっていないのが事実である。第3段モーターの試験時にも溶融したが、そちらも欠損部分は見つかっていない。モーターケースの中には残っていないということは、おそらくはノズルから出ていったのではないかと考えている。今回の第2段モーターのものに関しても、どこかに落ちている可能性はあるかと思うが、現時点では見つかっていない。

NHK:原因調査が一段落した。所感、受け止めを伺いたい。

井元:イプシロン6号機の打ち上げ失敗、イプシロンSの第2段モーターの爆発と立て続けに発生した。イプシロン6号機のときは、まず皆さまに申し訳ないという思いがあり、またとくに初期のころは原因がよくわからず、先が見えない状況だった。そんな中、企業の方、JAXAの人たちが一生懸命がんばり、原因の究明ができたと考えている。

また、立て続けに問題が起きたが、それぞれのことに対して、事実に基づいて判断するということができた。最初は推定から始まるが、最後の判断は事実に基づいて行うことが着実にできたと考えている。

失敗した過去は変えられないが、未来は変えられる。これからもイプシロンSの開発が続くが、未来に向けて、イプシロンS実証機の打ち上げ成功に向けて、もう一度みんなで気を引き締めてやっていきたい。原因究明が一段落したので、さらにもう一回ギアを入れて対応していきたいと考えている。

時事通信:今回の解析によって入熱があったという新たな知見が得られたということだが、固体燃料ロケットは世界中で造られており、その着火装置も古今東西あると思うが、今回と類似の事例はあったのか。

井元:こういう技術は、かなり機微な情報に当たるため(=他国もあまり情報公開しないため)、現時点で私が把握していることはない。

時事通信:井元さんの感覚としては、今回の爆発は想定外だったのか。

井元:結果論としては、想定しておかなければいけなかった事故だと思う。ただ、いまから振り返ってみると、少し想定外の事象の部類に入るかと思う。

トップ画像:イプシロンS 2段モーター地上燃焼試験の様子(実験場外見学場)(C) JAXA


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