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心理学の研究で役立った本と資料

 私は心理学を専門として研究をしています。心理学ではよく考えることも大切ですが,科学的な手続きが重視されるため,研究の方法と結果の分析のやり方がとても大切です。それらは大学の授業で勉強するわけですが,その勉強をサポートする本がたくさん出版されています。また,研究するなかで,これは使えると思った資料もあります。

 今回は,個人的に役立ったと思う本や資料をいくつか紹介していきたいと思います。大学の学部で心理学を学び始めた方や,独学で心理学の方法を取り入れて自分の研究を発展させようとしている方向けの記事です。なお,実験心理学に寄ったものが多いです。


SPSS関連

 統計ソフトウェアには,SASやSTATA,Rなどがありますが,心理学の研究室にはSPSSがインストールされたパソコンが置かれていることが多いと思います。私は実習の授業でSPSSの使い方を教わって,卒論などでそのまま使っていました。最近はPythonを使う人も見かけます。また,SPSSが入っていないパソコンを使って人にやり方を教えるときなどは,フリーのソフトをダウンロードすることもあります。統計ソフトはそれぞれ個性があって使い勝手もかなり異なるので,知っていて使えるのであれば,個人的にはSPSSでなくてもよいと思っています。とりあえず,以下でSPSS関連の本を紹介します。

『SPSSのススメ 1―2要因の分散分析をすべてカバー―  増補改訂版』(竹原卓真,北大路書房,2013)
 SPSSの使い方を初心者向けに丁寧に解説している入門書です。比較的複雑な分析で使用するシンタックスについても解説されています。結果の書き方の例がある点も親切です。

『研究事例で学ぶSPSSとAmosによる心理・調査データ解析  第2版』(小塩真司,東京図書,2012)
 心理学を学ぶ人向けに,SPSSの使い方統計分析の意味について解説している本です。小塩真司先生によるSPSSの本はシリーズになっていて,これはそのうちの一冊です。SPSSは分析結果を出力するだけであって,研究の結果の解釈や書き方の間違いを指摘してくれるわけではありません。この本は論文やレポートを書くために必要な具体例を示しながら,統計分析の意味について解説してくれています。


プログラミング関連

 実験をするとなると,刺激を作る必要が出てきます。実験用ソフトウェアのE-Primeを使っている人も見かけます。実験の目的に合う刺激を作ることができれば何でもいいと思います。しかし,プログラミングの知識があるとやはり便利です。私はPythonを使っています。

『心理学実験プログラミング―Python/PsychoPyによる実験作成・データ処理―』(十河宏行,朝倉書店,2017)
 Pythonを使って心理学実験の刺激を作成する人のために書かれた入門書です。必要な環境の準備から始まり,PsychoPyを用いた実験刺激の作成まで,サンプルコードを交えながら解説しています。Pythonの勉強のための本はたくさん出ていますが,心理学実験のプログラミングのための本はほとんどないので,参考になります。これとは別のPythonの入門書などを参照する必要も出てくるかもしれません。


論文・レポートの書き方関連

 成果物となる論文やレポートの書き方は最も重要かもしれません。書き方のルールは分野によって様々ですが,大学で教育を受ける意味のひとつは,一定のルールに従った厳密な文章の書き方を身につけることだと思います。たとえレポートでも書き方がおかしいと,読み手(教員)に与える印象は変わってきます。文献リストの書き方となると,キャリアを積んだ人でも迷うことがあるほど,正確に書くことは意外と難しいものです。以下で紹介している『執筆・投稿の手びき』は,個人的に見返したくなるときがたまにあるような,手元に置いておきたい資料です。

『執筆・投稿の手びき 2015年改訂版』(日本心理学会機関誌等編集委員会,日本心理学会,2015)
 論文を投稿する人向けに書き方を解説した日本心理学会による冊子です。引用の仕方や,図と表の書き方,文献リストの書き方などが詳細に示されていて,日本語で心理学の(心理学をベースにした)論文を書く場合にはとても参考になります。日本の各論文誌の執筆規程は書き方のルールを示してくれてはいますが,あまり詳しく書いていないものが多いと思います。日本語でAPAスタイルに準じた書き方を最も詳しく示していると思われるのがこの冊子です。日本心理学会の公式ウェブサイトから無料でダウンロードできます。

『心理学論文の書き方―卒業論文や修士論文を書くために―  改訂新版』(松井豊,河出書房新社,2010)
 論文の構成や書き方などについて具体的に解説している初学者向けの本です。初めて論文を書くような人にオススメします。『執筆・投稿の手びき』を補うものとして使うとよいかもしれません。


質問紙関連

 質問紙法は,調査だけでなく,実験でも使う心理学を代表する方法のひとつです。日常的に見かけるアンケートも同じ質問紙法ということになりますが,専門的に見ると,注意すべき点がおさえられていなかったり,信頼性のある回答を得られにくい構成になっていたりするアンケートを見かけます。必要なコストが少なくて済む便利な方法ですが,落とし穴もあるので,参考書を一冊程度,手元に置いておくとよいかもしれません。

『質問紙調査の手順  心理学基礎演習 Vol. 2』(小塩真司・西口利文編,ナカニシヤ出版 ,2007)
 質問紙の作成について具体的に解説している入門書です。質問紙法の基礎的な考え方や作り方だけでなく,研究の進行順序に沿って解説されていて,方法,結果,考察の書き方まで示してくれています。時間が限られている場合は必要な章を拾い読みするという使い方も可能で,それで十分に注意すべき点をおさえられると思います。


統計学関連

 心理学では統計学の知識が必須ですが,難しいと感じる最初の壁となるのがおそらく統計学でしょう。統計学関連の本は膨大な数が出版されていて,分野によっては初学者向けの本もあります。個人的には,わかりやすいと思えるものであればどれでもよいと思いますが,必要とするレベルによって本を使い分ける必要が出てくるかもしれません。

『心理統計学の基礎―統合的理解のために―』(南風原朝和,有斐閣,2002)
 心理学の研究で必要な統計学の理論と方法について解説した本です。有名な南風原朝和先生の著書で,心理学を学ぶ人向けの統計学の本としてオススメできる本です。説明のための文章が多めで,基本的なこともかなり詳しく扱っているのが特徴です。

『心理学のための統計学入門―ココロのデータ分析―  心理学のための統計学1』(川端一光・荘島宏二郎,誠信書房,2014)
 シリーズものの一冊目で,記述統計量,相関,正規分布,統計的仮説検定などの基礎知識を扱っている初学者向けの本です。私が統計学を教えるために参照したことがある本で,わかりやすいと思っていたので挙げました。


 以上,私が心理学の研究で役立った思った本と資料をいくつか挙げてきました。何を選べばよいかわからない方の参考になれば幸いです。あくまでも参考で,自分に合ったものがあればそれでいいと思います。

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