日本語の文章で用語をどのように扱うべきか
伝わりやすい(わかりやすい)日本語の文章を書こうとするとき,用語をどのように扱うべきかという問題が生じてきます。最近の記事で「「公用文作成の要領」の見直しに関する国語課題小委員会の検討状況(案)」という資料を取り上げることがありました。この資料には,平易でわかりやすい文章を書くために意識すべきことがまとめられていて,とても参考になります。今回は,この資料を参照しつつ,読み手にわかりやすい用語の扱い方について書きます。
使う必要のない専門用語は日常語で言い換えるべき
以前,「母数」の意味と使い方について書きました。母数は統計学の専門用語で,母集団の平均,分散,標準偏差(母平均,母分散,母標準偏差)などのことを指します。しかし,分母やサンプルサイズの意味で使う誤用が多いようだという話をしました。
分母と言いたいときには,そのまま「分母」,あるいは「全体の数」などと書けばよいだけであって,わざわざ分母の意味で「母数」という専門用語を使う必要がないことは明らかです。しかも,これは誤用なので,悪質な使い方だというわけです。
ここで「「公用文作成の要領」の見直しに関する国語課題小委員会の検討状況(案)」(以下では「当該資料」と表記)を参照します。例として,一般向けの公用文では,医療用語である「予後」を「病状の見通し」と言い換えることを推奨しています(当該資料 p. 25)。このように,わかりやすい日本語を書くためには,専門用語を日常的によく使われる平易な言葉で言い換えたほうがよいということがいえます。
修飾語句を使って理解させる
日常語では言い換えることができない重要な意味をもつ専門用語を使う必要がある場合,どうすべきでしょうか。注釈を付けて説明を加えるという方法が考えられますが,注釈を設けると字数が増え,視線を移動せさる必要があるため,読み手の負担になる可能性があります。
この問題を解決する方法のひとつとして,専門用語の前に修飾語句で説明を加えることによって理解させるというものがあります。個人的には,学術的な文章の中で,この方法を上手に利用しているのをたまに見ることがあります。わからないものをわかった気にさせる方法でもあり,利用価値のある書き方だと思います。
当該資料では,「化学療法」という用語を例にとって説明しています(p. 25)。このままではこの用語を知らない人には何のことかわかりませんが,「がんを薬で治療する化学療法」と書くことで理解できるようになります。説明の中で何度も登場する用語であれば,この方法を用いるのが最適でしょう。
もちろん,前置する修飾語句でなくても,「化学療法とは,がんを薬で治療することです」といったように,説明のための独立した文を書いてもよいと思います。修飾語句が長くなる場合などには,説明のための文を入れたほうがわかりやすくなるかもしれません。要は,適切な使い分けだと思います。
カタカナ語の乱用は避ける
使う必要のないカタカナ語も,漢字の専門用語と同じように,別の日常的な言葉で言い換えられるのであれば,むやみに使わずに言い換えるべきでしょう。一般に知られていないカタカナ語であればなおさらで,情報をわかりすやく伝えるという目的に沿って工夫すべきです。当該資料でも,以下のような例が挙げられています(p. 26)。
アウトソーシング → 外部委託,業務委託
インキュベーション → 起業支援
インタラクティブ → 双方向的
カタカナ語を使うことによって,特別な意味を伝えられる場合もありますが,別の知られている日本語に言い換え可能であるにもかかわらず,特別な印象を与える目的でカタカナ語が乱用されていることは,少なくありません。独特なニュアンスを共有している集団の中で使用するのはよいと思うのですが,不特定多数の相手に向かって伝えようとする場合などで,カタカナ語によって理解が阻害される恐れがあるのであれば,やはりカタカナ語の使用を避けるべきでしょう。
以上,日本語の文章で用語をどのように扱うべきかというトピックで書いてきました。個人的には,わかりやすい日本語の文章を書くことについて,実はそれほど自信があるわけではありません。自戒の念を込めつつ,自分の勉強になればと考えて,思いついたことを文章にしたにすぎません。参考になれば幸いです。
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