Netflix「13の理由(13 Reasons Why)」社会現象にもなった米国の自殺と深刻ないじめ問題
こんにちは、カイラです。今日は初めて英語ドラマシリーズを。
Netflixオリジナルの人気作品「13の理由」の新シーズン・4が出ました。新しい作品のリマインド機能をつけているのですが、見た瞬間「あ~どうしよう。。見ようか見まいか…」とめちゃくちゃ悩んだ作品です。
今回は2020年のシーズン4を見る前まで、つまりシーズン3までを見た感想を元にした作品レビューです。今回はテーマがテーマだけに、とってもシリアスな内容になりました。。
本作は2017年、Netflixで最も見られたドラマとなり、その後シーズン2が2018年、シーズン3が2019年に、そして今回のシーズン4は2020年6月5日に世界同時公開されました。
早速ですが、作品の注目点は以下です。
1.著名セレブ セレーナ・ゴメスによる若者視点での製作総指揮
原作はジェイ・アッシャーによる同名小説ですが、著名人であるセレーナが直接プロデュースに関与したことでも公開前から話題に。知らない人はいないかもしれませんが、あのジャスティン・ビーバーと長年恋人として連れ添ってきた(ジャスティンはその後ヘイリーと電撃結婚)女性。日本での人気度は不明ですが、アメリカ及び世界では今でも超がつくほどの人気で、Instagramのフォロワーは2020年6月現在なんと1.8億人(!)と驚異的な影響力の持ち主。アメリカ・エンタメ界のエリートコースでもあるディズニーチャンネル出身の彼女は、現在も歌手として主に活躍中。(画像下、主演二人に挟まれるセレーナ)
単にキラキラ輝くセレブ、というよりは、セレーナ自身過去にメンタルの問題を抱えていたこと、また難病を患っていたり健康上の理由で手術や休養が必要だったこと等、赤裸々に世界中のファンに伝えており、そういった率直さや自身の弱さも見せるオープンさが、ある意味今どきのセレブ、アイドルとも言えるファンに愛される秘訣かもしれない。(画像下、手術を受けた際のInstagram投稿)
トップスターとして、また一人の女性として並々ならぬ、そして予期せぬ痛みを経験してきた彼女だからこそ、今回の自殺・いじめというとてもセンシティブなメッセージがより若い世代に刺さったのかもしれない。
正直、「セレブがドラマ企画やってみただけでしょ?」という批判も少なからずあったと思う。しかし、言うまでもなくこの作品はそれ以上に大事なテーマ、メッセージを素晴らしい脚本、演出、俳優陣の熱演によって非常に繊細に伝えきっている。しかしながら、セレーナの影響力や発信力が注目度を高めてくれたことも否めないだろう。
2.アメリカ社会ならではの更なる暴力性 ー 銃、LGBTQ、レイプ、ドラッグ
正直、この作品を見るまでアメリカにおける「学校のいじめ(bullying)」がこれほどひどいものだと思わなかった。もちろん、いじめ問題自体に優劣はないのだが、正直次元が違うと感じた。具体的には、性認識に関すること(LGBTQ)、性教育そのものや麻薬、銃といったれっきとした犯罪に至るまで、銃はいわずもがな、性認識や肌色による差別など日本では考えられない文化・歴史的背景が混ざりに混ざっている。銃や犯罪に関して言えば、ともすれば「死」という概念が路上で、そして平和であるべき学校でさえも日常的に存在しえる世界。そんな中で精神的、物理的に苦痛を与えられる10代のことを考えると、本当に胸が痛い。学校が世界の中心でもある10代の彼らにこのような重すぎる重圧がかかっていると考えると、ドラマのように精神的に追い詰められていく様子、また他方、何も知らずに(時に馬鹿らしくも明るく)「今日は学校どうだった?」とお決まりの質問をしてくる大人との会話は、痛ましいと同時に現実をよく表現していると感じる。
また、いじめで実際に暴力を振るわれるシーンや物語で核にもなってくるレイプ(男女共に)、自殺に至るシーン(現在は一部編集)等、正直目を背けたいシーンは多々ある。一方で、作品後記として出演者と製作陣が議論する「ビヨンド」を見ると、こういった問題がアメリカ全土で実際に報告されており、羞恥心から報告されてない潜在数も含めるとかなりの学生が何らかのいじめ及び犯罪行為に巻き込まれているという。なんという世界だろうか。自分自身がいかに平和で幸せな学生時代を送れたのかと感謝すると共に、大人の立場として、痛みを抱える子供たちに寄り添いたいと真摯に感じた。(画像下、「ビヨンド」の一場面)
3.強すぎた作品の影響力
2019年7月、Netflixは自殺シーンを2年の議論を経て削除・編集したと発表した。そう、実際にこのドラマを見て自殺した若者が増えたというのだ。米児童青年精神医学会(AACAP) の雑誌に掲載された報告書によると、ドラマ公開後、9か月間に自殺した10~17歳は195人に上り、平時よりも約3割増加。公開直後には、自殺者は著しく増加したとも指摘された。
途中からドラマの開始前と終了後のテロップが流れる前に、悩んでいる若者へのホットラインの案内や、このドラマはフィクションであり、サポートが必要なら大人や周囲の助けを求めるように、という出演者からのメッセージもとい「警告」が流れるようになっている。
ポジティブに考えると、この作品がいかにリアリティをもって社会の闇に切込み、忠実に再現し、ともすれば今まさにいじめやその他問題に悩んでいる若者に「一人じゃない」と、手を差し伸べるメッセージを届けたとも言える。
一方、ドラマや映画、そしてどんなジャンルであれ広く「芸術」と呼ばれるものにはつきものだが、負の側面を助長するという意見だ。これについてはここでの議論を避けたいが、WHOではこの問題を受け、「自殺予防の指針」を世界に向けて作成するにも至った。
4.10代だからこその「Vulnerability(脆弱性)」の繊細な描写
「13の理由」のようなシリアスなドラマでなくても、10代の作品には思春期ならではの「揺れぎ」がおおいに表現される傾向にある。しかしこれがラブコメでなくこういったシリアスな作品で描かれると、このVulnerability自体が10代の成長過程とはいえ、本当に多くの危険をはらんでいたんだと改めて感じざるを得ない。数百個の小さなミスが航空機事故のような大惨事を起こすように、彼らも普段のとても小さなすれ違い、ささいな勘違いが、やがて想像もしなかった大きなうねりとなって自分に、そして友人たちに跳ね返ってくる。
「伝えちゃばいいのに」と思うもどかしいシーンも多々あるのだが、それがラブコメの「もう告白しちゃいなよ!」という思わせぶりなものに対する時に揶揄を含んだツッコミではなく、むしろ「お願いだから、誰かに助けを求めて」といったすがるような気持ちになるのもこのドラマの特徴だろう。一方で、「自分が10代でこんな痛みや重みを抱えてたら、本当に尊敬する親や大人、大事な友人にちゃんと事実を伝えられるだろうか」と考えると、全く自信がない。そもそも、10代の時に親・家族と先生以外の大人と関わる機会なんてあっただろうか?コミュニティ社会と言われるアメリカですら、ドラマを見ているとどうやら難しいようだ(むしろ拍車をかけている部分もある)。大事な友人たちと、ゆっくり時間をかけて将来の夢や希望、自分が今何を思ってるかを、恥ずかしがらずに素直に話し合う機会なんてあっただろうか?振り返ると10代の日常は、日々の日常を楽しむことで忙しいはずだ。大人でさえ難しい面と向かったコミュニケーションや耳の痛い言葉を、思春期で葛藤も抱える10代が出来たかというと、やはりそれは大人が求めすぎている、単なるエゴだという結論に至ってしまう。
彼らが抱える痛みや周囲=大人からの過度の期待やプレッシャー、こうあるべきという理想像(性別含む)への固執と強要、多様な背景による自己肯定感の低さ、不透明な未来に対する絶望…そもそも学校という場が彼らにとって地獄のようにしか思えないのは、この作品を見ていると明らかだ。これまでも学校での問題とそれに対する親たちの視点の対比を描いた作品は数多くあったが、これ程子供たちの立場に立ち、それを圧倒的にフェアな態度で伝えてる作品は少ないと思う。
同時に、大人たちも子供たち同様に「痛みを抱えた」「大人になり切れない」「ズル(cheat)をしてしまう」大人として描かれているのも、現実感を増幅してくれる。この辺りは作品に対する深い考察や脚本、演出のすばらしさだと思う。
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最後に、自殺に関する日本の現実にも目を向けたいと思う。
2019年7月に政府が発表した「2019年版自殺対策白書」では、2018年19歳以下の自殺は599人と、前年より32人増え、19歳以下は統計を取り始めた1978年以降最悪となった。少子化の影響も考えると、単純に数も比率も上昇していることになり、とてもいたたまれない事実である。
大人でさえ「自分がわからない」、30代になっても「何がしたいかわからない」が溢れる今の世の中で、10代の子供たちの肩を抱き締め、手を握って言ってあげたい。「大丈夫だよ。安心して。そのままでいいんだよ。もっと悩んでいいんだよ。答えが出なくてもいいんだよ。明日その気持ちが変わってもいいんだよ。大人もみんな同じだから。そして、一人じゃないから」と。
10代や若者たち以上に、社会で「大人」として責任を果たすべき世代にこそ、心して見てほしい作品である。
Thank you and addios!
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