6か月後 "5回しか会わないって言ってたけど、治った?"
あの告白をしてから半年ぶりに連絡がきた。なんでも4月の人事異動で僕の最寄りのターミナル駅に異動になったと嬉しそうに電話をしてきた。
積もる話もあるだろうからと飲みに誘われた。本音を言えばそんな気軽に誘わないでほしかった、あと5回しか会えないのに。
仕事の近況、同級生の結婚の進捗、最近の海外サッカー事情をいつもどおりに話すのだから、それはいつも通りに楽しかった。
変わった点は彼が以前から好きだと公言していたユーチューバーを、
密かに自分も見るようになっていたことだ。
顔が良いという免罪符で、大学生ノリで中高生に人気の彼らを冷笑していたが、機械のように同じ文字しか答えられない自分と比べて、
本能に従い行動できる彼らこそが何倍も価値ある人間と思うようになっていた。
「やっぱり、エビドットみたいにお金使ってパーッと遊びたいよね?」
「そうだね」
「今年の夏はみんなで旅行でもいこうよ」
「そうだよね」
「じゃあヤスアキ、みんな集めといてよ」
「そうだね」
「そういえば俺の先輩沖縄に別荘買ったとか言ってたんだよな。羨ましいよな。ちょっと貸してもらえないかきいとくよ」
「すごいね」
音ゲーのごとく相槌を刻む、トーンだけ気をつければ判子のように同じ文字でも差し障りはない。はじめは話聞いてないよなと口を尖らしてたが、慣れてしまえば大丈夫のようだ、お互いに。
「てか前あと5回しか会わないって言ってたけど、治った?」
「病気みたいに言うなよ(笑)あと4回だよ」
「まだ続いてたんだね」
「そうだね」
・・・・
「ヤスアキさあ、高校からそんな感じだったっけ?大学入ってから変わったというか、ひねくれたよな」
「そうかオレずっとこんな感じだぞ。誤解してただけじゃね?」
「これ会わなくなって何が解決するの?」
「おれが自己嫌悪しなくなる」
「逆に?」
「正に」
・・・・
「えーじゃあちょっとマジっぽいから、残りの使い方少しマジメに考えよ。とりあえず旅行と、年末の忘年会は来てよね」
「りょーかい、そしたらあと2回」
「ガチっぽいな(笑)なんか悩んでたら相談してよ?」
「悩んでないです。仕事もわりと順調です。
まあ強いていうなら、子供ちゃんの顔みたいから、1回分は使わないで取っといて欲しいんだけど」
「じゃあ1回分増やしてよ(笑)」
「そういうサービスはやってません(笑)」
「いやヤスアキのさじ加減で増やせるじゃん」
「これがいい加減なんで(笑)」
・・・・
甲高いはぁーーっと言う鳴き声が目の前を横切り、僕も自然と笑った。
・・・・
ぼくが好きな芸人のギャクで、周りの芸人から追い詰められて煮詰まったときに披露していた。ぼくがマネして使ってたら、いつの間にか彼が我が物顔で使っていた。彼は元ネタをきっと知らないし見たこともないだろう、でも彼の方がおもしろいので、ぼくは笑う側に席を移した。
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