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食と妊孕性

妊孕性(妊娠しやすさ)と栄養との関係を科学的に解明する研究を続けてきたハーバード大学公衆衛生大学院栄養疫学 准教授のジョージ・チャヴァロ博士は、

妊娠を希望している約1万8000人の看護師を8年間追跡調査し、
論文 Obstet Gynecol. 2007 Nov;110(5):1050-8.で報告しています。

また、原著『The Fertility Diet』
日本語訳『妊娠しやすい食生活-ハーバード大学調査に基づく妊娠に近づく自然な方法』でも詳しくまとめています。

**チャヴァロ博士が論文や書籍で報告された妊孕性を高める8つの食材や生活習慣にについてまとめてみました。 **

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①全粒小麦粉、玄米などの精製度の低い穀類をとる。**
(砂糖や砂糖入り飲料、スナック菓子、精製された炭水化物は避ける。)

食後の高血糖を抑えることが重要です!

高血糖でインスリンが分泌されると、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の分泌が低下し、女性でも少量分泌されている男性ホルモンが、性ホルモン結合グロブリンと結合できなくなり、血中の男性ホルモンの濃度が高値となり、排卵機能を障害します。

* 高血糖は、糖化により精子の質も低下させます。

②オメガ3脂肪酸(魚油・アマニ油など)をとり、トランス脂肪酸を避ける。
トランス脂肪酸の摂取量が多いほど、排卵障害や不妊のリスクが高まります。

*オメガ3脂肪酸は、精子数を増やし、精子濃度を高めます。

③タンパク質は、大豆製品やナッツ、魚からとる。
赤身肉(牛肉・豚肉)と加工肉(ベーコン・ハム・ソーセージ)、乳製品を避けことが重要です。

魚の摂取量を増やすと妊孕性が高まります。月1回程度しか魚を食べない女性の生殖医療による出産成功率は34.2%で、週2~3回食べる女性では47.7%と明らかに高かった報告があります。Am J Clin Nutr. 2018 Nov 1;108(5):1104-1112.

また、下記のスライドのように(わかりやすいように改変)、植物性タンパク質の摂取は、排卵不妊のリスクを低減させ、動物性タンパク質(肉類)の摂取は、そのリスクを増加させます。 Am. J. Obstet. Gynecol., 198(2):210-1, 2008.

乳製品(タンパク質)も卵巣機能の指標である胞状卵胞数を減らします。
(下記のスライドはわかりやすいように改変しています。)
International Journal of Obstetrics & Gynaecology. 2017;124(10):1547-55.

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④葉酸、ビタミンB群をとる。**
葉酸はビタミンBの一種です。厚生労働省は、妊婦に対して、神経管閉鎖障害のリスク回避のために、1日400μgを摂ることを薦めています。下記の論文では、食事からの摂取に加えて葉酸サプリメントを1200~1500μg補充している米国人女性は、葉酸の摂取量が1日400μgの女性に比べて生殖医療による妊孕率が高かったことを報告しています。

また、血液中のビタミンB12濃度が高いと生殖医療の妊孕率が高まることも報告されており、チャヴァロ博士は、葉酸800μg以上とビタミンB6、B12の入ったサプリメントの摂取を薦めています。

また、パートナー(男性)の葉酸摂取量が400μg増えると妊娠期間が平均2.6日長くなり、早産リスクが低下することも報告されています。

Reprod Biomed Online. 2019 Nov;39(5):835-843.

ただし、厚生労働省は、「日本人の食事摂取基準2020年版」で葉酸サプリメントの1日の耐容上限量を男女とも18~29歳と65歳以上は900μg、30~64歳は1000μgに設定しているので、注意が必要です。

個人的にはサプリメントに頼らず、食材から摂取する方が良いと思います。

葉酸は、海藻(のり、わかめ、青海苔、昆布)、枝豆、ほうれん草、アスパラガスに豊富に含まれており、ビタミンB12は、貝類に豊富に含まれています。ビタミンB6はバナナ、パプリカ、玄米、サツマイモに多く含まれています。

⑤ビタミンDが豊富な食材をとる。
ビタミンDは排卵障害や不妊との関係が注目されているビタミンです。生殖医療を受けている100人の米国人女性を対象にしたチャヴァロ博士らの研究では、血中ビタミンD濃度が高い人のほうが、より高い出産成功率でした。ビタミンDは、キノコ類(特に干シイタケ、干きくらげ)や魚類(サケ、青魚など)の食品に多く含まれています。また、日光で皮膚からも合成できます。

Am J Clin Nutr. 2016 Sep;104(3):729-35.

⑥水を十分に飲む。
カフェイン入り飲料(コーヒー、紅茶など)、アルコールを飲み過ぎない。

⑦体重をコントロールする。
太り過ぎでも痩せ過ぎても妊孕性は低下します。
日本人は、BMI19~23程度が最適です。

⑧1日30分程度の有酸素運動を続ける。
基本的なことです。

不妊症の原因(女性側)として、排卵因子、卵管因子、頸管因子、免疫因子、子宮因子が挙げられます。

これらの精密検査で異常がない場合、タイミング法→排卵誘発法→人工授精→生殖補助医療(体外受精、顕微授精)の順番で治療法をステップさせていきます。
日本産婦人科学会のホームページより

現在、日本において、40万件もの生殖補助医療(体外受精、顕微授精)が行われていますが、その費用は、高額で30-60万円にもなります。

妊孕性を高める食事スタイル(上述の①から⑤)は、一言でいうと、良い食材で揃えた魚を摂るベジタリアン:ペスクタリアンのスタイルになります!

**ペスクタリアンは、日本人に適した食生活スタイルで健康長寿も享受できます。
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また、生殖補助医療に取り組まれる場合でも、その成功率を高めることができるかも知れません。