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【3回連載】公共サービスの適正価格について考える(2)

コーポレイトディレクション(以下、CDI)は、企業・団体だけでなく、国・地方自治体の行政改革も積極的に支援しております。
本稿では3回に渡って「公共サービスの価格」について考えます。今回は第2回です。
公共サービスの適切な価格設定は、行政の品質向上や国民の満足度向上、財政健全化につながります。特に、我々は財源確保としての価格調整について潜在性(と、その一方で難しさ)を感じています。財政の危機が叫ばれる中、向き合うべき論点として、行政に関わる方は是非一緒に考えてみませんか。

本稿は、弊社コンサルタント芳賀と安田の対談形式でお届けします。
第1回目はこちら。
https://note.com/cdi/n/n09d459a7ab20

  •  第1回:公共サービスと値決めの接点

  •  第2回:公共サービスの値上げの考え方

  •  第3回:CDIの公共サービスの値決め適正化のアプローチ

第2回:公共サービスの値上げの考え方
第1回は、公共サービスの価格適正化(値上げ)について、その必要性と難しさについて触れてきました。難しさについては、提供するサービスの種類によって住民の許容度が変わることを整理してきました。
第2回は、公共サービスの値上げを実現するための工夫を考えていきます。


工夫その1:値上げのターゲットを定める

芳賀:値上げの実現は難しいものの、工夫の余地はあると感じています。
「提供対象によって価格を変える」と、「新規サービスで適正な価格付けをする」という2つの観点があるのではないかと思います。

まず、1つ目の「提供対象によって価格を変える」という観点です。
サービス提供地域の住民に対するサービスを値上げすることは、説明コストが高く、実は高いハードルがあります。
なぜなら、行政サービスの価格改定は、首長や議員等の政治家の影響力を大きく受けるためです。
彼らは地域住民に選出されているため、地域住民が利用するサービスであれば、基本的には値上げに対して慎重姿勢です。自治体内(市役所等)の合意プロセスにも影響を及ぼします。

そこで、地域外の来訪者、もしくは企業から多めにサービス対価をもっと得られないか?と考えてはいかがでしょうか。
例えば観光施設には、地域住民だけではなく、地域外から来る人が多くなるかと思います。その場合に、価格を地元住民と域外からの来訪者で分けるといった考え方はありそうです。

安田:日本ではまさに最近になって本格的に注目をされ始めてきたのではないかと思います。最近の報道を見ていると、松本城や姫路城が市民と市外からの来訪者で料金に差をつけようとしているようです。また、海外では、インドのタージマハル、フランスのベルサイユ宮殿をはじめとして、様々な地域ですでに観光客と住民で料金を分けています。

芳賀:そうなのですね。事業者から対価を適正もしくは多めに得るというアプローチはいかがでしょうか。
例えば、観光施設で一般客の入場料と、事業者の利用料金がそれぞれ設定されている場合があります。事業者の利用料金とは、観光施設内で事業を行うための場所貸し代などです。
以前関わった施設では、プライダル事業者へ場所貸しをしていました。地域住民へ説明するよりも商取引として交渉がしやすかったです。

安田:確かにそうですよね。 ビジネスとしてやりたい人に施設を貸すということであれば、 お金の話がしやすそうです。

芳賀:観光施設に限らず、自治体だからこそ保有できている好立地ってありますよね。その場を使って事業者がビジネスをする権利に対して、適正な対価を得ることができれば貴重な収入源になります。
行政が直接住民に説明・説得をしなくても、事業者に場所を貸す事業を行い、その事業で適正な収益を得る。
事業を行う場所だけでなく、自治体が提供できる権利には、ネーミングライツも1つの考え方としてありますね。

従来は価格をつけるという発想がなかったことも、実は需要があると気づき、適正に値付けをして公募できれば、資金確保の可能性も広がると思います。
行政にかかわる方々には、行政が提供している場や機会について、もっと対価を得られることはないか、改めて整理していくことが求められるのではないでしょうか。

工夫その2:新規サービスで適正な価格付けをする

芳賀:新規サービスに正しく値付けする、この工夫もあると感じています。

安田:ありそうですね。

芳賀:安田さんが関わっていた文化観光施設について、何か事例はありますか?

安田:文化施設について、文化的・社会教育的側面と、娯楽的・観光的な側面に分けて考えた場合、前者は安価で利用可能にし、後者で比較的高い対価を受けるということをしている事例があります。

例えば、美術館や博物館の常設展は比較的安価ですが、施設を使ったコンサートなど特別イベントでは高い対価を得るという形で組み合わせていくものです。

もっと顕著な例では、自治体が所有している文化財に泊まれるというものもあります。通常の入館料は数百円〜千円ぐらいですが、 宿泊客からは数十万円の対価を得ています。この場合は、既存の施設を活用しながらもサービスとしては新しいことを始めているので、住民感情面でも既存サービスの値上げと比べてハレーションは起きづらいと理解しています。

芳賀:文化施設に宿泊、面白そうですね。実際の事例があるのですか?

安田:有名なところですと、愛媛県大洲市の「大洲城キャッスルステイ」は、すごく注目を集めていました・

芳賀:注目されることがPR効果もありますね。
私は以前、文化財施設の経営サポートをさせていただいた経験があります。これまでの文化財施設は保存目的であり、維持する、そして後世に伝えていくことが中心にありました。文化財を活用して資金確保するのは、心理的ハードルが高く、前例も少なかった印象がありました。
近年変わってきていると感じますか?

安田:変わってきていると感じています。行政においても財政や経済に対する課題感が存在するなかで、せっかく観光資源になり得る文化財を保存だけして活用できてないのはもったいないという考えが以前より強くなってきています。
実際しっかりと活用していこうと動いているところは増えています。

芳賀:観光資源として潜在性のあるモノ/場を魅力的に見せてマーケティングでしっかり活用していく、そしてサービスの性質を踏まえて正しく値付けをする、両方大事です。

安田:そうですね。公共サービスの値付けは、どうしても前例を踏まえた感覚的なものになりがちです。提供できそうなサービスを見出し、適正な価格で提供して資金確保につなげていくか、設計経験がある人は少ないのではないでしょうか。文化財の扱い一つとっても、そうした設計をしっかりとやっていけると保存と活用の好循環が生まれていくと思います。

第3回:CDIの公共サービスの値決め適正化のアプローチに続く


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