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原木椎茸栽培における有効積算温度の活用


1. 有効積算温度の概要

原木椎茸栽培において、植菌後から子実体(きのこ)発生までに必要な有効積算温度は、品種や栽培条件によって異なりますが、一般的に4000〜4500℃日程度とされています。

2. 有効温度量(TU)の計算

有効積算温度(℃日)は、日々の有効温度量(TU)の総和として求められます。TUの計算には、森永(1989)による式が扱いやすいです。

2.1 計算式

T: 気温(℃)
TU: 有効温度量(単位無し)

$${ TU(T) = \begin{cases} 0 & \text{if } T \leq 5 \text{ or } T > 32 \\ T - 5 & \text{if } 5 < T \leq 15 \\ -46.7 + 20.9 \ln(T) & \text{if } 15 < T \leq 23 \\ 18 - \frac{2(T-23)^2}{9} & \text{if } 23 < T \leq 32 \end{cases} }$$

ln は自然対数(底が e の対数)を表します。

2.2 各温度範囲の説明

  • T ≦ 5℃ or 32℃ < T: TU = 0
    この温度範囲では、シイタケ菌の成長が停止するか、非常に遅くなります。

  • 5℃ < T ≦ 15℃: TU = T - 5
    気温の上昇に伴い、有効温度量が直線的に増加します。

  • 15℃ < T ≦ 23℃: TU = -46.7 + 20.9 × ln(T)
    自然対数関数を使用し、温度上昇に伴う有効温度量の増加が緩やかになります。この範囲がシイタケ菌の成長に最適です。

  • 23℃ < T ≦ 32℃: TU = 18 - 2 × (T - 23)² / 9
    二次関数を使用し、23℃を超えると有効温度量が徐々に減少します。高温によるストレスを反映しています。

参考文献:森永鉄美(1989). 「食用きのこの発生と温量(Ⅰ)−有効積算温度の検討−」『日林九支研論集』 No.42, pp.289-290.

2.3 TUと温度の関係グラフ

2.4 Google スプレッドシートや Excel によるTUの計算

Google スプレッドシートや Excel で有効な温度量を計算する場合、数式は次のようになります。

=IF(OR(A1<=5,A1>32),0,
  IF(AND(A1>5,A1<=15),A1-5,
    IF(AND(A1>15,A1<=23),-46.7+20.9*LN(A1),
      IF(AND(A1>23,A1<=32),18-2*(A1-23)^2/9,
        0))))

# A列に気温を入力


2.5 Python によるTUの計算

Python で有効な温度量を計算する場合、関数は次のようになります。

import math

def calculate_tu(temperature):
    """
    シイタケ菌の有効温度量(TU)を計算する関数
    
    :param temperature: 気温(℃)
    :return: 有効温度量(TU)
    """
    if temperature <= 5 or temperature > 32:
        return 0
    elif 5 < temperature <= 15:
        return temperature - 5
    elif 15 < temperature <= 23:
        return -46.7 + 20.9 * math.log(temperature)
    elif 23 < temperature <= 32:
        return 18 - 2 * ((temperature - 23) ** 2) / 9
    else:
        return 0  # この行は理論上は不要ですが、完全性のために含めています

# 関数の使用例
if __name__ == "__main__":
    temperatures = [0, 5, 10, 15, 20, 23, 25, 30, 32, 35]
    for temp in temperatures:
        tu = calculate_tu(temp)
        print(f"温度 {temp}℃ の有効温度量(TU): {tu:.2f}")

3. 有効積算温度の活用例

有効温度量の計算がややこしく、30年前には現場で使うことは難しかったのではないかと想像しますが、現代ではさまざまに活用できそうです。

3.1 栽培の最適化

  • 成長段階予測
    有効積算温度を使用して、菌糸の成長や子実体の発生時期を予測します。

  • 収穫時期の最適化
    最適な収穫時期を決定し、品質と収量を最大化します。

  • 環境制御
    栽培施設の温度管理を最適化し、エネルギー効率を向上させます。

3.2 IoTとスマート農業

  • センサー統合
    温度センサーからのリアルタイムデータを式に統合し、自動管理システムを構築します。

  • アラートシステム
    最適範囲を外れた場合に警告を発する仕組みを作ります。

3.3 地域特性の分析

  • 地域別最適化
    各地域の気候データを用いて、地域ごとの最適な栽培方法を提案します。

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