大原ツツジ

脚本やショート小説を書いています。

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  • 未知子の未探索日記

    未知子の日記をまとめました。 日々発見と初体験。

  • すぐに読めるショート小説

    1~3分で読めるショート小説をまとめました。

最近の記事

ショート小説『通学路』

 間違えた。  文化祭委員の集会は、朝礼前じゃなくて、昼休みに変更になったんだった。そう気づいたのは、家を出てから十分ほど歩いたときだった。  今から引き返すのも、かといって教室に早く着きすぎるのも癪だ。学校前のコンビニにでも寄ればいいか、とわたしは仕方なく足を進めた。  五月山池公園の脇道を抜けた先の信号で立ち止まる。  歩車分離式の信号で、いつもは苛々と点字ブロックの上で足踏みをしながら待ち時間を過ごすが、今日は早い時間のせいか、顔を上げて周りを見渡す余裕があった

    • 脚本『母の色をまとう』3

      祖母と母と娘、三世代がともに過ごす一夜の物語。(第三話) 〇人物一覧表 篠原 奈央(29)(14)…ネイリスト 篠原 芳子(60)(45)…主婦 奈央の母 水谷 けさ代(85)…芳子の母 〇同・玄関 奈央、ドアを開けると、吉岡律(60)が立っている。 律「こんにちは、吉岡と申します」 奈央「こんにちは、あの……」 律「私、けさ代さんの俳句教室で、講師をしております」 奈央「ああ……!」 〇同・居間 律、奈央がテーブルの前に座っている。 芳子、珈琲を出して、 芳子「すみま

      • 脚本『母の色をまとう』2

        祖母と母と娘、三世代がともに過ごす一夜の物語。(第二話) 〇人物一覧表 篠原 奈央(29)(14)…ネイリスト 篠原 芳子(60)(45)…主婦 奈央の母 水谷 けさ代(85)…芳子の母 〇篠原家・表(夜) 住宅街にある、一戸建て住宅。 外灯は付いておらず、部屋の灯りだけが外に漏れている。 〇篠原家・居間~玄関(夜) 篠原雅邦(66)、ソファーでテレビのバラエティー番組を見ている。 芳子の声「ただいまー」 芳子、大きな荷物を持って入って来る。 雅邦「……」 芳子「今日、

        • 脚本『母の色をまとう』

          祖母と母と娘、三世代がともに過ごす一夜の物語。 〇人物一覧表 篠原 奈央(29)(14)…ネイリスト 篠原 芳子(60)(45)…主婦 奈央の母 水谷 けさ代(85)…芳子の母 〇アパート・奈央の部屋・居間(夜) 缶チューハイを飲む篠原奈央(29)。 奈央「プロポーズ? うそだあ」 後藤美玖(29)、奈央に顔を近づける。 美玖「絶対そう。証拠が揃ってる」 テーブルに、お菓子と酒が並んでいる。 奈央「まあ、変だなとは思うよ。いつも行き当たりばったりなのに、クリスマス前のめっ

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        • 未知子の未探索日記
          6本
        • すぐに読めるショート小説
          22本

        記事

          4/14『初参加!オレンジデー』~未知子の未探索日記~

          『オレンジデー』なるものの存在を、昨日、初めて認知した。 スーパーの脇の花屋で、オレンジ色の花のうしろに『オレンジデー』のポスターが貼られていた。 検索すると、 “オレンジデーとは4月14日にあたる記念日で、バレンタインデー・ホワイトデーを経て結ばれた2人がお互いの愛をさらに深め合う日です” だそうな。 なるほど、バレンタインデーとホワイトデーの14日コンビには続きがあったのだ。 いわゆる記念日を大切にするカップルにとっては、「付き合い始めて一か月(または二か月)記念日」と

          4/14『初参加!オレンジデー』~未知子の未探索日記~

          4/12『いざ、ナマステ』~未知子の未探索日記~

          「常連」に憧れている。 「行きつけ」では、事足りないものがある。 客である私側からして、「頻繁に行く店」ではなく、 お店の方側からして、「頻繁に来る客」でありたいのだ。 「いらっしゃい。今日は早いね」 「おやっさん、こんにちは。いつもの」 「あいよっ!」 というやつ、である。 つまり、頻繁さを、客と店の双方向で認識している場合にのみ、『常連』の尊号を賜りうるのである。 相手の名前や職業、どこに住んでいるかなんて、何も知らないのに、 ただ相手の食の好みと、働きぶりだけを知っ

          4/12『いざ、ナマステ』~未知子の未探索日記~

          4/9『つめつける』~未知子の未探索日記~

          SNSは、なかなか止められない。 女子たちは、写真に映る範囲で、とにかく細部まで美しく整えている。 私も、ああいうネイル、一度でいいからしてみたい。 誰か見せたい人もいないし、むしろ、誰かに見られては困る。けれど、爪さえこだわっていれば、美しい写真の世界に入り込めてしまうような、絶対的な自信がなぜか、ある。 いかにもトイレに行きにくそうな爪の長さ、瞼に重くのしかかって締め付けるつけまつげ、異様に光を発散するラメメイク。 そういうものに、自由を感じてしまう年頃なのだと思う。

          4/9『つめつける』~未知子の未探索日記~

          ショートドラマ脚本『雨空を見上げて』

          ふたり暮らしの母娘。 雨の日の翌朝、娘は旅立ちへ・・・ 【人物一覧表】 松本 陽子(52)(45)主婦 松本 絵美(23)(16)陽子の一人娘 島田電機アルバイト 島田 周(60)島田電機社長 〇松本家・絵美の部屋(朝) 松本陽子(52)、カーテンを開けると、朝日が部屋に差し込む。 陽子「晴れてるよ」 カーテンの下のベッドで寝ていた松本絵美(23)、目を覚ます。 絵美「……おはよ」 陽子、しゃがんで、ベッドで寝る絵美の顔を覗き込む。 陽子「おはよう。眠れた?」 絵美「うん

          ショートドラマ脚本『雨空を見上げて』

          4/4『花粉症を知る』~未知子の未探索日記~

          これまで、花粉症というものには縁がなかった。 田舎だからといって、地元に花粉が存在しないわけではなかったが、箱庭のような場所で生活していた私には、無関係のものだった。 咲き遅れた桜並木を求め、行く当てもなく歩く散歩と散策がすっかり日課になり始めているこの頃だが、 新年度もまだ四日目、都会での新生活の希望を見事に打ち砕いたのは、大量に流れ出る鼻水だ。 これ絶対、花粉だ! と私はすぐにピンと来た。 都会の花粉は、排気ガスなどと入り混じってアレルギーを起こしやすいと聞くし、なに

          4/4『花粉症を知る』~未知子の未探索日記~

          4/1『とろろ豆腐ステーキ』~未知子の未探索日記~

          四月一日。 外に出るんじゃなかった。 横断歩道を渡ってしまったあと、引くに引けぬ状況に陥ってから、私はようやく、自らを取り巻く事態に気がついた。 ただでさえ今日は、『四月一日 何が変わる?』特集やら、 『新年度応援キャンペーン』CMやら、桜の舞うピンク色の文字がやたらと目につくのだ。 そういうものが目に入って来るのを避けるために、 祖母の見ているテレビから離れようと、外に出て来たというのに。 駅の構内を通り抜け、ロータリーの向こう側に10分ほど歩くと、 「駅から徒歩5分」

          4/1『とろろ豆腐ステーキ』~未知子の未探索日記~

          未知子の未探索日記#0

          初めてお目にかかります、斉藤未知子と申します。 この度、日記をつけることにしました。 私がどういう人間であるか、 念のためプロフィールを記しておきます。 ・この春、大都会大阪に越してきたばかり ・祖母の家で居候中(二人暮らし) ・セミロング ・168㎝55㎏ ・22歳女性、新社会人 ・だったはずが、会社で問題が発生し、自宅待機の命令が下る(補償有!) ・その結果、当分の間のんびり無職暮らし という訳でございます。 のんびり暮らそうといっても、 何を隠そう、娑婆自由な都

          未知子の未探索日記#0

          ショート小説『ならんで歩く』

          浅野勉は、いつものようにスーパーを出て、妻の喜子の足音を斜め後ろに感じながら、ゆっくりと歩いた。若い頃であれば、ものの10分で帰宅できる距離であったが、今の勉と喜子にとってスーパーでの買い出しは一日の大仕事だ。勉は大きな買い物袋を二つ抱えているから、脚の負担もなおさらである。  わざわざ振りかえらずともわかった。喜子はウエストバックに入れていたペットポトルを落として、転がしてしまったようだ。もう何十年とともに歩いてきて、そのくらい振りかえらずともわかるようになっている。勉はそ

          ショート小説『ならんで歩く』

          ショート小説『母娘喧嘩』

          「私、今日ご飯いらないから」 と美里が言い放つと、母はすっかり押し黙ってしまった。 沈黙に包まれたリビングを後にした美里は、少しの罪悪感を感じながら、家を出た。母にとって料理は、代えがたい自分の仕事であるし、この家での自分の存在意義であるような意識をどこか持っている。美里に明確な悪意はなかったのだが、「ご飯いらない」という発言は、母娘の溝を決定的に深めてしまいかねない。 発端は、母が娘の部屋に長居をしていたこと、そして手帳の置き場所が変わっていたことだった。「見た」「見て

          ショート小説『母娘喧嘩』

          ショート小説『ありがとうを言えた日』

          今日はとことん、ツイていなかった。 ①シンプルに疲労 仕事先のイベント会場。 次から次へと目まぐるしく接客していくこと、6時間。 準備と後片づけ、その他色々に4時間以上。 同業者のブースがたくさん並んでいる会場で、 お客様の比較や評価の目にさらされ、追及され、交渉され、文句を言われ、 仲良く頑張りましょうと言ってきた隣のブースの担当者は、結局マウントを取ってきて…… 数か月前から準備してきた大事な仕事。 とにかく疲れたけど、神さまからは何のご褒美もないから、 大仕事を終

          ショート小説『ありがとうを言えた日』

          ショート小説『チャイを煮出す』

          毎朝、マサラチャイを飲んでいます。 チャイを作るのは、スパイスと、紅茶の茶葉を煮出すという結構骨の折れる作業です。 まず、シナモン、カルダモン、クローブ、生姜、黒こしょう等…… スパイスを、沸騰したお湯で煮出す。 そこへ茶葉を入れて、コトコト煮出す。 そして最後に豆乳を入れて、さらに煮出して、完成。 私は無糖が好きです。 低血圧の私にとっては、朝からなかなか大変な大仕事です。 サボろうとして、沢山作って次の日の朝に持ち越したことがあります。 すると、スパイスの風味も、

          ショート小説『チャイを煮出す』

          ショート小説『玄関』

          もしも彼は家には玄関がなかった。 それか、もしも玄関が、「家の入口」という定義だったとしたら、玄関はあったけど、玄関と部屋の境目がなかった。 ふつう、ワンルームでも段差くらいあってもいいじゃない? けれど彼の家は、扉を開けると間髪入れずにフローリングがお出迎えしてくれる構造になっていた。 仕方がないので、お風呂マットを引いて、玄関代わりにしていた。 それも、ちょっとふっくらしたお風呂マットだったので、 家の内側の方が低くて、外側の方が高かった。 もしも彼の家に入口が無か

          ショート小説『玄関』