週報プークス12月 ぼぼぼぼと暮れゆく
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12月23日(月) おく、と読む
このひとが描いたよな、って人物がたまに居る。
かが屋の加賀くんは羽海野チカさんだし、古賀及子さんは大童澄瞳さんって感じだ。
「措く」という言葉、なんと読むのか気になり検索しようとして、単語に続けて「意味」と入れるところを「うぬ」と入力していた。
格闘ゲームで道着を着たキャラクターが、自分以外の誰かを指すときでしか、そんな言葉遣い見たことない。
「自惚れ」のうぬ、つまり自我である。それも身の丈より大きくなったもののことを。
わたし自身の頭の上を見られているような、背筋を伸ばしたい気持ちになり、なんとなくその場に座り直す。
そんな対処の話ではないとわかっているけども。
読んでいたのは、古賀及子さんの新しい連載である。
12月24日(火) ふつうの1日
SHUREのイヤホンを外した瞬間に、ドッと周りの声が耳に吸い込まれる。
幹線道路沿いには、車のディーラーが並んでいる。
閉店時には全て下ろされている幅が広くて大きなロールスクリーンのひとつが、今は上げられている。立派なクリスマスツリーが窓のそばに飾られているからだ。
おすそわけの気概がある。
そのせいか、てっぺんの星の飾りは誇らしげに見える。
自慢の光。
12月25日(水) いないサンタを待つわたし
この間、注文したものがまだ届かないな。
というか「受注しました」を示すメールも来ないな。わたしのサンタはいるのか、果たして。
と、先日思ってたらある夜にメールが着き、そして数日経った今も、ものはまだ届かない。メールを読み返すと「1〜9営業日以内に発送します」とあり、ずいぶんのんびりしているもんだなと思う。その場合、むしろ1日で配送できるほうがもはや奇跡ではないのか。
注文したものは500円の商品券を消化するための、ささやかなおやつである。急いでいるわけではない。
運送のあれこれには詳しくないものの、労働に見合ったおちんぎんであれ、と思う。適正公平を望むので、それによって遅くなることに異論はない。
(というか、今までが過密で速すぎたのだと思う)
ネットショッピングが徐々に浸透しはじめた頃などは「実店舗より安い」のが売りだったものの、そうしたお得感ってそういえばもうないな。
お得とはどこにいったのだろう。
ポイントをより多く獲得できるスケジュールに合わせるとかでなく、場当たり的に得を感じる場面がないのか、受容が閉じたのか。
久しく見てない気がしている。
12月26日(木) 今生の機会の少ない 「ぎゃっ」
風雨のいちばん激しいときに家を出た。
おいさっきまでなんともない天候だったじゃないか、と思いつつ、いつもなら、しゃーなしもうちょい待つか、とするところを強行したため、うちを出てから10分の間に何度も突風にあおられて測溝に転げ落ちそうになる。
そして、黒くてよくしなる傘の骨が1本、根本で折れた。
視覚的な影響が強くて、もうなんかどうでもよくなった一瞬で。
しかし、佇んでいたって物事は進まないから、歩くしかない。
長靴を履いたのにずぶぬれで着いた先で、足が冷える。
帰宅してまずは薪ストーブに火を入れ、熱が高まってくる頃に、慎重にその側面に濡れた靴下ごと足をつけた。一気に乾かそう、という魂胆である。
右足の小指だけ特別に熱いところに触れてしまい、ぎゃっと言った。
12月27日(金) 無題
カイロをいくつも詰め、腹回りばかりがぬくい。
12月28日(土) 部屋と融解
先日、珍しく雷の激しい1日があった。
絶え間なくぴかぴかと空を何度も白くしていった。
かじかむ手でキーボードを打つと、アルミのボディがまたさらに熱を奪っていく。
座った太ももに置かれるとき、人々は固有の姿勢を持っているなと思う。
膝でバランスを取ったり、沈む背筋を伸ばしたり、独特になる。
へんな姿勢だなとは思っている。
地元の友人と連絡を取ったら、数日寝込んでいたらしい。
疲れに病、身のことを考えるとき年の瀬を感じるようになった。
12月29日(日) デイリーポータルZのアフタートーク
「デイリーポータルZ」のライター同士が対談する動画で、古賀 及子さんとべつやく れいさんのシリーズ第5回を見る。
読み物のメディアとしては20年超の大古参であるデイリーポータルZにおいて、古賀さんとべつやくさんは古い時期からいらっしゃる面々。
動画はDPZの執筆陣による近況や、今までのお互いの記事でよかったところなどを話し合う、てらいも刺激もないまろやかさが良い。
近年はエッセイストとして、日常のおかしみを表現する古賀さんは口語でもいかんなくバンと喜びを発散するところがあるな、とこの回を見てて思った。
話題は「今年のベストバイ」で、そのものの名前やカテゴリよりも前に「あたしさあ!」が来て、思わず笑う。
古賀さんのそういうとこ好きなあ〜〜〜っつって、しみじみとぶんぶん小さく拳を上げ下げしたくなる。
古賀さんのベストバイは「肉」、それもネットスーパーの1kgの冷凍鶏肉が古賀家にイノベーションをもたらし、イノベーションが何かと言えば250gずつにパックされているところが良いとした。そこから古賀家の食事事情に話が繋がっていく。
受け手のべつやくさんは「グレーダー」、すりおろし器である。
ステンレス製、そしてスティックタイプであることで、猥雑さが取り払われたと言っていた。
わかるわかる、とうなずく。すった生姜や繊維などが、きっちり落ちれば文句はないが、微妙に残ってしまうあの感じの「なんかちょっと」という嫌さ。
やって判明する日常生活の些細の部分だ。
ふたりとも、その些細に良さを見つけていて面白い回だった。
12月30日(月) 塩のついた唇を舐めた
友人と待ち合わせて、夜に会う。
数日、寝込んでいたという。手短に近況を話して「お大事に。よいお年を」と言って別れた。
その後、スーパーで買い物をして、セルフレジでうっかり買い物袋がある選択をして、リュックの残り少ない余白に詰めるだけ詰め、袋麺だけ小脇に抱えて夜を歩く。
なんだか、からだがすごくぽかぽかしていて、無敵の気分で歩いていた。
12月31日(火) 特別じゃない1日に
今年最後の銭湯に行って、そこかしこで交わされる挨拶。
年の終わりの雰囲気を嗅ぐことで、実感が沸いてくる。部屋でだけ過ごせば至って平日だからだ。
風呂に入ってさっぱりしたあとには、いつもと同じ定食を食べ、そのあと友人たちとやりとりをして過ごした。
帰宅して、薪ストーブに火をつける。ずっと窓越しに見る。
五つ割か六つ割くらいの細い薪は、吹き込まれる空気を餌に勢いよく燃え、大きい薪に火が回らないうちにその火は動くのをやめようとしている。
では、さて、寝に行くかと思って、空気の口を閉じ、排気口も絞っていると、火の勢いが戻っているのに気がついた。
あっという間に大木が、ぼんぱんっと炉を震わせるほどの音を立てて燃えあがった。
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