見出し画像

その広告、この場所でいいですか?−データ×フィールドワーク vol.1:屋外広告/渋谷篇−

「数値ではそうかもしれないけど、現場の感覚とちょっと違うんだよね…」なんて経験、データを使った提案をしたことがある方なら一度はあるのではないでしょうか。ともすると机上論に陥ってしまいがちなデータマーケティングですが、現場を知ること・見ること・体験することの大切さは言わずもがな。そこでこの企画では、データ視点をもった上で実際に現場をフィールドワークしてみることで、データの限界や可能性について考えていきたいと思います。

今回取り上げるテーマは屋外広告。広告は「時代を映す鏡」と言われますが、屋外広告は言わば「街を映す鏡」。街を彩る屋外広告とそのエリアに集う人々の特性を比較しながら、ターゲット像と実態との一致度やギャップを探っていきます。広告という「見た目」と、データという「内面」の双方からアプローチしていくことで、その街の多種多様な顔を浮き彫りにする試みです。(ちなみにこの屋外広告、電通グループではOOH[Out of Home]、博報堂グループではODM[Outdoor Media]と呼ばれます。不思議ですね。)

下記の図のようなメッシュマップを作成し、メッシュ内で行動履歴があった人の性年代・ライフスタイル・志向性の傾向を色別(傾向が高いほど赤が濃く、低いと青が濃い)で表現。データから明らかになった特徴と、広告から想定されるターゲットとの適正度をチェックします。ただし、あくまで出稿場所との親和性を見るものであり、クリエイティブの良し悪しを評価するものではありませんのでその点はご了承くださいませ。

画像1

■渋谷エリア

画像2

JR渋谷駅のハチ公改札口を出て、最初に目についたのがこちら。鬼滅の刃に次ぐ看板作品として期待されている、スパイファミリー最新巻の発売告知です。連載されているジャンプ+は中高生に加えて「ジャンプ卒業組」の20〜30代をターゲットにしているそうですが、その世代の割合も多くマンガ関心度も高いことから効果も期待できるのではないでしょうか。何より、気になったらすぐに目の前のSHIBUYA TSUTAYAで買えるという導線設計が抜群です。ちなみにスパイファミリーは2020年「第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」の大賞獲得作品です!

画像3

待ち合わせの人々で賑わうハチ公の上空を見ると「かわいい!に出会える」のメッセージでお馴染みのCANMAKEブランド。ターゲットである女性20代は文句なしの割合です。手頃なお値段も魅力のため、学生も貴重なターゲットだと思いますが、こちらはさほど多くないようです。美容関心度も高いのですが、特筆すべきはSNS関心度。公式インスタグラムも積極的に活用されているようなので、こちらも上手く連動したプロモーションとなっていますね。

画像4

スクランブル交差点に目を移し、SHIBUYA TSUTAYAに隣接するDHCさん保有のビジョンで流されていたCMの中の一本。ペット用の健康食品も出されているんですね。ペット関心度を見ると程々ですが、ペット飼育層に多い持ち家一戸建ての割合は高め。健康関心度も高めなので、DHCさんのビジョンへの注目度は高そうですね。しかし肝心の散歩(ウォーキング)に対してはあまり積極的ではなさそうです…。

画像5

健康・予防意識の高まる昨今。「マスクののどにも、龍角散」というタイムリーなメッセージのCMも行っている龍角散ダイレクトの巨大看板です。健康関心度が高く、喫煙率や飲酒頻度も低いなど、のどへのケア意識が高い層へのアプローチができています。また職業の割合を見ても、対面での接客で声が大切になる店舗・販売スタッフが高くなっており、その視点からも有効と言えそうですね。

画像6

スクランブルスクエアの壁面を使った大型ビジョン。迫力があります。アルバイト層や学生層がメインターゲットだと思いますが、割合は低め。バイトルは派遣の紹介も行っているので、そちらの狙いもあるかもしれません。CMキャラクターの乃木坂46ファン層(男性20代・音楽関心高)は非常に多そうなので「バイト選びの王道サービス」訴求としては効果がありそうです。

画像7

もう言うことありませんね。歌いたい人も飲みたい人も食べたい人もカバーできる絶好の立地条件のようです。

画像8

モヤイ像付近に掲出。「家を考えることは、家族を考えること。」とのメッセージがあります。若年層が多いため家庭を持った人の割合は高くないですが、どんぴしゃターゲットの持ち家一戸建て割合が高くなっています。世帯年収からも、新築ではなく中古を購入してリフォームなども検討している層も多いのではと推測されます。

画像9

渋谷マルイ壁面の巨大バナー広告。DVD、音楽、映像関心度といった志向性に関してはこれ以上ないと言えそうです。また男性20代は多くないものの、欅坂46は乃木坂よりも女性ファン比率が高い(半数ほど)と言われているので、性年代面に関しても評価できます。また、こちらも買いたくなったらすぐそこにSHIBUYA TSUTAYAがあります!

画像10

こちらも存在感のある円柱型の広告。橋本環奈さんのキャスティングからも10〜20代男性ターゲットかと思われますが、ゲーム関心層と共に割合は高くありません。しかしこのゲームをプレイする状況を推察するに…恐らくパートナーや家族の前では若干気まずいのではと思うので、未婚者や単身住まい(賃貸マンション)層を見たところ、こちらはチャンスがありそうでした。

画像11

「モテるを活かす。」というパワーワードが頭から離れません。求人広告ですが、人気ホストを起用していることから店舗の宣伝も兼ねていると思われます。ホストは個人事業主とされるためか、自営業・自由業の割合が高くなっています。もちろんお酒も飲めます。男性20代の割合はさほど高くないので、未経験者よりも界隈にいる経験者の移籍を促す訴求の方が効果的かもしれません。女性客の誘客を行う出稿面としては条件が良さそうです。

画像12

大きさ・メッセージ共にインパクトがあるだけに、場所とターゲットのミスマッチがもったいない印象の一枚。ターゲットである会社員・公務員の中でも、最も屋外広告に触れそうな営業職層や財テク関心層、資産運用を検討し出す既婚・子持ち層などが軒並み低い割合に。道玄坂を上り切って246通りまで来れば会社員の割合も財テク関心度も高くなるので、設置場所を再検討してもよいかもしれません。

画像13

こちらの場所では語学関心はそれほどですが、資格取得への関心が高い層が多いようです。学生よりも販売・店舗スタッフの方の割合が多いので、日常業務にすぐ活かせるような資格の需要があるかもしれません。なお、資格の学校や学習塾が多くある近隣の桜丘町エリアでは、資格取得への関心がさらに強く現れていました。

画像14

首都高速3号線と上下にほぼ並走している246通り沿いにあるデジタルサイネージ。この地点だけで見るとフォルクスワーゲンの広告の方が良さそうですが、メルセデス・ベンツとレクサスが幅を利かせる広尾方面、BMWとアウディが制している恵比寿方面からそれぞれ流れてくることを考えると、メーカーを問わず高級車のプロモーション面としては悪くなさそうです。

■番外編
最後に…今回一番印象に残ったものを紹介させてもらいます。ファッションブランド・ソフ(SOPH.)が掲出していた下記のビルボード広告。

画像15

確実に歴史に刻まれるこの2020年。「がんばろう」といった励ましではなく、「まいったな」という肩の力の抜け切ったメッセージが逆にジワジワと染みてきました。調べたら「#まいったな2020」というハッシュタグも生まれているようで、屋外広告をフックにオンラインで話題を波及させた好事例になっていますね。
屋外広告といったオフラインのメディアをひとつのタッチポイントとして捉えてしまうとカバー率やコスト効率の議論になってしまいがちですが、全体の中の「拡散装置」として役割付ける施策設計ができればその機能価値を向上できるのではないでしょうか。

初回の渋谷篇、いかがでしたでしょうか。データ×フィールドワークの試みは、次回(表参道・原宿篇)へ続きます!