ドラクエ的キャリコン 第2回「旅立ちのLv1勇者編」(キャリアカウンセリング入門)
こんにちは。教育系キャリアコンサルタントのcc.くつひもです。
今回は、ドラゴンクエストの世界観をお借りして、来談者の相談に対して、どのようにキャリアカウンセリングを行うのか、その基本に触れてみます。
この記事は、特に、キャリアコンサルタントを目指す方、中学校や高等学校の教員を目指す方、進路指導主事の方に向けた内容になっています。
逐語記録はstand.fmと連動して構成しています。
1.はじめに
キャリアコンサルタントに期待される役割には、クライエントが自分のキャリア形成をどのように考えられるか、また、将来に展望を持って行動変容に繋げられるか、が挙げられます。
今回は、まだ仕事に就いていない10代のキャリアカウンセリングを検討します。逐語記録の数字は対話番号で、後述する解説で使用します。
ドラクエ的キャリコンの2回目のクライアントは、レベル1の勇者さんです。それではどんな相談なのか聞いてみましょう。
2.逐語記録
来談者:男性、16歳
職業 :勇者
主訴 :初めて旅に出ることへの期待と不安
CL(来談者)(1):
あの・・・、こんにちは。あの・・・、ここに来たら旅の仲間に会えるって聞いたんですけど。
CC(1):
こんにちは。ルイーダさんのお店はお隣ですよ。ここはキャリア相談所です。私はここの所長をしています、 cc.くつひもといいます。
CL(来談者)(2):
すいません。ルイーダのお店ってお隣だったんですね。
CC(2):
ええ、そうなんですよね。まあ、ただここのキャリア相談所はですね、冒険に出られる方がよく相談に来ますよ。あなた・・・、雰囲気的には勇者さんですかね。
CL(来談者)(3):
あ、はい、そうです。僕、16歳になって、先ほど王様のところに行ったんです。僕のお父さん、オルテガって言って、小さい時にですね、旅に出て魔王を倒すって、出ていったみたいなんですけど、話によると火山に落ちて死んでしまったって。それで僕、お父さんの跡を継いで、勇者になって魔王バラモスを倒すんだって、思ったんですよね。
CC(3):
ああ、そうなんですね。オルテガさんのお子さんなんですね。勇者として魔王バラモスを倒しに行くんですね。
CL(来談者)(4):
ええ、そうなんです。それで、旅の仲間を探さないといけないなと思って、ルイーダさんのお店に行こうとしたんですけれど、なんか、ちょっと緊張したのか。間違っちゃって・・・。
CC(4):
そうですよね。もしかして、初めて冒険に出られるのですか。
CL(来談者)(5):
あ、いいえ・・・。あ、はい・・・。あの、お母さんと一緒に色々戦う練習とかしたんですけれど。アリアハンの外に出てちょっと旅をするっていうのは初めてなんですよね。
CC(5):
そうなんですね。アリアハンの外に出て旅を出るのは初めてで、何かご不安を感じられているんですね。
CL(来談者)(6):
そうなんです。正直、魔王バラモスって、なんか・・・、よく倒せるなんて全然自信ないし、初めて旅に出るのでどうしていいのかも。ちょっと、まだわからないところもあるので・・・。
CC(6):
そうですよね。旅に出るにはどうしたらいいのか、ってわからないですもんね。
CL(来談者)(7):
そうなんですよね。だから一緒に旅に出る仲間が欲しいなって思って。王様に聞いたら、50ゴールドをもらって、これで酒場に行けって言われたんですよ。
CC(7):
なるほど。王様から50ゴールドもらったんですよね。
CL(来談者)(8):
ええ、本当はもう少しもらいたかったなって思うんですけどね。これで何とかしなきゃなって、思っています。
CC(8):
そうですよね。旅に出るにはもう少しほしいなって思ったかもしれないですね。
CL(来談者)(9):
そうです。ちょっと、ま、お父さんの遺志を継いで頑張りたいなって思ったので。お金じゃないって思ってもいますし、きっと冒険に出てるうちに色々学べるかなっていうのも思っているんですよ。
CC(9):
そうなんですね。冒険で色々なことを学ぼうとされてるんですね。
CL(来談者)(10):
ええ、そうなんです。ちょっと、やっぱり怖いなっていうのはあるんですけれど、自分の夢って言うか、これからいろんなことできそうな気もするし。あ、もっともっと経験積んで、お父さんのように本当の勇者になって、この世界を平和にしたいなって思います。
CC(10):
お父さんのようになってほしいなって、この世界を平和にして欲しいと思いますよ。私もね。
CL(来談者)(11):
はい!ありがとうございます。すいません。お邪魔しました。じゃあ隣のルイーダさんの店の方に行って、探してきます。また、ちょっと寄らせてくださいね。ありがとうございました!
CC(11):
はい、では行ってらっしゃい。気をつけてね。
3.振り返り
今回の逐語記録は、レベル1の冒険に出る直前、16歳になったばかりの勇者さんで、冒険に出発することに対して、やや不安がありますけども、それ以上に若さ溢れる希望を胸に、将来に対して期待感を持っている、そういう感じの勇者さんでした。
今回のように、10代に見られるような、悩みというより、将来に対する期待と不安が入り混じっているような場合も、キャリアカウンセリングを通してその気持ちを明確化することができます。将来に向けてがんばろう、でも、ちょっと不安もあるよ、というクライエントに、将来に向けて何かお手伝いをするのもキャリアコンサルタントの役割です。僕は認定コーチングスキルアドバイザーの資格もありますので、カウンセリングスキルとコーチングスキルを少し組み合わせて、クライアントさんが持っている前向きな気持ちを膨らますようなキャリアカウンセリングも行なっています。
4.今回のキャリアカウンセリングのポイント
初めて相談に来られたクライエントが、安心して話せるような場を作ることが、最初のポイントになります。また、10代のように仕事に就いたことがなく、将来に不安と期待が入り混じったクライエントに対しては、オープンクエッションとクローズドクエッションを組み合わせ、クライエント自身の言葉を引き出す質問をするように心がけています。
まず、CL(来談者)(1)からCC(2)までの対話でのポイントを説明します。
最初の状況は、クライアントが相談所に迷って来てしまいましたが、CCは話しかける言葉を選び、話すスピードをゆっくりにして、キャリアコンサルタントとクライエントの間ににラポールを形成できるような話し方をしています。そして、「あなたは勇者さんですね」というクローズドクエスチョンでYESかNOの回答をしてもらうことで、話し始めるように促がしました。
その結果、CL(来談者)(3)で、クライエントは、これからの旅立ちについて、話を始めました。
CC(3)では、クライエントの話をどのように受け止めたのか、「要約」してクライエントに返しています。
このように、クライエントの話を傾聴し、クライエントの考えや行動を、受け止めて、整理して返す、「要約」というスキルは非常に効果的です。10代の若年層は、話が行ったり来たりするように、自分の考えを整理して話すとことがまだ得意ではない方が多いので、要約することは、クライエントの次のステップに進むきっかけになりやすいのです。
ただし、キャリアコンサルタントとして気をつけることは、あくまでもクライエント自身が気付き、クライエント自身が考えや行動を整理するための「要約」という、要約するのはクライエント自身である、という意識を必ず持つことです。要約してあげよう、教えてあげよう、というようなキャリアコンサルタント主導の「要約」ではないことに注意が必要です。
CL(来談者)(4)の言葉の中に、少しキーワードになる言葉が出てきました。クライアントの「緊張したのか間違っちゃって」という言葉です。クライアントの感情の吐露が見られましたので、キャリアコンサルタントの間にラポールが形成されたと判断しました。そこで、CC(4)で、少し踏み込んで、「もしかして初めて冒険に出られるのですか」と質問をしました。
質問をすることによって、再び、クライアントに考えを整理する時間を作りました。状況から、クライエントはこうに違いない、と決めつけたように話すのはNGです。必ず質問でクライエントに話をして、あくまでもクライエントが発する言葉を受け止めます。
ただ、クライエントさんは質問に正直に答えるとは限りません。特に、10代のクライエントは自分を大きく見せることもあるので、丁寧に聞く姿勢が必要です。CL(来談者)(5)では、初めに「いいえ」と否定の言葉を使いましたが、その後すぐ「はい」と訂正しました。
このCL(来談者)(5)の話の様子から、CC(5)で、「アリアハンの外に出て旅を出るのは初めてで、何かご不安を感じられているんですね。」と、クライエントの気持ちを受け止めて、キャリアコンサルタントがその気持ちを言葉にして返しています。
このように、クライアントの気持ちが次第に表出するようになれば、さらに傾聴と要約、おうむ返しを使って、クライエントの話を少しずつ整理しやすくなります。
キャリアカウンセリング後のクライエントの感想ですが、「初めての冒険で緊張していましたが、CCさんとお話をすることで、僕がお父さんの遺志を継ぐことだけではなく、冒険に出て世界を知りたいと思っていることに気がつきました。心地よい緊張に包まれて、頑張ろうという気持ちを確認できました。」とのこと。
今回のキャリアカウンセリングでは、傾聴と要約、おうむ返しのスキルを使って、最終的にこのクライエント、旅立ち前の勇者が前向きになって相談所を出ていきました。
それでは、次回をお楽しみに。